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3−2−1 甲子園準備期間

 神戸に新幹線で移動して、帝王が毎回泊まる伯方旅館に到着した。去年も来たためにまた来たなと思うくらいで、初めて来る部員が中庭の日本庭園や木造の古き良き旅館の在り方に感動していた。

 旅館近くの市営の練習場にも顔を出す。今日はそこまで練習せず、どういうことができるかだけの確認で終わる。

 そして次の日。抽選会なので全部員でホールへ向かう。都道府県順で座るために指定された列に座る。近くには関東勢が座る予定だ。帝王は来るのが早かったのかまだ座っている人は少ない。

 抽選会を待っていると茨城代表の常総がやってきた。常総のエースであり、U-15で一緒に戦った小池を見付けたので手をあげて話しかける。


「よっ、小池。一年振り」


「智紀。甲子園で会おうとは言ってたけど、本当にそうなるなんて。やっぱ強いな。阿久津にも勝ったみたいだし」


「阿久津は……。なんか夏大会で調子が悪かったみたいでな」


「コールドだったもんな。東東京だと二人のどっちかしか来られないのか」


「春ならもしかしたらって感じだな」


 U-15で一緒だった選手は案外甲子園で会うことはない。どこも強豪校に進んだものの、たとえ県トップだからといって毎回甲子園に出られるわけではない。トップ校とはいえ県にはいくつも強い学校がいる。

 東東京だって強い学校はいくつもある。トップ校に入学したからといって甲子園に出られることは確約していない。

 そこからもいくつか、特に帝王も練習試合をしたひたちなか高校が昨年できたばかりの新設校だというのにもう県ベスト四になったことは驚くべきだ。関東はどこでも大変なことに変わりはないのにすごく強くなったということ。


 練習試合の時から伸び代はあると思っていたが、この快挙は秋に侮れないだろうという話をしていた。

 小池と話していると千葉の代表である前回大会覇者の習志野学園がやってきたことでホールの空気が変わった。その圧倒的な強さは春夏連覇していることもあって誰もが一番警戒し、できるだけ早く当たりたくないと考えているだろう。

 そんな強者の入場よりも俺と小池は旧友との再会を優先した。


「祐介。久しぶり」


「小池。智紀も。小池とはそれこそ一年振りだけど、智紀は関東大会以来か」


「ウチは関東に出られなかったからな。春は全力で行かない方針なんだ」


「そういう学校多いよな。俺たちは春甲子園に出なかったから全力で行ったけど」


「春甲子園はやっぱり疲れるぞ。短期間にスケジュールが詰まり過ぎてるし、すぐに入学式とか変わることが多いし、県ブロック予選もすぐ始まる。あの時期は試合日程が過密過ぎだ」


「それで全勝してるのは嫌味か?」


 祐介は相変わらずだった。キャッチャーという人種がこんなものなのかもしれない。

 習志野学園はそれこそ公式戦は去年の夏甲子園からずっと負けていない。無敗レコードを保ったままの二連覇が期待されている。

 他の選手たちはそのことをプレッシャーに感じているのか抽選会だというのに硬い表情をしている人が多い。エースの柳田もそうだ。メンバーは春大会で見た選手とあまり変わりないことを確認する。


「あ、智紀。ちょっと聞きたいことがあったんだ。二刀流での練習について、練習法とか配分とか教えてくれないか?」


「は?涼介、何でそんなことを?」


「ヒロ……市原の弟の小学生に頼まれてさ。参考にしたいんだって」


「市原の弟?それなら協力しても良いけど……。まあ、後で一週間の連取方法をメールで纏めるよ。でも今小学校ならいっぱい食べて無理しないのが一番だぞ。それこそ兄の練習方法を真似れば良い」


「それじゃヒロを超えられないって。世代最速投手で二刀流のお前のやり方が知りたいんだってよ」


 市原、涼介と中学時代にバッテリーを組んでいた世代最強投手と呼ばれた一人だ。U-15にも選ばれて、硬式の俺と軟式の市原で比較されることが多かった。

 その弟君の育成なら手を貸しても良い。どうせ記事にもされるんだし、将来有望な小学生の支援になるならこれくらいお安い御用だ。


「小学生の頃にやってた練習とかも付随して送るよ。抽選会が終わった後にな」


「助かる!俺、ピッチャーの練習はさっぱりだからさ」


「その子、二刀流目指してるのか?投手一本じゃなくて?」


「そうなんだよ、小池。いや、実際凄いんだぞ。マグロナルド杯の優勝の立役者なんだ。去年まだ四年生だったけど、六年生に混じってライトとピッチャーやって全国優勝に貢献してるんだぞ」


「ウッヘエ。何、その才能の塊。智紀でもそんなことやってないじゃん」


「そもそも俺、小四の時に一回野球辞めてるしな……」


「「あー……」」


 U-15で代表になるような選手はU-12にも選ばれることが多い。そこで俺はU-12には選ばれなかったので小学校の頃は何をしていたのだと質問をされたことがあった。

 隠すことでもなかったので馬鹿正直にイジメのせいで一時期辞めて、そこからは怪我をしないように育成重視で大会の結果なんて度外視のチームに入っていたと知って小学校の時に無名だった理由に納得された。

 小四の頃はまだ活躍していたから小学校の時にリトルにいたことを知っている奴もいた。阿久津とか。だからこそ中学でいきなり上がってきたことを不思議に思っていなかった選手もいた。

 この後のことも話しつつ、そろそろ開始の時間になるので席に着いた。


 抽選会が始まり、順番にくじを引いていく。優勝候補の習志野学園が四日目の場所を引き、トーナメントの山としては後半側になった。すでに後半で引いていたチームはため息を零し、これから引くキャプテンは後半を、特に習志野学園の周辺を引かないようにと思いながら列に並んでいるんだろう。

 そしてウチの番。村瀬キャプテンが引いたくじは二日目の二試合目。トーナメントの山としては前半。習志野学園とは決勝まで当たることはなく、しかも結構早く試合ができるので二回戦まで時間が空き、情報収拾と休憩もできる良い日程だ。

 というか。勝ち上がったら常総と二回戦で当たる。それはどうなんだろうか。

 帰ってきた村瀬先輩はホッとしながら席に座る。


「マジで一番引かなくて良かった……。開会の宣誓なんて絶対やりたくなかった」


「昨日も言ってたよな。ナイス回避」


「49分の1だし、ほぼないって言ってただろ」


 一番を引いてしまうと開会式の時に宣誓をしないといけなくなる。村瀬先輩は絶対噛むからやりたくないと言っていた。案外緊張しいなんだよな、キャプテン。

 それからも埋まっていくトーナメント表を見ていく。一回戦の相手は愛媛県のINS学園という珍しい横文字の学校だった。インターナショナルスポーツ学園、らしい。


「千紗姉知ってる?」


「珍しい横文字学校だったからね。新設五年目、国際的な練習方法を取り入れて初出場を決めた学校よ。というかアンタにも推薦来てたじゃない」


「行く気の無い学校なんて覚えてられないよ」


「でしょうね。あたしもちょこっと調べ直しただけよ。喜沙姉のインタビューで気になったとこをメモ帳に書いておいただけよ。新設校だし、一度聞いたら忘れられないわよね」


 抽選会は無事に終わり、明日開会式のリハを行い、明後日には開会する。今日はもう旅館に帰って休むだけだったが俺と千紗姉は用事があった。

 監督に許可を貰って二人でとある飲食店に行く。去年梨沙子さんと一緒に行った場所だな。丼モノの店で、予約していたためにすんなりと奥の個室に通される。

 どこでこんな店を知ったのよと千紗姉に詰められたが、素直に去年梨沙子さんと来たことを告げたら普通に怒られた。有名人と外で食事をして写真でも撮られたらどうするのかと怒られたら至極真っ当すぎて何も言えなかった。

 個室には俺たちが最後だったようで、あと四人が揃っていた。


「遅かったな、智紀。千紗さんも久しぶりです」


 さっきまで抽選会にいた涼介の他、U-15で一緒に戦った同級生がいた。

 簡単な話が、同窓会みたいなやつだ。


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― 新着の感想 ―
やっぱり涼介じゃないですか?祐介じゃなくて
祐介が誰か分からなくなってしまった。
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