4ー1ー1 一軍選定紅白戦
紅白戦の始まり。
水曜日の休養日を挟んで。木曜日の朝にはいつも通り練習をして昼休み。
寮の食堂でご飯を食べているとホワイトボードに連絡事項として一枚の紙が貼り出されていた。一軍・二軍は見ておくようにと書かれていたので食べ終わってから見てみると紅白戦のオーダーが発表されていた。
グラウンド整備は今日はないので、関係する全員がそれを見る。自分がどちら側なのか見たらすぐ離れる人や、全員の名前を確認する人もいる。
俺は自分のチームだけ確認した。
一年生は半々に半々に別れていて、俺は三間と一緒のAチーム。入部当初の紅白戦とはまた別だな。
ウチの主力で言えば葉山キャプテンとセンターのレギュラーの早坂先輩、ライトのレギュラー新堂先輩、それにセカンドのレギュラー間宮先輩がいることくらいか。投手で言えば真淵先輩もいて、春大会のレギュラーはこの五人。
半数以上いるけど、野手陣は綺麗に半分に別れてるからこの辺りは均等になるように首脳陣が考えたのだろう。プロ注目スラッガーの二人もわざわざ分けてるし。
というか、何で俺レフトで先発なの?投手としてカウントされてない?
「何や。智紀と同じチームかいな。打てんやん」
「別のチームになったからって俺の登板と被るかわからないだろ。五十人以上を一試合に出すんだからどこで同じグラウンドに立ってるんだか」
「確かに。オレベンチスタートか……」
一年生に限って言えば先発は俺だけ。他三人は全員ベンチだ。
とは言っても春のレギュラーだって全員先発じゃない。一軍・二軍混合だから先発かどうかはあまり関係ないと思う。精々監督の目に留まっている選手が出場機会がちょっと長いとかそれくらいで、チャンスはほぼ変わらないと思う。
そんな確認だけして、午後の授業を乗り切ってすぐに放課後。
試合に出る者は全員ベンチに入って、紅白戦の準備をする。既に周りにはギャラリーがズラッと並んでいた。合宿終わりの木曜日に紅白戦をするのは毎年のことのようで、女子生徒がグラウンドの外を囲んでいた。
暇なことで。
ベンチには二人ずつマネージャーが入り、ベンチからスコアブックを書くらしい。しかも三年生と一年生のペアにしているようで、俺たちのAチームには君津先輩と福圓さんがベンチに。
Bチームには黒川先輩と木下さんがベンチに。ベンチから見る景色でスコアブックを書く練習と、ベンチの雰囲気を知るためとかって千紗姉が言っていた。
その千紗姉たち二年生は東條監督と一緒にバックネット裏の小屋で様々な機器を使って色々な数字を記録に取るらしい。データ野球とも呼ばれる時代で、とにかく目に見える数字にするのがプロでも流行っている。
その手法を取り入れているんだろう。俺のストレートの解析にも役に立ったし、データ化は大事だ。
準備運動を終わらせてベンチ前で軽く柔軟をしておく。しっかし、七番レフトか。練習では一通り外野守備をやったけど、試合でレフトを守るのは初めてだ。
それと投手陣は自分がどのイニングから投げるか、宇都美コーチから伝えられている。俺は四回から四イニング投げるので、野手をやりながら肩を作らないといけない。
いつぞやの国際試合みたいだ。
紅白戦なのでホームベースに集まって礼などなく、攻守に別れて準備を始める。ウチのAチームが先攻だ。初回は特に準備することなくベンチに座っていよう。
「プレイボール!」
三年生の田中先輩のコールで試合が始まる。
Bチームの先発は三年生の矢部先輩。右投げサイドスローで、スライダーとシュートを投げる人だ。
初球のストレートは外れる。球速は130半ばといったところ。高校生としては可もなく不可もなく。サイドスローということを鑑みれば快速球派だろう。
変化球も混ぜて追い込んだ後の五球目。高めに浮いたストレートを逃さずに一番の柴先輩がセンター前へ運んでいた。
「ナイバッチ!」
柴先輩は今日ライトでスタメンだ。打てる外野手というタイプで、足は少し速いくらいだが出塁率が高い。
二軍でも出場機会に恵まれている方だ。守備もしっかりしているので後ろにいると安心できる。
二番はセカンドの三年生赤城先輩。紅白戦は監督やコーチ、チームの代表者がサインを出すというわけでもない。誰かがサインを出していたら同じチーム同士だからすぐわかっちゃうからな。全部自分の意思で打席に立つし、いくら上位打線だって二回目のアピールチャンスが回ってくるとは限らない。
だというのに赤城先輩は堂々とバントの構えをしていた。
全員サインは出ておらず、自分の意思でそうしていることがわかっている。だからBチームはバントの警戒をしつつも、バスターの警戒もしてそこまで前進シフトはしていなかった。
相手が何をしてくるかわからないというのは本当に本番そっくりだ。だからこそ一軍を選ぶ指標にもなるんだろう。
初球は様子見のためかボールを外していた。サードもダッシュしていたが、ボール球なので赤城先輩はバットを引いていた。
二球目。ゾーンに来たシュートにバットを合わせて、一塁方向にバントを。これがフェアゾーンに転がって送りバント成功となっていた。堅実だな。
二番という打順がすることを理解していますよというアピールになっただろうか。それにこの調子でいけば赤城先輩にはもう一回打席が回ってくるだろう。そこで打つ方をアピールするのかもしれない。
「ナイバン!」
「いーよ!クリーンナップ美味しいよ!」
三番は二軍の実質キャプテンの西条先輩。今日はセンターだ。一軍・二軍どっちのキャプテンもこっちにいるのは良いんだろうか。
矢部先輩は西条先輩を警戒しているのか、合宿の疲れが溜まっているのか、制球がよろしくない。今三球目でようやくゾーンにボールが来た。それを西条先輩は引っ張ってファウル。
結局ゾーンに来たのはその一球だけで、四球。一アウト一・二塁になって四番の葉山キャプテンが打席に。一番回したくないところで嫌な打者に回ってきたというか。俺でもピンチで葉山キャプテンを迎えたくないぞ。
葉山キャプテンが打席に立つと、ギャラリーが沸く。
「きゃー!葉山クーン!」
「打ってー‼︎」
女子の歓声は凄いが、葉山キャプテンは一切気にせず打席に立つ。慣れてるんだろうか。甲子園を経験するとあの程度なんてことないのだろう。多分。
四球の後の初球はストライクを取ろうと思って甘いボールが来やすい。その心理は矢部先輩も同じだったようでベルトの高さに来たボールを葉山キャプテンは引っ張って左中間をブチ抜いていた。
「わああああああああ!」
当たりが良すぎたせいで一塁ランナーの西条先輩はホームに帰ってこられずに三塁ストップ。だけど先制は変わらない。全国区のスラッガーはやっぱり違うな。
ギャラリーは沸いているが、一方俺たちAチームのベンチはむしろブーイングをキャプテンに向かってしていた。
「バーカ!お前のアピールの場じゃねえんだよ!」
「三塁打かホームラン打たなくちゃいけなくなったじゃねえか!」
「さっさと返してやるからゆっくりしてやがれ!」
罵倒、なのだろうか。よくわからん。
福圓さんもこのベンチの雰囲気に首を傾げている。
「これはオレがホームランを打てばキャプテンよりも上って証明になるよな!」
「んな単純な話じゃないだろ。三間」
矢部先輩が投げてる時にはお前に打席は回ってこないと思うぞ。ポジティブなのは良いことなんだかどうか。
矢部先輩が投げている姿は二軍の練習試合で何度か見ていたが、なんというか立ち上がりが悪い。回を重ねればマシになっても、初回はこうやって点を取られることが多い。
わざわざ葉山キャプテンと倉敷先輩を分けたのは、俺たち投手陣が通じるかどうかの確認もあるんだろうな。もしかしたら二人は打者としての試験官としてフル出場するかもしれない。倉敷先輩もスタメンで四番だからな。
矢部先輩は後続を打ち取れるかどうか。葉山先輩に打たれるのは仕方がないだろう。エースの真淵さんだって打たれる時は打たれる好打者なんだから。
五番はファーストの大森先輩。ランナー二・三塁で一アウトだから色々できる。スクイズに犠牲フライ。左打者だから引っ張って転がしてランナーをホームに返しても良い。Bチームは初回をビッグイニングにしないために前進守備を敷いてきた。
矢部先輩は相変わらず制球が定まらずに、浮いたボールばかり。三球目のストレートを大森先輩は引っ張ってライトへの大飛球。飛距離は犠牲フライに十分だ。上がりすぎて確実に捕られるが。
ライトのグラブに入ってランナーはオールスタート。ボールは内野に返球が返ってきただけでどこにも投げられないまま二点目が入った。
「ナイス最低限!」
「こういう一点大事だぞ!」
「切り替えていけ!こっから下位打線、一個アウト取って攻撃だ!」
「二点なんて簡単に返してやるからいつも通りのピッチングしようぜ!」
こっちが盛り上がれば、相手も声をかける。紅白戦といえども練習試合と一切変わらない熱量で試合は進行していった。
おっと、次ネクストに入るの俺だ。グラブをベンチに置いてバットとヘルメットを用意する。
六番の遠藤先輩は内野はどこでも守れる人だ。今日はサードで出ている。どこでも守れるって地味に凄いよな。全部の動きを覚えていて、なおかつ問題なく動けるんだから。
俺がネクストに入る頃には一ストライク二ボールになっていた。ストライクボールアウトの電光表示板も使っているのでちょっと目を離しても様子がわかるのは良い。
うーん。矢部先輩、まだ本調子じゃないな。また外れた。
しかもストライクを投げようとすれば遠藤先輩がカットする。いやらしい。
七球目。大きく外れてまた四球。七番だから初回には打席が回ってこないと思ってたんだけどな。
打つしかないか。二アウトだし、下位打線。繋ぐとか考えずに大きいの狙っていこう。
次も三日後に投稿します。
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