2ー4ー2 反省会
反省会の続き。
「バッティングに移るか。正直宮下からヒット打った二人に聞きたい。あのストレート、なんだ?ただ伸びるだけじゃないんだろ?」
「回転がめちゃくちゃ多い。そのせいで芯から外れてボールは飛ばないし、目測を誤って打ち損じる。んで、コントロールも良くてあのチェンジアップだろー。ありゃあ世界に通用したのも納得だよ。変化球投げる時もフォーム変わんねえし。それにストレートだけで二種類あるっぽいし」
「ストレートに種類?ツーシームとかムービングってことか?そんな変化感じなかったが」
大田原の言葉に成井が疑問で返す。成井は打席に入っている限り、そんな小さく変化するストレートのようなボールは一球もなかったと記憶していた。
四番の大田原にだけ投げたんだろうと全員が思っていたが、神田が否定する。
「ストレートが二つあるんだ。それを明確に投げ分けてる。速度が出てる方は回転が少ないけど、それこそ速度があるし回転も白石のストレートと遜色ない。アレが宮下にとってのストレートなら、俺らにポンポン投げてたのはストレートじゃなくて、『まっすぐ』っていう変化球だ」
「ハァ?まっすぐってことは、ストレートだろ?」
「ストレートはそもそも変化球なんだよ。空気抵抗や腕の振りで基本はシュート回転するし、若干は沈む。速度が速い方はシュート回転もせずに回転も良くてまっすぐ来てたが、やっぱりストレートだ。沈んでた。受けてきた俺が保証する」
「じゃあ、俺たちが打てなかった『まっすぐ』って何さ?」
神田の説明に、直江が急かす。まっすぐという変化球なんて初めて聞いたのだ。それを相手が使ってくるのなら、いつか再戦するのなら。その秘密を知っておかなくてはならない。
「バックスピンはわかるだろ?白石のストレートも宮下のストレートも、速球派のストレートはまずバックスピンだ。これが一番速いボールを投げられる回転だし、これは何もおかしくはない。きちんと投げられるのは良い投手の証だ」
「まあ、それくらいは。んで、『まっすぐ』は?」
「回転が垂直なんだ。バックスピンですら綺麗な垂直回転じゃなく、若干斜めってる。人体の投げ方的に垂直で腕を振るなんてほぼ不可能だし、そもそも宮下はスリークォーターだ。バックスピンは一応、垂直に近い回転なんだけど、宮下の『まっすぐ』は本当に垂直に回転する。だからボールが俺たちの推測以上に沈まない。伸びていると錯覚するし、目測も誤る。実際普通のストレートに慣れている奴ほど打ち上げる。バットにも当たらないだろ」
神田が黒板に普通のストレートと宮下の「まっすぐ」の図解を書く。一般的なストレートは投手が放つ腕から山なりにキャッチャーへ届くのに対して、宮下の「まっすぐ」はストレートより沈まずにキャッチャーミットへ届く図が書かれていた。
「プロにも何人かいる、天性のストレートだ。こればっかりは努力すれば投げられるってわけでもない。宮下のフォームも至って普通のものだし、どうすれば垂直になるのか解明もされていない。手首の立て方なのか、指の弾き方なのか、握りなのか。何にもわかってない超希少なストレート。それが宮下の『まっすぐ』だ。しかもあいつの場合意図してバックスピンと投げ分けている。速いくせに沈むストレートと、遅いくせに沈まないストレート。しかもシュート回転もしてないから余計に俺たちは困惑する。ぶっちゃけ宮下はストレートだけで通用するピッチャーだ」
神田の総評に大田原は頷き、全員が息を呑む。あまり野球に詳しくないマネージャーの中条でさえその説明でどれだけの脅威か把握する。
慣れている人間こそ打てないストレート。しかもプロでも希少なストレートを高校一年生、自分たちと同い年が使ってくるのだ。
更に続く神田のセリフで宮下の脅威度は上がっていく。
「だからってストレートを捨てられるかって言われたら違うだろ。スライダーとシンカーも良く変化したし、速度もある。遅い方ですら130前半は出てるんだから、高校生でも速い方だ。それにストレート主体の本格派だしな。あのストレートを打てるようにならないと話にならねえ。ただあのストレートは再現できないだろうから、最低でもあれより10kmは速い球を打てるようにならないとダメだろうな」
あんなストレートを日本でどれだけ投げられるか不明だ。アレはまさしく天性のストレート。それの訓練なんてできないだろう。
だからって何もしないわけにはいかない。球速に慣れることでまずは突破口とするべきだ。
「中条。宮下の最高球速は?」
「七回の大田原君に対しての二球目。143km/hよ」
「143……。高一のストレートじゃないだろ」
「体感だと150オーバーだな。それだけ伸びてる。150打てるようになれば茨城のどのピッチャーだって打ち崩せるだろ」
「今度からバッティング練習、3m前から投げてもらうか?」
「それも手だ。速い球に目が慣れるだけでも変わってくるだろうし」
直江もやる気満々だった。良い傾向だ。一番打者として全く貢献できなかったからこそだろう。実際高校生にとっては140が一つの壁であり、その先の150に慣れれば他の投手なんて簡単に打ち崩せるだろう。そんな剛腕投手、全国を見渡しても数人しかいないだろうから。
「しっかしストレートを攻略しても変化球が三種類あるんだろ?全部バランス良く投げられたらどうするんだ?」
「今年の東東京大会を見てればどんな結果になるかわかるだろ。田中さんも言ってたが、毎年何人かは一軍になるって。宮下は確実にベンチ入りして投げるぞ。そんな投手をどう打ち崩すか研究すれば良い」
「今の時点で他の学校だったら即エースだろ?ベンチには入るよなあ、帝王とはいえ」
「確実にな。俺たちは打てるように速度に慣れることとイメージすること。できることって言ったらそんなもんだろ」
「あーっ!今すぐ打ちてえー!」
「明日まで我慢しろって。大田原には打ってもらわないと困るから、その意欲は嬉しいけどよ」
ミーティングを終えて、明日から何をやりたいか計画を立ててくることを取り決めてその日は解散。誰も彼もが家に帰ったらバットを振るか、何かしらをしようと決意する。
「あ、白石。今日はノースローだからな。家でも投げるなよ」
「わかってる。シャドーだけにする」
「ならよし」
目を離したら小池に近付こうとしてひたすら投げるため、神田は口酸っぱく注意する。釘を刺しておかないと、大会前に故障しましたじゃチームは終わりだ。
小池も良い投手だとは誰もが認めている。常総に推薦で入るような投手だ。だが、神田からすればそこまで思い入れる奴かと疑問にもなる。神田としては白石の方が上だと思っているために。身内贔屓もあるだろうが、神田は小池よりも白石の球質が好きだった。その辺りは言っても聞かないから、投げすぎしか注意できなかったが。
まだ出会って一ヶ月ちょっとだ。ある程度の信頼関係はできていても、何でも言い合えて通じ合えるような仲にまではなっていなかった。
投げるのが好きなことはいい。そういう奴には野手がついていく。チームが纏まる。守ってやりたくなり、点を入れてやりたいって心の底から思える。だからこのチームは、投げることが大好きで目標がある白石をエースと認めている。
(白石。お前は過去の一番を追いかけてるけど。もう立派な、ウチのエースなんだぜ)
神田はそう思うが、それを口に出さないことが欠点となりつつあった。
どうしたって以心伝心とはいかず、言葉に出さなければ伝わらないこともある。
特に気持ちは。
女子が抱く好意などは特に鈍い神田は、自身も気持ちを伝えるのが苦手で。
色々と鈍いのも、そういうところの影響かもしれなかった。
次も三日後に投稿します。
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