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2ー4ー1 反省会

ひたちなかの反省会。

 次の日、月曜日。月曜日はひたちなか野球部は部活の休養日で、ミーティングを軽くやるだけの日だった。学校側で月曜日は部活動が禁止になっているからだ。ミーティングも一時間しかできない。

 帰りのHRが終わってすぐ集まって、昨日の招待試合について話し合うことになった。監督も部長も来られず、生徒の自主的な話し合いという形にしないと学校側に怒られてしまうためだ。

 進行はもちろんキャプテンの成井がする。


「んじゃ早速昨日の招待試合について話していくぞ。練習法とかはまた練習の日に実際やってみて確かめるってことで、今日は試合について振り返ろう。まずは一試合目の上中里との試合から」


「俺と大田原じゃどう頑張っても一試合やったら三点、もしくはそれ以上取られるってわかったのは収穫じゃね?あいつら前の試合でかなり落ち込んでたのに、それでも三点取られたじゃん?」


「俺も楠木も本職じゃないからしょうがなくね?俺なんてしょうがなくやってるんだから勘弁してくれよー」


 キャッチャーとしての神田から見ても、大田原は数合わせだ。上中里との試合は楠木が七回一失点。大田原が二回を二失点。エラー絡みとはいえ、これくらいは本番でも想定しておかないといけない基準にはなった。


「大田原の打撃の時間削ってまでピッチングやらせるわけにはいかないからな。変化球覚えんのも大変だろ?」


「神田がさー。変なカーブなら投げんなって言うんだからストレートしか投げねーよ」


「あんな真ん中にしか来ないカーブなんてサイン出せるか。大して曲がりもしねーし」


「球速とコントロールがあるから暫定的に大田原に投げてもらってるけど、ショートっていう守備の要だし、四番だし。あんま動かしたくねーよな」


「チーム事情で投げんのは良いけどさー。できたらバッティングに集中したいんだよね。他に誰かピッチャーやらない?」


 大田原がそう問いかけるが、誰も手を挙げない。そもそも白石っていう絶対エースがいて、二枚目の楠木がいる時点で新チームとしては破格なのだ。確かにもう一人欲しいが、無理は言えない状況だ。


「投手事情は監督も交えてもう一回だな。他に上中里との試合で何か思ったことは?」


「あの程度のピッチャーに八点しか取れなかったのは問題だと思う。いくら大田原がほぼ全打席勝負を避けられたとしても。今後もそういうことはあるだろうから」


 そう言ったのは直江。直江もその試合では結構打っていたが、あまり打線は繋がらなかった。特に下位打線はほぼ自動アウトなのが辛い。

 得点力が上位打線に集中してるし、できるだけ塁を埋めて大田原と成井で返すっていうオーダーにせざるを得ないから仕方がない部分もあるのだが。

 その証拠に、五番の成井はその試合で一安打だけだったので苦い顔をしていた。


「うぐ。悪い、俺がもっと打ってれば」


「成井だけの問題じゃねーよ。それこそ俺たち全員だ。白石がどれだけ抑えても、大田原が敬遠されて一点も取れなかったら負ける。新設校ってそういうことだぜ?相手は三年までいる。経験値は雲泥の差があるだろうし、新設校だって四番となれば警戒されて当たり前だ。大田原の知名度は茨城だったらやべーからな。なら、大田原が勝負されなくても点取らなくちゃいけねえ。そうじゃなきゃ、常総には勝てない」


「常総なあ。そりゃあ目指すなら甲子園って言いたいけど、常総に勝てるかぁ?」


 そんな弱気なことを野原が言うが、これには全員鋭い目線を向ける。このチームの方針は打倒常総。甲子園出場を目標にしている。

 大田原と白石は十分それを目指せる実力があるし、それを目標にここを選んできた奴も多い。神田や成井、直江もその一人だ。そんな中で常総に勝てるかなんて考えてる時点で間違ってる。常総に勝つために何をすべきか。それを考えるためのミーティングなのだから。


「俺は、勝ちたい。小池と投げ合って、みんなで勝ちたい」


「エースがこう言ってるんだ。勝てるように話し合おうって場なんだから、そう弱気になんじゃねえよ」


「わかったよ。悪い」


 野原はそう謝るけど、どこか真剣味がない。そんな風だと楠木をライトで起用することになる。どこでも守れる、投げられる楠木にはできたらベンチで準備していて欲しい。

 けど、野原がダメだったら楠木レギュラーもあり得る話だ。もし早い回で白石が崩れたら野原を下げて白石をライトに回すしかない。

 エースをベンチに下げて、その後後続が打たれたら試合が崩壊する。その辺りわかっているのだろうか。


「話は戻すけど、俺はとにかく打ちたい。打って得点に絡めるようにしたい。宮下のボールをヒットにできなかったのはやっぱり力不足だったからだ」


「あー、帝王の話になってるけど、上中里のことはいいか?マネージャーからも何かあったりしない?」


「上中里はいいんじゃないかな。サインミスとかがあったわけじゃないから、エラーなくして打撃増やしてってことは間違ってないと思う」


「あの試合よりも帝王の試合の方が収穫多かったでしょう?なら時間も有意義な方に割くべきだわ」


 飯原と中条もそう言って次の試合、帝王へ話を移す。

 帝王相手に関しては完敗としか言いようがない。試合内容もそうだが、相手の実力も野球の上手さも味わった形だ。

 学べることはたくさんあった。あれで二軍だと言うのだから、末恐ろしい。


「じゃあ帝王との試合の話な。まずバッテリー。七点取られたわけだけど、なんかある?」


「変化球増やそうって話になった」


「変化球ぅ?白石、あと二ヶ月切ってるのに、覚えられるのか?」


「宮下はあのシンカー二ヶ月で覚えたって。それに今も練習してるから、間に合わせる」


 袴田に聞かれて、白石は机の下にしまっていた右手を見せる。ボールを人差し指と中指で挟んでいた。今はその感覚に慣れるために深く握っているが、投げる時は浅く挟ませるつもりだ。


「フォーク?」


「正確にはスプリット。握力も十分あるから、あとは感覚掴むだけ」


「神田、どうにかなんのか?」


「するんだよ。これが完成してエラーをなくせば、少ない点で勝てる。……そうなんないようにコールドできたらコールドするくらい点取ってほしいけど」


「打撃は要課題ってことで。反省点は?」


 バッテリーとしての反省点。新変化球は今後の課題であって、試合内容の振り返りじゃない。


「投球内容は全く悪くなかったと思う。リードで容易にストライク取りにいったのが問題だな。あのレベルの相手だと、白石レベルでもゾーンで勝負を続けたら打たれることがわかったのは収穫だ。高校最高峰の野球レベルをこの時期に教えてくれた監督には感謝してる。まだまだ甘かったって痛感した」


「打球も速かったし、全員がしっかり振り抜いてきてたもんな。中途半端なスイングなんてしてなかった。意識の差ってやつだな。その辺りのケースバッティングやメンタルも練習に取り入れられそうかも」


 梅木の言葉に頷く。内野は本当にいい経験になったと思う。ノックじゃ感じられない緊張感ある守備になったんだから。


「だな。二軍なのにアピールしつつ、この場面ではこういうことが必要だってわかったら三振しようが凡打になろうが何かしらやってくる。あれは俺らの打撃にも活かせるぜ」


 好きに打ってきたのは一巡目だけだ。あとはしっかり内野の間を抜こうとしたり、進塁打や犠牲フライを狙って打ってた。その辺りは帰りのバスで飯原に伝えてメモしてもらったから確認はしやすかった。


「なんつーかな。野球IQがすげえ高いよ、あいつら。そんで、アレが全国レベルだ。アレくらい徹底してくるのが本当の名門。一軍は全部のレベルがもっと高かっただろうし」


「じゃあ次抑えるためにはどうすればいい?」


「今すぐは無理。チームとしての経験が足りなすぎ。白石だってもっとレベル上げてもらわないと困るし、このチームとしての信頼とかそういうのがないと何回やったって負けるよ。バッテリーだけで抑えらんねえよ、あんなの。抑えるならプロのエース引っ張ってこねーと無理」


「だよな。チームスポーツだ。全員で守っていこう。エラーも極力減らさないと勝てるもんも勝てない。やること山積みだな」


 成井がそう言うが、それは当たり前。三年なんてあっという間だ。

 それに絶対的エースがいたって勝てるとは限らない。それが野球なんだからバッテリーもできるだけ頑張るとしか言えない。解決策として新変化球も覚えてもらうわけで、神田もリードを洗い直すのだから。


「その守備について。なんか気付いたことあったか?」


「帝王は打者ごとに守備位置変えてたよ。って言ってもそこまで極端なもんじゃなくて、俺たちの体型を見て外野の奥まで飛ばなそうだから前に出ようとか、クリーンナップだから内野はちょっと下がろうとか。ちょくちょく動いてたからなんだろうって思ってて、最終回に気付いた」


「でもピッチングに合わせた守備じゃなかったよな。打たせたいコースがあったってよりは、バッテリーはバッテリーで打ち取ろうって考えだったと思うぞ。にしたって三振十六は多すぎだけど」


 袴田の意見に合わせて神田もスコアブックを見ながら言う。全員が三振をしているが、それにしたってバットにボールが当たっていない。ヒット二本、四球一つ、三振十六、無失点。

 これだけで化け物だとわかるが、その上ヒットも三本打っている。まさしくチームの柱だ。


「打撃は残しておくとして。神田、キャッチャーとして打たせたい方向とかってあんの?」


「そりゃあ進塁打よりはゲッツー狙える場所に打たせようとかあるだろ。つっても、それができるコントロールがあって、守備も任せられて条件が合致したら、だけど。アウトコース一辺倒だったら大田原でも打つだろうから極力やりたい手じゃない。けどインコースを撒き餌にしてアウトコースで攻めるとかはやるぞ」


「キャッチャーってそこまで考えてんの?」


「当たり前だろ。バカじゃできねーよ」


 そこまでできるチームがどれだけあるかわからないが、帝王はそこまでやってる。それだけの投手がいるし、守備も一級品。

 アウトを取ることに貪欲なチームなら積極的にやるだろう。


「一々内野にもサイン出して、変化球で引っかけさせるからよろしくとかって指示出すか?あの暑い場所に拘束される時間も増えるし、覚えてもらうサインも増えるし、強豪校ならサインの解読とかしてくるぞ?」


「そこまでは、いいんじゃないか?やるチームもあるんだろうけど」


「そんな応用よりまずは基礎だからな。それこそそんな連携をやりたいんならオフにでもやればいい」


「他に守備で気付いたことある奴いるか?……んじゃあ走塁?」


 誰も手を挙げなかったので走塁に移る。とはいえそこまで注意深く見ていた奴がいるか、という話もあるが。


「足速い奴は速かったけど、特筆することあったか?」


「リードも普通だったと思う」


「走塁なんて気付きにくいし、守備に集中しててそこまで気が回らないよな」


「次の塁へ行くって意識が高いのはわかったけど。浅いライトフライで三塁にタッチアップされただろ」


「どこに飛んだら進めそうだって把握されてたからな。迷いもなく走るし」


「状況判断速かった。けどあれこそ経験を積まないと無理だと思う」


 走塁はそんなところだった。ビデオを見返してもないし、そんな時間もなかったから仕方がないだろう。中条がデータを落としてくれたが、このミーティングの時間に見る余裕はなかった。


次も三日後に投稿します。


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