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ウチの三姉妹が俺の青春へ介入してくるんだが  作者: 桜 寧音
七章 短い夏休みと秋大会
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2ー3 秋の前のチーム固め

甲子園決勝。

 甲子園の決勝は昼過ぎ、十三時半から始まる。だから午前中は練習をしてお昼を食べてそのまま食堂に集まって習志野学園と奈良の天鳳(てんほう)学園の戦いだ。近畿でも有数の名門である天鳳学園にもU-15で一緒だった村井(むらい)が所属している。当時はファーストを守っていたけど、高校では外野のようだ。

 涼介は俺たちの試合からすっかり四番で定着している。キャッチャーは大石さんに戻っているが、四番ライトはもう涼介のものだ。これが下手したら高校生活最後の外野かもな。


 今日は三年生も集まって試合を見ている。今日ばかりは、自分たちに勝ったこの試合は見なくちゃいけない。

 コップだけ用意してテレビの映像を見守る。人によってはスコアブックを机に置いて書くつもりだ。俺はそういうのを書き留めるつもりはない。

 習志野学園の先行で試合が始まる。天鳳のエースピッチャーの五條(ごじょう)さんも甲子園の決勝に立つピッチャーだろうが、それでも一アウト二・三塁というチャンスを初回から作っていた。そうして回ってきた涼介の初打席。


 二球目を打ち返して左中間にボールが飛ぶ。外野の間にボールが落ちてランナーが帰ってくる。打った涼介も二塁に到達して二点先取。

 こういう場面で確実に点を奪ってくれるのは四番としてありがたすぎる。というか、得点圏打率がおかしい。


「なんやぁ、あいつ」


「打ったのはスライダーか?アウトコースの真ん中付近のボールなら、まあ打てるよな」


 三間と高宮がそんなことを言いながら呆れている。

 先制点を確実に奪ってくれるクリーンナップは頼もしいが、敵としては最悪だ。しかもアレが同年代という恐怖。

 三年生の先輩方も辛酸を嘗めるような顔をしている。涼介にやられたからこそ、この鮮やかな先制劇には味方以外全員が顔を顰めるだろう。


 初回の点数はこの二点だけ。そのまま守備になる。今日の習志野学園の先発は高橋さん。二枚看板システムはこの決勝でも変わらないらしい。エースの名塚さんはベンチで座っている。

 高橋さんも良いピッチングをして初回をゼロ点で抑えた。だがまだ二点だ。高校野球なら全然ひっくり返せる点数。

 だと思ったら五回までに習志野学園が五点を奪った。長打は少なかったものの連打が続いて点数を重ねていた。一方天鳳も二点を奪って五回までに五対二になっていた。


 五回が終わってグラウンド整備が始まる間に水分補給をしたり、前半戦の振り返りをしていた。勢いは完全に習志野学園に向いている。

 問題は先発投手の高橋さんが百球を超えていること。六回というのが指標でもあるけど、百球も一つの目安になっているだろう。二枚看板システムって結局は投手に無理をさせないためのシステムなんだから。


「まさか涼介の第二打席で敬遠されるとはな」


「チャンスにあいつと勝負することの方が怖いだろ。どこもやってる戦術だ」


「いくら四番とはいえ、一年生にやるのはなぁ。でもそのお陰で失点が防げてる」


「できたら全打席敬遠でも良いぞ。七割超えてる打者なんて相手するのが馬鹿らしい」


 今日は今の所二打数一安打だが、普通その成績で打率が落ちる方がおかしいんだよな。高宮はずっとあの打線をどうやって抑えるかを考えているが、その考えの行き着く先が敬遠なんだろう。


「涼介のさっきの打席の凡退はどう捉える?」


「外野がめちゃくちゃ後ろにいたからな。単打はしょうがないっていうシフトにすればああいうアウトも取れる。だがアレはランナーがいないからこそできるシフトだ」


 フェンス前の大飛球をなんとか捕ったって感じだからな。そうしないとアウトにできない打者で、定位置で守っていたら頭を抜けていただろうから確実に長打だ。

 そんな専用のシフトを組まないとアウトにできない打者っていうのも嫌だろ。


「三点差か。天鳳もバランス型のチームだからここからひっくり返せるだろうな。ピッチャーもどうなるか」


「どっちも百球を超えてる。継投に入ってもおかしくないぞ」


 再開した試合は、天鳳側は投手を代えなかった。五條さんがそのまま続投し、監督の期待に応えて三者凡退で切って取った。一方習志野学園は投手を代えていた。高橋さんが降りて茂木さんがマウンドに立つ。

 それ以上に驚いたのは、ブルペンに入っている投手だ。


「おいおい。名塚さんが準備してるじゃないか」


「ホンマや。まさか投げるんか?昨日も投げてたやろ」


「昨日も六回九十球だからな。全然投げられる球数だろ。相手の五條さんは昨日も八回百二十球投げてる」


 高校野球でよくあるエース酷使問題だ。エースに頼るせいで過酷なスケジュールをこなすために一大会で六百球を超す球数を投げる投手が珍しくない。

 昨今問題にもなっている。投げすぎで投手の肘や肩を壊して将来を潰してしまったと苦情が高野連や学校に届いているらしい。甲子園という頂を手に入れるか、その先のステージでの活躍を祈るのか。中には高校野球で肩を使い潰しても良いという覚悟で挑んでいる投手もいる。


 俺は次のステージを見てる。高校野球で肩を使い潰す気はないけど、全国制覇だって目指している。

 どっちも選べない選手や監督が無理をすることはあるだろう。で、周囲の人間が騒ぐわけだ。若者の未来がどうたらって。じゃあこのスケジュールをどうにかしてくれって話なんだけど、そうしたらプロ野球のスケジュールもズレるからこの七月八月に詰め込むしかない。


 秋大会も直近であるから高校野球的にもズラせない。七月から十月まで公式戦のスケジュールはキツキツだ。

 七回になって涼介に第四打席が回ってくる。ランナーが一塁にいて敬遠もするわけにはいかなかった天鳳は勝負に出る。

 その初球。


「あ」


「マジかー……」


「バケモンだろ」


 映像越しに綺麗な金属音が響き渡る。

 打球はライトへ。さっきの打席のように打球はグングンと伸びていきライトは下がっていく。だが確実にその打球はさっきの打球よりも伸びていた。というか、高い。

 俺たちの予想通り、その打球は遥か高く飛んでいき、観客席へと突き刺さった。


『入った入ったぁあああああ!大会六本目、ゴールデンルーキー羽村の躍動が止まらない‼︎』


 実況の人の熱狂が届く。そうか、これで大会六本目。夏の甲子園で本塁打六本も大会タイ記録だった気がする。

 今回の大会だけで一年生二人がタイ記録を出したのは凄い記録なんだろうな。これでまた野球雑誌とかに取材を申し込まれなければ良いけど。


 こういう関連がありそうなことってすぐに記事にしたがるからな。それを打って稼ごうとしてるんだから記者が熱心なのはしょうがないとして、こっちとしては秋の大会に集中したいんだけど。だいたいこっちの都合なんて無視だ。

 野球を盛り上げたいし、お世話になっている雑誌なら俺だって快く受け答えをしたいけど。練習だってしたいから邪魔はされたくないし。その辺りの分配は難しいところだよな。


「五條さん、降りるんだな」


「球数もかなり多いしな。ここで流れを変えるっていうのは間違っていないぞ」


 七回が終わって六対三に。シーソーゲームの様相を見せてきたが、ここからどうなるのか。八回になって習志野学園が更なる継投に移る。名塚さんがマウンドに上がっていた。

 名塚さんは全力で投げ切り、八回をシャットアウト。更に裏の攻撃で二点を追加していた。

 八対三。これは決まったか。


 九回はいつものローテーション通り館山さんがマウンドに上がっていた。名塚さんが一回限りのリリーフってすっごい豪華な起用の仕方だよな。

 ブルペンでは柳田も用意をする盤石っぷり。

 最終回の代打で村井が出てきていた。アベレージヒッターの村井は変化球になんとか合わせてレフト前にヒットを打っていた。相変わらず合わせるのは上手いな。その代わりにあんまり長打を打てる奴じゃなかったけど。

 ただ反撃はそこまで。その後は館山さんがゲッツーも含む完全な救援をして最後はサードフライで終わらせた。


『優勝は習志野学園!二年ぶりに深紅の大優勝旗が千葉に渡ります!』


 ここまで完勝だとぐうの音も出ない。俺たちが負けたのは今年最強のチームだったと再認識させてくれたことは喜ぶところだ。


「三年生。お前たちは今日の試合よりも習志野学園を追い込んでいたぞ。組み合わせが違えばあの舞台に立っていたのは俺たちだっただろう。……改めて負けたことを認識したかもしれないが、あの敗戦を誇りに思ってくれ。次の舞台で自慢してくれ。……国体でやり返せないのが辛いな」


 東條監督がそう締めて一・二年生はグラウンドに戻る。あんな試合を見たからこそ、悔しそうにしている三年生を見てしまったからこそ、秋大会で頑張る理由が増えてしまった。

 神宮か、春の甲子園か。習志野学園と戦いたい。

 敵討ちじゃないけど。最強のチームに挑むチャレンジャーでありたかったのは高校球児のサガだろう。

 練習が終わったら涼介におめでとうメールを出した。負けた後に勝てよってメールを出したが、これは心からの祝福だ。

 その返信は案外早く来て、しかもその内容に驚いてしまった。


「は?」


「お兄ちゃん?どうかしたの?」


「……市原が、野球に復帰した?野手で?」


 千葉の怪物。俺と比較された天才投手。

 涼介とバッテリーを組んでいた市原が高校野球に参戦した。


次も三日後に投稿します。

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