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その15 ステアのお部屋

 俺達が教会に赴いてから、瞬く間に1週間が過ぎた。

 その間、おすすめの店やら、1人で近寄ってはいけない場所等を教える為、連日ひたすら街を巡った。

 人類の生活様式を目の当たりにし、ステアがあれは何、これは何、と終始興奮していたのは記憶に新しい。

 そんな日々の中で、見つけ次第積極的に購入していた物がある。

 そして今日は、その購入した商品が業者により家へ運び込まれる日だ。


「むぅ」


 可愛らしい小さな唸り声が俺の耳に届く。

 落ち着きのない影は、先程からチラチラと玄関に視線を向けては、家の中をうろうろと行ったり来たり。朝から忙しないステアに苦笑しつつ、リラックス効果を持つハーブを煎じたお茶を淹れてやる。


「少し落ち着け。ほら、ハーブティー淹れたぞ」

「え? ああ、そうだね……うん……」


 自分でも舞い上がっていると認識したらしいステアは軽く頬を赤く染めると、素直にテーブルに着いた。

 コップを両手で持ち、ちびちびと舌を湿らせるように飲む。

 その様子をぼんやり眺めつつ、俺も自分用に入れたハーブティーに手を伸ばした。


 しばらくして、ハーブティーも飲み終わり、互いにまったりと過ごしていたところ、玄関の扉が叩かれる。


「こんにちはー。トンブロ家具店の者です。ご注文の品をお届けに参りましたー」

「――きたッ!」


 扉を叩かれた時点で反応したステアが、脱兎の如く飛び出していった。

 どれだけ楽しみにしていたのか、その姿はまるで心待ちにしていた散歩に繰り出そうとする子犬を連想させ、思わず吹き出してしまう。


「やれやれ」


 ステアのお尻にブンブン振られた尻尾を幻視してしまい、込み上げてくる笑いを必死に噛み殺しながら、俺は遅れて玄関へと向かった。


◆  ◆  ◆


 何事もなく家具を設置し終え、退出する業者――感謝を添えて手を振るステアにデレデレしつつ、隣にいる俺に激しい羨望と嫉妬の眼差しを残していった――を見送った後。


「なんということでしょう。ベッド以外に物が何もない、あの酷く寂しかった部屋が――」


 恍惚と呟くステア。その熱視線は、今日からステアの私室となる部屋に注がれている。

 場所は俺の私室の向かい側であり、かつては妹が使用していた部屋だ。


「……イイ……実にイイ!」


 両親と妹がこの家を出ていく際、彼らの私室に置いてあった私物や家具の類はベッド以外全て処分していった為、これまでは本当に何もないがらんどうだった。

 それが今や、穏やか且つシックな感じのインテリアで統一されている。

 家具店の店員が――ステアの容姿に魅せられて――付きっ切りで相談に乗ってくれたおかげもあり、値段をギリギリまで抑えながら買い揃えた家具類は新しく購入したベッドやカーペット含め、大人しい色合いの茶色、アクセントが効いた赤色やオレンジ色を組み合わせたカラーコーディネートとなり、見る者に新鮮な感動を齎してくれた。

 ちなみに、使用者不在のまま放置されていた古いベッドは下取り直行である。さらば、妹のベッドよ。安らかに眠れ。


「吸血鬼の居室とは到底思えない、とても明るい雰囲気のお部屋ですね」

「吸血鬼が暗い雰囲気しか好まないと思われるのは遺憾である。偏見も甚だしい」 


 控訴も辞さないと抗議してくるステアはさておき、これで彼女の居住空間は確保されたわけだ。

 ちなみに、私服が着物一枚というのもあんまりなので、幾つか外着と部屋着も購入してある。それらを収納する箪笥や鏡台その他諸々を含め、そこそこの出費となってしまったが、まだ貯金は残っているので問題はない。

 とはいえ、あまり余裕が無くなってきたのも確かだ。もうそろそろ、本格的に金策に勤しみたいところではあるが……。


 まぁ、今はいいだろう。


 それよりも、自分だけの聖域を手に入れたステアが頗るご機嫌だ。早速、真新しいベッドに向けて大胆にダイブしている。


「ふかふかぁ……」


 とろんとした瞳で緩み切った声をあげるステアは、しばらくその柔らかさを堪能することにしたようだ。

 業者の皆さんがサービスと称してステアの要望通りに家具を設置していった為、既にこの部屋の居住性は完璧に整えられている。俺がここにいてもやることはない。

 一応、搬入された家具の組み立てや設置を見越して、午前中いっぱいは予定を空けておいたのだが、思わぬ形で暇になってしまった。


 せっかくだし、午後にする予定だった家事仕事を午前中に終わらせてしまおうか。それで、午後はゆっくり過ごそう。

 よし、そうと決まれば早速行動開始だ。


「ステア。ちょっと買い出し行ってくる。留守番頼むな」

「んぁーい……いってらっしゃい……」


 寝転がったまま、手をふりふり。

 今にも夢の中に落ちていきそうなステアを残し、俺は部屋を後にした。

 まずは買い物を済ませて、昼食の準備と夕食の下拵えを終わらせてしまおう。その後は鍛錬と武具の手入れだな。


 さてさて、昼飯は何を作ろうか。



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