2ー2ー1 招待試合
二試合目。
打撃練習と筋トレ講座を受けた後、俺たちはどこの高校よりも早く昼飯に案内されていた。これから混むために早く並ばないとおばちゃんたちが大変だと言うのでそのまま食事を受け取っていた。
ご飯は必ず二杯と書かれていたが、これは帝王の選手だけなので守らなくてもいいとのこと。でも食育も身体作りには大事なので昼食後の試合を考えて食べるようにと田中さんに言われた。
「楠木。お前は一杯だけにしとけよ。食ってすぐ投げられないだろ」
「わかってるよ。それにしても第一試合どうなったのかね。あんまり声聞こえてこなかったというか、盛り上がってなかったけど」
「帝王の圧勝だろ。見るまでもない」
第二投手の楠木と食べながら話していた。王者帝王だ。新設校なんてボコボコにしてるだけだろ。
そう思ってたら、向かいに座っている白石が首を傾げていた。
「神田。新設校だと、勝てない?」
「俺らも新設だからこそ設備の差や意識の差は感じただろ。二軍って言っても東京の中堅校、茨城で言ったら準決勝か準々くらいには出られる実力だと思った方がいい」
「……そんなに強い?」
「帝王は別格。常総高校の二軍みたいなもんだぞ」
茨城も常総という甲子園常連校がいる。白石と張り合っていたエースが進学した学校だ。常総の二軍と比べるのが一番適してる。
「はー。白石頑張れよ。俺はひとまず上中里に投げるから」
「うん。頑張る」
上中里に対しては白石を完全温存。そうじゃないと帝王とやりあえないという監督の判断だ。それは捕手として俺も同意した。上中里の相手は楠木と大田原で凌ぐのが一番だ。
それで、帝王にはなんとしても白石の完投。これが一番試合になる。
そう考えながら飯を食べていると、試合が終わったのかマネージャーたちも食堂にやってきた。他の学校のマネージャーとは別れて、飯原と中条が食事の乗ったお盆を持ってこっちにやってきた。
「神田くん。これスコアブック」
「おう!ありがとう!」
早速スコアブックに目を通す。楠木も覗き込んでくるが、スコアブックが見えない大田原が試合結果を聞いていた。
「ジャーマネ、試合は?」
「22ー0。五回コールドだよ」
「コールド?練習試合で?」
「ダブルヘッダーだから九回までできないだろうって。帝王のマネージャーさんに聞いたけど、点差が付きすぎたらたまにコールドにするらしいよ」
「へえ。さすが名門」
飯原の説明に納得した大田原。全く動じてないな。すげえ大差だっていうのに。他の奴は点差に驚いたりして箸が止まったりしていた。
初回から八点。三間なんてホームラン打ってるじゃねえか。宮下は投げてない、つーか一番ライト?宮下もホームラン打ってるし、打者としても一流かよ。
いや、相手投手が酷いのか?判別つかねーな。
「飯原、中条。上中里の投手ってどうだった?」
「最初の人はコントロールが悪かったよ。ボールもゾーンに近いボールじゃなくて、明らかに外れたボール球だった」
「最初は自信満々に投げてたわ。しかもストレートばかり。変化球なんてあまり投げていないでしょう?よっぽど自信があったみたいで、ストレート打たれるたびに顔を歪めていたわ」
「ふーん」
そいつは一回をアウト一個も取れずにベンチに下がってんのか。これがエースとは思えねえな。
二番手の左は打たれているけど、五回までのアウト十五個取ってるんだし、こっちがエースか?クソ、試合見たかったな。
「二番手は?」
「結構落ち着いてたよ。打たれる時は打たれたけど、抑える時は抑えてた。変化球がしっかり決まってる印象かな」
「スピードだけなら最初の人の方が速かった気がするわ。でもコントロールは二人目の人の方がよっぽど良かった。それと他の投手は用意もしてなかったからきっと上中里の投手はこの二人がメインね。スタメンにもう一人くらいいるのかもしれないけど」
「サンキュー。飯の前に聞いて悪かった」
打つ方には役に立てても、守備には役に立たねえな。上中里五回までにヒット一本だけかよ。このヒット打った奴だけ警戒すりゃいいのか?いや、マグレでも打てる時がある。一安打だけってのもアレだな。
実力に差がありすぎて参考にならねー。
そうしてスコアを確認していると食堂の前の方が騒がしくなった。帝王の奴らが飯を食いに来たからだ。上中里の連中もいつの間にか来てたんだな。気付かなかった。
三間と宮下はやっぱ頭一つデカイ。それにガタイもいい。一年ながら二軍に抜擢されるのもわかる。
あの体格に対抗できるのはウチでも大河原だけだな。
飯が一杯で足りず、もう一杯食べた。食べ終わってからもマネージャー二人にさっきの試合を確認していた。
「次の試合飯原にはスコア書いてもらう予定だけど、中条はどうするんだ?」
「まだバックネット裏で色々と教えてくれるそうだから、学べることを学んでくるわ。機材の使い方だったり、帝王のマネージャーが普段どんなことをしたりとか」
「ああ、それは大事だ。とりあえず昼までに何を聞いたんだ?」
「道具の準備とか、動画の撮り方とか。それは基本的なことだけど午後からは練習の手伝い方について宮下さんが教えてくれるらしいわ。その方、マネージャーで珍しく練習を手伝える方らしくて」
「宮下?」
そこまでありふれた苗字じゃないけど、気になった。注目している選手と同じ名前のマネージャーなんて。
「宮下智紀君のお姉さんよ。二年生だけど、マネージャーとしては一つ抜けているわ」
「そっか。よく話聞いておいてくれ」
こっそり練習法とか漏らしてくれねーかな。それは高望みか。
まずは次の上中里との試合だな。なんか食事中の空気も暗いし、このまま勝っておきてえ。というか、アレに負けたらダメだろ。
────
昼食後の打撃練習を早めに切り上げて俺と高宮はブルペンに入っていた。次の試合先発で、できたら完投させるとまで言われたら準備はしっかりしておきたい。
オーダーはまだ発表されてないけど、高宮がスタメンマスクとのこと。
「宮下。最初はスライダーと大きく曲がるシンカー封印な」
「そこまですんのか?」
「する。一年しかいない相手だぞ?お前が一軍に上がるにはそれくらいして結果出さないと意味ない」
「まあ、いいけど。よっぽどダメだなって思わない限り、今日は首振らないようにする。リード期待してる」
「おう」
そういうわけでキャッチボールから投げ込みをしているわけだけど。たまーに盛り上がるAグラウンドを眺めながら試合が終わるのを待つ。
さっきの試合はつまらなかった。投げていないっていうのもあるけど、相手が悪すぎた。ライトとしても結局一つしかボール処理しなかったし。
そうして待っていると挨拶が聞こえた。試合が終わったっぽい。
それに合わせて木下さんがやって来た。
「二人とも、試合終わったよ。真中コーチが来いって」
「ありがと。試合は?」
「8ー3でひたちなかが勝ったよ。ひたちなかは打線が繋がってた。チーム力は断然ひたちなかが上だと思う」
「それは楽しみだ」
いや、ほんと。長い攻撃が楽しくないなんて初めて知った。短い守備なんてむしろ可哀想に思えるなんて、そんな感情が芽生えることすら不思議だった。
アウトの半分以上三振だったからなあ。呆気なく攻撃が終わってこれから長い守備だって絶望しながら攻守の入れ替えを見るなんて、気分が滅入る。
そんなことにならなそうで一安心。というか、試合は最後までやりたい。コールドを告げられて喜ぶとか苛めてたみたいじゃん。
ただ実力が足らなかっただけなのに。
木下さんとも一緒になってベンチに向かう。すれ違った上中里の面々は二連敗するとは思わなかったのか空気が重い。ひたちなかは市立だから負けるなんて思ってなかったとかそんなところか。
野球なんてどれだけ実力があったってちょっとしたことで負けるのに。常勝軍団が甲子園に出られないとかもあるのに、自分たちは負けないと思ってたのか。
そういう考えの奴多そうだよな。態度に出てた。
ベンチに行くと千紗姉がいた。観客席には相変わらず美沙もいるし。
「千紗姉がスコアラー?」
「そ。頑張れー」
「気の抜ける応援やめてくれ……」
その後全員集まってオーダーが発表された。俺は九番。千駄ヶ谷が一番ライト、三間が四番サード、高宮が八番キャッチャーだった。二軍の一年全員出すのか。
「宮下、高宮。二番ストレート封印しろ」
「「はい」」
注文がまた増えた。それくらいしろってことですね。夏大も近いから。
────
「なんというか。真中さんって几帳面なんですか?」
「だよなあ。まさか学年まで書いてくるとは思わないぞ」
大竹監督から相手のオーダーを受け取って笑ってしまう。ジャンケンで勝てたために後攻を選んだ。まずはこっちのエースのお披露目をして宮下に備えたかったために。
ベンチに入っている一年は全員スタメン。前の試合のメンバーから結構変えてきてる。データはあまり信用できないと。
「行くぞ、白石。目に物見せてやろうぜ」
「うん」
整列して挨拶。投球練習をして、試合開始。
白石の調子は良い。ストレートもキレてる。これで通用しなかったら帝王が強すぎるな。
「お願いします!」
一番、一年生の千駄ヶ谷。左打ちか。俺が知らなくてこの時期に二軍に上がってるってことは多分ボーイズの有名どころだな。軟式にもシニアにもいなかったはず。まさかKボールじゃないだろうし。
足が速いかミートが上手いか。小柄だし体格も良くないから飛ばすタイプじゃない、と思う。なんにせよサードの成井とファーストの梅木にバント警戒のサインを出す。
初球は、インハイへのストレート。
これに千駄ヶ谷は手を出さずストライク。まずは様子見にきたか。ここから振ってくる。だからこそ二球目は外す。
アウトコースへ外れるストレート。反応だけして悠然と見逃した。三球目も続けてストレートをアウトコースに。これには手を出して三塁線へファウル。
ま、ストレートだけで打ち取れるなんて思ってねーよ。そんでもってストレートで追い込んで変化球で仕留めるなんて芸のない配球だけど、白石はそれができるストレートに変化球、コントロールがある。
四球目。インローに沈むカーブ。ゾーンに来ている、見逃せば三振だ。
それを千駄ヶ谷は当てた。とはいえ力のないセカンドゴロ。浜崎が処理するが、ちょっともたついていたらセーフになりかねなかった。
(足はやっ!やっぱ一番は警戒しないとな。でもなんにせよ一つアウトが取れた。これは大きい)
「ワンアウト!」
梅木が声を上げてくれる。ナイス。一つ目を無難にアウトにできたってのは大きい。
二番、ショートの遠藤。三年生か。三年生だしショートってことは実力は抜けてるはず。それに夏大が近いから一打席一打席必死だよな。
だからこそ、意表を突く。
インハイへカーブを。これに体勢を崩されながら初球打ちをしてきた。レフト前ヒットになりそうだったが、大田原がジャンピングキャッチ。元気よく「ツーアウト!」って言ってくれるのはムードメイカーとしても頼りになる。
(いやホント。ウチ来てくれてサンキュー!なんで常総の推薦断ってウチに来てんだよ!ありがたいけどさ!)
センターラインが堅いだけで捕手としては本当に助かる。地元の学校で甲子園行きたいからって、常総の推薦断るか?フツー。
俺も断ったけど。
三番レフト、西条。三年生。ジャンケンに来たから二軍の実質代表だ。クリーンナップを任されてるんだから長打が持ち味なんだろうけど。右打ちだしレフトの袴田を下がらせる。
様子見でアウトハイのボール球、ストレートを要求するとそれをセンター返し。上がった打球はフェンスまであとひと伸びだったが、センターの直江のグラブに収まった。
(ボール一つ中に入ってたらフェンスオーバーか?下手なボール球も使えねえ。これが名門、しかも二軍か)
「ナイピッチ!」
なんにせよ三者凡退。最高のスタートだ。しかも変化球もまだカーブしか使ってねえ。結果を出したい奴ってどうしても早打ちする傾向があるけど、そこは帝王でも変わらずって感じだな。
白石は全員に叩かれながら戻ってくる。二軍とはいえ帝王を三者凡退だ。これでこいつがエースとしての自信を持ってくれると嬉しいんだが。
実力はあったのに二番手だった。上が凄すぎた。だからあまり自信を持ってないけど、良い投手なんだ。自信がつけば大成する。お前はそんな投手なんだぜ。
「よーし、幸先いいな。さあ、野球は打って点を取らなきゃ勝てない。相手のマウンドを見ろ」
大竹監督に言われてマウンドを見る。宮下智紀。俺たちの世代でNo.1投手の呼び声が高い本格派右腕。アメリカを倒した時は本当に神がかってた。
「実は宮下が投げてくれること、俺は事前に知ってた。あちらの監督が確約してくれていてな。宮下を打てれば夏の大会も勝ち進めるだろ」
「マジ⁉︎監督大好き!ひたちなか来て良かったぜ!」
「おー、大田原。その元気のまま打ってくれよ。──宮下もお前らと同じ一年だ。絶対に打てない投手なんていない。打っていこうぜ」
「「「はい!」」」
白石と一緒にベンチの奥に入る。プロテクターを外しながらまずは白石を絶賛した。
「今までで一番球がきてる。この調子で抑えていこう」
「わかった。……あれが、宮下智紀」
「今も軽く流してる感じだな。それでも速いって感じる。アレがエースの風格ってやつかもな」
顔色ひとつ変えずに投げ込む宮下を見てそう溢す。アメリカ戦もそうだが、マウンドで表情を変えずに投げるから怖い。全く同じ顔、同じフォームでストレートと変化球を投げ分ける。
高校生にしては完成されすぎだろ。
「直江、積極的にな」
「おう」
また来週更新します。
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