4ー1 春大会の場合
「……圧勝じゃないか」
「打線がやべえな、ウチ」
高校生活にも慣れてきた4月の下旬。春の東京大会決勝。我が野球部は12ー4という大差で圧勝していた。相手がどこでも関係なく打ち崩す強力打線。知っていたつもりだったが、ここまでとは。
応援も終わって撤収準備を始める。特に葉山先輩と4番の倉敷先輩がアベックホームランを放った時は一番盛り上がった。毎回の2桁得点には開いた口が塞がらない。最近は打高投低と言われているが、それでも東京の投手陣は全国を見てもかなりレベルが高い。全国区の投手がゴロゴロしているのが東京だ。
だから東京の有名な選手は投手野手関係なく、他県に行って甲子園に出られる確率を上げる。東京は東と西に別れることから学校数だけなら全国1。それで有力選手は三間たちのように越境入学してくるんだから、魔境になるわけだ。
そんな場所で圧勝しちゃうウチって何なの?
「次は関東大会か……。今年は千葉だっけ?」
「だね。近くて良かったよ。栃木とか群馬だと球場まで遠いもん」
確かに。選手じゃないんだから泊りがけなんてできずに、早朝バスに乗って移動とかだろう。確かに近場で良かった。毎度持ち回りだから、いつかその2つの県でやるんだろうけど。
GW明けに行われる関東大会。それが夏の予選大会の前にある最後の公式戦だ。それが終わったら後は練習試合しか試合はなくなる。それまでに1軍に上がりたいなあ。
あ、千駄ヶ谷が2軍に上がった。身体が細かったから1ヶ月様子を見られたそうだ。見た目はそんなに変わってないけど、走り込みで体力がついたと評価されたんだろう。
「GWは2軍も毎日試合だってよ。全部ウチの学校に呼んで試合するんだってさ」
「周りでも2球場あるのってウチくらいやろし、それもそうやろ」
「1軍は逆に外へ遠征らしいぞ」
東東京の高校を呼んでウチの戦力を知られても困るのだろう。だから近場と勝負する時は2軍に任せるのだろう。
他県の強豪校なら、もう二度と戦わないかもしれない。だからどこの強豪校もこの時期は基本他県と戦うのだろう。調整の意味でも戦力を試すという意味でも都合がいい。
「試合出てーな」
「そりゃあ誰でもそうだろ」
「試合数多くなるから今も千紗姉が1年女子マネージャーにスコアの書き方教えてるんだし。招待試合は特に大変って言ってたな」
相手への接待や施設の使用の説明とか、やることはいっぱいあるらしい。3軍も手伝うらしいけど、審判とかも3軍はやるので全部に手は回らないらしい。
「遠征は1軍だけじゃなくて、1軍に上がれそうな2軍の選手も連れて行くらしいから、どうしたって2軍の戦力は落ちるって言ってたな。それは裏を返せば、俺たちの出場機会もあるかもって話だが」
「だよね。ワンチャンスを大事にしないと」
刺激をもらって球場を後にする。学校に戻ってからは一層練習に打ち込むことになり、監督やコーチ陣へのアピールをしまくった。2軍の指揮を執るのはコーチなので、コーチが使うかを考えてくれるだろう。
GWに学校に残る2軍の投手は俺も入れて4人。出番はリリーフだろうけど、全部抑えるくらいの気迫でいかないと。
「宮下。ちょっといいか?」
「宇都美コーチ」
コーチのうちの一人。主に投手陣を担当してくれているコーチだ。東出監督の後輩らしい。小太りな方のコーチだ。
「GWの練習試合だがな。最終日だけ先発してもらう予定だ。それまではリリーフで登板してもらう」
「わかりました」
「サインとかは覚えたか?」
「はい。大丈夫です」
「そうか。期待してる。体調だけは崩さないようにな」
「はい!」
────
その日の夜。久しぶりに懐かしい奴から電話が来た。メールはちょくちょくやってたけど、電話は初めてだな。
「もしもし?どうかしたか?涼介」
「いや、久しぶりに近況聞きたくて」
相手は羽村涼介。Uー15で組んだキャッチャーだ。千葉の名門校、習志野学園に進学した世代最高捕手。俺たちの学年で一番有名かもしれない奴。
Uー15以降連絡先を交換してたまにメールをしていた仲だ。
「ウチの学校は春の大会優勝したぞ。関東に出る」
「知ってる。速報で見た」
「知ってるのかよ。じゃあ何で電話して来た?」
「ベンチメンバーまではわからなかった。智紀がベンチ入ってんのかなって思って」
「俺はまだ入ったばっかだぞ?2軍じゃベンチに入れない。この時期に新入生がベンチに入るなんてよっぽどだろ」
選手登録が確か4月3日期限とかだったはず。だから新入生をベンチメンバーに入れることは一応できるが、部員が足りてなかったとか、よっぽどの逸材じゃない限りベンチ入りなんて無理だろ。
そう思って返事したのに、中々声が返ってこない。どうしたのか。
「おい?どうかしたか?」
「ああ、いや。ウチも勝ったよ。千葉開催だからこっち来るんだろ?」
「スタンドだけどな。……なあ、嫌な予感してるんだけど?」
「まあ、多分当たってる。背番号18でベンチ入ってる」
「はぁ⁉︎自慢かよ!」
「そんでもってその試合は6番ライトで先発だった」
「先発⁉︎しかもライト⁉︎キャッチャーじゃないだけ驚き少ないけど、いやライト!」
外野じゃん。高校野球って他のポジションやる人がライトかレフト、あとはファーストに飛ばされやすいよな。涼介は肩強いからファーストよりは外野の方が向いてるんだろうけど。
そっかぁ。1年の4月から公式戦で先発するのかあ。絶対将来は羽村世代って言われる奴だ。頭角示しすぎだろ。
「で、打撃成績は?」
「4の3。3打点。2塁打1つとホームラン1つ」
「千葉の、決勝戦だよな?」
「ああ。関東大会出るための試合」
はぁ〜?何この化け物。後で千葉県の試合確認しよ。もしかしたら習志野学園、手がつけられないんじゃ?速球派の左腕も新入生で入ったって雑誌に書いてたし。
新入生がいきなり6番打つことも驚きだけど、それで結果出してるって、怖いな。
「関東大会だと背番号も一新されるだろ?入る可能性あるのか?」
「ないよ。何も言われてないし、メンバーは変わらずだろうな」
「なんだ。対戦できるかもって楽しみにしてたのに」
「新入生でこの時期ベンチに入ってる奴を探す方が大変だろ」
でも実際どれくらいいるんだろうな?涼介レベルの実力者。……いや、こいつは飛び抜けてて基準にならないだろうけど。
そんなに活躍してるなら聞きたいことがある。習志野学園もかなりの強豪校だし、帝王学園と似たような感じのはず。寮もあったし、境遇は似ているはずなんだ。
「野球関係ない話していい?」
「ん?別にいいけど」
「お前ってモテるの?」
「何?恋愛相談?」
「いや。女の子にキャーキャー言われてるのかなと」
「言われるなあ。いや、いい子たちなんだろうけどな?こっちの邪魔をしないし」
それはいい子たちだ。邪魔をしないだけでだいぶ違う。こっちはキャーキャー言って囲んでくるからな。
「そういう女子って怖くない?」
「怖い?ファンなんだろうなって思ってるから別に。先輩たちもよく女子からクッキーとかの差し入れ貰ってるぞ。告白される人もいるけど、周りの女子が怖いなんて思ったことはないな」
「恵まれてるな、お前は……!」
そうしたら何だ?帝王学園がおかしいのか?それとも都民と千葉県民の性格の違い?
何でそんなに民度が違うの?おかしくね?
「そっちって女子マネージャーいるんだっけ?」
「そもそもマネージャーがいないな。マネージャーの役割は3軍が練習の合間で担当してるから」
「あー。そういう方式か。それなのに女子の治安が良いって、どうなってるんだ?」
「そっちってそんなに女子生徒がヤバイのか?」
「もう放し飼いだよ……」
教室での出来事や、球場周りでの様子を大まかに伝える。言ってて思ったけど、何でこんなに野球部に注目されてるんだ。他のスポーツだってかなり力入れてるのに。
野球部で練習している時は他の部活の練習なんて見れないからわからないけど、野球部のアレが明らかにおかしいのはわかる。野球場の周り女子ばっかじゃん。
「大変だなー。推測だけど、逆に女子マネージャーがいるからそんなことになってるんじゃないか?」
「え?何で?」
「野球部に近い立場の女子がいるんだろ?その女子に勝つには近くで応援するしかない。皆のために頑張る女子マネージャーじゃなくて、あなただけを見てる女の子アピールとか。女子マネを出し抜くために群がってるんじゃないか?マネージャーって仕事大変なんだろ?」
「まあ、全員の練習を見守れないくらいには。でもさ、だったらずっとキャーキャー言ってるのは何なんだ?」
「もう目当てを見付けたか、探してる最中か。全員が全員そんなアホな訳もないと、思いたい」
「願望じゃないか……」
俺もその推論が当たってると良いなとは思うけど。アホばっかりだったらどうしよう。
「じゃあ建設的な話をしよう。彼女できた?彼女できれば解決すると思うけど」
「できねーよ。むしろ女子怖いって思って作る気が失せた」
「ははは。青春が灰色だなあ。野球に専念するか?」
「それが良いかなって思ってる。涼介は?」
これだけ活躍すればモテるんだろ。告白されて嬉しかったんで付き合っちゃいました、なんてこともありそうだ。涼介も彼女いたことないらしいし。
「俺も彼女はまだ。……恋って怖いよ」
「なんか実感ある声だな。どうした?」
「身近な人の恋を見守ってるんだけどさ。あれはもう恋を超えてるね。愛だよ。そんでその愛が行き過ぎてて、他の人のことが目に映ってない。2人の世界で完結してるんだ」
「恋は盲目ってやつ?」
「んー……。言語化が難しいんだけど。多分その女の人は、その男の子が大好きなんだよ。野球やってる姿が好きだった。甲子園に行けるって確信してた。……その代わりに、俺はなれないんだよ。俺とそいつが一緒じゃないと、満足できないんだ。そんで、その夢はもう一生見られない。2人して夢を諦めて。……見てて、辛いよ」
「それって、市原か?」
涼介の知り合いの男子なんて俺が知る限り彼くらいしか知らないんだけど。市原ならその条件に全て合致する。高校で肩が治らないってわかったから習志野学園には進学しなかったって聞いた。市原も習志野学園から推薦を貰っていたが、肩の事情から断った。野球ができないのに推薦を貰うわけにはいかなかったんだろう。
涼介と違う学校に行った時点で、もうその人の夢は叶わない。どうしようもできない。
「ま、わかっちゃうよな。一応経過とか聞いてるからヒロの肩も順調らしいんだけど、良くてキャッチボールができるくらいなんだって。それを見て姉貴泣いちゃってさ。薄々わかってたんだけど、ヒロのこと男として好きだったんだなって」
「回復してきて何よりだ。……ん?市原のことが好きな女の人って、お前のお姉さん?」
「やべっ。ボカした意味ないじゃん」
今更焦ってるけど、そうかそうか。野球小町は市原のことが好きなのか。
まあ、好きになる理由はわかる。市原の才能は涼介に匹敵する。世代の名前が涼介になるか市原になるか。それぐらいの投手だった。ただ千葉第3中学校は人数が少なすぎて長期戦が厳しかっただけで、実力自体はトップクラスだっただろう。上の大会になると市原が投げ続けないといけなかったのがネックになっただけで。
それで涼介と一緒に甲子園に連れて行くと言い切るような漢だ。惚れるのもおかしくない。
そんな好きな人が入院してたんだから、弟の晴れ舞台でも顔が浮かないわけだ。
2人を繋いでいる野球が、できなくなってしまったんだから。
「俺は何も聞かなかった。お前は何も話さなかった。OK?」
「おう。サンキュー。それでさ、姉貴その愛がなんか暴走してるんだよ。ヒロの学校の野球部マネージャーさんがヒロのこと野球部にスカウトしてさ。それに嫉妬して野球で真剣勝負吹っかけてんの。どこに向かってるんだかわかんなくてさ」
「なんでそんなわけわかんないことになってんの?」
「菊原って高校なんだけど、偵察でウチに来てたら実力差に焦ったんじゃないか?ヒロの打撃は高校でも即戦力だろうし。ま、姉貴ヒロにホームラン打たれたんだけど」
「……だいぶ面白いことになってんな。そっち」
由紀さんはその女子マネージャーに嫉妬したんだろうか。市原を取られたくないって。それで野球勝負って、脳味噌野球で詰まってるのか?しかもそれでどうしたら市原が由紀さんからホームランを打つことになるんだか。
「面白くないよ。すれ違ってるんだか相思相愛なんだかよくわかんない恋愛模様を見なくちゃいけないんだぞ?胃が痛い」
「相思相愛?市原も由紀さんのこと好きなのか?」
「おそらく。なんでそれで付き合ってないのかってくらい距離近いし、甘い空間作ってる」
「……そんな姉と親友の姿見るのか。辛いな」
「わかってくれたか……」
それから2人に関する愚痴を聞いた。聞いてるだけなのに甘ったるくなる話ばかりだ。
肩が治って最初のキャッチボールの相手が由紀さんだとか、家の洋菓子店で市原が作った試作品を3日に1回食べてるとか、涼介の応援に来たら2人揃って座ってるわ。
それで付き合ってなかったり、リハビリによく付き合っていたり。
天才捕手様も日常生活に悩みを抱えているようだ。
次は明後日に投稿します。
明日は「オンモフ」を投稿します。
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