3ー2ー1 大垣高校戦後
試合を見ながらの告白。
二時過ぎから始まった第三試合。足立南高校と私立上中里の二回戦だ。上中里は五月に招待試合で戦ったから知ってるけど、一回戦勝ったんだな。一年生だけの新設校で、しかもウチの二軍でボコボコにできた相手なのに。
足立南高校は公立で、偏差値六十を超える進学校だとか。それでいて野球部も毎回四回戦くらいまで残っている文武両道を掲げた学校らしい。千紗姉が教えてくれた。対戦相手になるかもしれない学校の情報は調べてくれていた。
俺は三間と並んで座って観戦の準備をする。電光掲示板などないので選手の名前などは場内アナウンスで確認するしかない。そこは面倒だけど仕方ないな。背番号とかを注意深く聞いておけば大丈夫だろ。
俺たちが応援に来てくれていた人たちにお礼を言っている間に両チームのシートノックは終わっていた。もうすぐ試合が始まる。
「西条。上中里って二軍でボコしたんだろ?どうだったァ?」
「まあ、普通の新設校だった。その日のもう一校、茨城のチームの方が印象に残ってて、そこまでじゃなかったぞ」
「点数は?」
「22-0」
「今日の俺らの相手レベルか」
間宮先輩と西条先輩がそんな話をしている。西条先輩は二軍のキャプテンだったので、二軍で戦っていたので確認したかったのだろう。
俺も三間もあんまり印象に残ってないという雑談を始める。
「上中里の後攻か。俺らに投げたのって二人だったよな?」
「やな。最初のデブが一回保たなくて、ファーストだった左投げが投げたんやろ」
「……あのデブ、エースだったのか」
整列している上中里の背番号を確認していると、俺たちの試合で先発した上中里唯一のデブが背番号一だったので驚いた。左投げは背番号三だ。
あの実力でエースとか。コントロール悪くて試合が成立するのも凄いが、ああいうピッチャーの後ろは守りたくないなと思う。
「前の試合どうだったんや?」
「今調べる」
携帯電話を出して調べる。東東京で調べたら簡単に出てくる。
「8-5だな。あのデブが七回投げてる」
「何失点?」
「四。よくそれで収まったな……」
「相手が弱かったら130くらい出たらボール球でも振ってくれるんやろ。相手は智紀も知ってる学校か?」
「知らないな。公立高校っぽいけど」
あんなおじぎしてるただ速いだけのストレートで二十一個アウトが取れるなんて。俺たちの試合では一個もアウト取れなかったんだぞ。信じられない。
今は結構高い場所から見てるからボールがおじぎしてるかどうかはわからない。けど二ヶ月ちょっとで劇的にボールの質が変わるなんてことはないだろう。体型も変わってないし、フォームも相変わらずバラバラだ。
三塁側スタンドから見守る中、試合が始まる。応援団の邪魔にならない端っこで試合を見る。
「プレイボール!」
足立南の先頭打者が打席に入る。で、早速ボールが先行していた。
変わってないなぁ。
「足立南って四回戦まで上がってくるってことは中堅校。で、中堅校なら130なんて見慣れてるだろ」
「東京のピッチャーは140出てる奴多いんやろ?ならアレも攻略できて当たり前ってことやな」
結局四球。前の試合だったら振ってくれたボールもあるんだろうが、見極められて自滅していくのは当たり前というか。
どうにか改善しようと思わなかったのだろうか。フォームチェックをすれば少しは改善すると思うんだけど。アレをエースに選んじゃう監督とチームが問題なんじゃないだろうか。
続く二番は手堅く送りバント。上中里の捕手はそこそこ肩が良かったので盗塁はせずに安全策で行ったのだろう。バントも上手くいって投手の前に力弱く転がる。一アウト二塁になる。
「三番、ショート最上くん」
「最上?」
俺は気になって、東東京の選手名簿を取り出す。喜沙姉が買ってくれたので高校とベンチメンバーの出身校や年齢がわかる。パラパラとめくっていき、足立南のページに行き着いた。
そこで背番号六を見てみると二年生と書いてあった。遠くからだけど面影は残っている。
「どうしたんや?智紀」
「あの人、多分俺のシニアの先輩だ」
「そうなんか?」
一個上の先輩で、シニアの時もショートを守っていた先輩だ。進学先までは聞いてなかった。全部の先輩の進学先までは流石に把握してないぞ。
最上先輩。一緒に関東大会にも出たことがある。打撃はそこそこだった気がするけど、今は三番を任されるほど打てるようになったのか。守備は上手い人だったのはよく覚えている。
その最上先輩がストレートを打った。やっぱりおじぎしているのか、打球は鋭いゴロで三遊間を抜けていく。レフト前ヒットになるが当たりが鋭くて二塁ランナーは三塁を蹴ってストップ。
得点圏にランナーを置いて、四番を迎える。
「四番、レフト星川くん」
「あ、この人も俺のシニアの先輩だ」
三年生、二個上の先輩。二個上の先輩とはあまり関わりがなかったが、それでも名前と顔くらいは覚えている。
シニア当時はセンターを守ってたけど、今はレフトなのか。
当時も四番を打っていた。二人もシニアの先輩がいるなんて珍しいこともあるもんだ。
一塁ランナーの最上さんが星川さんに何か指で伝達をしている。多分あのピッチャーのボールがおじぎしてることを伝えてるんだろう。
星川さんは一球ファウルを打った。最上さんのように打球が浮かんでなかった。それを受けて打席に戻る前にスイングを調整していた。
四球目。ほぼ落ちないフォークを掬い上げて左中間を撃ち抜いていた。足立南の先制。正直予想通りなのであまり気にせず見続ける。
「ほおん。智紀の先輩ら、打てるやん」
「あん?宮下、アレお前の先輩なのか?」
「そうですよ。最上さんも星川さんも俺のシニアの先輩です」
三間の言葉に反応して間宮先輩が聞いてくる。試合の方よりも全員が俺に目線を向けてくる。
「宮下の出身は江戸崎シニアだったか」
「よく憶えていましたね、葉山キャプテン……。そうです。江戸崎シニアです」
「江戸崎シニアって、俺たちの代では確かそこまで強くなかったはずだ。だからここには誰も江戸崎シニア出身の者がいないぞ」
葉山キャプテンも真淵さんも、よく三年前の一シニアのことを憶えているものだと感心する。俺はシニアごとに憶えていないし、精々優秀だった選手しか憶えていない。
東京出身じゃなかったら江戸崎シニアの存在も知らないんじゃないだろうか。
「それはそうですよ。三年前の江戸崎シニアは精々中堅シニア。都大会でも決勝に行けるほど強いシニアじゃなかったんですから」
「でも、お前は関東大会に出てるだろう?」
早坂先輩の言葉に頷く。試合は下で進んでいるが、見ているのは偵察部隊の三年生だけだ。ベンチ入りメンバーはマネージャーの君津先輩も含めて全員俺の方を見ている。監督までこっち見てるぞ。
「俺が二年生の時に、シニア結成後初の関東大会出場ってことで出身者たちが喜んでましたよ」
「俺たち二年生からすれば最後の夏の大会では上がってきたし、江戸崎シニアは強豪入りしたって認識なんですよね」
「その前の秋大会でも春大会でも惜しいところまで上がってきてたから、俺たちのイメージではもう強豪シニアなんですけど」
「でもシニア選ぶ時に候補にはしなかったな」
村瀬先輩を始めとした二年生たちが口々に言う。東京のシニアは数多くいたから、選択肢も多かったはずなのに、帝王に来てベンチメンバーになっている人たちが候補にも挙げなかった俺のシニア。
さっき言ったように、江戸崎シニアが中堅がいいところのシニアだったからだ。
「設備も並。実績も並。出身者に凄い有名人がいるわけでもない。至って平凡なシニアでしたから」
「智紀。何でそんなところ選んだんや?帝王に来ることは決めてたんやろ?」
「ああ。中学に上がった時点で、甲子園を目指すなら帝王に行こうって決めてたよ」
「なら、余計に強いとこ行こうと思わなかったのか?言っちゃ何だが、東京のシニアなら上の学校に行くならせめて顔繋ぎができた方が推薦を貰いやすいだろ?」
小林先輩に疑問として聞かれる。シニアごとに高校へツテがあって、推薦できるほどパイプがあるシニアの監督もいる。強豪シニアほど多くの強豪校、それこそ都外の学校にもツテがあったりする。
帝王に推薦で入るには、強豪シニアに入ってそこで活躍するのが一番手っ取り早い。関東大会などの上位の大会に出やすいし、そうすれば高校のスカウトに目が留まりやすい。
そういう意味じゃ戸川スカウトや東條監督に結構迷惑を掛けた。
母さんにもだな。もしかしたら一般入学で入って学費を余計に支払う可能性もあったんだから。それは何とか回避したけど。
そういう利点を蹴ってまで普通のシニアに入った理由はもちろんある。いや、強豪シニアも合宿やら遠征でお金掛かって大変だと聞くけど。
「俺が強豪シニアを選ぶことはなかったですね。良いこともたくさんあったんでしょうけど、小学生の頃それで痛い目に遭ったので」
「敢えて普通のシニアに行ったと?」
「そうです。成長期に無理な練習をさせず、投手として連投を無理強いしない監督を探して選び抜きました。シニアはあくまで高校までの繋ぎでしかなかったので」
高校までに壊れず練習ができればそれで良かった。実績がなくたって帝王には入れるし、強豪ゆえのいざこざを嫌っての選択だった。
「甲子園に行きたいなら強豪校に来るしかないけど、帝王に入るのは良かったわけ?」
「学校の部活動だったら気にしませんよ。帝王の野球部のこともかなり調べましたし。学外のスポーツ少年団のような場所で強豪に行きたくなかっただけです」
「何で?」
「俺、小四の時にベンチ入りしたら五年生が不貞腐れて、回り回って学校で虐められたんですよ。小学生に学外のことなんてわかりっこないので、歳上を虐めた生意気な奴って思われたらしくて全校生徒が敵でしたね」
「「「ハァ???」」」
俺の告白に、全員が疑問符を頭に浮かべていた。
この人たちも野球が上手かったから、幼少期から上級生と混ざって野球をやっていたということも経験しているだろう。
その上で虐められるというのがわからなかったんだと思う。
「教育ママが、適度に運動させるために近くの硬式チームに入れたらしくて。軟式も硬式も区別が付かずに、勉強のついでで野球をやってたそいつは強豪リトルで背番号がもらえなくて母親に泣きついたんだったかな?それで歳下に背番号を与えるのはおかしいみたいな抗議をして俺は学校で責められて、って感じですね」
「そんなこと、本当にあるんだ……」
「ヴァッカじゃねーの?学校とリトルは別だってことも理解できてねえって」
「そんなわけで強豪の学外スポーツ集団がトラウマでして。そこそこのチームに入ったんですよ」
「……お前のせいで江戸崎シニア、強豪になったんとちゃう?どうせ勝ち上がったのって、智紀がピッチャーやり始めたからやろ?」
「俺がいなくなった後に強豪になろうが知ったこっちゃない」
「ひでぇ」
俺がそんなことを話している間に表の攻撃が終わっていたらしい。スコアボードには三がくっ付けられていた。話すことに夢中になって、試合を全然見てなかったな。
これからは集中して見ることにしよう。次の対戦相手なんだから。
次も三日後に投稿します。
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