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4ー2ー3 一軍選定紅白戦

五回の裏。

 土子先輩は結局ショートフライ。続く間宮先輩がセンター前ヒットで一点取ってくれて、三番の早坂先輩がセカンドゴロに倒れる。これで三アウト。俺はマウンドに上がる。

 相手は一番の外野控え、今日はライトを守っている二年生の霧島先輩が右打席に入る。長打力はなくてもミートがかなり上手い先輩だ。打率が凄い良い。いつもはレフトを守っていることが多い。


 その霧島先輩へ、初球はスライダー。速度のある方を投げると空振りを取れた。

 二球目は遅くて大きく曲がるシンカーを。これは当てられたが、三塁線へ切れていく。追い込んだからといって三球勝負は仕掛けない。それじゃあフリー打撃と何も変わらない。

 三球目はアウトハイに外れる一番ストレートを。釣り球だったことがバレていたのか、悠然と見逃された。


 四球目は俺のコントロールミスでスライダーが低めに行ってしまって、ワンバンのボールに。町田先輩に謝ると、気にするなとミットをカパカパと開いてボールを取り替えてくれる。

 五球目。アウトコースへスライダーを投げると霧島先輩はおっつけるように当てて、それがファーストライナーへ。三間の真正面だったのでそのままアウトに。


「ナイピッ!」


「サンキュー。抜けてたら危なかった」


 その辺りは心配していないが。三間はスラッガーの割に守備が上手い。それは数々の練習試合や合宿最後のノックでわかっている。エラーは滅多なことじゃしないだろうと信用している。

 続く二番はショートの辻先輩。一軍の控え選手。早打ち気味の人だ。好球必打と言えば聞こえはいいけど、それで初球から振っていって凡退するのはどうなんだろう。一軍には帯同していないからこの人が練習で結構ボールを引っ掛けていることしか見ない。


 初球に高速シンカーを投げると、それを見事に振ってショートへのボテボテのゴロ。足は速かったがそこは守っているのが葉山キャプテン。落ち着いて対処して強肩でアウトにしてくれた。

 三番はセカンドでやはり一軍控えの村瀬先輩が左打席に入る。村瀬先輩のスタイルは間宮先輩に似ている。巧打者で足が速く、守備の名手。三番を任せられる打率を一軍でも誇っていた。


 村瀬先輩へ初球。二番ストレートをインコースへ。これはちょっと高かったようで見逃されてボール。選球眼も良いらしい。

 二球目は一番ストレートをアウトローへ。これは手を出してきたが空振り。


 しかしストレートを投げるたびに千紗姉が微妙な顔をするのはなんだろうか。どこか変になっているとかじゃないと良いけど。

 三球目。高速スライダーをインローに。だが、これを弾き返されてライト前ヒット。ムゥ、打たれたか。コースも高さも問題ないと思ったのに。スピードとキレが問題だろうか。後で町田先輩に聞こう。


「いやあ、やっぱり宮下も打たれるんだな」


「単打は打たれるだろ。それにチームメイトなら球筋も知ってるだろうし」


 そんなことが観覧席から聞こえる。OBたちだろう。打たれない投手なんているわけないのに。さっきの回まではたまたまだ。

 女子生徒たちは甲高い声で「あぁ〜」みたいな声を出している。無視無視。


 一塁ベースの上で村瀬先輩はこっちを見ながら笑っていた。むしろ一軍なんだから俺の球打ってくれないと困る。俺より凄い投手なんていくらでもいるだろう。

 一緒に笑ってる三間はギルティ。何で味方投手が打たれて笑ってるんだよ。

 村瀬先輩は足が速い。盗塁を警戒しておかないとな。


 二アウトながら我がチームの主砲、倉敷先輩を迎える。得点圏じゃなくて良かった。

 初球は今打たれたばかりの高速スライダーをアウトローへ、ストライクゾーンからボールになるように投げる。これを振ってくれてストライク。タイミングも軌道もほぼ合ってたし、読まれてたな。打たれなかったのは幸運だ。


 ここで一球牽制を。村瀬先輩は余裕で戻る。リードはそこまで大きくないな。

 二球目。クイックで投球動作に入ったら背中越しに動く気配を感じる。


「スチール!」


 三間の声の前に気付いたので予定していたコースではなくウエストする。町田先輩も中腰になった。

 アウトハイに、町田先輩が投げやすいであろう場所へ一番ストレートではなく三番ストレートへ切り替えて思いっきり投げる。

 町田先輩頼りになってしまうが、どうにか刺してくれと願ったらありえない光景が飛び込んでくる──。


 カキーン!

 クソボール、ウエストしたボールを倉敷先輩が踏み込んで打ち返したのだ。打球は右中間へ。左足はバッターボックスラインを越えていなかった。まさかアレを打ち返されるなんて!

 打球は右中間を転々と転がる。村瀬先輩の動きを見て俺はホームベースのカバーに入る。


 ライトの新堂先輩がセカンドへ返球している頃には村瀬先輩はホームへスライディングで帰ってきていた。倉敷先輩もそこまで足が速くないながらも二塁に到達。

 さっきよりも残念そうな女子生徒の悲鳴が聞こえてくる。点取られたくらいでなんだってんだ。こっちはウエストのボールを打たれてショックだっていうのに。絶対俺と思ってること違うぞ。

 ボールを受け取ると町田先輩がタイムをかけてマウンドへやってくる。というか一緒に来た。


「悪い、宮下。もっと明確に外させるべきだった」


「いや、打たれるコースに投げた俺のせいです。……そうは言っても、なんですか?あの悪球打ち」


「あの人たまに夜練習とかでやってるんだよ。座ったままの敬遠気味のボールを打つ練習。ウチの四番になるような人は皆伝統でその練習をしてるって言い忘れた」


「はぁ。全国区のスラッガーってそんな練習もしないといけないんですか」


 その練習の成果が出てしまったということか。なんにせよ、今度から外す時はバットから届かないような場所へ投げよう。

 さっきのも届かないと思ってたんだけど、倉敷先輩の腕長いな。葉山キャプテンなら届いてなかったと思うんだが。二人はほぼ同じ身長だから届くコースもほとんど変わらないと思うけど、あの人には届くのか。

 公式戦でやられなくて良かった。これが敗着の一点とかだったら泣くに泣けないぞ。


「次はありません。倉敷先輩なら三盗もないでしょうし、中原先輩に集中しましょう」


「ああ。あの人も強打者だからな。度肝抜いてやる。サイン見ても表情に出すなよ」


「その辺りはむしろ心配されるくらい表情に出ないので」


「期待してるぞ、鉄面皮」


 町田先輩が戻っていく。五番の中原先輩が打席に入る。この人が一軍で一番俺の球筋を知っているんじゃないだろうか。そういう意味じゃ一番警戒しなくちゃいけない打者だ。

 町田先輩がサインを出す。俺は今組んでいる町田先輩を信じるだけだ。

 初球をインハイに三番ストレート。これを中原先輩は空振り。タイミングは合ってるな。


「ナイピッチ!」


「さっきの失点気にするな!オレがホームランで取り返してやる!」


「三間、ホームランとかいいから守備に集中してくれ」


 打席のことばっかり考えてるんじゃない。まず守ることを考えてくれ。

 二球目のサインを見る。ちょっと間が空いたが頷いた。セットポジションから二球目を投げる。

 アウトコースへ三番ストレート。これは中原先輩がボールに当てたが、一塁側フェンスの外へ飛ぶファウル。


 主審からボールをもらってサインを見る。「プレイ」の声を掛けられるのと同時にサインを出されて、そのサインには思わず表情に苦い顔が出そうになったが堪えた。千紗姉と美沙はどうしたのだろうと首を傾げている。

 二人は俺のちょっとした表情の変化が読み取れるのか。しかも結構遠くから。凄いな。


 まあ、いい。

 もう一度全力で投げるだけだ。

 真ん中低めへ、三度三番ストレートを。これには中原先輩も目を見開きながらバットを振るが、出だしが遅い。

 バットが空を切る音と、ミットにボールが収まる音が一緒に響く。


「ストライッ!バッターアウト!」


「おおお!ストレートだけで中原を!」


「三球三振かよ⁉︎」


 全く、心臓に悪いリードをする。それでもピンチを切り抜けたのは事実。ベンチに戻る時に町田先輩にミットを差し出されたので、苦笑しながらグラブを重ねた。

 せっかく三種類のストレートを投げ分けられるのに、あえて全部同じストレートで行くとか。中原先輩が俺に詳しいからこそのリードだろうけど。

 あーあ、打たれなくて良かった。


 ようやく五回が終わる。次からは六回。途中から出て来た野手はこれが最後のアピールのイニングになるはず。俺はあと二イニング投げなくちゃいけない。相手もラストチャンスだから死に物狂いで来るだろう。流石にそこで交代だろうけど、最後のイタチっ屁で評価を落とすのは嫌だ。

 最後まで気を抜かずに行こう。


 相手のマウンドには大久保先輩が上がる。大久保先輩もここから二イニング。安定感もあって立ち上がりが悪いというわけでもない。リリーフだって何回もこなしている。

 俺は福圓さんからまたドリンクの入ったコップを受け取って、町田先輩とさっきの投球内容について話しながら大久保先輩の投球練習を眺めていた。


次も三日後に投稿します。

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