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3ー3ー2 春季合宿

盗塁。

 今日もスカウトの多田さんがいらっしゃっていたので投手陣で挨拶をしてからシートノックに加わる。投手も含めた中継プレイやカバーの入る場所の確認などをしていく。

 そして投手陣も第二ポジションに入ってノックを受ける。だいたい外野で若干名サードとファーストに入る。午前中はそれで終わり、昼食になる。

 食堂でまた多田さんに高宮が話しかけられていたとかで、三間が憤慨していた。面倒になったので俺も口を出す。


「ウチの四番になれば自然とスカウトは寄ってくるだろ。まだ大会に出ていなくて、ベンチ入りもしていないこの時期に話しかけられる高宮が特殊なだけだっての」


「かーっ!宮下は名刺貰ったからそんな上から目線で言えるんや!」


「俺はUー15の関係だ。日本代表に選ばれた奴にはとりあえず名刺を渡してるって多田さんが言ってたぞ。それだけ世界大会が特別ってだけだ。お前が順当に活躍すれば引く手数多。この時期に声掛けられなくても、予選が始まればすぐ来るだろ」


 三間がたとえ夏の大会では選ばれなくても、秋には確実に選ばれるだろ。三学年いる中で二軍の四番に選ばれた意味を噛みしめるべきだ。

 それだけ首脳陣に期待されてるんだろ。二軍で一番期待している打者じゃなきゃ四番なんて任せない。一軍の瀬戸際にいる三年生とか二年生を起用せずに三間にしたということは、二軍で一番可能性のある打者として認められているということ。


 千紗姉が家にスコアブックを持って帰ってきて打率とか纏めたりしてるけど、その数字などを見る限り三間は二軍の中で打率はぶっちぎりだ。

 一軍とは比べていないが、それでも十分強いところとも当たってきた。これは考慮材料にされているはずだ。


「なんや?随分こっちの肩を持つな?」


「体格の良い長距離打者なんてどこでも欲しがるもんなんだよ。チーム事情で捕手に目をかけてるところも多いけど、指名順になればお前の方が上になるだろ。高宮の場合一過性のもんだ。それこそ正捕手が決まったチームは声をかけなくなって来ると思うぞ?育成に成功したなら、高校生よりは大学や社会人の上手い人を育てりゃ良いんだから。高卒を無理に獲る理由がなくなる」


 ただそれだけの理由。多田さんも注目しているのは高宮の守備能力で、高宮が多田さんの最低基準を超えていたから唾をつけておいただけに思える。

 だが、長距離打者はまた別口だろう。打率やホームラン王という数字や名声はわかりやすい。球団の広告塔になりやすい。それに野球は点を取れなくちゃ勝てない。その点を取ってくれる奴が一人でも多く欲しいわけだ。

 お金に物を言わせてホームランバッターばかりを打順に並べるチームもある。需要は限りなく高いんだから三間がスカウトから声を掛けられるのは時間の問題だ。


「今年のウチのプロ候補筆頭は葉山キャプテンに倉敷先輩だろ?打てるっていうのはそれだけスカウトからしても魅力なんだよ。だから、順当に行けばお前は絶対に声を掛けられる」


「時を待てと?」


「それかさっさと一軍に合流しろ。それだけだ」


「公式戦に出ればって話やな。おう、やる気出てきたわ。おばちゃん!蕎麦お代わり!」


「あいよ!」


 希望が見えてきたのか、今日のお昼のメインであるお蕎麦をお代わりしに行く三間。蕎麦もご飯のように二杯食べなくちゃいけないから、俺もそろそろペースを上げよう。

 つーか、話してるのに三間が食う速度だけ異様に速いんだよ。面倒くさい絡みもなくなったんだからこれで食事に集中できる。


 多田さんが高宮を熱心に勧誘するのはチーム事情と、あの人が元捕手だったからだ。他の球団が来てたら三間に熱心に話しかけていたかもしれない。

 そう、ぶっちゃけ今回のやっかみはただの偶然だ。他の球団か、同じスワロウズだとしても多田さん以外が来ていたらこうも高宮だけをピックアップしなかっただろう。


 それだけのことに気付かない三間がアホなだけ。ユーティリティプレイヤーが欲しいとか、俊足が欲しいとか、それはチームカラーだったりスカウトの好みだったり。それでもやっぱり人気があるのは打てる奴と投手。

 日本人は目に見えるものが好きというか。高校通算本塁打何本とか、甲子園優勝投手とか。期待のルーキーとか。だから名門の帝王で躍進する長距離打者なんて注目されて当たり前なんだよ。


 ご飯を食べ終わって午後からは盗塁・牽制の練習。バッテリーと最低限の内野だけ入れてあとはランナーに回された。打席には監督が入って、バントの構えなどをしてくる。

 バッテリーは今回固定で、俺は高宮と組むことになった。


「こっちは走るってわかってるけど、全部ウエストはダメだからな。適度にゾーンに頼む」


「その辺りもサイン出せよ。その通りに投げてやる」


 俺たちの番になり、マウンドに上がる。監督はヘルメットをつけているだけだけど、緊張するな。威圧感半端ない。体格もいいから試合よりも緊張する。

 昔はバッターとしてブイブイ言わせてて、甲子園にも三回行ってるんだっけ。大学でも活躍したけど結局母校のウチに戻ってきたとか。

 適当に投げると打たれそうだ。


 というわけでクイックで高宮の言う通りに投げる。牽制は少なめだった。試合中もそう何度も牽制しないし、牽制ってやりすぎると守備のリズムが崩れる。

 今回は練習だったから高宮もいつもより多くサインは出すけど、他の人よりは牽制のサインを出していない。さっきは三連続で牽制とかしてたけど、高宮はそういうことをしない。

 投手側でも自己判断で投げていいことになっているが、千駄ヶ谷がバカみたいなリードをしていたので一回俺の意思で挟んだだけで、それ以外は高宮のサインに従った。


「下級生バッテリーに刺されたら罰走だぞ!」


「高宮も肩が良いが、東京にはもっと良い肩の捕手はいるぞ。甲子園となればもっとだ。これくらい突破しろ!」

「先輩方、同級生の俺らも罰走はあるんですか⁉︎」


「ある!しっかり走れ!」


「うええええ!」


 始める前にそんな檄も飛ばされていたので、高宮は余計に刺してやろうと悪い顔になっていた。

 実際高宮は一年にしては肩が強い方で、特に二塁へ投げる際はコントロールが良いので本当にスタートが良かったり、めちゃくちゃ足が速い人以外は結構刺していた。

 どんどん増えていく罰走者。響き渡る悲鳴。それを肴に嗤う愉悦顔をキャッチャーマスクで隠した高宮。野次られる俺と高宮。拍手を送る観に来ていたOBたち。罰走のカウントをしていき、苦い顔をしているマネージャー陣。


 なんだこれ。

 普通に練習として投げてるだけなのに、何で俺が野次られなくちゃいけないんだ。罰走を決めたのは俺たちじゃなくて監督かコーチだろうに。

 いや、この場合バッテリーは準備や実際にやっていることから走る数が少ないために野次られてるのか。でも俺は真淵さんと中原先輩のバッテリーから二塁は陥れたぞ。


 まあ、三年生の中には二年生バッテリーにも刺されて罰走の数が酷いことになっている人もいる。その罰走も最後のベースランニングが三周増えるだけだ。数が溜まると大変だけど、一年生はまだマシだ。俺たち以外に刺されても罰走は増えないんだから。

 三年生は同級生に刺されても増えるから、足の遅い先輩は刺殺コンプリートしてしまった人もいる。おいたわしや。


 なお、投手陣は罰走なし。そもそもロードで余計に走ってるんだから、走る量は足りてる。

 そしてこの罰走は二盗だけ。三盗は刺されても罰走はなしだった。三盗って捕手から近くなるから刺されやすいとは言うけど、難しいってイメージがあるからやってくる人も少なくて、むしろその無警戒なところを狙えばスタート切りやすくて狙いやすいと思うんだけどな。


 ランナーは代わる代わる走っていったが、高宮がコントロールミスで大きく送球を外した場合を除いて同級生で刺せなかったのは千駄ヶ谷と仲島だけだった。確かこの二人が入部時の走力測定でトップ二人だった。然もありなん。

 ただ足が速いだけじゃなくて、スタートとかも優秀だってことだ。他の同級生をあらかた刺したためか、成功した二人はドヤ顔を。やられた高宮は悔しそうにウググと呻いていた。


 高宮はシニアにいた時に関東に出るような優秀な奴だったんだから、まともにやったら同級生で勝てる奴は少ないんだよな。肩の強さは一年で一番な訳だし。

 スカウトの多田さんなんてストップウォッチを持ってカメラを持って、バインダーに挟んだ紙にペンを走らせてと。とても忙しそうだ。多分俺のクイックの速度と高宮の二塁送球速度を書いてるんだろうけど、本当に注目されてるな。


 三盗もやられたのはやっぱり千駄ヶ谷と仲島の二人。先輩方だったら結構走られたが、それでも半数以上刺していて野手陣は阿鼻叫喚だ。

 罰走お疲れ様です。

 俺たちの番が終わったらダウンをして、俺たちも盗塁に混ざる。高宮は刺していた分、自分も刺されて罰走が増えていった。


「ザマァ」


「そんな足速くないんだよ!キャッチャーはキャッチャーフライが捕れてファーストのカバーに間に合う程度の足があれば良いんだ!」


「まあ、確かに。涼介が頭おかしいだけだよな」


「ああ……。三塁打平然と打って、外野の守備範囲も広くて。アイツ、ホンマに本職捕手か?」


「頭のおかしいユーティリティプレイヤーなんだよ。アイツと比べたら全部で劣るから比べなくて良いぞ」


 俺たちのライバルが凄すぎる件について。

 走攻守揃ってて、特に打撃が群を抜いている化け物。アイツと同年代なのってかなりの不運だと思うんだが。

 バッテリーが全員投げ終わって昼練は終わり。

 またマネージャー陣が作ってくれたおにぎりなどを食べて、ベーランまでロングティーをやった。昨日一昨日と千紗姉の物しか食べなかったのが不評だったので、今日は福圓さんと木下さんが作ったおにぎりを食べた。


 美沙のせいで舌が肥えているのか、普通だと感じてしまった。周りは美味しい美味しいと食べているので俺の味覚が変なんだろうか。

 明日はまた別の人のおにぎりを食べてみて比較しよう。

 いやでも?食堂の料理は美味しいと感じるからそこまで味覚が変じゃないはず。多分。


次は三日後に投稿します。

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