表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人の神様 ~虹神~  作者: 似純濁
4/4

2 母なるものよ 過去編

その頃、橙蜜柑は下界の人間の更生を行う「更生部」に所属していた。


天界から下界に降りる。今回の出張先は雪が降りしきる北国。

うう……寒い……。

ターゲットは……あ、いた。

眼窩が落ちくぼみ、髪はぼさぼさ。傘も差さずに猫背で歩く、二十代後半の男性。

「セルゲイさん……?」

蜜柑は彼……セルゲイに呼びかける。

彼がこちらを向いた。

蜜柑は瞬時に、聖母のような微笑みを浮かべる。蜜柑は母性で下界の人間の心を動かすように造られたらしい。上司から聞いた話だが、その思考を蜜柑はあまり好きになれなかった。

顔つきが変わった。

「誰……ですか」

「あなた、大丈夫ですか?寒そうですね。わたしの家に来ません?」

セルゲイは警戒する表情を浮かべた。

「そこの家なんです。冷えてしまいますよ。さあ、行きましょう」

目の前の小屋を指差し、にっこりと笑うと彼は頷いた。


「名前……なんというんですか。僕は……セルゲイです」

「サーシャって呼んでください」

スープとパンをテーブルに運ぶ。

「わあ……」

彼はパンに手を伸ばした。

「どうぞ。召し上がってください」

蜜柑もスプーンを取った。

「ありがとうございます……。僕……二日間、何も食べていなかったんです」

「そうなんですか……大変でしたね」

蜜柑は、セルゲイのデータを反芻した。

セルゲイ・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー、二十九歳。

セルゲイは身寄りがいない。母親は癌で死亡。父親は莫大な借金を残して失踪。父親の借金を背負って、公園で生活している。

蜜柑は心が締め付けられるような思いだった。このことを彼に言ったら、同情していると思われるだろう。

守ってあげたい。

蜜柑は自分のその思いに身震いした。

これが……母性、というものなのか?


蜜柑はセルゲイを何日か泊めていた。ここまではマニュアル通りである。

更生部の神たちの使命は、下界の人間たちを更生すること。

蜜柑は彼の心を解こうと努力した。しかし、踏み込めたと思ったら急に暗い目をして黙ってしまう。その繰り返しだった。

ある日、夕飯を二人で食べている時。

「サーシャさん」

「はい、何でしょう?」

微笑みを浮かべた。

息をすっ、と吸って彼の口が開いた。


気づくと、セルゲイが札束を持って家から出ようとしていた。

「ま、待って……!」

蜜柑は駆けていって手を伸ばす。

「さよなら。サーシャさん」

彼女の目の前で、無情にも扉は閉められた。


To Be Continued......

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ