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RE:start   作者: 麻男
1/1

転生した勇者と魔王は世界を本気で救うようです。

  「……追い詰めたぞ、魔王っ!」


  ああ、こんな台詞を、こんな場所で、こんな勢いで言う日がくるなんて。


 古びた城の中で、勇者にしか持てないと呼ばれる剣を両手で構え、少し恥ずかしい勇者のための服を着て、少し息を乱しながら叫んでしまった。


 目の前には世界の敵の代表である、魔王と呼ばれている奴。


 ニメートルを超えんばかりの巨大な全身。頭には鬼のような角。

 その体を覆った禍々しい鎧は貫禄はまさにゲームのラスボスのようで、この世界に呼ばれてから身に付いた魔力の波動的なものは、意識しないと本当に意識が飛びそうになるくらいのプレッシャー。


 だがそれももう弱々しくなっていた。鎧の至る所に、裂傷や焦げた痕。素肌は見えないが血が滴っている為、無事ではないだろう。


 「…………。」

 

 相対する魔王は息を乱しながらも、こちらから目を離さず、最後まで抵抗の意思を見せ付けるようであった。


 こいつを倒せば、世界は救われるのだろう。


 元いた世界からの異世界への転生物語。神様らしき奴から世界を救ってほしいなんて、今の時代流行りすぎてもう煎じすぎて味がなくなったしまったようなチープさはこの際言うまい。


 しかし実際自分がその主人公になると、なかなかどうして、楽しい。 


 

 生きていると実感出来る。


 そう、前の世界では死んでいたも同然で、実際に死んでしまったのだけれど。


 まだ十日前の出来事であるが、ふと懐かしく思えて振り返ってしまった。



 始まりのあの日を。



 




 それは、雨の夜のことだった。 

 土砂降りで数メートル先すら見えず、何も見えない中傘もささずに歩いていた。雨水が染み込んだジーンズは動きを阻害し、歩くのさえ億劫に感じた。自分の責任ではあるのだけれど、何かの呪いにでもかかっているかも、と自嘲した。


 不幸自慢を出来るほど何かあるわけでもないし、したいわけでも、するつもりもないのだが、一言で言えば人生に疲れていたのだ。


 将来の夢もなく、やりたいこともなく、漠然と進学した高校で適当に過ごし、何となく受けた大学受験に失敗し、ただ適当に浪人した後、何となく使うお金が欲しくてスーパーのバイトで働き、ただ日々を過ごしていただけ。そんな日々を過ごして早二年。


 成人式を迎え友達、いや友達だった奴らと再開してみると、様々ではあるが、皆楽しそうな様子だった。

 大学にいった奴らはサークルの話だとか、呑み会の話とか。

 就職した奴らは会社の文句を言いながらも、何らかの先の話をして盛り上がっていた。


 そんな雰囲気に耐えられず、用事があると言って傘を忘れて帰宅している。


 別にあいつらも人生に明確な目標があるとは思えないが、それでも今の自分と比べるとどうしても眩く感じる。


 

 今の自分とは、いったい何なのだろうか。

 何か不幸に巻き込まれた訳でもなく、特別なことがあったわけでもなく、しかしただ生きているだけ。


 自分には、先が見えない。意識出来ない、したくない。



 「……くそっ」


 このまま適当に死ぬまでバイトして、生きるのだろうか。いや、その前にクビになりそうな気がする。

 いや、その前に口うるさい親から家を追い出されるだろう。


 

 やってられない。かと言って何か行動に移すことが出来るなら自分は今こうなっていないだろう。


 

 そんな心情を抱えたまま、のろのろと歩いていると、少し先に空き缶が落ちていた。


 潰され、少しメッキのはげた有名メーカーの空き缶。


 馬鹿みたいだが、今の自分と重ねてしまった。


 「……このっ!」

 


その空き缶に思いをぶちまけるよう、思いっきり蹴り上げた。


しかし思うように飛ばず、斜めの方向へ飛んでいき車道の方へ虚しい音をたてて転がっていく。


 「……だっさ」


 何しても裏目に出てしまうような、この状態。 

 何をしているんだろう。


 さっさと帰りたい。だが何となくさっきのゴミが気になってしまった。


 捨てたのは自分ではないが、蹴ったのは自分で、偽善だし、詭弁にも程があるが。


 少しでも良いことをして、報われたいのだろうか。


 そんな馬鹿げた自問自答を繰り返しながら、道路へと飛び出した。



 飛び出してしまった。



 思えば、周囲のことをまるで確認せず、尚且つ意識を内面に向けすぎていて、それがどんなに危ないことなのかも理解していなかった。



 缶の側に歩きより、屈んで拾おうとしたときには。


 理解できたのはその数秒後で、視界に眩しい光が飛び込んで来たときにはもう遅かった。


 普遍的な人生で味わったことのない衝撃を受け、俺は空を飛んでいた。


 そりゃ、青信号で飛び出したら車も急には止まれないよな。


 ぐしゃり、と嫌な音が耳に届く頃にはそんな自嘲すら浮かんでいて、あっさりと意識を手放した。




 

 




 


 


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