竜種転生録 ~俺、最良のドラゴンブリーダーになります!~
「これで大丈夫かな......?」
カリッ、カリッ、とチョークがコンクリートに擦れる規則正しい音が響く。
チョークを静かに床に置きナイフを手に取る。
「痛っ......何度やってもこれだけは慣れないなぁ......」
少しずつ指先からあふれ出る血。
そっとチョークで書いた魔法陣の上に垂らす。
「我が名はニイトキ。ニイトキアラタ。竜騎の紋を刻むものなり。紋を示さばこの名において門を開け!」
............
「ダメかぁ......」
やはり何度やっても上手くいかない。
この本によるとやり方としては合っているのだが......
そんなことを思いながら壁時計をチラリと見る。
「やばっ!!こんな時間!学校に遅れる!」
準備をしておいたバッグを取り急いで地下室を出て学校に向かった。
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学校につくと机には悪口の数々がマジックで書いてあった。
別に良い。
いつものことだ。
今日は油性マジックで書いてあるらしい。
こすっても簡単には落ちてくれないので少し苦戦する。
その時、机を強い衝撃が襲った。
「おい、新刻ちょっとツラ貸せや。」
またか。
こういう時は抵抗しないと決めている。
「オラァ!」
腹を強い衝撃が襲う。
大丈夫、慣れている、大丈夫。
「何とか言えよ!」
「オヤブン!アイツこんなもの持ってきてましたぜ!」
オヤブンと呼ばれた男はソレを受け取った。
「竜種育成方法記録書......お前、本当にドラゴンなんかが居るって信じてるんだよな?マジ、ウケる......よッ!!」
また腹を蹴られる。
「ゲホッ、ゲホッ!!」
オヤブンはじっと俺を睨む。
「ドラゴンなんかこの世には居ねぇんだよ!俺はそういうヘンな事考えてるようなヤツ見てると胸糞悪くなるんだよ。」
そう言いながら本に手をかける。
「何......するんだよっ!」
「決まってるじゃねぇか。この本をビリビリに破り捨ててやる。そうしたらもう夢なんか見られなくなるんじゃねぇか?」
その本はまだ全部読めていない!
今破られるとマズい!
「やめなさい!」
後方から聞こえる声。
この声は......
「立花......お前、またジャマすんのか?」
「人をいじめるのはどんな理由であれ悪い行為よ!」
オヤブンがチッと小さく舌打ちする。
「......行くぞ。」
オヤブンは手に持っていた古めかしいその本を投げ捨てるようにこちらに返した。
「えっ!オヤブン!もう良いんですか!?」
「良いから行くぞ!」
オヤブンは立花にすれ違う時に何かをボソッとつぶやいたようだったがその言葉は上手く聞き取れなかった。
「......」
「......ありがとう、リン。」
俺は俯きながらそう言った。
「......ありがとうって言うんだったら――――」
「ゴメン。それはできない。」
俺はリンの顔もまともに見ることができずにまっすぐ教室に帰る。
「アラタ......」
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「竜種は転生と融合でさらなる存在へ生まれ変わる......か。」
学校の帰り道。
一人で本を読みながら帰るのが日課だ。
学校の暇な時間も帰ってからももっぱら本を読んでばかりいる。
「アラタ!」
急にそう呼ばれて振り返る。
「リン......」
そこにはリンが立っていた。
立花鈴。
クラスの学級委員長を務めている。
そして俺の幼馴染でもある。
「ついてきてたの?」
リンはやや俯いてコクリと頷いた。
「そっか......今朝はありがとう。おかげで本が無事だった。」
俺はぎこちない笑顔を浮かべてそうお礼を告げた
「あのさ、アラタ......」
「ずっと言ってるけど俺は――――」
「本当にドラゴンなんていると思ってるの?」
その言葉に思わず足が止まる。
「いつか言わなきゃいけないと思ってはいたの。あのいじめっ子は許せないけれど言っていることは確かに事実よ。ドラゴンなんてこの世には存在しない......なんてことは言わなくても分かっているだろうけど違う世界にもあるかは分からないのよ!そもそも違う世界があるかどうかも分からない!アラタのお父さんは――――」
「何の理由もなく失踪しただけって言うのか?」
リンは俯いたままだった。
「アラタ......こんなこともうやめよう?私が言わなきゃ誰もアラタを止められないと思うの。幼馴染だからっていうのもあるけれど私が――――」
顔を上げたリンの目は潤んでいた。
「リンは俺の親父の代わりにはなれないよ。いくら親父が失踪してからの俺の様子を見て来たからってその穴埋めをリンにしてもらいたくはない。親父の代わりに道を正そうとする必要はないし俺のせいでいじめられたりもしてほしくない。」
「アラタ......」
「それに、」
俺はリンの顔を見つめ返す。
「俺はただ、ドラゴンのことがもっと知りたいだけなんだ。こういうのを惹かれるっていうのかな。多分親父もそうだったんだと思う。ドラゴンのことも知って、ついでに親父にも会えるかもしれないんだったらやるしかないでしょう!」
「......アラタの馬鹿。」
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家に帰ったら真っ先に地下室に向かう。
親父には入ってはいけないと言われていた場所だ。
5年前、突然親父は失踪し行方をくらませた。
残されたのは母と自分とこの地下室だった。
「いいか。この部屋には絶対入ってはいけないよ。たとえ大人になったとしても絶対に入ってはいけない。」
そういう風にきつく言われてはいたが、親父が失踪した後はその痕跡をたどるように導かれるようにその部屋の中に入っていった。
その部屋の中にあったのは地下室への階段だった。
「で、なんでお前が勝手に家に入って来てるんだ?」
「良いじゃない。昔は一緒にこの家の中で遊んでたでしょ?」
「あのなぁ......昔っていつの話だよ?」
「さぁ?......しかし、いろんなところに本が散らばってるわね。ちゃんと掃除してるの?」
「それは......それとして。」
話題を逸らそうとするがリンに睨まれてしまった。
学校のいじめっ子すら黙らせてしまう眼光には鋭いものがあった。
「じゃあ俺地下室行ってくるから。」
「あぁ!ちょっと!!」
逃げるように地下室に行く。
追いかけてくるリン。
地下室の扉を開く。
「うわ......何ここ?すごい量の本。これ全部読んだの?」
「大体は。自分でも驚くよ。」
リンは大きい本棚を放心したように見つめている。
俺はいつものようにバケツ満タンの水で魔法陣をかき消す。
乾くのを本を読みながら待ち、乾いたらチョークを持ち直す。
書きなれた魔法陣だ。
何度書き直したかもわからない。
規則正しいチョークの音が密室に木霊する。
「あのさ、アラタ。それだけできるならもっと他のことが出来るんじゃないの?なにもドラゴンなんかじゃなくて他の事。打ち込むことは何でもあるじゃない。どこかクラブに入ったりすればきっと――――」
「ドラゴンはいるよ。」
口をついてそう出た。
これまでにないくらい確信めいた口調だった。
「そんな気がする。自分の心を改めて口にしてようやくわかった。居るんだよ、ドラゴンは。」
ナイフでピッと指に切り傷を入れる。
一滴だけ血を出すのも慣れた。
相変わらず痛みには慣れないけど。
「今ならできそうな気がする。」
すぅっと息を吸い込む。
「我が名はニイトキ。ニイトキアラタ!竜騎の紋を刻むものなり!紋を示さばこの名において門を開け!!」
瞬間、魔法陣が青く光りだす。
辺りの景色が変わりだし、現れたのは一つの大きい門。
成功だ!!!
『この門、竜騎の紋を持たぬものに入る資格なし。汝、竜騎の紋を示せ。』
どこからともなく声が聞こえる。
制服の長袖を肩までたくし上げる。
出てきたのは腕全体に描かれた緋色の紋章。
『良かろう。開かれし門は世界を繋げる門!汝、覚悟して通れ!!』
覚悟ならとっくに出来ている。
俺は光の彼方へ消えていった。
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「ここが、竜と人の国......?」
「いてててて......ここどこ?」
「リン!?」
転移に巻き込まれたのか!?
「アラタが走って行くから......待って、って言っても止まってくれなかったし。」
もっと注意すべきだった。
入ってこさせない方が良かった。
そんな思いが自分の中を逡巡していた。
そんな時、
今まで感じたことのないような風が自分の髪をたなびかせた。
ふと空を見上げる。
「ヴォォォォォオオオオオオオオ!!!!!」
そこには大量のドラゴンが居た!
「すげぇ......俺、本当にやったんだ。」
巨大な図体、一つ一つの鱗が自己主張するように浮き出ている。
トカゲの体に羽が生えたモノなんて例えられ方をされるがそんなものではない!
鋭い爪と牙!
きらめく眼光はまるで獲物を狙うように自分を見ていた。
「って危なーい!!」
リンが叫んでいる。
空を舞うドラゴンが急降下してきていた!
このままじゃやりたいことも出来ずに死んじまう!!
「うおおおぉぉぉぉぉ......お?」
覚悟していたような痛みは襲って来なかった。
「何ボサッとしてるの!?ここは危ないから一般人は早く逃げなさい!」
そこに現れたのは金と赤のコントラストが美しい鎧を着た一人の女性だ。
片手には重そうな剣、もう片方には頑丈そうな盾を構えている。
急降下してきたドラゴンを恐るべきパワーで跳ね返す。
「さぁ、早く!!この数は多すぎる!!私でも長くは持たないわ!!」
「ドラゴンが訳もなく人間を攻撃する!?ドラゴンは知的生物で対話をすれば分かり合えるって本には――――」
「何してるの!?早くしないと食われてオダブツよ!ドラゴンスレイヤーでも無いのに非難もしないなんて自殺行為だわ!!」
ドラゴンの種類は確かに本で見たことがあるし、ごくごく一般的な竜種だと書いてあった。
なのになぜ人間を攻撃している!?
竜と人間が分かり合う世界ではなかったのか!?
「アラタ!早く!」
「いや、これはむしろいい機会だ。」
靴下のまま転移してしまったが地面に魔法陣が書けない訳ではない。
「何してるの!?」
「少し時間を稼いでください!そしたら俺が何とかします!」
「ハァ!???」
女騎士さんがこちらを見て目を見開いていた。
しかし、竜が突進してくるとすぐに方向を切り替え竜に向き直る。
剣戟が飛び交いその度に竜の鱗とで火花が飛び散る。
「冗談はよしてよね!そんな貧相な体で何ができるって言うの!」
「そうだよアラタ!」
リンが袖を引っ張ってくる。
もう少しだ。
もちろんこの魔法陣は書いたことがないけれど形が自然に頭の中に描かれる。
片手に持っていたナイフで指から血を出す。
「騎士さん!下がっていてください!巻き込まれかねません!あとリンも。少し離れていて!」
「私が下がればお前の身が!」
「良いですから!」
女騎士さんは一度は下がるのを拒んだが、俺が逃げる気がないのを見てリンを守る態勢に移った。
血を一滴たらしながらすぅっと息を吸い込む。
「我が名はニイトキ。ニイトキアラタ!竜騎の紋を刻むものなり!紋を示さばこの紋章に集え!!竜魂を光となし肉体を捧げよ!新たなる姿をこの身に示せ!!!」
魔法陣が光るとともに周りに居た竜が光を放つ。
光は一転に収束し少しずつ形を表す。
竜種の成長は融合と転生を繰り返すことによって強くなる。
周りに居たすべての竜を取り込んで新たなる姿を形作り、強くそしてかっこよくなって転生する!!
「いでよ!新たなる竜よ!!!」
形作られたのは白銀の竜。
見たことない竜種だ。
こんなに綺麗な竜は本の中には載っていなかった。
『貴君が我の主か?』
頭に直接語り掛けてくるような声だった。
「この竜騎の紋が契約の証だ。」
ドラゴンの右足にも紋様が刻まれる。
『我は主に遣えるものなり。我が身は主と共にあり。』
「あぁ、よろしく!ルク!」
『我の名前か?中々良い名前だ。』
「あんた......一体何者なの?」
女騎士さんが怪訝そうに尋ねてくる。
「俺の名前はアラタです。いつか、最良のドラゴンブリーダーになって見せます!!」
「ちょっと待ってよ!ドラゴンブリーダーって......あんた、ドラゴンと友達にでもなる気なの!?」
俺はニッと笑った。
「もちろんです!」
こうして俺とルク、そしてリンと女騎士さんの数奇な旅が始まるのだった。
竜種転生録、いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたなら幸いです。
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