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鴻越プリンス

続きます。




「何だ佐城、燃え尽きてるな」


「……………うす」


 次の移動を待つ合間。できた人間じゃない俺は超至近距離で青春の一コマをまざまざと見せつけられ放心状態になっていた。片手に持つ栄養ゼリーはもはや(ぬる)くなりかけている。四ノ宮先輩が帰って来るのがもう少し遅かったら人知れずゼリー(こいつ)を地面に叩きつけていたかもしれない。


「あー……もう正午回ってんすか。何度かすれ違いましたけど、中学生はもう?」


 人が居ないと思ったら昼飯に行ってんのか。食ってないけど……まぁコレも有るし、食欲も無いから別に良いや。


「ああ、どんどん体育館に集まって行ってる。しばらくして映像を四十五分程度流してから結城(ゆうき)と私が前で話して…………まぁ、それから撤去作業だな」


 俺の様子を見て流石にサラッと言える事じゃなかったみたいだ。確かにキツい作業ではあったけど、それでも萎縮する四ノ宮先輩はどうも違和感がある。


「んな申し訳なさそうにしなくて良いのに」


「いや、由梨(ゆり)から聞いてな。君にはかなり負担を強いてしまった」


 由梨さんとは。もしかして運搬班指揮してた先輩かな?


「俺──……ってより、男を甘く見てませんか? 先輩が思ってる以上に体力ありますよ?」


 自覚しながら理不尽な目に遭うのは御免だけどな。それでも休めば簡単に回復する体力だし、撤去作業を始める頃にはまたやる気が出てんだろ。先輩とはいえ、流石に女子より先にくたばるのはちょっとカッコが悪いしな。


「……そうか。午後も宜しく頼む」


「はい───いやちょっ」


 フッ、とクールに決めた四ノ宮先輩。相変わらずキマってんななんて思いながら横を通りすがる先輩を見送ろうとすると、俺の髪に指を通すように手の平が乗せられた。


 いやホントにマジでエッ!?


 待て待て待て何これ、何が起こったん、何でそんなに優しく撫でんの?撫でるにしても先輩ってもっとガシガシ行くタイプというか……そんな感じじゃないじゃん。いやいやいや……え?


「ちょ、先輩何すか突然。やめてくださいよ」


「ふふ、(たま)にはゆゆ以外も悪くないという事だよ」


「いやいや周囲。周囲騒然としてるから。先輩?周り見て直ちに、今すぐ」


「知ってるよ」


 自覚あんのかよこの人。そういや確かに稲富先輩や三田先輩に散々言い含められてるっぽいし。とりあえず手を離してくれて良かった。俺の上がりかけてた株は急降下しただろうけどな。憧れの凛様が汗臭い男の頭撫でるとかファンにとっちゃたまったもんじゃねぇだろ。だからそんな堂々としないでくれませんかね……。


「───楓が羨ましいな」


 …………だからさ、ホントに。









 周囲に言い聴かせるように放った一言のインパクトはデカかったらしい。先輩なりの牽制なのか、ちょっと俺を雑に扱う感じだった先輩達が急に腫れ物のように接してきた。もしかして狙ったの……? 逆に怖いんですけどコレ。


 そして首を傾げ続けて暫く。やっと四ノ宮先輩達の俺に対する扱いが理解できた。


「そういえば空いた時間に隣の会議室には行かないのか? 同じクラスの生徒も居るだろう、友人は大切にしないと駄目だぞ」


「佐城くんっ、プリン食べますか?」


「てか昼食べてないんでしょ? ハンバーグ食べる?アタシ今ダイエット中だから」


「……」


 アンタらもか。


 弟───いやこれ従弟か? どっちにしろこれ女子高生が他所の家の男子高校生に接する態度じゃねぇな。誰かしらもう少し照れた顔してくれたらドキッとするんだろうけど……ちょっと三田先輩? 口付けた弁当の箸をそんな平気に寄越して来ないでください。


「会議室はいいっすよ。向こうは向こうで別の空気が出来上がってそうですし」


「ああ……それはあるわ。美男美女だしね」


「そこ行きます? そこ行っちゃいますか。ハンバーグ自分で食ってください」


 太れ太っちまえ。太って稲富先輩を抱き上げた時の軽さで絶望してしまえ。会議室に行ったら俺のメンタルが死ぬかもなんで覗くのも嫌です。


 引率班の休憩が終わるのを待つと、関わった生徒は全員体育館に集合。少しでも歓迎感を出すためなのか、在校生は体育館の両サイドに控える事になった。実際は終わり次第パイプ椅子も何もかも撤去の作業に入るからそれ待ちなんだけど。


 左側前方、風紀委員に混ざって座る俺は集合する中学生の顔ぶれを確認する。学ラン、セーラー、ブレザー、学ラン……ここからじゃどれがどこの学校か分かんねぇな。遠目だと制服に特色が無さすぎる。


 中学生も中学生でこの学校の生徒の顔ぶれを気にしているようだ。よく考えたら引率班はもれなく容姿の整ったメンツだったから、フツメンの自覚がある奴にはもう異常事態だったに違いない。女子アナみたいに顔面審査が有るのかなんて思われちゃってたりして。


 放送委員らしき先輩が司会を務め、最初に45分間の学校紹介映像が流れる。在校生側の俺達はその映像を見る中学生達を微笑ましく眺めるといった斬新な立ち位置でその間を過ごした。


 それを終えると生徒会こと結城先輩が登壇。よく見ると俺達の逆袖側に生徒会メンバーが並んでいる。おい姉貴欠伸(あくび)。欠伸やめい。


『中学生の皆さん、ようこそ鴻越(こうえつ)高校へ。自分は生徒会長を務めさせていただいている結城颯斗(はやと)です───』


 眉目秀麗な高身長イケメンの登場に会場が色めき立つ。俺の前後に居る女の先輩が感嘆の息をもらしたのが分かった。あの人マジでどういった感情で日々を過ごしてんだろうな。一度で良いからあの顔と身長になってみたい。


 結城先輩の挨拶と締めの一礼に溢れんばかりの拍手が飛び交うと控えていた中学生の先生方が皆を(しず)めに飛び出す。ここでアンコールでも叫ばれたら面白いのに、なんて考えながらその様を眺めた。


 続いて我らが風紀委員長の四ノ宮先輩が登壇───〝我らが〟って言っちゃったよ。よく考えたら俺違いますね……。こっちは結城先輩のときとは違って時が止まったように場が静まり返った。フツメン諸君のライフはもうゼロだろう。俺? 今日はもう序盤で瀕死状態だから。


『───皆の健全な学校生活は私たち風紀委員が保障しよう。この場に集まる生徒達がこの鴻越高校に通う日を楽しみにしている』


 後輩なんだから敬語要らねぇだろスタイル。騒がしい声は上がらなかったけどポツリポツリと「カッコいい……」と感嘆する声が聞こえた。女子諸君にとってはこちらの方が表立って推しやすいからファンの拡大待った無しだろうな。大勢の前に立つと堂々さが増すんだよあの人……頭撫でられたんだぜ俺? 夜刺されない? 頭溶かされてないよな……。


 引率班、そしてこの学校のプリンス二大巨頭のアイドル性を最大限に押し出して集会は終了。この後は出校日の先輩方も解放され、中学生は自由時間を使って部活の見学に回るらしい。俺が中学生の時はここまでのは無かったぞおい。









 中学生が退場した後、また運搬担当としてパイプを始めとした機材の片付けに参入。引率班は厳選されたただの一般生徒なためこのまま解放となった。文化祭実行委員はこれから本来の作業に戻るようだ。遠目に夏川と佐々木が並んで去って行くのが見えた。


 また重労働かと思いきや、今日は重めの精密機器関係だけ片付けられれば後は後日で良いとのこと。サクッと終わらせて姉貴に頼まれた手伝いは終わった。


「───アンタ、ちゃんと働いた?」


 一時的に開設の体験入学実行委員会は解散、会議室はもぬけの殻になって俺はまた風紀委員室で一息ついていた。そうしてると、乗り込んで来た生徒会副会長様から有り難いお言葉が頂けた。これは張り手をしちゃっても良いのかな?


「差し入れ貰うくらいには働いたっつの」


「……そ。お疲れさん」


「ああ?四ノ宮先輩には会わねぇの?」


「いい」


 他人事(ひとごと)のようにぞんざいな(ねぎら)いの言葉を吐く姉貴。四ノ宮先輩に会わないのか訊くと非常にドライな言葉が帰って来た。自分からはあんまり積極的に近付かないのな……姉貴も俺みたいにお節介みたく気にかけられたクチか?


「アンタこそ、隣には顔出さないわけ?」


「え?」


「夏川さんだっけ?居たけど」


「や、いいや。大変そうだし」


 癒されに会いに行ったら逆に死ねる可能性があるから遠慮しておく。なるほど? ドライな言葉の裏にはこう言った複雑な事情があったりするわけだな。姉貴にも色々あんのかもしんない。


「大変……? 夏休みの文化祭実行委員なんて決まったものを書類にちゃちゃっと入力するだけじゃん。余裕だって」


「ああ、そうなの?」


「そ。一言くらい話しかけときな」


 どうにもお節介な言葉を残して姉貴は去って行った。四ノ宮先輩にはドライだったのにな……や、よく考えたら俺を派遣させたのが借りを返すためだったか。もうよくわかんねぇなこの姉。


「佐城君、ホントにあの副会長の弟だったんだね……」


「え、姉貴って何か変なアレだったりするんすか」


「変って訳じゃないけど……凛とした四ノ宮委員長よりクールというか……その、戦闘力が高いイメージ?」


「戦闘力」


 一人の女の先輩に言われ、話を聞くと驚きの回答。また解りやすい恐れられ方してんなおい。戦闘力の高さについては納得せざるを得ないけど。少なくとも普段の家での格好を見てクールと思った事はねぇな……おっさんだよおっさん。

───ぶぇっくしょいあーチクショウめ。

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[一言] おっさんの戦闘力をナメてはいけない。
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