1ー1ー2 甲子園に行く前に
姉によるインタビュー。
葉山キャプテンと倉敷先輩へのインタビューが終わった。『熱闘甲子園』といえどもありきたりな質問内容だった。俺と三間も用意した椅子に座って寮の中の談話室でインタビューを受けることに。
「それでは続きまして、東東京大会で優勝の原動力となった一年生へのインタビューを始めたいと思います。自己紹介お願いします」
「内野手三間宗輔です!よろしく願いします!」
「投手宮下智紀です。よろしくお願いします」
背番号の順番で三間から自己紹介をする。インタビューなんて高校一年生の内はないと思っていたのに。しかもその記念すべき高校初が姉ってどうなんだ。
しかも喜沙姉とプロデューサーさん的には姉弟だとバラしちゃうらしいし。母さんが許可を出したらしい。母さんが大丈夫って言ったんだから大丈夫なんだろう。
それにここでちゃんと姉弟と言っておかないとさっきの光景を見ていた帝王の女子生徒がどう暴れるかわからない。俺と千紗姉とじゃれ合ってたんだから関係性はわかりそうなものだけど、恋する乙女は視野狭窄だという。俺は女子じゃないからわからないけど。
「インタビューを始める前に……。変に取り繕うのも嫌だから言っちゃいますね。なんとこちらのトモちゃん、私の弟でーす!」
カメラさんが喜沙姉を映した後、俺のことも映してくる。こんな初っ端で言うしかないんだろうな。インタビューが進んでから公表するのも何か変だし。
「はい。弟です。いつも家族の話で語られている弟です。よろしくお願いします」
「いやー、やっと言えたよ。トモちゃん、優勝おめでとう!」
「ありがとう、喜沙姉さん」
一応テレビなので取り繕う。喜沙姉はいつも通りだからこそ俺が取り繕わなければならない。喜沙姉の評判を落としたくないし、俺もネットとかで叩かれたくない。
「三間君ごめんなさいね?姉弟で盛り上がっちゃって」
「いえいえ。俺らもよく智紀からお姉さんのお話を聞いていましたので。智紀が自慢するのもよくわかります」
「へー。トモちゃんがどういうことを?」
「お姉さんが綺麗なので、比較対象としてよく挙げていますよ」
「やだ、トモちゃんったら」
喜沙姉が照れる。まあ、喜沙姉が綺麗なのは事実だし。その事実を言って何が悪い。
「智紀のシスコンは部内で有名ですよ」
「誰がシスコンだ、誰が」
「どこからどう見てもお前や」
いや、家族だから優先しているだけで。それをシスコン呼ばわりはなぁ。家族以外にも交友関係はあるし、三姉妹は可愛いんだから仕方がないだろう。
「ウフフ。トモちゃんのことも気にはなるけど本題に入りましょうか。お二人は一年生ながら大活躍をしました。三間君、あなたはどのような目標を持って甲子園に挑みますか?」
「もちろん、全国制覇を目指します。そしてこの打撃で帝王の持ち味を全国に示したいと思っています」
「じゃあトモちゃんは?」
「三間と同じ全国制覇です。俺にできるのはやはりピッチングだと思うのでどんな状況でもマウンドに上がったらきちんと自分の仕事をしたいです」
「トモちゃんは野手としても出場してるけど、そっちだったらどうしたい?」
そこはやっぱり聞くのか。まあ俺の打撃成績と外野守備を考えると今後も野手として起用されるかもしれないからこその質問なのだろう。
三間とかの情報を頭に入れてインタビューをしてくるのは仕事熱心な喜沙姉だからこそだろう。
「野手として期待されているのなら帝王の一員として恥じない活躍をしたいです。打者としては打ち、守備ではミスのないように心掛けたいです」
「うーん、お手本的な答え。例えばホームランを何本打ちたいとかそういうのは?」
「それは三間に任せます。俺としてはチームにとって大事な場面で一本打ちたいです」
「なるほどなるほど。トモちゃんはチャンスで打つことが多いもんね」
模範解答がインタビューで一番求められていることだ。それを言ったら喜沙姉に苦笑された。まあ、喜沙姉の前で取り繕っても意味がないか。
「ホームランは狙わないの?」
「甲子園球場は広いからね。無理にホームランを狙うより確実な一本を打つよ」
「神宮球場でホームラン打ったのに?どっちもプロが使う球場だよ?」
「深さが違うよ。それにフェンスも高いし」
「そんなに違う?」
「かなり違う」
喜沙姉も調べてはいるんだろうけど、実際甲子園はかなり外野が広い。神宮球場もスワロウズが使っている球場だけどプロの球場にしてはフェンスが低い。そこでのホームランと甲子園でのホームランはかなり違う。
だから甲子園でホームランを何本も打つと話題になるし、甲子園は全体でホームラン数をカウントされている。
喜沙姉との話し合いで畏まる理由がないので砕けた口調にする。もう意味がないだろう。
「ホームランは三間や葉山キャプテン、倉敷先輩に任せるよ。三間、甲子園でホームランを打ってくれ。打撃はお前に任せる」
「任せろ。お前は投げることに集中すればええ」
「野手として出なければな。外野で起用されたら流石に打つぞ」
そうじゃなきゃ野手として出場する意味がない。ノーヒットの時もあるだろうけど、できれば打ちたい。帝王の一員として打撃で貢献したいという気持ちもある。だからお昼の打撃練習にも力を入れたんだし。
「じゃあ二人に質問です。二人はライバルだと思ってる選手はいますか?できれば同じ一年生で答えてくれると嬉しいな。それじゃあ三間君から」
「オレはやっぱり、習志野学園の羽村です。あの打撃力は同年代の括りを超えています。なのでライバルとして追い越したいのは羽村です」
「俺は、臥城学園の阿久津と習志野学園の柳田です。二人とも同年代ではかなり飛び抜けている投手なので」
「どっちもサウスポーの系統が違う投手だね。なるほどー。三間君は羽村君に勝ちたい?」
「それはもちろん!アイツには負けてられないですよ!」
俺たちの回答に喜沙姉は満足したようだ。こういう質問をするから答え考えておいてと言われて考えたが、まあ名前を出すならこの二人だろうと思った。
三間はまあ、同年代の野手としてライバルを出すとしたら涼介にしかならないだろう。誰もが注目するスラッガーだし。
「羽村君も三間君も本来のポジション以外で試合に出ているけど、そういうところもライバル視している理由だったり?羽村君は本職キャッチャーで今はライトとして出場しているけど、三間君も本職はサードで今はファーストだもんね?」
「そうですね。そういう意味合いもあります。チーム事情で他のポジションを守ることもあるでしょう。三年生に素晴らしい先輩がいらっしゃるので。倉敷先輩はスラッガーとしてもサードの名手としても尊敬しています」
「倉敷君のバッティングもサードのフィールディングも上手だからね。目標なんだ?」
「身近な目標です。学ぶところがたくさんですね」
今更ながら三間の標準語による丁寧語が気持ち悪い。いつも方言で話している奴がこうも取り繕って言葉を綺麗にしていることがむず痒い。
でも話している内容は事実だろう。三間が倉敷先輩を尊敬しているのは本当だ。やっぱり帝王で四番を任されるスラッガーは別格。雰囲気といい、打球の角度や速度、守備の丁寧さなどは見習うべきだ。
「トモちゃんは野手としての出場もそれなりにあるけど、投げるのと打つのはどっちが好き?」
「それはもちろん投げることが好きです。自分を根っからの投手だと思っているので。投手として投げている時は打つことは三間に任せたいくらいです」
「おう、任せえ。けどオレは投げるのは好かん。投手は智紀に任せた」
「良い信頼関係が築けているんだね〜。お姉ちゃんとしてはちょっと嫉妬しちゃうかも」
「必要ないですよお姉さん。こいつのシスコンとしての愛はオレらの常識を超えてますから」
「まあ」
「おい」
インタビューに慣れてきたのか三間もおちゃらけだす。この映像が使われて困るのは俺と喜沙姉なんだぞ。たぶん男の俺が炎上するんだろうなあ。
あと喜沙姉。三間に詳しく聞こうとするな。恥ずかしいことは言ってないはずだけどなんか怖い。
インタビューはこんな感じで終わり、プロデューサーさんからも東條監督からも特に何も言われなかった。
映像が流れる日が怖くなってきたぞ。
「久しぶりのトモちゃんへのインタビュー、楽しかったぁ。野球部でも仲良く過ごせてるみたいでお姉ちゃん安心したよ」
「野球部は大丈夫だって俺と千紗姉が言ってただろ」
「それに私たちのことも随分自慢しているみたいだし?」
「千紗姉はここにいるし、美沙もよく顔を出すからな。喜沙姉は普通に知名度が高いから話題に出すだけ。……自慢してるわけじゃないんだけど、そう聞こえるんだろうな」
「うんうん、良かったー。じゃあトモちゃん、私はこの後も打ち合わせとかあるからもう行くけど、練習頑張ってね」
「ああ。そっちも頑張って」
本当に喜沙姉も忙しいな。甲子園に応援に行くとは言ってたけど、『熱闘甲子園』があって色々と大丈夫なんだろうか。それだけに集中するわけにもいかないだろうし。
母さんも日程によるだろうけど毎日は無理って言ってたもんな。まだ試合の日程は決まっていないけど、事務所としてのスケジュールはほとんど出ちゃってるだろうから微調整ができるのかどうか次第。
まあ、遠くからの応援でも全然良いんだけどな。俺が先発でもない限り母さんも喜沙姉も無理して来るようなことはないし。野手としてのスタメンだったら見られないことに悲しむかもしれないけど、仕事の方が大事だろ。
インタビューも終わらせて、高宮を呼んでブルペンに入る。でも調整の意味合いが強くて投げる球数は少なかった。
あんなインタビューを受けておいてベンチ入りできなかったらどうしよう。
次も三日後に投稿します。
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