24 まんじゅうこわい
獣人たちからアロマムシとサトリグサを買い取った。
アロマムシの体液には、アロマムシの体にとって余分で有害な魔力が多く含まれている。アロマムシはサトリグサのような魔力を多く含む植物を好んで摂取するため、どうしても魔力を排出する必要があるようだ。
その点に目を付けたアンティコアたちは、アロマムシの食料となる植物を確保し、魔力を多く蓄えているアロマムシを狙う外敵から保護するという役割を担うことで、アロマムシに抵抗されることなく体液を提供されていたのだった。
アンティコアは、ただデカいだけの虫ではないようだ。
ただ、その食料の確保の仕方が問題だった。彼らは植物を適度に食べさせるのではなく、ほとんどその場所からなくなってしまうまで通い続けたのだった。
そうして、新しい食料を確保するために魔力を含む植物を見つけ出しては消していき、その繰り返しの果てにサトリグサに出会ったのだった。
アンティコアたちの戦闘力は高い。アロマムシを狙う外敵を難なく排除し、抵抗する植物を無力化してきたのだろう。
そのうえ、サトリグサはアンティコアにもアロマムシにも無力だった。これほど都合のいいエサはなかったに違いない。
しかし、同じようにサトリグサを頼りにしている魔物がいるということまで考える知能はなかったようだ。
飼料の確保は安定して行わなければならない。そのために俺は、サトリグサかそれの代わりになるような物を栽培する方法を見つけないといけない。
サトリグサが栽培されない理由は身をもって知った。獣人たちが慎重になることからも分かるように、知能がある生物が近づくには危険すぎるのだ。そして自生しているものから採取するのではなく育てるとなると、サトリグサ自身を傷つけすぎないように注意を払う必要もある。
これらの問題を解決しない限り栽培するのは不可能だ。
いい考えが思い浮かぶまで、この件については後回しにしておくのもいいかもしれない。
アロマムシとサトリグサにだけ構ってはいられない。どのみち魔力供給の安定性のためには、アロマムシ以外の方法でも魔力を生産する方法を考えておかなければならない。
幸い、アロマムシは魔力を多く含む植物を好んで食べるというだけで、獣人たちによると魔力を含まない植物を食べるのは珍しくないらしい。これならサトリグサの消費は抑えることができそうだ。
すっかり忘れてしまっていたが、アスキノフィヨールの森へ行く前に質問しようとしていたんだった。この街の魔物の力を借りるために投稿しておこう。
<知恵の塔の魔力供給に関して良い解決法を探しています 魔力を多く含む物質 魔力が生成される仕組みについての知識などを募集しています>
そしてヨルノンさんにもアロマムシについて相談してみよう。知恵の塔の仕組みに詳しい彼女なら、何かいい考えを思いつくかもしれない。
獣人たちから空の瓶を何本か渡された。
この瓶の中に強い臭気を発する物を入れておいて、サトリグサが見せるまやかしから逃れていた時期があったそうだ。今はもう使っていないので譲ってくれた。
とりあえず、この瓶の中にアロマムシの体液を溜めておくことにする。街の魔物たちはこれを好まないので取り引きには使えないが、知恵の塔の植物にとって良い肥料にはなるだろう。
早く城へ行こう。
◇
「げっ、アロマムシじゃないですか……ああ、なるほど、その手がありましたか」
流石ヨルノンさんは物知りだ。アロマムシの特性を知っているらしい。
「こいつが知恵の塔を救うカギになると思うんです。ただ、エサの確保が課題になっているんです」
「確かにアロマムシの体液は有用です。でも、この子たちは知恵の塔の蔦を食い荒らす害虫でもあるんですよね。ソロモンさんの提案で塔のシステムを設計してから、ずいぶん悩まされましたよ」
「今は何ともないみたいですけど」
「私が一匹残らずこの街のアロマムシを駆除したからですよ。知恵の塔にも防御を専用の張っていますよ。」
珍しくヨルノンさんの眉間にシワが寄っている。相当苦労させられたんだろうか。
俺は何となく、ヨルノンさんからアロマムシを隠すように背後に置いた。
「でも少しやり過ぎてしまったかもしれませんね。アロマムシを活用しなければならないのかもしれません」
「その、サトリグサじゃないとダメなんでしょうか?」
「残念ながら、私もサトリグサ以外で何を食べるのかまでは知らないんです。ただ、知恵の塔の魔力の通り道を工夫すれば、サトリグサの生育には適した環境を身近に作れますよ」
「本当ですか?」
「はい、知恵の塔の魔力供給と回収のシステムは説明したと思います」
「街で使用された魔力は知恵の塔にまた回収されていくんですよね?」
「そうです。しかし、全ての魔力が回収されるわけではありません。岩壁の外へ不必要な魔力を排出し、地面に少しずつ蓄積されるようにしています」
「つまり、このディルエットの周囲はサトリグサの成長に必要な魔力が供給されている状態だということですか?」
「その通りです。サトリグサを安全に栽培し、アロマムシも飼育できるなら……この街の魔力循環機構は完成度の高いものになります」
「ずっとサトリグサについて考えていたんです。でもどうしてもいい案が思いつかなくて」
心に刻みつけられた恐怖を克服するのは難しい。それにサトリグサは、俺の心の奥深いところから恐怖を引きずり出してきた。
この力に対抗できるのは恐怖を持たない者くらいだろう。しかし、そんな奴がいるんだろうか……
いや、いるじゃないか。この街の生活を支えるゴーレムが。
それにもしかしたら、彼らならサトリグサの呪いに対抗するだけじゃなくて、もっといい方法で活用できるかもしれない。
「ヨルノンさん、何とかなりそうです! ありがとうございます!」
「どういたしまして……?」
まんじゅうこわい、という落語を思い出す。思いついた機能を片っ端から魔石板に入力していく。新しいゴーレムと農園の構想は、もう頭の中に出来上がっていた。




