2ー3ー1 招待試合
決着。
七番の大森先輩がライトフライ。俺の前の高宮が粘って四球。
本気で点を取りに行ってるけど取れないという嫌な流れだ。俺だってそろそろ打たれるかもしれないし。
「お願いします」
打席に入ってサインを見るけど、真中コーチは打てのサイン。スチールは高宮がそんなに足が速くないからなし。かといってバントも俺があまり上手くないからなし。
次が千駄ヶ谷だし、右打ちもありだけどどうするか。
相手投手の白石が一つ牽制を入れる。余裕でセーフ。関東大会で見た覚えなかったけど、白石のチームは千紗姉が知っていた。茨城で有名だった西山シニアの二番手投手。西山シニアはエースの小池がUー15に選ばれてたから知ってる。
小池は常総に行くって話してたな。最後の年の関東に出てなかったけど春は出てたらしい。対戦経験がなかったから知らなかった。
初球のストレートはインコースに決まってストライク。うん、悪くない。高宮が相手に期待するのはわかるけど、それって見下してるのと同じってアイツはわかってるのか。
今なら勝てる。良い経験をさせてやれる。そう考えても良いけど、俺は投げられるボールを全力で投げるだけだ。それが礼儀だろ。実際いいチームになるんだろうけど、そのための踏み台になる理由はない。
二球目もインコースへ、ボールはカットボールだった。振った結果引っ掛けたけど、ボールは三塁線へ転がって切れていく。
「あんな軌道か。こうか?」
打席を離れて軽くスイングする。またカットボール来てくれないだろうか。打ってみたい。
打席に戻る。上中里の投手よりもよっぽど完成されている。フォームが綺麗だ。よっぽどフォームを気にかけているんだろう。基本をしっかりしている投手は好きだ。さっきの試合で酷いのを見た後だから余計にそう感じる。
三球目はアウトコースに外れるカーブ。結構大きく曲がるな。これは打ちあぐねるわけだ。一度プレートから足を外して汗を拭っている。ウチ相手に投げてれば疲れるだろ。でもそうして気合いを入れ直してるんだから次は決め球が来そうだ。
(俺にはまだドロップカーブがない。遅い球も待ちながら、ストレートのタイミングにも意識を置いておこう。決め球はカットかドロップカーブみたいだし)
そう考えながら四球目。アウトコースへ来た速い球。これをそのままの流れに沿って打ち返す。鋭く落ちることを警戒してヘッドを下げるけど、それは落ちてこなかった。純粋なストレート。
「クッ!」
思わず声が出てしまった。打球はフラフラっと上がってセカンドの頭を超えていく。
バットを置いて走り出すけど、結構上がった。というか、凄い伸びるな。
そのまま打球は伸びていってフェンスに直撃。高宮も走るけど、ホームまでは返ってこられないな。案外伸びたもんだ。バッティングに力を入れ始めたからだろうか。
俺も二塁まで走って一アウト二・三塁。最近打撃の調子が良い。身体がボールに追いついてる。
千駄ヶ谷、さっさと返してくれ。残塁だけは勘弁だ。
真中コーチの方を確認してもスクイズはなし。いざという時はスクイズもやるだろうけど、まだ五回だ。そんな強硬策をする場面じゃないって判断と、一番への期待か信頼か。
千駄ヶ谷はカットに苦戦して何回かファールにしている。二塁からだとボールがよく見える。カーブはどっちもよく曲がるけど、そのせいでコントロールが難しそうだ。山なりになりすぎたら審判もストライクを取ってくれなくなる。
高宮が言う将来有望ってこういうところだろうけど。俺たちだってまだまだ伸びるんだぞ。相手を気にしていていいんだろうか。
千駄ヶ谷は六球目を思いっきり引っ張っていた。ライトへ上がる大飛球。タッチアップには十分。高宮の足も特別遅いわけじゃなくて、速くないってだけだ。
ライトが捕球したのと同時にスタート。あのライト、そこまで肩が強くないようでホームにボールが返ってくるけど余裕でセーフ。俺も三塁に到着。これでようやく二点だ。
続く二番遠藤先輩はカーブを引っ掛けてショートゴロ。三点目は入らなかったか。
ベンチに戻ると千紗姉がコップにスポドリを用意してくれていた。
「飲んでからマウンド行きな」
「ありがと」
一気飲みして、これまた用意してくれていたタオルで汗を拭いてからグラブを持ってマウンドへ。
さてさて。次はどんな無茶ぶりをされるんだか。
────
九回の裏。最後の攻撃。
試合は7ー0。白石はよく投げてくれたが、それ以上に相手が強すぎた。それに尽きる。
そして、宮下が凄すぎた。結局ヒットは俺の二塁打と大田原のヒット一本だけ。四球も一個で、そこからチャンスを広げることができなかった。
直江と袴田もアウトになって、俺が打席に。なんとか大田原に繋いで一点は取りたい。このまま終わりにしたくない。
これまでで一番速いストレートが来る。今までのストレートとは別物。スピードが速いのもそうだが、回転が違う。
(まさか、ストレートを投げわけてるのか?速度だけじゃなく、回転まで?)
そんなことを考えていたら二球目も空振ってしまった。このストレートは多分大田原にしか投げていない。140km超えてるんじゃないか?
三球目は少し遅いストレートがアウトコースに外れる。やっぱり、違う。回転が違う。指の弾き方も、ボールの山も違う。
九回投げるスタミナもあって、コントロールも抜群で。球速は140超えてて、ストレートを投げ分けていて。変化球もチェンジアップにシンカー、スライダーの三球種があって。それをどれも同じフォームで投げ分ける?
完成度が、違いすぎる。
四球目。真ん中高めに突き刺さる速いストレート。これを振り遅れて、バットも下を振ったために当たることがなかった。
「ストライクッ!バッターアウッ!ゲームセット!」
主審のコールを聞いてヘルメットを脱ぐ。完敗だ。攻撃も守備も走塁も、投手力も。何もかもが別次元。
(これが東京屈指の名門校……。その二軍。来年にはここまで実力をつけられるか?いや、つけねーと茨城で勝ち上がって常総に勝つなんて無理だ。心折れてる場合じゃねえ……!)
両チーム整列して、挨拶をする。俺たちの顔は酷いだろうが、それでも前を向かないといけない。思わずバットを持つ手に力が入るが、ベンチに戻る前に高宮が俺へ手を差し出していた。
「想像以上だった。常総に勝てよ」
「……ああ、ありがとう」
手を握り返す。俺の隣で白石も宮下と握手していた。右手をお互いに見せ合って笑っていた。宮下も、笑うんだな。
「バッテリーのダウンであそこのブルペン使っていいからそっちも撤収作業が終わったら来てくれ。ウチの投手コーチがダウンの仕方を伝授するって」
「わかった。後で行くよ」
白石と一緒に戻る。集合がかけられる前にキャッチボールだけのダウンはすぐにして、白石に聞いてみる。
「宮下と笑ってたけど、何話してたんだ?」
「変化球って指にタコできやすいよなって言われて、変化球ごとのタコ見せてた。俺のカットと宮下のスライダーのタコがそっくりで。あと、ナイスピッチって言われた」
「なるほど。でも実際九回投げて十点取られてねえ。それくらい覚悟してたけど、これで済んだのはお前の実力だよ」
七失点で褒め言葉になるのかわかんねえけど、第一試合みたいにコールドだってあり得た。結局ホームランは打たれなかったんだし、後は全体的に守備を鍛えて萎縮しなければもう少し失点は防げたはずだ。
ダウンも終えて、集合がかかる。ベンチ前で監督を中心に円になって集まった。
「完敗だな。帝王は強かったか?成井」
「はい。……二軍とは思えないほど、野球が上手かったです。ケース毎に何をするのか、次の塁へ行くにはどういうことをすればいいのか。そして落ち着き、チャンスをモノにするメンタル。……強豪というものが、身に沁みました」
「ふむ。大田原。宮下は打てそうだったか?」
「今のままじゃ、勝てると言えるほど打てないと思いました!もっと、もっと打撃を増やして、ああいう投手がいることを前提に打撃練習に取り組まないとダメだと思います!」
「あと何打席あれば長打を打てる?」
「二打席は欲しいです。あの緩急とあのキレはちょっとやそっとじゃ慣れません」
大田原の言葉にギョッとする奴もいる。あと二打席ぽっちあっても打てるイメージが全く浮かばないからだろう。
実際ヒットは二本だけ。俺だってチェンジアップに合わせて、それがたまたま左中間に飛んだだけだ。レフトやセンターの真っ正面に飛んでたらアウトだった。
宮下のストレートを綺麗に打ち返したのは、大田原だけだ。
「全然手が出ないと、途中からバットが出なかった者もいたな。……いや、俺も驚いた。アレが高校一年生っていうのは何の冗談だって思ったよ。宮下が三年生なら納得したが。今度からは宮下を想定して打撃練習をするぞ」
「「「はい!」」」
「バッテリーはよく守った。エラーもいくつかあって七失点。高校野球を始めてまだ一ヶ月ちょっと、チームとしてまだまだな状態でこれだけ抑えたのは誇っていい」
「「はい!」」
「この後も全体ノックを受けさせてもらえるから、荷物を更衣室へ運んだらこのAグラウンドに集合。バッテリーはブルペンに行って宇都美コーチの指示に従ってくれ」
次は三日後に投稿します。
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