3ー2ー3 春季合宿
大浴場で一年生の交流。
「かーっ!何で宮下ばっかやねん!それに高宮とか!この未来のスラッガー三間ちゃんは⁉︎」
「ちゃん付けする気持ち悪さから敬遠されたんだろ」
寮にある大浴場にて。二日目の練習が終わったことで食事の後風呂に入っていた。入る時間は学年ごとに決まっていて、千紗姉を送り帰してから風呂に来ると、今日来たスカウトの多田さんの注目していた選手が自分じゃなかったことに騒いでいる三間の姿が。
正直、見苦しい。高宮も気持ち悪いってバッサリだし。
「スワロウズのチーム状況からしてスラッガーは要らないんじゃない?あそこ、ホームランバッター三人もいるし」
「歳やら怪我やらで出られなくなったらどうするんや」
「さすがにそれくらいの人材は確保してるだろ。そこまで無計画な球団は少ないだろ」
俺も身体を洗い終わって浴槽に入る。練習終わりの大きな風呂はいいな。家での風呂も良いけど、たまにはこういう大きな風呂も良いものだ。
「捕手事情は今のプロでは深刻だろ。ぶっちゃけあれだけポロポロされたら投げる側としてもやる気なくすぞ?バッテリーエラー多すぎてそれが結局防御率を下げてる原因なんだから。三塁まで行かれたら落ちるボール投げづらいからな。一回やってる相手なら尚更」
「あー。確かに。僕の贔屓も捕手の補強を急いでるっぽいし」
「ウチの贔屓もだ」
俺がプロの状況を話すと、千駄ヶ谷と仲島も同意する。
本当にポロポロやりすぎというか。バント処理とかでも一塁送球で悪送球やってピンチを招いたりとか。信用できない捕手だと投手もイライラが溜まってコントロールが乱れても仕方がないと思う。投手なんて俺が言うのもアレだけど、全員お山の大将みたいなものだし。
「ま、スワロウズの事情もあるってわかったからええわ。んで高宮。お前プロ行くんか?」
「わかんねーよ。まずはここでレギュラーになることからだろ。二年以上先のことなんてわかるか」
「なれるんだったらなりたいか?」
「まあ、子供の頃からの夢だしな」
三間の質問に答える高宮。今回多田さんが名刺を渡したのは俺と高宮だけだから、周りの一年も話を聞いているようだった。
俺もなれるならなりたい。父さんと同じ舞台に立ってみたい。
球団は、正直嫌だと思う球団以外ならどこでも良い。推しの球団は別にないし。スワロウズなら東京だし大丈夫だ。
姉妹の関係というか、実家が東京にあるからか関東のチームが良いなと思う程度だけど。最悪北海道でも諦めて入団するだろうなあ。
三姉妹が俺がプロになることを期待している。だから早い内にプロになる。それが恩返しになるなら一つの目標として頑張りたい。
「ウチの贔屓に三間とか欲しいけどなー」
「そうやろ?打てる奴は欲しいやろ?」
「というかファーストの補強で欲しい。打てなくても守れる奴が欲しい」
「希望ポジションはサード!ファーストはチーム事情で仕方がなくや!もっと打撃を買ってくれ!」
阿部の言葉に憤慨する三間。ファーストも難なくこなしているので、守備面で欲しいと思う奴もいるのか。
高宮のように捕手じゃなければ、複数ポジションやらされるなんてありそうだし。
「ウチの贔屓に長距離打者は欲しいからDHでも三間は欲しい」
「でもやっぱチーム状況次第だよなあ。ウチは野手よりも宮下が欲しい。投壊起こしすぎなんだよ……。外国人でも新人でも良いからまともな投手くれ」
「ウチは高宮だな。捕手が固定されてないから、守備がコロコロ変わりすぎて守るのも大変だろ」
スカウトが来たからか、プロの話が多くなる。プロは憧れだけあっていつもより皆の会話に熱が篭っている。
何で全員、俺と高宮、三間がプロに行くこと確定みたいに話してるんだ。いくら帝王だからって毎年プロに行くのは一人二人だ。三人も出た時は一回くらいしかない。
同じ高校から複数人なんて稀なケースだ。大学や社会人、独立リーグからもプロになるし、ドラフト指名権にも限りがある。育成枠を含めればなくはないかな、くらいの確率だろう。
「まあでも、一年の内からスカウトに目を掛けられるってすごい話だよね。帝王だからそういうこともあるかなって思ってたけど、実際に目にするとねえ。だから皆こうやって盛り上がってるんだろうし」
「気の早い話ではあるよな。公式戦に出たわけでもないのに」
「将来性を見込んで早めに声を掛けておくってこともあるんだろうけど。まずはベンチ入りなのにな」
千駄ヶ谷、仲島と現実的な話をする。この合宿終わりにベンチメンバーが発表されるが、二軍にいる俺たちが選ばれる可能性は低い。
だというのにプロだの何だのって。他人事だから盛り上がれるんだろうけど。
「秋大会で活躍して、とかならスカウトが来るのもわかるけど。宮下は世界大会のせいだろうな」
「自覚はしてる。それに帝王っていうブランドもあるだろ。OBにプロがめちゃくちゃいるからな」
「今年は葉山キャプテンと倉敷先輩が特に声を掛けられてるんだって?で、球団によっては中原先輩と真淵さん」
「真淵さんは高校ではプロ志望届出さないって今日言ってたぞ」
「マジ⁉︎」
スカウトが来ていたのでついでに世間話をしていたら真淵さんはそんなことを答えていた。別に隠すことじゃないって本人が言ってたし、言っていいだろ。
「大学行って、妹を兄妹推薦か何かで大学へ入れてやるんだって。帝王のエースなら大学もタダで行けるらしいし、兄妹推薦の上に妹さんも成績優秀なら大学がタダなんだとか。真淵さんの家は母子家庭だから母親と妹にそういう形で恩返ししたいって言ってたぞ」
「え。あの人良い人かよ」
「ただの天然エースだと思ってたわ……」
「高卒でプロ行くより良いのか?」
「妹さんの学費をタダにするにはそれしかないらしい。大学で鍛えてからプロでも遅くないって言ってた。それに目指してる大学も六大学の一つだし野球部としては問題ないんじゃないか?」
案外人生設計しっかりしていて驚いた。だからプロのスカウトから名刺を貰うたびに申し訳なくなるんだとか。
その人の人生だから、どういう道を進んでも良いと思う。後悔さえしなければ。
「帝王の野球部って大学の推薦とか、セレクションとか受かりやすいって聞くもんなあ。エースとなれば尚更か」
「春の甲子園出てるから、実績はそれだけで十分だろ。千紗姉が言ってたけど、甲子園に出るだけで推薦の数と質が桁違いになるらしい」
「よーし!俺らも行くぜ!甲子園!」
「豪華に五回連続で出てやろうぜ!そうすりゃ今後の人生安泰だろ!」
柊が五回とは言ってるけど、三軍のお前らは夏大会絶対出られないから可能性があるとしたらあと四回だぞ。それに春夏全部甲子園に出るつもりか。
出られたら最高だけど、そこまで簡単に行ける場所じゃない。
それが甲子園だ。
「甲子園出れば夏合宿はなくなるからな」
「ああ。予選敗退したら八月に合宿やるんだっけ?特殊だよなあ」
「新チームをじっくり育てるためだろ。それがあるから帝王って選抜の出場数結構多いんだってよ」
「先輩たちは夏合宿だけは回避しろって言ってたな。三年の先輩が一年の時地獄見たって」
「俺らがどうにかできるわけじゃねえからな……。四人の誰かがベンチに入ったらスタンドからマジで応援してやる」
帝王は甲子園に出られなかったらお盆期間に一週間、夏合宿を行う。これが猛暑の中マジで死ぬ目に遭うようなキツイ練習を課されるのだとか。
そして一週間虐め抜いた後には強豪校との練習試合を重い身体でやらされて、負けたらポール間ダッシュがあるというオマケ付き。
聞くだけでやりたくない内容だ。
そんな一年の交流をしながら、風呂を後にする。
この日も先輩たちの部屋にお呼ばれして、自販機で飲み物を買ってくるパシリをやらされたり、対戦格闘ゲームをやらされてボコボコにされたりした。パシリなんて始めての経験だったし、格闘ゲームもやったことがなかったから酷い目に遭った。
まあ、楽しかったから良いけど。
次も三日後に投稿します。
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