1 あの子の神様になれたのかな 現代編
「で?」
紺が短く言葉を発した。
「で?って……それだけ」
少し、紅は目を伏せた。
「それ、いつのこと?」
「十年……前?」
葵の問いに答えた。そっか、もうそんなに経ってるんだ。
「紅ちゃん、そのエリックって奴のこと、好きになっちゃったんじゃないのぉ?」
「そ、そんなわけないですよぉ~。紅ちゃんに失礼でしょお」
檸檬と葉月の絡みを生暖かく見守る。
「紅ちゃん、下界に見に行ってみたらどうかな?」
「……そうだな」
蜜柑と菫の提案には、頷けない理由がある。
「うちさー……あの後何言ったか覚えてないんだよねー。すっごい失言しちゃったかも」
「あちゃー、紅ちゃんならやりそう」
「らしくないよ!もっと楽天的に行かなきゃ!」
檸檬がタックルしてくる。
「えー、でも……」
「ぐずぐずしない!さっさと行ってきなさい!」
葵が仁王立ちをして目をつり上げた。
「じゃあ……行ってくる」
下界にて。
街は、夏のお祭りのようだった。
サラの格好で、人通りが多い所を歩いてみる。
「うっ……ゴホッ」
あー、汚いなぁ下界は。
耐えきれず、人の少ない広場に出る。
三人くらいの大学生グループがある。
「あっ………」
紅と、天界の六人は直感した。
そのグループの一人、茶色の髪をポニーテールにしている女子大生。
「彼女が、エリック……?」
その頃の天界。
「えっ……!?」
「えーーっ!!エリックってじょそうしゅみ……」
「檸檬、やめなさい!」
葵に叩かれている。
「でも……ありえますよねぇ……ショートの女の子だったんですね」
「紅ちゃん、どうするんだろ……」
「……だな。心配だ」
「ほらほら、あいつ、気付かれたみたいだよ」
六人の心配をよそに、エリックは、紅の方を向いた。
彼女と目が合った。
「あっ……」
彼女はこちらに、満面の笑みを浮かべてやってきた。
「サラ?」
「え……エリック……?」
「あーーそう言ってたんだよね……」
あはは……と苦笑いする。
「私の本当の名前はエリー。二十歳。サラ、あの頃から変わってないね……」
彼女……エリーはサラの肩を叩いた。
「な……んで」
「あーもうほんとごめん!ちょっとからかっただけだったの。私あの時、サラに話聞いてもらって嬉しかったの。結局、母は一週間後に死んでしまったの……。でも、本当に励みになった。私にとっての神様だったよ。ありがとう!」
そして、にこっと笑った。
紅は呆然と立ち尽くしている。
じゃあね、と手を振ってエリーは立ち去った。
「紅、おかえり~!」
「ただいま………」
紅は浮かない表情をしている。
「どうしたの?」
「いや……うち、あの子の神様になれたんだ、って思って……」
くしゃっと破顔一笑した。
「そう。紅は、あの子の神様だったよ」
ーFINー