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2ー1 甲子園・序 

甲子園開幕。


※投稿先ミスっていたことに気付いておらず一話抜けておりました。申し訳ありません。

 日本で一番熱い夏が始まった。

 甲子園が始まってすぐ、どこの強豪も予選を勝ち上がった実力を遺憾無く発揮し、既に名勝負と言われるような試合をいくつも見せてきた。

 問題は二日目。千葉の習志野学園の初戦で起きた出来事だった。


 俺たちも関東大会で負けた相手だったために甲子園に来て直接試合を見ることになった。三回戦でも戦うことになるだろうからと直接見ることになったのだ。甲子園は一般客はもちろん、野球少年たちや俺たちと同じ学年の高校生らしき人たちも見に来ていた。

 甲子園ともなればわざわざ見に来る価値もあるのだろう。遠くに住んでいる人も見に来る人たちもいるだろう。俺は初めてだけど。


 俺たちは練習着で来てるんだけど、それでも帝王だとバレていた。倉敷先輩と葉山先輩はガタイも良いしテレビや雑誌でも紹介されているのできっとその二人からバレたんだろう。

 俺や三間を見て指差されている事実なんて、ない。ないったらない。

 俺たちは習志野学園だけを見に来たんだが、とにかく盛況だった。立ち見客もいるほどに人がいっぱいだ。

 習志野学園のスタメンは関東大会の頃から変わっていない。打順が若干変わっているくらいか。


「ホンマにあいつ、五番ライトやな」


「キャッチャーは三年生の大石さんがいるからな。キャッチャーなんて専門職だし、三年生を動かすくらいなら涼介を動かすだろ。涼介の外野守備もかなりのもんだし」


 先攻は広島の弘陵(こうりょう)高校。広島でもかなり強いことで有名な学校だ。

 その重量打線を、エースの名塚さんは全く寄せ付けないように圧倒的なストレートで凡退させていった。150km/hに迫るストレートと速く曲がるスライダーで二奪三振。習志野学園の二枚看板の一人はかなり優秀なようだ。

 二枚看板システム。


 習志野学園の監督が提唱した、高校野球を勝ち抜くためのシステムだ。先発投手を二人、中継ぎを一人、抑えを一人育成して先発投手に長く投げさせて継投を使い先発投手を一人必ず休ませるという画期的なシステムだ。

 二枚看板の先発投手はどちらも実力が高く、どちらが出て来ても厄介だ。そんな才能がある選手と育成能力がある学校だからできるシステムで、完全に役割分担をしているために投手も自分の実力を十全に発揮できるのだという。


 普通の学校はエースを一人育てるのが精一杯だし、抑えや中継ぎ専用として投手を育成することはほぼない。状況によって先発を変えるし、エースが抑えをすることだってある。

 だが習志野学園は一年生以外を他の役割で運用しない。中継ぎの投手は中継ぎとして、抑えの投手は抑えしかしない。そういう風に育成して選手側もそれを受け入れている。中継ぎの投手になったら絶対にエースになれないし、どの試合でも中継ぎしかやらない。三年間ずっと中継ぎで固定される。


 習志野学園に進学する投手はそうなることを受け入れている。彼ら的にはどんな形だろうと戦力になれれば良いのだろう。指導陣と選手で意見の相違が出ないことはかなりの強みだ。

 抑えだと決まれば後は伸ばす方向性を決められる。どんなことをすれば抑えになれるのかというノウハウもあるので抑えになるために徹底的にしごかれる。そして超一流の投手陣がそれぞれの強みを活かして襲ってくるという、対戦相手からしたらとんでもないシステムだ。

 後攻の習志野学園の攻撃は、いきなり爆発した。

 全員出塁して既に二点奪って、ランナー二・三塁。その状況で涼介に打席が回る。


「敬遠で良いんじゃないか?」


「なんや、弱気やな智紀」


「アイツの打率を考えたらノーアウトで無理する必要がないだろ。満塁策でゲッツーを狙う方が良い。ここで更に点を奪われてみろ。逆転するのが難しくなる」


「俺も智紀の意見に賛成だな。初回からビッグイニングにするくらいなら満塁策にもする」


 三間には弱気と言われるが、中原先輩は賛成してくれた。涼介だってクリーンナップを任されているんだから警戒すべきだ。

 だが弘陵(こうりょう)は初回から逃げ腰になるのはダメだと勝負を仕掛けた。どれだけ凄い打撃成績を残していようが、ゴールデンルーキーだろうが所詮は一年生と思ってしまったのか。


 カーブを思いっきり打ち上げた涼介。いや、打ち上げたというのは表現がよろしくない。綺麗すぎる放物線でバックスクリーンへ向かっていく。その角度に、飛び方に。観客は大歓声を上げた。

 その予想を裏切らず、白球はバックスクリーンに吸い込まれた。大会第二号となるスリーランホームランを一年生が打ったことでフラッシュが大量に焚かれる。


「あーあ」


「マージで打ちやがった……。なんやぁ?アイツ」


「あれが羽村涼介だよ」


 この結果にはもう呆れしか出てこない。アイツと三年間戦わないといけないってヤバいよな。特に千葉の同級生には哀悼の意を表する。

 習志野学園のヤバいところは涼介一人をどうにかすれば良いというわけじゃないからな。千葉の野球上手たちが集まっているんだから本当にヤバい。

 先輩方も涼介を食い入るように見つめていた。あの涼介と多分三回戦で戦うことになるんだから。


 打たれた弘陵(こうりょう)のエースは一年生に打たれたことがショックなのか項垂れていた。試合が再開されても連打は続き、一回保たずにノックアウト。

 そこからは本当に酷いワンサイドゲーム。

 継投を駆使する習志野学園から奪えた点は僅かに一点。そして打線はずっと打ち続けて二十七点を奪う暴虐っぷり。


 何よりも驚かされたのは、涼介が本日二本目となるツーランホームランを四打席目に放ったことだ。今度は引っ張り、中断まで飛ばす特大アーチ。

 これ、明日の新聞は涼介で持ちきりだろ。習志野学園だけで四本のホームランが飛び出たけど、その内の二本が涼介で一年生だ。


 元々俺たち同学年からしたらスターだったけど、これで野球を詳しく知らない一般人にも知られることになるだろう。普通甲子園で一試合二本もホームランを打てない。

 そんな圧倒的な試合を見つつ、明日は試合だったので習志野学園の試合の後は身体を動かし、試合前のミーティングを受けた。


「明日の大分商業は臥城学園のようにバランスの良い選手が勢ぞろいしているチームです。エースの実籾(みもみ)を中心とした内野陣が特に群を抜いています。実籾は二種類のカーブを使い分ける技巧派。スローカーブと大きく縦に割れるカーブを投げてきますが、皆なら大丈夫。野手は誰でも打ってきますが皆に比べれば数段劣ります。それなら抑えられるよね?真淵君、中原君」


「ああ。大丈夫だ。実籾が四番ならこいつが中心的選手。こいつを抑え続ければ相手の戦意を挫ける」


 三年マネージャーの君津先輩の言葉に中原先輩が答える。

 基準が俺たちの打線になるとどこの学校も形無しなんじゃないだろうか。

 その後も大分商業の説明がされるが、臥城のようなスラッガーがいるわけでもなく、白新のような切り込み隊長と絶対的なエースがいるわけでもないとわかった。


 明日は野手として出るんだからヒットを打ちたい。

 そう思いながら大分商業の予選決勝戦の映像を見ていった。

 夜には『熱闘甲子園』で喜沙姉が出ているのを見て、やはり涼介が凄く賞賛されていたのを確認した。

 そしてメールで千紗姉と美沙、それに母さんが高速バスで出発したというのを見て布団で眠る。

 初めての甲子園に興奮して眠れないということはなく、ぐっすりと眠れた。


 ただ久しぶりの遠征で、三姉妹誰かが布団に潜り込んでこないのはなんとなく変な感じがするなと思った。

 合宿でもそうだったのに、甲子園だと何か違うのかもしれない。合宿の時は千紗姉とすぐ顔を合わせていたけど、甲子園では誰とも顔を合わせていないことが関係しているのかもしれない。

 喜沙姉とは時間があれば電話していたけど、顔は見てないもんな。

 そして翌日、甲子園での初戦が始まる。


次も月曜日に投稿します。

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