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その18 結成

 先程まで騒がしいとはいえないまでも、それなりの喧噪に包まれていたフロアが静まり返る。


「――なぁ、次は誰を殺す気だ? 死神ぃ」


 後ろを振り返れば、ニヤニヤと人を見下すような嫌らしい笑みを浮かべる複数の男達が立っていた。

 その中心となっている男は、前髪を整髪油で後ろに撫で付けたキザッたらしい見た目をしている。

 名前はキザール。その見た目も相まって、内心でキザ男と呼んでいる鬱陶しい奴だ。


「何か用か?」


 嫌なタイミングで、面倒な奴等に見つかってしまった。

 内心で舌打ちしつつ、正面から向き直る。


「いやいや、別に用って程でもねぇよ? こっちは偶然通り掛かっただけだしな」


 偶然というのは本当なのだろう。事実、先程までこいつらがいる気配は感じなかった。


「ただ、お前がパーティを組むだの何だの叫ぶシエルちゃんの声が聞こえてよぉ。どんなアホが釣れたのか拝んでみたくなったのさ」


 ゲラゲラと下品な仕草で笑う男たち。暇なのか、顔を合わせる度に何かにつけて絡んでくる連中だ。

 キザ男など、この性格で放浪騎士の職に就いているのだから、世の中とは儘ならないものだと思う。キザ男がレベル2で、取り巻きは全員レベル1。俺より低い。

 相手も俺のレベルを知っている――俺がレベル4になったことは知らないはずだが――のだろう。どこで出会ったとしても、決して暴力方面では絡んでこないのが良い証拠だ。


「――突然脇から生えてきたかと思えば、随分と無礼な人達だね?」


 敢えて俺の背中に隠していたのに、わざわざ前に出て行くステア。

 その瞬間、男達が固まった。

 その呆けた表情を見るに、ステアの容姿に見惚れているようだ。まぁ、無理もない。


「釣られた阿呆の顔を見れて満足したかい? ならば、さっさと去るがいいよ」


 ステアの口調は普段よりも静かで、声音も低かった。


「い、いや、悪かった。謝るから、そう邪険にしないでくれよ」


 見目麗しい少女に、初見から毛嫌いされるのは避けたいのか、慌てて取り繕うキザ男。


「アホっつーのは言い過ぎたって認めるけどよ、こいつとパーティを組むってのは、それくらい有り得ねぇって意味なんだぜ?」

「……っ」


 言い返したいのに、言葉が出てこない。

 俺は無意識のうちに拳を握り締めていた。


「こいつは過去に5回パーティを組んでる。だが、そのパーティは何れも4度目の依頼を受けた後、解散した。何故か分かるか?」

「興味ない」


 ステアは冷え切った眼でキザ男を見据えている。

 にべもない態度に怯むキザ男だが、めげずに話を続ける。


「そ、そう言わずに聞けって。結論を言えば、依頼遂行中にメンバーが全滅してんだよ」


 そいつを除いてな、という台詞が俺の心を鋭く突いてくる。


「ちなみに、話を盛ってるとかそういうんじゃないぜ? れっきとした事実だ。なぁ、死神?」

「……」


 その通り、キザ男が言っていることは誇張なしの紛れもない事実である。


「最後のパーティだけはそいつ以外にも生存者がいたらしいがよ、結局は4度目の依頼で崩壊、解散は変わらねぇ。それだけじゃねぇぜ? そのパーティを率いていた、この街で一番強かったレベル5の英雄ですら、その時に死んだ」


 キザ男の言葉が朗々とフロアに響く。

 それに反応して、俺に向けられる視線は憐憫、恐怖、忌避。


「仲間を何人も犠牲にしておいて、それでも卑しく現世にしがみついているクズ。それがそいつの正体だ」


 公衆の、それもステアの前で俺の過去を暴露できたのが余程嬉しいのだろう。キザ男は得意げに口の端を歪めた。


「これで理解できただろ、お嬢さん。アンタが死神と一緒にいる理由は知らねぇが、何れにしても、そいつに関わると碌な目に遭わねぇ」


 沈黙したまま何の反応もみせないステア。

 それをどう判断したのか、キザ男は下卑た笑みをもって言葉を続ける。


「なぁ、そんな危ねぇ奴なんか捨てて、俺達のところに来いよ。"歓迎"するぜぇ?」


 上から下まで、じっくりと舐め尽すようなキザ男の下衆な視線。

 カッと頭に血が昇り、思わず一歩踏み出しかけるが、ステアの呆れたような溜め息が鼓膜を掠め、自然と足が止まった。


「とんだ時間の無駄だった……。幼子でも察せるような馬鹿と話す舌を持った、このわたしが愚かだったよ」

「あんだとぉッ!? ――ッ」


 気色ばんでステアに詰め寄ろうとするキザ男だが、そんなのは俺が許さない。

 いざとなれば剣を抜くことも辞さない覚悟で一歩前に出ると、キザ男は怯んだようにその場に留まった。

 そんなやり取りを特に気に留めることもなく、ステアは淡々と口を開く。


「死神がどうとか関係なく、誰だって想定外の不運に見舞われることはあるだろうさ。そもそも、戦闘を生業としている以上、常に死と隣り合わせだということは、貴様らとて重々承知しているはずじゃないかね? わたしから言わせれば、死した者は単純に弱かったか、運が悪かった……それだけでしかない」


 ぎゅっと、腕を抱えられた。


「しかし、タロウは違う。絶望的な状況から生き残るだけの実力と運を持ち合わせている。だからこそ、今ここに立っているのだよ」


 強い意志を秘めた真紅の瞳が、俺の瞳孔を真っ直ぐに貫いてくる。そのまま、流れるような動作で腰を抱き寄せられた。


「――仮に、本当にタロウの背中に死神が憑いていたとしても。このわたしが、完膚なきまでに叩き潰してあげるよ。くだらないジンクスと一緒にね」

「ステア……」


 耳元へ、そっと送られた彼女の言葉に、心臓が一際大きく高鳴った。


「わたしがパーティメンバーに望む相手はタロウだけ。これが答えだよ。せっかくのお誘いだが、余所をあたるといい」


 俺の頭を解放し、貴人を思わせる優雅な仕草で鉄扇を開いたステアは自らの口元を覆って隠す。

 そして、蔑みに歪んだ眼で男達を睥睨した。


「塵芥にかかずらっていられる程、わたし達も暇ではない。もう一度言うが、さっさと去ね」

「テメェ……ッ!」


 塵芥と罵られ、殺気立つ男達。麗しい少女の外見に惑わされて、自分達より強いとは考えていないのだろう。

 彼女がどんな存在かも知らず、いい度胸をしている。


「わざわざこっちから声掛けてやったってのに、随分とつれねぇ態度じゃねぇかよエェッ!?」

「人の言葉すら満足に解せんか? わたしはとっとと失せろと言っているのだが」


 ステアの声音が一段と低くなる。その瞳には、暗い苛立ちと嫌悪の色が見て取れた。


「――タロウを、わたしの恩人を、口汚く悪し様に罵倒されて。いい加減、こちらも我慢の限界なんだ……」


 ステアが撒き散らす殺気に反応し、グラムが一歩前に出る。持ち前の凶悪な鉈を引き抜きながら。


「ひっ……お、おいっ!? ギルドに所属している者同士での暴力沙汰は御法度なんだぜ!? ギルド資格を取り消されてぇのかよっ!」


 濃厚な死の気配を漂わせるステアの殺気とグラムの闘気に曝されて、さしもの男達も目の前の2人が自分達より格上だと悟ったらしい。身の危険を察し、ギルドの規定を語りだした。


 だが、それは悪手だったようである。


「ああ、そういうことか……。だから、貴様ら如き雑魚が、堂々とタロウを謗れたのだな――タロウが拳を振れないと知っているから」


 ゆらりと、ステアがゆっくりと前に踏み出す。さらに殺気が膨れ上がった。

 本能が、これはマズイと警鐘を鳴らし始める。


「どこまでも見下げ果てた糞蟲共め――」

「よせ、ステア。もういい」


 ステアの肩を掴み、止める。

 振り返ったステアは不満そうな顔をするが、俺は黙って首を横に振る。


「――い、行くぞ! お前らッ」


 ステアの視線が逸れたのを見計らい、キザ男達は足早に退散していった。

 騒ぎの元凶が去り、ぎこちなくも1階に喧噪が戻ってくる。


「ふんっ」


 つまらなそうな鼻息を一つ。ステアは俺の腕を引っ張り、カウンターの前へと押しやった。


「さあ、あとはタロウのサインだけだよ」

「……」


 カウンターの上に鎮座するパーティ申請用紙を見つめ、ペンを手に取る。

 ステアがあそこまで啖呵を切ってくれたのだ。俺も腹を括ろう。

 覚悟を決めて、用紙にサインした。

 少し文字が震えているのは、見なかったことにしてほしい。


「うむ。これで私とタロウは立派なパーティメンバーだ」


 表情を柔らげ、満足そうに用紙を見やるステア。

 グラムも一緒だよ、と一応口を挟んでおいた。


「これから楽しみだね、タロウ?」


 吸血鬼らしからぬ、日向を思わせる温かな微笑。


「……そうだな。本当に、楽しみだ」


 これまでそれなりに長い間ソロを続けていた俺だが、それも今日まで。

 俺の寂れた日常が、どんどん彼女によって塗り替えられていく感覚――それは一抹の不安と、それ以上の期待を俺の胸に抱かせてくれた。


 暫くして、シエルがギルドタグを携えて戻ってきた。


「お待たせしました。タグに魔力登録を行いますので、こちらの水晶玉に触れてください」

「うむ」


 指示されたとおりにステアとグラムは水晶玉に触れると、中心に淡い光が灯った。

 ギルドタグに各々の魔力が刷り込まれた証だ。


「登録が完了致しました。どうぞギルドタグをお受け取りください」


 シエルからギルドタグを手渡され、ステアは自らの首に掛けると、俺に見せびらかしてきた。とても嬉しそうな笑顔で。

 とりあえず、頭を軽く撫でて応えておく。


「ギルドタグは身分証明書の代わりにもなりますので、なるべく紛失しないようにお願いします。万が一紛失した場合は、再発行の手続きに一週間程掛かります。その間は如何なる理由があっても、ギルドの依頼を受領することはできませんので、予めご了承ください」

「留意しよう」


 シエルの説明を受け、真面目に頷くステア。グラムは相変わらずの無反応で、聞いているのかいないのか、傍目からは判断できない。

 それを気にするでもなく、シエルは続けてパーティ申請用紙に目を通し始めた。


「記入漏れはないみたいですね。はいっ、お疲れ様でした。これにてパーティ登録は完了です。それでは最後に、労働者斡旋ギルドにおける規約の説明を――」


 その後、シエルからギルドのルールを一通り説明された後、ステアは晴れてギルドの一員として迎えられた。


――労働者斡旋ギルドに所属する戦闘職の人間の総称『マーセナリー』として。


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