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2−2 クリスマス会

 十二月二十三日。終業式も終わって野球部は冬合宿に入る。他の部活もそうだが冬休みに入った瞬間年末まで部活漬けになる。俺も朝にキャリーケースを持って寮に来て、春と一緒で仲島と同室だった。数日分の着替えなどを入れてすぐに朝練に移る。

 もうすっかり朝は暗く、夜が来るのも早い。そして寒い。東北地方や北海道と比べれば東京の冬はマシなんだろうけど、それでも寒く感じる。


 オフシーズンにやれることはとにかく体力作りだ。変化球の開発などもしたいがここは追い込みの季節。とにかく走って筋トレをして、という形になる。

 準備体操の後はチームごとに分かれる。バッテリー組と、野手を三チームに分けて計四チームで行動をする。A・Bグラウンドとトレーニング機材室と室内練習場と外回りをグルグルと巡る。そして場所ごと、チームごとにマネージャーが必ず付く。


 練習内容としてはA・Bグラウンドでは打撃練習と守備練習を。トレーニング機材室ではジムとかも仰天するほどに機材が揃っている豪華な場所だ。ただしこのトレーニング機材室は他の部活動の人も使うために部活動ごとに使用時間が決められている。

 グループで行ける人が限られているので行ける人はレアだ。一応ずっと部屋自体は空いているので合宿期間じゃなければいつでも行けた。ここに篭っている部活動の人もいる。野球部の一年生はまだ成長期ということで使用を推奨されていなかったが、十一月に機材室の使い方を教わって一年生も使うようになった。


 マシントレーニングはやりすぎると身長が伸びなくなったり、やりすぎると返って筋肉がつかなくなってしまうので適量を見極めなければならない。俺たちがやるメニューは全部監督やコーチが決めているので細胞を壊さないレベルに納まっている。

 まずバッテリー組はBグラウンドでポール間ノックをやることになる。ライトからレフトへ、もしくは逆から走ってその間にノックとしてボールが打たれて捕球する。外野手として守備をするのではなく走りながら捕球することと走ることがメインだ。


 捕れなかったら捕れないでしっかり走ることが大事だ。三人一組で走って宇都美コーチが打球を打ち、三人の誰かの中で一番打球に近い人が捕球する。

 これを何十本も行う。身体も動かすし、短い間隔で走るので全身運動かつ走り込みと守備の練習になる。休めるのは他の人が走っている時だけだ。それ以外ではとにかく走る。

 アメリカンノック、とも呼ばれる練習だ。キャッチャー陣はキャッチャーミットで受けているためにかなり捕りづらいように見えた。ピッチャー陣は普通のグラブなのでフライやゴロを捕球するのは難しくなかったためにキャッチャー陣から羨ましがられた。


 アメリカンノックが終わると、ブルペンと室内練習場へ別れてピッチングを行う。投手の方が人数が多いので待ち時間があるが、その待っている間はシャドーピッチングをしたりチューブを引くことで時間を潰した。

 そしてこの冬合宿で、俺は特別待遇だったりする。

 俺のパートナーは佐々木で固定だからだ。


「よし、智紀。やろう」


「ああ。メインはジャイロと高速系で良いな?」


「それで頼む」


 高宮は現状レギュラーキャッチャーの第一候補なので全員の投手と組む必要がある。だが俺のボールをしっかりと受けられるのが現状高宮と佐々木しかいないのでキャッチャーはこの二人で固定。その上でまだ佐々木の捕球は難があるのでこの冬合宿は徹底して佐々木を鍛えようという思惑が指導陣にあった。

 そのためこの冬合宿はブルペンに入ると佐々木にしか投げない。二月までは基本的に身体作りをしてストレートの改良や新変化球は寒さが落ち着いてからだ。


 佐々木に対してジャイロを投げていく。特に高めが伸びて捕球しづらいとは聞く。でも捕れるようになってくれないとパスボールとかワイルドピッチになって失点が増えてしまう。高宮しかキャッチャーできないという状況はまずいので佐々木のレベルを上げなければならない。

 高宮が怪我・病気にならなければひとまずは大丈夫だが、何があるかわからない。そのために佐々木を最低限のレベルまでは上げたい。


 とはいえ、最近ずっと佐々木と組んでいるためにジャイロをかなり捕球できるようになっていた。

 投げ込みが終わるとお昼の時間になってお昼を食べて、午後からは打撃練習とバント練習。打撃練習が終われば外周で走っていき、夕方になるとBグラウンドに全員で集まってベースランか二人一組の手押し車などのトレーニングをする。

 練習が終われば食堂でご飯を食べて洗濯機でユニフォームを洗い、洗濯機を回している間に風呂に入る。寮生はこれがいつものルーティーンだが、俺のような通い組はやっぱり新鮮だ。


「明日はクリスマス会かー。智紀、お姉さんからどんな感じか聞いとらんか?」


「ケーキとかチキンとかがあって、後はカラオケやるらしいぞ。練習も早めに終わって遊ぶらしい」


「カラオケか。全然やってないわ」


「僕もないなー。智紀君ってお姉さんとカラオケ行ったりしたの?アイドルでしょ?」


「喜沙姉と?そういや行ってないな。カラオケなんて小学校の時に行ったくらいだ。母さんがめちゃくちゃ上手くてな」


「元アイドルなんだから上手いだろ」


 風呂で駄弁りながらカラオケのことについて話し合う。

 別に歌が上手いわけじゃないからカラオケは聞く専門になりそうだ。三姉妹の歌を聞いてる方が上手くて面白かったし、俺も特に歌いたい歌がなかったので聞いている方が楽しかった。

 三姉妹は母さんの血をしっかりと継いだのか全員上手い。興味なさげにしている千紗姉ですら上手いからな。


「智紀、二十五日は本当にお姉さんのライブ行くのかよ?」


「ああ。六時前にはここを出る。監督たちには許可を貰ってるぞ。千紗姉なんて俺よりもっと早い時間に行くんだからな」


「ライブの開始には間に合わないのに、途中入場が許されてるんだろ?良いなー」


「良いって言われてもな。袖だからしっかりとは見られないし、千紗姉と美沙は関係者席のS席相当の場所で見られることに比べたら微妙だぞ」


 千紗姉が早く帰るのは美沙の付き添いだ。二人は関係者席とはいえ一般客と一緒に入って入場が締め切られたら途中入場ができないので部活を早く上がることにしている。俺は練習自体は最後まで参加したいので日が暮れるまでは練習をして、最後だけちょっと早抜けをして風呂に入って着替えて向かう形だ。

 来年もクリスマスに武道館でライブが行えるとは限らないから、今回は是が非でも行きたい。


 次の日もみっちりと練習をして、夕方からはクリスマス会だった。これには三年生も集まってのどんちゃん騒ぎ。宇都美コーチがかなりの美声で歌が上手いことにはびっくりしたし、加瀬部長も結構なラブコールがあったので歌を披露していた。

 俺はご飯が食べられたからゆっくりと席に座っていると、奏さんと加奈子さんが近くに座った。


「お疲れ様、智紀君」


「別に疲れるようなことはしてないぞ。奏さん。そっちこそいくつか料理を作ってくれたんだろ?練習もあったのにお疲れ様」


「料理というよりあそこのケーキだよ。スポンジ部分は私と加奈子ちゃんが作って、千紗先輩がクリームの塗り付けをしてくれたんだ。盛り付け上手だよね」


「盛り付けくらいしかできないぞ、千紗姉は」


 味付けができないからな。料理は全部美沙まかせの千紗姉は料理が下手じゃないけど作らせるほどじゃない。

 今も二年生のマネージャーで歌を歌ってる。っていうか喜沙姉の歌じゃんか。


「智紀君、申し訳ないんですけど、これ受け取ってもらえますか?」


「ん?」


 加奈子さんから渡されたのはクリスマスプレゼントのようなちょっと大きな箱。スパイクでも入ってそうな大きさの箱なんだけど。

 クリスマスプレゼントを、俺に?

 いや、加奈子さんは多分受け渡し係だな。


「梨沙子さんから?」


「そうです。住所はわかりませんし、どうせここで会うなら持っていってと」


「だよなあ。わかった。梨沙子さんにありがとうって伝えておいて。加奈子さんも運んでくれてありがとう」


「いえいえ。そんなに重い物でもなかったので」


 そう、あまり重くない。なんだろうな、これ。後で部屋に戻ったら開けてみよう。

 メールで伝えようか。今も仕事中かもしれないからな。声優さんの働き方はイマイチわからない。

 メールを送って、これのお返しをどうしようかと悩んでしまう。


「加奈子さん、梨沙子さんへのお返しってどうしたら良いかな?正直あんまりお金ないからプレゼントも買えそうにないんだけど……」


「いえ、言葉だけで大丈夫だと思いますよ?お姉ちゃんもお返しを求めて渡したわけではないですし。学生だからお金がないのもわかってると思います」


「うーん。じゃあ電話でもしよう」


 この前したばっかりだけど。その時はクリスマスプレゼントの話なんて出なかったな。

 部屋に戻って開けると、中に入っていたのは結構大きなヘッドホンと、ワイヤレスイヤホンだった。ヘッドホンはテレビとかパソコンに繋げる物で、ワイヤレスイヤホンは携帯に使える物だ。これ、出たのは最近じゃなかっただろうか。すっごく高かったはず。

 これに見合うお返しが電話で良いんだろうか。彼女がいる仲島にも聞いてみる。


「女の人へのプレゼントのお返しって何が良い?」


「彼女じゃないんだろ……?でもこんな高価な物貰ったら、お返しをしないと申し訳ないよな。親御さんにお年玉のお金を前借りするとか?」


「お年玉は貯めてるからそこから金を降ろすか。何が良いだろ?」


「相手は声優さんだからな。仕事関係か、完全にプライベートの物かだろうな。合宿中だしすぐには買えないから悩めよ」


「そうする」


 明日抜ける時に何か買いに行こうか。それでそのまま家に帰るからライブ後に買い物をしてきても良いかもしれない。

 ちょっと考えておこう。


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