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3ー1ー1 大垣高校戦

試合開始。

 大垣高校との試合が始まった。

 後攻の帝王は守備に就く。球場の雰囲気も異様だった。勝利を確信している三塁側スタンド。応援団の数の違い。熱量の違い。意識の違い。それがグラウンド外にも表れていた。帝王は初戦から全校応援だが、大垣高校は父兄と部員以外応援席には関係者がいない。


 しかも一般客たちさえもジャイアントキリングなんて望めないと決めつけていた。それほど両校の実力には差があると考えている。

 マウンドには公式戦初登板の二年生大久保が。初戦のマウンドを任されたからか表情が少し硬いが、投球練習の様子を見る限り緊張でボールが定まらないということはなさそうだった。

 本来守備の時はあまり味方の応援がないことが野球の常識だが、帝王はそんなことを気にせず女子生徒が黄色い声援を送っている。これも異様な雰囲気を形成している一助となっている。


「プレイボール!」


 主審のコールで正しく試合が始まった。

 捕手の中原は大久保が緊張していることがわかっていたので最初の内はストレートで押すことにする。さっさとストライクを取って調子を上げさせようとした。

 大久保は名門帝王で背番号を貰えるほどの投手だ。調子が良ければ140kmは出る。まだ調子が上がらない状態でも130中盤は出た。ストレートの質も良く、ノビのあるストレートを弱小校の大垣では上位打線でもどうにもできなかった。


 一番がサードゴロ。二番・三番は連続三振という結果に終わった。特に三番に対しては得意変化球であるフォークが低目に決まり空振り三振。上々の立ち上がりとなった。

 なお、三振を奪った際に自軍のスタンドから特大の「キャー!」という悲鳴に、大久保は不意打ちだったためにビクゥ!と大きく身動ぎしてしまった。去年からスタンドで応援していたのでうるさいなあとは思っていても、マウンドでまで響いて聞こえるとは思っていなかったのだ。


 ライトという対極に位置する智紀もまさかの大歓声に眉を顰めていた。マウンドに上がる際はアレにも注意しなければならないのかと。

 チェンジになって引き上げる帝王のスタメン。スターティングオーダーを交換した時点でわかっていたが、大垣の先発はエースの田島だった。とはいえ大垣の投手は誰もそこまで優劣があるわけではなかった。

 左のスリークォーター。120kmのストレートとチェンジアップ、それとスライダーを投げる投手だ。


 今度は攻撃なので帝王側のスタンドが盛り上がる。さっきまでは座っていた部員たちが立ち上がって両手に持ったメガホンを叩き、吹奏楽部による演奏で打者ごとの音楽が流れ、チアガールが踊る。

 弱小校相手にする応援の熱の入り方ではなかった。これが帝王の当たり前である。

 一番の早坂は結局相手の制球が定まらずに四球。どの投手だって立ち上がりが課題となることが多い。回の浅い内にどれだけ本調子に近付けることができるか。それが先発投手の資質に繋がる。


 二番の村瀬は初球からバントの構え。王者帝王はどんな相手でも自分たちの姿勢を崩さないつもりだった。早坂は足が速いので盗塁もありだが、左投手ということもあって東條監督は慎重にセオリー通りの攻めを指示。

 とはいえ早坂にも行けるようだったら行けと自由裁量を与えた。

 初球はウエストされたために村瀬もバットを引いた。早坂も初球から攻めることはせず、牽制の癖やクイックなどを確かめようと一塁に留まっていた。

 二球目は田島の投球意識がホームに向かった瞬間早坂がスタートを切っていた。


「スチール!」


 一塁手が叫ぶが、田島は咄嗟に外すことができなかった。ストレートはストライクゾーンに向かい、村瀬はそのままバントを実行。威力を殺したゴロが投手の前に転がり、田島が処理するしかなかった。

 捕手は早坂が既に二塁に到達しようとしているのを見て指示を出す。


「一つ!」


 田島はそのまま一塁に送球するが、ランナーの早坂はそれを見た瞬間二塁を蹴る。一塁手にもその様子は見えていたが、ここは確実にアウトを一つ取るために送球を受けて一塁をしっかり踏んでから三塁へ送球した。

 スタートを切っていたこともあり、三塁は悠々とセーフ。一アウト三塁でクリーンナップという結果をもたらした。


 ここからはプロ注目の葉山と倉敷が並ぶ。五番の中原もクリーンナップを任されるだけあって打撃成績は良い。

 先取点を望める場面が整っていた。

 大垣バッテリーとしては歩かせるという選択もできず、勝負するしかなかった。スクイズに犠牲フライ、パスボールなどが考えられる場面だが、スクイズは警戒せずに一点目は仕方がないと内野は前に来ず、外野も定位置に就く。


 一点を失うよりも、アウトを一つ取ることを優先した。犠牲フライなら十分だという覚悟で全員が守備の気構えをしている。それが弱小校なりの戦い方だった。

 大垣バッテリーが選択したのは外のボール。それもチェンジアップで打つ気を逸らすついでにボール球を要求した。

 それは予定通りのコースへ向かった。が。



 カキーン!



「キャー!葉山君が打ったー!」


「先取点だ!」


 ボールはコースに逆らわず一・二塁間を抜ける、火が吹くほどに速い球足でライト前に転がっていった。三塁ランナーの早坂がホームイン。タイムリーヒットだ。

 取って当たり前の状況がお膳立てされていたとはいえ、先取点は先取点だ。相手が誰だろうとこの夏初の打点だ。それを挙げたのがキャプテンである葉山だったのでスタンドは大盛り上がり。

 バケツに入れておいた綺麗な水を全体へかかるように放出していた。暑さ対策でもある。


 あっさりと一点を取られたことに大垣ナインは乾いた笑みしかできなかった。お手本のような点の取り方に帝王の野球の巧さを実感していた。帝王の知名度からある程度の予想はできていても、この鮮やかさは実際に対戦しなければわからないことだ。

 捕手がタイムをかけてマウンドに上がる。あとアウトを十一個取るだけだからと、この試合で敬遠は一回もしないと決めていた。ただ相手が想定以上だったので組み立てを変えることを話していた。


 話し合いが終わって試合が再開され、最初に選んだのはインハイへ突き刺さるストレート。左投手から右打者へ対角線をなぞるように進むストレートはクロスファイヤーと呼ばれる角度のついた打ちにくいボールだ。

 田島としては人生で最高のボールを投げた実感があった。

 それを。



 ゴォン!



 詰まった金属音だ。だというのに打球は左中間の真ん中を真っ二つにして、外野の最奥へ転がっていく。その打球を見た葉山はホームへ戻ってきて、倉敷は三塁へ到達。

 三番・四番の連続タイムリーでベンチも盛り上がった。


「いいよ!ナイバッチ!」


「続けよ中原!」


「オレが打つとこ見とけよ、智紀!」


「はいはい」


 五番の中原は三球目を掬い上げた。外野は先程の倉敷の打球を見ていたためにあらかじめ後ろ目に守っていた。中原の打球もよく飛んだのだが、レフトのグラブに収まる。倉敷はゆっくりとスタートを切って帰還。

 二アウトになってしまったが、三点を先取。そして続くはゴールデンルーキーの三間だ。

 名前を球場アナウンスで呼ばれて、笑顔を向けて左打席に入る。


 帝王で一年生ながらクリーンナップの次を打つことを任された三間のことは大垣バッテリーはもちろん、偵察に来ていた他の高校も注目していた。

 田島も警戒しすぎたのか、二球目をファウルにされた以外ストライクが入らなかった。五球目のスライダーは低目のストライクゾーンに決まるところだったが、それを引っ張ってライト前にライナーで運んでいた。


「あんな難しい球を打つならファーストストライクで仕留めておけよ……」


 応援しているはずのスタンドで、高宮がそうボヤく。一応ヒットを打ったのでメガホンは叩くが、シングルヒットに抑えられているのだから高宮を始め一年生はあまり祝福しない。

 これは同学年だからこその叱咤だ。自分たちの代わりにその場に立っているのだからもっと華々しく活躍しろと態度が示していた。


 続く七番の西条もセンター方向へ鋭い当たりを放つもののショートの横っ飛びに運良くボールがグラブに入り、そのまま二塁へ送球してフォースアウト。

 智紀はネクストバッターサークルに入っていたが、すぐにヘルメットとバットを片して帽子とグラブを控え選手から受け取ってライトへ走っていく。


 大垣ベンチは打者一巡させなかったこととショートのファインプレイに大熱狂。まるでどっちが勝っているのかわからないくらいの歓喜の声に、戦う帝王のスタメンは笑みを浮かべた。

 負けていて意気消沈している相手よりも、まだ立ち向かおうとしてくる方が好感が持てる。野球を続けられる。

 大垣高校を見直したところで二回が始まろうとしていた。


次も月曜日に投稿します。

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