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3ー1ー4 春季合宿

合宿のお約束。

 こんな時間に学校の寮で、しかも同室にチームメイトがいるなんてすごい貴重な経験をしていると思う。夜ご飯を食べて大浴場に行って、洗濯をして与えられた部屋に戻ってくる。

 シニアの時の遠征やUー15以来だな。

 同室の仲島も通い組だからか、話が合う。


「へえ。仲島って埼玉のシニアに居たんだ?」


「ああ。埼玉の奥に住んでたんだけど、親父の転勤で東京に来ることになってな。通い組なのに宮下は面識なかったからおかしいと思っただろ?」


「いや?柴先輩のように軟式出身なら学校が同じでもないと把握してないからな。東京は学校数が多いし、ボーイズもシニアも多いから全然把握できてない。都大会とか関東とかで顔合わせてればわかるんだけどな。高宮とか」


「あー……。そんなもんか」


 仲島は納得したように頷く。首都だけあって人口が多く、それに比例して学生の数も多い。野球人口も多く、部活の軟式にシニア、ボーイズ、そしてKボールや準硬式などかなり種類が多くそんな全ての野球選手を把握していたりしない。

 涼介のように規格外だったり、話題性があれば覚えているんだけど。


 仲島はこれまでずっとショート一本でやってきたようで、高校もずっとショートで拘りを持ってやっていくようだ。コーチや監督に言われない限りコンバートするつもりがないらしい。

 入部して直後の紅白戦でショートを守ってもらって、正直安定した守備を見せてくれたからポジションについては文句はない。あとは打撃がどう育ってくれるかだろう。


「しっかし初日から飛ばすよな。ベーラン四十周は毎日やるんだってよ?」


「最終日だけは延々とノックだそうだけどな」


「合宿終わったら足パンパンになってそー……。投手陣は他にも走ってきたんだろ?」


「前々から走ってるから別に」


「マジ?」


 そんな感じで話していると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。誰だろうと出てみると、来たのは中原先輩だった。


「あれ、中原先輩。どうかしたんですか?」


「合宿名物の、新入生と交流会だ。三年の部屋でゲームやってるからそこで一時間程度相手してやってくれ。特にお前らは通いであまり三年生と絡みがないだろう?引退前にちょっとした思い出作りだ」


 そう言われたら断れない。財布と携帯電話だけ持って中原先輩の後についていく。

 俺たちの部屋は一階だったけど、案内された部屋は三階だった。部屋に近付けば騒がしい声が聞こえてくる。


「ここ、俺の部屋なんだ」


 中原先輩がそう言いながら扉を開ける。中は俺たちの部屋と変わらない広さで三人部屋のようだけど、部屋の中には八人ほどいた。同学年のピッチャーの柊もいるな。唯一の一年生だからこの部屋を使っているんだろう。

 結構ぎゅうぎゅうだ。それなりに広めの部屋なんだけどな。


「お、中原!連れて来たか。宮下と、仲島だったか?」


「はい!仲島聖と言います。よろしくお願いします」


「おう。通い組は珍しいからな。座れ座れ」


「間宮、俺たちの部屋でよくそうも我が物顔ができるな……」


 先輩たちはテレビでゲームをやっていた。なんだろう、パーティーゲームだろうか。いや、この白い筐体は……。


「ま、まさかWI○ですか?最新ハード持ってる寮生って……」


「宮下ァ。最新ハードが珍しいか?」


「そりゃあ持ってないので」


「お前んち金持ちなんじゃねえの?」


「金があるからと、最新ハードのゲーム機持ってるかは別の話ですよ」


 間宮先輩の誤解は解いておかないと。確かに我が家は一般家庭よりもお金があるだろう。母さんはアイドルで事務所社長。父さんもプロ野球選手としての年棒と遺産があるから生活には困らない。

 けど、だからってゲームハードがいくつもあるかと言われたら違う。ゲームをやるのは千紗姉と俺くらいだし、やってたのはもっぱら野球ゲーム。他の三人はゲームをあまりしないので最新ハードが出たからって買うことはない。


 パーティーゲームとかってやったことないんだよな。誰もやりたがらないから買ったことがない。

 俺は最新ハードを野球部員が寮に持ち込んでいることに驚いただけだ。お金のかかる生活をしているはずなのに高価な据え置き機を持っていることが信じられなかっただけ。ゲームを持ち込んでいるとは聞いてたからゲーム機は予想できても、最新ハードは無理だ。


「宮下と仲島はゲームやるのか?」


「野球ゲームはそれなりに」


「俺は全般的にやりますよ。モンスターを狩る奴とか好きです」


「そうか。二人とも好きにゲームしてもいいけど、大声で叫ぶなよ?学校側に怒られる」


 中原先輩は案内を終えたからか、部屋の隅で荷物の整理をし始める。この交流の場で積極的に何かをするわけではないらしい。レギュラーキャッチャーがそれでいいんだろうか。

 俺たちは途中から来たために、ゲームには参加せず見ながら雑談をする。

 他の人たちはそれぞれのミニゲームに合わせてコントローラーを操作しているけど、全員が最新ハードのコントローラーを使っていない。一つ前のハードのコントローラーも使えるので、三人は前の世代のコントローラーを使っている。


「宮下と仲島。どーよ、合宿は?」


「楽しいですね。皆さんとこうやって野球以外でワイワイやるのなら、寮生活もいいなって思います」


「俺も修学旅行とか思い出して楽しいです。練習はハードですけど」


「俺らだって毎日ゲームやってるわけでもねえしよ。ずっとやってたら飽きるしな。それに最後の方は疲れてさっさと寝たくなる。だから遊ぶのも最初の内だけだ。合宿中は夜中の練習も禁止されてるし、この時期はセンセーたちもあまり宿題出さねえ。遊ぶチャンスってわけだ」


「そうなんですか?」


 間宮先輩の話を聞くと、どうやら学校側が部活側に配慮して合宿をやっている部活があればその時期は基本宿題を出さないらしい。完全に出さないわけではないが少ないとのこと。だいたいどこの部活も同じ時期に学校での合宿をやるので、そう長い期間じゃないらしい。

 部活に力を入れている私立だからこそできることらしい。公立の学校じゃ無理な措置だとか。


「合宿が終わったら、ベンチメンバーの発表でそこからは予選一直線だ。三年は引退試合を除いて選手としては引退も同然だし、この合宿が最後の競い合いの場にもなる。三年はどいつもこいつも必死だ。部活に必死になるのはここが最後になる。俺らの姿をその目に焼き付けておけよ。帝王の野球部はいつもそうして来た。ベンチに入ろうが入らまいが、こいつらの必死さを受け継いでこれから戦っていくんだからな。……重いぞ?」


「間宮、脅すなよ。まあでも、俺たちは皆先輩たちのそういう姿を見てきた。先輩たちの勇姿を試合中のふとした時に思い出す。で、声援を受けてアルプスにいる人たちに恥じないプレーをしようと思う。一年に一回しかない機会だからな。よく見ておいてほしい」


 現レギュラーの間宮先輩と中原先輩の言葉。実際に試合に出ていて思うことがあったから伝えてくれたのだろう。俺も仲島も柊もしっかりと頷いた。


「合宿は年三回あるけど、春はやっぱり特別だよ。三年間の集大成を監督たちに見せる場だから。けど、だからって俺たち二年が食い込むための枠を譲るわけでもない」


「弱肉強食、みたいですね。村瀬先輩」


「有名なシニアとかにいればそう珍しい話でもない。実力がある奴が年齢関係なく選ばれるだけだ」


 二年生で二塁手の村瀬先輩が、二年生としての心情も語ってくれる。去年そういう姿を見ても二十というベンチの枠に入り込もうと牙を磨く二年生たち。

 こういう意識が全学年に共有されているから名門と呼ばれて、強くいられる。強さの秘訣、受け継がれる意志、みたいなもの。


「真面目な話はこんなところだな。ファンシーなパーティーゲームしながらする話でもねえよ」


「そういうものですか?」


「……宮下ァ。お前、真淵と同じ天然(タイプ)かよ……」


「はい?」


「自覚なしか。投手って人種は。やめやめ!んじゃあこういう泊まりの時の常套句、恋愛話やるか!」


 間宮先輩がよくわからない話をしていたが、一気に話題が変わる。貴重な話だったからありがたく聞いてたのに。

 でも恋愛話かあ。高校生らしい、というか学生らしいんだろうか。


「この中で彼女いる奴いんのか?」


「ちょ、間宮先輩!そんな精神攻撃までしてゲームに勝ちたいんですか⁉︎最下位だからってやっていいことと悪いことありますよっ!」


「んな理由で聞いてるわけねえだろ!帝王野球部の七不思議でよ。部活やってる時って彼女できた奴がホントいねーんだよな。先輩らも不思議に思っててよ」


「え、そうなんですか⁉︎てっきりレギュラーの先輩たちなら彼女いるもんだと思ってたのに!」


 柊が聞いていないというように大声を上げていた。なんだろうな。レギュラーの人ならモテそうとか、彼女が居そうとかって思うの。

 それが高校生だろうと夢を見ているからか。ひとまず柊に質問してみる。


「柊。お前のシニアにいた尊敬できる先輩とかって彼女いたか?」


「いや、いねーけど……。シニアって部活とは違うから、同級生とかあまり認知してないじゃん?シニアでレギュラーですって言うのと、部活でレギュラーですって言うのは違くね?」


「……そういうもんか?」


 よくわからない話だ。所属する組織が学外か学内かなんてことで、モテるかどうかが違うなんて。

 でも言われると、同級生も部活のホープとかサッカー部のキャプテンとか女の子に人気だったかもしれない。

 俺はモテなかったから、柊の言うことにも一理あるかもしれない。シニアの連中もそんなにモテなかったとか言ってた。

 仲島が七不思議を疑問に思ったのか、質問を投げかける。


「部活をしている時は野球に専念したいから告白を断るとかではなくて?」


「告白されることがほぼないって言うか。中原、そこら辺どーよ?」


「真淵とか葉山とか、告白されてるぞ?」


「は?あの野郎ども、ブッコロ」


「やっぱりエースやキャプテンって違うな……」


 柊の幻想は守られたようだ。

 まあ、クリーンナップやエースは野球の花形だから、モテるのもわかる気がする。

 俺はそんなことなかったわけだけど。


「じゃあその二人って彼女いるんですか?」


「いや?葉山は好きな人がいるからって断ったらしい。真淵はタイプじゃなかったとかで断ってた」


「ホーン?あいつら弄るネタが手に入ったじゃねえか。中原ナイスゥ」


 間宮先輩が悪い笑みを浮かべる。いや、これ弄れる内容なんだろうか。

 どっちも二人ともまともな理由で断ってると思うんだけど。


「あいつらは明日問い質すとして。今回の議題はお前だ、宮下」


「……俺ですか?」


「Uー15でテレビ放送された、優勝の立役者でMVPだろ?俺らだって知ってたし、知名度はすげえだろ。モテなかったとは思えねー」


「それがですね。世界大会の後も別に学校で告白されたとかはありませんでしたよ?彼女もいたことありませんし」


「マジで⁉︎」


 俺の言葉が信じられなかったのか、ゲームそっちのけで俺の方へ顔ごと向けてくる。あ、テレビから目を逸らしていいんだろうか。

 ミニゲーム中だったからか、全員が回収するアイテムを落として一気に順位が団子になった。あーあもったいない。せっかく間宮先輩一位だったのに。


「お前でモテないって、マジ?」


「大マジですよ。むしろ先輩方はあれだけ野球部の周りで応援してくれる女子がいるのに、モテないんですか?」


「アレは野球部が好きで個人が好きじゃなかったり、アイドルが好きな女子の心境と同じだろ。もしお目当の奴がいるなら告白してんじゃね?」


「そういうのが真淵や葉山に突っ込んでるんだろ?」


 うーん。野球部と女子で認識の差があるのか?千紗姉の言葉を聞くとまともな女子じゃないなって思うし、正直言動が怪しく見える。

 なんか皆女子がまともだと思ってるけど、ウチの女子生徒って普通じゃないよなぁ。それにアレだけキャーキャー言われててモテないって言うのは告白されないからだろうか。

 でも引退した後に彼女ができる野球部も多いらしいし。

 うーん、わからん。


「ま、宮下がモテないのはライバルが減っていいか。新しく入ったマネージャーの話でもするか?どっちも可愛かったから今年はアタリだぜ」


「今年も、じゃないか?今いるマネージャーは綺麗どころが揃ってるし」


「確かに。でも全員彼氏いないっぽいな。木下ちゃんは今日料理上手ってわかったけど、福圓ちゃんはどうなんだ?」


「さあ?明日になればわかるんじゃないっすか?」


「一年ども、何か知らねーわけ?趣味とか」


「マネージャーって言ってもほぼ話さないから無理っすよぉ。それに俺ら三軍だから練習でもあまり接点ないし」


 柊が言うように、マネージャーの仕事のほとんどが裏方か、一軍と二軍の練習の手伝いになる。走ってばかりの三軍の練習は同じ三軍の三年生が担当するので、実のところ絡みがない。


「ホーン?じゃあ宮下は?お前なら同学年だしちょっとは関わってるんだろ?」


「ダメっすよ、間宮先輩。こいつ、シスコンで周りの女子興味ないっすもん」


「そうそう。お姉さんたちと妹さんのことばかりで、他の女の子が目に入ってるかどうか」


 柊と仲島にそんなことを言われる。いや、別に全部が全部あの三姉妹のことで埋め尽くされてるわけじゃないし、福圓さんとは今日話した。木下さんは同じクラスだからちょっとは話す。

 柊と仲島よりは話してると思うけどな。


「あー、宮下姉の方な。アイツもこいつのことばっかで夏とか部活休んでたし」


「わかっちゃいたけど、千紗さんもブラコンなのか……」


「至って平凡な家族愛だ。家族の中で唯一の男だし、弟だから気にしてるだけだろ」


「えー?そうかー?」


 そんな感じで話は進んでいく。パーティーゲームも進んで夜は更けて、十時過ぎまで雑談をした後に解散になった。

 わかっていたことだが、枕が変わっても平然と寝られるようだ。


次も三日後に投稿します。


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