エピローグ 背番号
ベンチメンバー発表。
紅白戦から一日経って。
朝も放課後も普段通りに練習をして。それでも普段より少しだけ早く練習が終わって昨日のようにホームベースに全員集まっていた。今日は何軍に所属しているか、学年も関係なく全部員がそこにいた。
三年生にとって、ここで一軍に選ばれなければ実質的な引退勧告だ。既に三軍にいる三年生を除いて誰が選ばれるかわからない。
一つ事実として、ベンチ枠の二十人全員が三年生で選ばれることはない。優秀な、次代を担う選手や学年関係なく即戦力も名門である帝王学園にはいた。これまでベンチメンバー全員が三年生だったことは、ない。
それでも、と。
一軍の瀬戸際まで喰い込んだ三年生は、最後の夏を試合の近くで終わらせたいと願っていた。
東條監督が一番前に、隣には真中コーチが背番号を持って立っていた。これから背番号の発表が始まる。
「呼ばれた者は背番号を取りに来るように。まず一番、真淵!」
「はい!」
「二番、中原!」
「はいっ!」
この辺りは予定調和でもあった。レギュラー陣の背番号は春大会から変わらず。入れ替えは一つもなかった。
続いてベンチメンバー。ここからは大規模な変更があると誰もが感じていた。
レギュラー陣の背番号こそ変わらなかったものの、春大会のメンバーが決まってから二ヶ月、誰もがその席に居座ろうと必死になってきたのだから。
九番に三年生の新堂が呼ばれて、背番号を受け取ってここから誰もが固唾を呑んだ。ベンチメンバーは先の紅白戦の結果からも順当にはいかないと思っていたために。
一軍にいながらも活躍できなかった者。まずまずな成績を残した者、ワンチャンスを逃した者。二軍にいながらも頭角を現した者。様々だ。
首脳陣も昨日の紅白戦だけで判断しているわけではない。これまでの二ヶ月の様々な練習や対外試合など全てを考慮して今日のお昼に決定した。紅白戦も大きな判断材料にはなったが、あくまで参考にしただけだ。
合宿などの動きなどを見て短くも長い夏を走り抜けられるメンバーを選出していた。
「十番、小林!」
「はい!」
まず一人目、二番手投手は順当だった。貴重なサウスポーで、何度も真淵とエースを争ってきた実力派。智紀に打たれはしたが、アレは出会い頭の一発と考えれば投球内容は悪くなかった。それに打たれた直後も崩れはしなかった。
問題は次だ。
「十一番、大久保!」
「っ!はい!」
「……」
春大会のままであれば十一番は三年生の川崎のはずだった。だが前からの課題であったコントロールが改善せず、昨日も打たれた。落ち目の三年生ではなく、上がり調子の二年生を起用することにしていた。
川崎は落ち込むが、まだ枠はあると前を向く。
「十二番、町田!」
「は、はい!」
二番手捕手も二軍で二年生の町田に交代。次の世代を見越して有望な若手選手を夏の大会に入れることは帝王では良くあること。
ここで他の捕手たちは一気に希望がなくなる。いくらベンチメンバーが二十人とはいえ、貴重なベンチ枠を捕手三枠で使うことはほぼない。捕手は専門性が高いため、他のポジションも守れるような者は少ない。
帝王の捕手は全員他のポジションを守ったことがない。可能性があるとすれば代打の切り札などで入り込めるかどうかだが、その可能性は低いと残りの捕手の誰もが思っていた。
「十三番、遠藤!」
「はい!」
本来ファーストの控え選手に渡されることが多い十三番だが、これを内野ならどこでも守れる三年生の遠藤に渡される。いよいよ持って誰が選ばれるのかわからなくなってきた。
「十四番、村瀬!」
「はいっ!」
これは春大会から変わらず、セカンドで二年生の村瀬が選ばれた。
「十五番、西条!」
「はい!」
外野手で二軍のキャプテンを務めていた西条が初の一軍昇格。涙を流しながら背番号を受け取っていた。安定した守備と長打を打てることから選出されていた。
「十六番、霧島!」
「はいっ!」
霧島も元々一軍で控えだった外野手だ。この選出にも異論は出なかった。
「十七番、三間!」
「う、うっす!」
ここで一年の三間が選ばれる。ファーストとサードを守れて、一発がある強打者だ。代打の切り札扱いでもいい。三間がいるから捕手たちは打撃でベンチに入れるとは考えていなかった。
三間は背番号を受け取った後、残りの二軍にいた一年生三人へVサインを送っていた。まだ可能性は残っているが、一年生の中で一番最初に呼ばれたことを自慢したかったのだろう。
「十八番、宮下!」
「はい!」
三間の自慢げな顔も、次の瞬間終わっていた。四人目の投手として智紀が呼ばれて、だが帝王野球部の面々は智紀が選ばれたことに異論はなかった。
帝王が誇る四番の倉敷から三振二つを奪い、五イニングを一失点、打ってはホームランを含む猛打賞。外野も守れるとなればベンチには確実に入るだろうと予想していた。
そして三間と智紀が背番号十九以降じゃなかったということは、甲子園に出場しても二人を起用するという監督のメッセージだ。
「十九番、筒井!」
「はいっ!」
一軍控えだった外野手の三年生、筒井が十九番を貰う。本当にギリギリで選ばれた形だ。
そして最後。
「二十番、辻!」
「はい!」
最後も、一軍控えでショートだった三年生の辻が選ばれた。
これで背番号を渡されるのは、終わりだ。それを実感した選ばれなかった三年生の肩の力が、フッと抜けた。
「これからは選ばれた二十人と三年生を中心に練習する。臥城学園との三年生対抗試合の後は二十人で本格的な練習に入る。対外試合もないが、夏の予選で最大限の力を振り絞れるように残り一ヶ月、駆け抜けて行こう」
「「「はいっ‼︎」」」
「一年生、二年生は三年生の勇姿を見て、来年や秋へ繋げてくれ。まだまだ三年生から学べることは多いはずだ。そして三年生。……お前たちの学年は、誰も怪我による離脱者や退部になった者はいなかった。三年間、俺たちに付いてきてくれてありがとう。これからも、俺たちが誇れる選手でいてくれ」
「「「──はいっ!」」」
東條監督がお礼と共に帽子を取って頭を下げたのと同時に、コーチ二人も帽子を取って頭を下げた。その大人たちの対応に、選ばれなかった三年生たちが涙ぐみながらも大きな声で応える。それしかできることがなかったから。
これから帝王学園野球部は、夏の公式戦まで一気に駆け抜けることになる。
チャット 三姉妹の秘密の花園
マネージャーめんどい:というわけで、智紀は背番号十八をもらってベンチ入りが確定しました。外野と投手の併用になるっぽい。拍手!
トモちゃんの予定第一:パチパチパチ!
一年早く生まれてたら:パチパチパチ!
トモちゃんの予定第一:まあ、私はメールで真っ先に教えてもらってたけどね!仕事中だったけど最優先で確認しちゃった。私って愛されてるぅ〜。
一年早く生まれてたら:喜沙お姉ちゃん。それわたしとお母さんも含めた一斉送信だったよ。
トモちゃんの予定第一:ウソォ⁉︎
マネージャーめんどい:あ、そんなの出してたんだ。いつの間に。まあ、母さんには伝えるよね。母さんも智紀大好きだし。
一年早く生まれていたら:わたしなんてベンチ入りは疑ってなかったから、今日のお夕飯奮発しちゃったもん。お母さんにはメールしておいたけど、喜沙お姉ちゃんの分も冷蔵庫に入ってるから帰ってきたら食べてね。ローストビーフだよ。
トモちゃんの予定第一:ローストビーフ手作りしたの?美沙ちゃん腕上げたわねぇ。
マネージャーめんどい:美味しかった。ありがと。でも昨日は紅白戦の映像を編集してたのに、いつの間に準備してたの?
一年早く生まれてたら:染み込ませるタレは事前に作っておいたから、昨日の夕飯を作る時に一緒に仕込んだだけ。今日火を通す前段階ならすぐできるよ。
トモちゃんの予定第一:へ〜。映画の撮影がなければ出来立て食べられたのになあ。
マネージャーめんどい:それが回り回って智紀へのプレゼントの資金になるんだからいいじゃん。
トモちゃんの予定第一:トモちゃんに貢げるのは私だけ!
マネージャーめんどい:ウワァ。貢ぐって言っちゃったよ。
一年早く生まれてたら:お兄ちゃんに美味しいって言ってもらえるのはわたしだけ。
トモちゃんの予定第一:ウグゥ!
マネージャーめんどい:ウグゥ!
一年早く生まれてたら:お兄ちゃんに妹として可愛がられるのもわたしだけ。
トモちゃんの予定第一:美沙ちゃんズルいズルい!
マネージャーめんどい:美沙は無条件で頭とか撫でられて羨ましい!可愛いかよ⁉︎
一年早く生まれてたら:お兄ちゃん公認で可愛いんだよ(ドヤァ)。
マネージャーめんどい:自覚あるタイプって実際にいたら面倒なのに、美沙の場合本当に可愛いから何も言い返せない!
トモちゃんの予定第一:美沙ちゃんの小悪魔!
一年早く生まれてたら:小悪魔も自覚してるから悪口にはならないかなぁ。様々な手段使わないとお兄ちゃんの周りの雌共、排除できなかったし。
トモちゃんの予定第一:ウワァ……。美沙ちゃん強か……。芸能界でもやっていけそうな黒さね……。
マネージャーめんどい:もう小悪魔通り越してただの悪魔じゃ?
一年早く生まれてたら:ただの悪魔じゃ可愛くない。
マネージャーめんどい:じゃあ魔性の女?
トモちゃんの予定第一:魔性の女にしてはスタイルが足らなくないかしら?
一年早く生まれてたら:スタイルお化けと比較されたくないよ!わたしの身体は黄金比を保ってるの!
マネージャーめんどい:別に美沙って胸もお尻も小さくはないよね。確かに黄金比って言われても納得かも。
一年早く生まれてたら:千紗ちゃんもどうやってその身体維持してるの?わたしみたいに柔軟とかしてないよね?
マネージャーめんどい:日々の運動じゃない?野球部のマネージャーって肉体労働多いし。
トモちゃんの予定第一:柔軟くらいならいいけど、肉体労働は勘弁して欲しいかも〜。
一年早く生まれてたら:マネージャーで思い出した。昨日お兄ちゃんと一緒のベンチだった福圓とかいうマネージャーなんなの?お兄ちゃんばっかり構って。やっぱり好きなんじゃないの?
トモちゃんの予定第一:何ですって⁉︎千紗ちゃん、どうなの!
マネージャーめんどい:そんな恋愛絡みの話ってマネージャー同士じゃ滅多にしないからわかんないわよ……。部活中は仕事で忙しいし、雑談する暇もあんまりないし。
トモちゃんの予定第一:千紗ちゃんってば!本当にそういうところダメダメね!
一年早く生まれてたら:予選が始まったらわたしが観客席で探ってくる。木下って方もね。
トモちゃんの予定第一:美沙ちゃん、期待してるわ!
マネージャーめんどい:あたしじゃ無理だからよろしく。あ、学校の方はもう無理。智紀が背番号もらったって学校中で知れ渡ってる。
トモちゃんの予定第一:帝王学園の女子って大丈夫……?みんな何かの秘密組織に所属してるの?
一年早く生まれてたら:有望な彼氏が欲しいからって、その能力をもっと他に使えないの……?それだけの力があれば邪魔な人を蹴散らせるのに。
マネージャーめんどい:黒い黒い。まあ、プロ野球選手の彼とかが欲しいんでしょ。その熱意がぶっ飛んでるだけ。
トモちゃんの予定第一:そんな女にトモちゃんが引っかからないといいけど……。
一年早く生まれてたら:お兄ちゃんと一緒に入学できてたら学校の女子なんて二ヶ月で掌握できたのに。
マネージャーめんどい:美沙がいればあたしも楽できただろーなー。ま、あたしもできる限り何とかするよ。智紀への刷り込みとか。
トモちゃんの予定第一:よろしくー。あ、千紗ちゃんは予選の日程が決まったらすぐ教えてね。仕事の日程調整するんだから。
マネージャーめんどい:了解よ。
次は月曜日に投稿します。
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