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女神の側で【7】

続きます。




「“明日その子から話を聴く”。それがアンタの罰よ」


「あ……」


 愛ちを怖がらせた事にムカッとしてアタシがさじょっちに吹っかけた“罰”。愛ちは乗り気じゃなかったけど、アタシ的には愛ちとさじょっちがもっと近付けば良いなぁなんてちょっと打算的に考えたものだった。


「……分かった」


 承知しちゃうさじょっち。そこに使っちゃうかぁ……まあ、結果的にアタシの押し付けがさじょっちの背中を押せて手助けになったんならまぁ良いかなぁ……愛ちが優しいからってのが大きいんだけどね。


「……」


「……」


「……」


 シン、と一瞬3人で黙り込んだ。愛ちの提案で、さじょっちの悩みを解決する方針が決まったからかな。“じゃあその方向で”っていう沈黙。


 でも、うーん……何かもったいない気がするなー。


「良いのぉ愛ち?さじょっちに色々奢ってもらえたかもなのにー」


「そ、そんなこと……」


「俺としてはいつでもカモンだけど?」


「アンタは無駄遣いしないの!」


「良いなぁ愛ち。金づるゲットじゃん!」


 そんなつもりないから!なんて焦る愛ち。さじょっちがノリノリなのは愛が為せる技だと思う。単純に動揺する顔が見たいなんて下心があるのかもしれないけどね。でもさじょっちがやるとちょっと変態じゃない?


「いやまぁ別に、芦田も多少なら奢ってやんない事もないけど」


「ぁえっ!?え!?な、何で?」


 えっ!?なにどういうこと!?浮気!?浮気なのさじょっち!?アタシでも良いってこと!?駄目だよそんなの愛ちに申し訳ないっていうか!?そんな急に───


「や、お前がそんな真面目に考えてくれると思わなかったんだよ。申し訳なさっつーか……?」


「え〜何それぇ……」


 とか言いながらちょっと嬉しくなってる自分が居たり。さじょっち、アタシに感謝してるんだ。ちょっとぞんざいに扱われる事が多かったから意外だったな……普段からその素直な感じ出してくれたら良いのに。


「───別にそうじゃなくても、まぁ……」


「そう、ね……アタシも、圭のためなら良いかも」


「……へ?」


 パッと顔を上げると、さじょっちはあっけからんとした顔で、愛ちは何だかすごく優しい目でアタシを見てた。まるで愛ちゃんを(いと)おしげに見るように───ちょ、ちょちょちょちょちょッ!?愛ちまでなにッ!?


「ちょっとなぁに2人とも!何でそんな急に優しくしてくれるのー!?」


「ま、まぁその?本能が逆らえないというか?」


「何言ってんの……圭にはお世話になってるし、応援したくなるほど部活も頑張ってるじゃない。寧ろワガママ言ってくれた方が日頃の感謝しやすいんだけど?」


「クラスの奴も同じなんじゃねぇの」

 

「ちょ、ちょっと……!」


 あ、暑いっ……!顔が熱い!絶対いま顔赤くなっちゃってるよ!何でいきなり2人ともそういう事言うの!?もっと軽い感じのときで良かったじゃん!さじょっちの悩みについて話してたじゃん!今する話じゃなくない!?


「圭……おいで」


「愛ち完全にお姉ちゃんスイッチ入ってるよね!?」


 さじょっち笑っちゃってるし!呆れたみたいに笑う感じが何なの!?いつもそんな顔しないじゃん!何がどうなってんの!?アタシ夢でも見てんの!?


「まぁほら、遠慮すんなって話だよ。その方が夏川が喜ぶから」


「アンタも圭に感謝するのっ!」


「前から思ってたけど夏川、芦田のこと好き過ぎない?ちょっとアレな感じすんだけど」


「ア、アレな感じって何よ!?友達なら当たり前でしょ!べ、別に圭じゃなくたってっ───」


「え?」


「な、何でもない!」


「?」


 夢じゃなかったね。急にいちゃいちゃし始めたよこの2人。ごちそうさまって言えば良いのかな……思惑は外れたけど結果オーライだね。アタシはこの幸福感をどこにぶつければ良いの?愛ちゃんかな?眠気眼(ねむけまなこ)でぽわぽわしてる愛ちゃんを撫でくり回せば良いのかな。


 カムバック、冷静。


 自分で顔をパンパン叩いて気付(きつ)ける。愛ちが呆れた目でアタシを見てる。ええい構うもんか!


 変なものを見る視線を無視してそんな事を続けてると、やっといつものアタシを取り戻せたように思えた。全くこの2人は……油断も隙も無いんだからっ。


「……ふぅ」


「そんな、自分の顔叩かなくても」


「愛ち達が悪いんだからね!」


 あ!苦笑いするなぁ!本気で照れるんだからそーゆーの!さじょっちも同罪だかんね!感謝とはいえ、愛ち以外の女子をあまりときめかせるような事はしちゃダメだよ!聴いてんのさじょっち!?


 ……あれ?さじょっち?


「………」


 ふと目を離した隙に、さじょっちはまた考え込むように黙り込んでいた。愛ちから“罰”を決められたし、それはそれで難題なんだと思う。たぶんその子とはまだ気まずいと思うし、直ぐに気分転換できるわけないよね。


「……あ、わりぃ。せっかく遊んでんのにな」


「良いわよ、愛莉寝ちゃってるから。ノルマ達成よ」


「え、ノルマだったの?」


「愛莉と遊ぶのは“運動”よ。ずっとその全力を受け止め続けるのは……ちょっとね」


「夏川の運動神経の良さって天性じゃなかったんだな」


「やめてよー、アタシ型無しじゃん」


 寧ろ理由が分かって良かったよ。体育の時とか部活してないのになんでキレッキレなんだろって思ってたけどそんな秘密が有ったんだね。ちょっと納得行ってなかったからホント良かった。


「そういう事ならまた呼んでよ!力になるからさっ!」


「ほ、本当……?」


「週4くらいで良いかな!」


「そんなに来なくて良いから!」


 アタシはむしろ愛ちゃんから色々と補充しに来てるからね!今日だってそんな疲れは感じなかったし!アタシが全力受け止めてもらう感じ?でも愛ちゃんを疲れさせるならむしろ───


「さじょっちも来た方が良いね!」


「えっ!?そ、それはっ……」


「……」


 思わずさじょっちの方をチラチラ見ちゃう愛ち。さじょっちは気まずそうに目を逸らしてる。ちょいちょい、そんな逃げ腰な感じ?合法的に愛ちの家に上がれるんだよ?合法的に(強調)。ぶっちゃけ愛ちは満更でも無さそうなんだからさ、こんな時に限って目逸らすのやめなよ……もったいない。


「………まぁ、夏川が良いなら」


「だってよ愛ち!!!」


「声デカイわ」


 さじょっちから『あんまり余計なこと言うな』的な目を向けられる。そんな睨まないでよー。


 アタシが思ってる以上に、さじょっちにとってはこれもシビアな問題なのかな……?アタシからすりゃお互い素直になれば直ぐに良い感じになれると思うんだけど……特に愛ち。最近良い調子よ?もっと頑張って……!


「……あ、」


「……“あ”?」


「愛莉を……ちゃんと抱っこできないとダメよ……」


「……」


 うっわ……何この破壊力………上目遣いとか。さじょっち顔真っ赤にして固まっちゃったんだけど。いま脳内フィーバーしまくってんじゃないの?アタシにあんな仕草できる気がしないんだけど。これが、女子力の違いか……明日の朝はスムージーかな。


「………」


「………ちょい」


「な、何だよ……」


 動かないさじょっち。いやそれは無いわと思わず小突く。愛ちにあんな事言われて何もしないとかヤバくない?そこは男の見せ所でしょ。そこで逃げ腰とかマジで無しだから。


「わ、わかった……抱くよ」


 うわっ、言葉だけならプレイボーイだよ!口に出すのは野暮かな、さじょっち全く余裕無さそうだし。


「…………できるの?」


 ちょっとムッとした顔で愛ちが言う。愛ちゃんをちゃんと抱っこしてくれないなら承知しないって感じかな?シスコンの部分が発動しちゃってるけど、さじょっちどうするつもり?


「……イケんだろ。愛莉ちゃん抱いてる夏川、ずっと見てたから」


「……ッ………」


 怯む愛ち。てかちょっと仰け反ったし、顔真っ赤っか。目を逸らして言うさじょっちは気付いてない。


 ぐぇっへへへ!ええのええのぅ!!アタシ大好物だよこういうの!できれば遠目で見たかったけどね!アタシどうすれば良いかわかんない!何でここに居んだろうね!動けなくなっちゃったよ!わぁ〜い!


「だから───夏川?」


「な、何でもないっ……何でもないから!」


「お、おう……」


 誤魔化す愛ち。ちょっと俯いてさじょっちに顔を見られないようにしてるんだろうけど全然隠せてない。大丈夫だよ、さじょっちもまともに愛ちを見れてないから。ホント、ちょっと前までのクール目なさじょっちどこ行っちゃったんだろうね。


「じゃ、じゃあ…………はい」


 愛ちゃんを抱え直して、さじょっちに渡す準備をする愛ち。動かされた愛ちゃんが眠そうな目で『……んぅ?』って不思議そうに声をこぼした。可愛い、そのままアタシが受け取りたいんだけどダメかな。ダメだよね。鎮まれアタシの右腕ッ……!こんなとこで空気を壊したら一生モンの罪だよ!


「……おう」


 愛ちに近付いて手を伸ばすさじょっち。流石に緊張してるみたい。よく考えたら愛ちゃんから乗っかられたりはしても、抱っこしたりはしなかったね。何か考えがあって控えてたのかな?


「……しょっ……と」


「んむぅ……」


「……」


 さじょっちは上手く愛ちゃんを抱っこした。そのまま元のソファーに戻ると、愛ちがやっていたように愛ちゃんを抱き締めて頭や背中を撫でた。おお……さじょっちがお兄ちゃんだ。新鮮な光景……レアなんじゃないコレ?写真撮って良いかな。結構、いや、ずっと見てられるかも。


「おい芦田───え、夏川も?」


 思わずスマホを構えるとさじょっちから文句言いたげな顔を向けられた。ふと横を見ると、何とも堪らなさそうな変な顔で愛ちもスマホを構えていた。さじょっちが居心地悪そうになる。うん、我慢だねさじょっち。このタイミングで愛ちゃん返したらアタシが許さない。


「……もっと愛莉撫でて」


「お、おう……」


 愛ちから指示。さじょっちはちょっと戸惑いながらも、もっかい愛ちゃんに意識を向けて頭や背中を優しく撫でたりポンポンしたりし始めた。愛ちゃんが『んむ……』って言いながらさじょっちの胸にほっぺたを擦り寄せる。気持ち良さそうだ。い、良いなぁ……アタシもあんな風に愛ちゃんから甘えられたい。


 なんて考えてると、愛ちが突然動き出した。


「え?」

「え?」


 アタシとさじょっち、2人して声が漏れた。愛ちがさじょっちの隣に移動。えっと……あれ?愛ち?アタシ置いてけぼりかなぁ、なんて……何する気?


「……」


「…………ほぁ」


 さじょっち、変な声出さない。


 愛ちはさじょっちの隣に座ると抱かれている愛ちゃんの頭を撫で始めた。愛ちとの距離感に耐え切れなくなったのか、明らかにさじょっちが挙動不審になってる。


 え、何これ夫婦?アタシ何見せられてんの?や、望ましい事なんだけどさ?愛ちの豹変ぶりよ。取り憑かれたようにさじょっちの横に行ったよね。お姉ちゃんスイッチ全開なんだけど。端から見たら若い夫婦なんだけど、さじょっちの分かりやすい動揺が無ければ完璧なんだけどなぁ……その辺の耐性そろそろ付かない?


 あ、さじょっち限界迎えたね。すんごい“助けて”って目で見てくる。もうちょい続けらんない?あ、無理?しっかたないなー……アタシが助けてやんよ。


「おーい愛ちー、アタシを置いてかないでー」


「ぇ───えっ!?あれ!?わ、わたし……」


「さじょっちが限界だから、元に戻ろ?」


「──ッ!!?あっ……あっ………」


 直ぐ横を見てさじょっちの顔がある事に気付いて顔を真っ赤にする愛ち。ビックリしすぎて声が出なくなってる。もう一度言っていい?アタシは何を見せられているのかな?


「───……逃げてぇ」


 おう、よくアタシの前で言えたな?

ええ?

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良過ぎて良い…ほぁ…(ほっこり)
[良い点] あしだがかわいすぎてしぬ
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