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2ー2ー3 招待試合

失点と奥の手。

「ナイピッチ!」


 先頭の高宮をピッチャーゴロで切って取れたのは良かった。速い打球なのによく白石は捕ったよ。運良くグラブに入ったって感じだったけど。

 ヒット一本潰せたのは大きい。

 次は九番だから楽できる──わけじゃない。Uー15の六番が九番に居座ってるんだからな。投げてるから打順を繰り下げたんだろうけど、本来なら第一試合みたいに一番を打てる打力と足があるってことだ。


「お願いします」


 宮下智紀。足腰しっかりしてるし、130後半を投げるんだからリストだってしっかりしてるだろ。つまり全く気の抜けない相手。一試合目もホームラン打ってるからな。

 警戒度は三間と一緒だ。

 初球はアウトコースのストレート。いいところに決まって見逃しのストライクだけど、めっちゃ良い音した。というか、今日一のストレートだった。

 白石、対抗心向けてるのかもな。


「ナイスボール!」


 返球しながらそう言うと、周りも続いてくれる。実際帝王相手にまだ失点していないどころか三間にしかまともに打たれていない。それだけで評価されることだ。

 二球目をインハイにストレート。これを宮下は身体を開いて強打。大田原も追いつけない球足でレフト前に転がっていった。


(ストレートで安易にストライク取りにいったらダメか?だけど次から二巡目だ。カーブ以外の変化球も使っていこう)


 一番の千駄ヶ谷。打席に入るとすぐにバントの構えをしてきた。


(手堅過ぎる。多分バスターか、プッシュバントで内野安打狙いだ。まず一球ボール球にして様子を見よう)


 アウトコースへ外れるストレートを要求。投げた瞬間梅木が「スチール!」と叫んでいた。


(何ぃ⁉︎初球スチールだと!)


 千駄ヶ谷はバットを引く。バスターでもバスターエンドランでもプッシュバントでもなかった。中腰になってミットにボールが収まってすぐに二塁に送球したが、ボールが大田原のグラブに届く前に宮下の足が二塁に到達していた。

 ベースギリギリに投げたのにこれかよ。足が速いのか、スタートが良かったのかわからねえ。


 すぐに外野を前進させる。一点だって与えたくない。この一点は重要だ。

 だが、千駄ヶ谷はまだバントの構え。二アウトにしてでも三塁へ進めたいのか?

 インコースで詰まらせようと思ったが、バントでボールは勢いを消しながら一塁側へ。クソ、うめえな。梅木が処理して二アウト。

 ここで切れば問題ない。


 二番ショートの遠藤。一打席目はインコースのカーブを打ってショートライナー。ならこうだ。

 白石が投げたのはアウトコースのカーブだ。初打席で打ったボールが来るとは思ってねえだろ。

 そう思ったが遠藤はまた初球から振りに来て浜崎の頭を超えるライト前ヒット。宮下はゆっくりとホームに帰ってきた。

 こうもあっさり、一点取られるなんて。主審にタイムをもらってマウンドへ行く。


「悪い、白石。カーブならまたアウトにできると思ってた。甘く見過ぎてた」


「大丈夫。俺も、ああも簡単に打たれるとは思ってなかった」


 白石は基本無口だが、それでも意思疎通はしっかりできる。次からのクリーンナップを見て、白石へミットを向ける。


「初球からサイン出すぞ。ここで切る。相手はとにかく野球が上手い。温存とか言ってたら簡単に打たれる」


「うん。どっちも、使っていこう」


 白石とグラブを合わせて戻る。マスクを付け直した後、早速サインを出した。白石は頷きながらもクイックでインコースへそれを投げる。

 積極性があるのを逆手に取る。インコースに迫ったボールを三番西条は振り抜くが、鈍い金属音と共にショートへ弱いゴロが転がる。


「OK!」


 とってすぐ二塁へ投げてフォースアウト。これで三アウトだ。

 投げさせたのはカットボール。ストレートとあまり変わらない球速で鋭く曲がるから打ち取るにはもってこいの球だ。


「すぐ一点くらい取ってやるから、俺まで回してくれ!」


「ああ。頼りにしてる、大田原」


 もうこっちは切り札を切る選択をした。あとは打ってもらうしかない。この回は下位打線からだが、一人でも出てとにかく大田原に打席を回す。

 それしか勝ち目がない。


「キャプテン打ってほしかったなー」


「というか、せめて初球打ち勘弁してください。走ってるんだから休ませてほしいというか」


「悪い宮下!絶好球だと思って引っ掛けちまった!」


 相手はワーワーキャプテンの西条に文句を言っているが、そこまで険悪な空気でもない。宮下も文句を言っているが、マウンドに上がればもう先ほどまでの鉄面皮だ。

 癖とかねえかな。探して打てるなら探してほしいが。

 俺は飯原にさっきまでの球種を伝えて、下位打線に期待した。


────


「七番はまだしも、八番はほぼ素人だな。まあ、人集めしてなかったらそんなもんか?」


 七番ファースト梅木をファーストゴロ。八番ライト野原を三振。次が九番ピッチャー白石。右打ちだ。

 この回は一球も変化球を投げていない。まずは小手調べのストレートをインコースに。


「ストライク!」


 これに空振り。下半身しっかりしてるけど、スイングはそこまでって感じだな。典型的な打てない投手っぽい。

 二球目もストレートをアウトコースへ。追い込んだあと真ん中高めへのストレートを振らせて三振。

 下位打線は楽できるな。特に八・九は安パイだ。


「なあ、高宮。三振狙ってんの?」


「いや、そこまでは。クリーンナップなら狙ってるけど、この回はむしろ打たせる気でリードした」


「球数多くね?」


「三振多いからな。シンカー中心にするか?それなら引っ掛けさせられるだろ」


「完投目指すのにこんなにバンバン三振いらないからな」


 ベンチに戻りながら宮下とそう話す。新設校だからしょうがないのかもしれないが、上位打線は優秀でも下位打線までは優秀な選手がいないということだろう。強豪校でもない限り下位打線ってそういうものだとしても。

 ただ球数を考えたって相手が当ててくれるのが前提で。宮下のボールのすごく下を振ってるからまず当てられなくて、その上前に飛ばないんだよな。

 どうやって球数減らすもんか。


「さーて、そろそろ点取ってくれよ?西条、最後引っ掛けたのは?」


「カットボールだと思います。内側に鋭く沈みました」


「向こうさん、まだ球種を隠しながら戦ってて、それで一点は情けないな。もっともっと俺にアピールしてくれ。東條監督に良い報告できないぞ?」


「「「はい!」」」


 真中コーチにも発破をかけられて、三間が打席に向かう。

 しかし本当にどうやって球数を減らすか。下位打線はもうしょうがないとして、上位打線でここぞって時以外は変化球で打ち取る。それくらいしかないか。

 千紗さんにスコアを見せてもらうけど、これまでにまだ二十五球。三回終わってなら全然完投ペースだけど、これからは対応されて球数増えるだろうし。

 攻撃に目を移してみると、三間が変化球を引っ掛けてセカンドゴロで戻ってきていた。


「カーブ引っ掛けたのか?」


「いや、多分やけどドロップカーブや。こう、縦に落ちてきたんやけど縦スライダーみたいに速度ないし、ドロンと落ちてきおった」


「はあ。カーブにカットにドロップカーブ。優秀だな」


 それで球速も130は出てる。本当に有望なチームだ。茨城で台風の目になるんじゃないか?

 結局ウチの打線は火を噴かなかった。というかカットとドロップカーブの情報収集のためにカット戦術に出て球数を投げさせていた。ガチで攻略にかかってるな。


「宮下。シンカーのサイン出すからな」


「まあ、リードは任せる。本当に変なサインじゃない限り首振らないって」


 打順は上位に戻って一番から。先頭打者は出したくないから初球からシンカーいっとくか。

 ストレートを待っていたのか、バットからボールが逃げていって空振り。直江はキャッチャーミットを確認して、投げたのがシンカーだって理解したっぽい。

 宮下のこのシンカー。あんまり変化しないけど結構速いからタイミングをズラすのにもいい。アメリカとの試合で使ってたのはこっちのシンカーだな。


 むしろあの頃は投げ分けできていなかったんだとか。オフにそれだけやってくるなんて意識高くて頭が下がる思いだ。推薦入学が決まってたから勉強の分も身体作りと研究に費やしてきたんだろうけど。

 二球目はむしろストレートを。やはりストレートに狙いを絞っていたのか真後ろにチップしていた。

 三球目もあえてストレートを。宮下には若干ブスッとした表情をされたけど、要求通りに投げてくれる。アウトコースにきたそれを前に飛ばしたが、ショートゴロ。


(一年生じゃ宮下のボールをしっかり外野に飛ばす力がないんだろうな。完全に力負けしてる。回転が凄いのと目測を誤るから、芯からズレて飛ばないんだろうな)


 二番袴田。さっきはセーフティーを失敗。犠打をする二番タイプだろうか。

 というわけで調べるためにストレート。外角に決まるそれを振ってきたが空振り。タイミングは合ってる。ストレート狙いはチームの方針か、打者ごとか。

 チェンジアップを捨てるって選択肢は正直アリだと思う。受けてる俺も見分けつかないからヤマ張らないとチェンジアップは打てない。


 シンカーを見せたのがこの回からだから、ストレート狙いもわかる。宮下の代名詞はやっぱりストレートだし、打てる可能性が高いのもストレートだ。

 二球目はアウトコースに外してみる。袴田は踏み込んできたものの、見逃す。タイミングが完全にストレート狙いだ。じゃあ、違うの投げさせよう。

 三球目、四球目はシンカーを要求して空振り三振。フリじゃなかったんだな。


「バッテリー、もっと打たせろや!今日は完投するんやろ!」


「そうだそうだ!もっと打たせろー!」


 三間と千駄ヶ谷が文句言ってくるけど。こうもタイミングだけで振ってきたり、狙い球絞ってると打たせるのも大変なんだよ。宮下の調子が良すぎて外野に飛ばない。バットに当てさせない。

 それを俺のせいにされても。

 一巡はわざと打たせるようなリードにしたけど、二巡目は対応してくるところが多い。変にストレート連発して出会い頭っていうのも怖い。


 それにこれ以上わざと打たせたら真中コーチに怒られる。

 三間がもっと打ってくれればそういう勝負をしてもいいんだけど、一点リードじゃそんな怖いリードはできない。

 特にこれからはクリーンナップなんだし。


「しゃっす!」


 三番神田。キャッチャーで三番って随分信用されてるよな。だからこそ意地悪したくなる。

 初球のサインも、宮下は鉄面皮のまま頷く。どれだけ変なサイン出してもマウンドの上では表情出さないのが宮下のいいところ。引き上げてから文句言われるけど。

 そうして投げられた意表をつくチェンジアップ。それを。

 カキーンと、気持ちいい金属音が鳴る。打球は左中間を抜けていった。


「ボールセカン!」


 打った神田は二塁へ。くそう、完璧に読まれてたな。摺り足にしてタイミングは若干合ってなかったけどリストで持っていった。体型もいいから二塁打も納得だ。


「打たせろとは言ったけど、打たれろとは言ってへんで!」


「三間、注文多い」


 流石にその文句には宮下も呆れている。相手が一年だけとはいえパーフェクトもノーノーも狙ってないから打たれるのはいいだろ。完全にヤマが当たるとか、たまたま振ったらいいところに飛びましたなんて一試合あればいくつかはある。

 今のもそんな一本だ。


「神田やるう!お願いします!」


 得点圏で四番大田原。じゃあ最初にかますか。

 初球真ん中高めへ三番ストレート。だから痛いって。空振り取れたけど、全力ついでに怒りも込めてないか?

 大田原とはいえ二打席目で宮下の全力ストレートには対応できないと。チェンジアップはもしもがあるから嫌だな。


 じゃあ投げるのは一番ストレート。これを三塁線へファウル。珍しく高く浮いたな。低く低くとジェスチャーを送ると悪いとでも言うように右手の掌をこちらに向けてきた。そのままロージンを使う宮下。

 四番相手だしな。むしろ大田原にはチェンジアップなしで行くか。

 というわけでシンカーを真ん中低めにくれ。


 体勢を崩しながら大田原はシンカーに食らいつくが、フェアゾーンに入ってしまいファーストゴロ。あんまり変化しなくても速度があってコースが良ければ大田原でも内野ゴロに打ち取れると。

 良いデータになった。


「結局今日ってスライダーともう一つのシンカー使うのか?」


「まあ、状況次第だけど。できたら使うのはスライダーだけにしたいな。アメリカ戦しか情報がなければ大きいシンカーは隠しておきたい」


「わかった」


 二番を封印で、他二球種を温存してるのは相手が新設校っていうのもあるけど、調子が悪くてコントロールが定まらなかったり全然曲がらない日を想定してリードを組んでいる。

 ただ宮下の場合フォームだけは崩れないから、最悪ストレートとチェンジアップだけでアウト取れるんだよな。よっぽど荒れてる日じゃなければイニング計算しやすいって、キャッチャーとしてはかなりありがたい。

 逆に言えば、キャッチャーの能力を丸裸にするし、他の投手に満足できなくなる可能性が出てくる。完成度が高い奴が近くにいるのって良いことばかりじゃないよな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 野球が大好きだけど、あまり長編野球小説が見つからなかったところで出会えました。とても楽しく読ませてもらってます。ありがとうございます。☆5入れときました。
[良い点] 野球が大好きだけど、あまり長編野球小説が見つからなかったところで出会えました。とても楽しく読ませてもらってます。ありがとうございます。
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