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お姉さん(強)

続きます。




 夏休みを利用した小遣い稼ぎのバイト。個人経営の小さな古本屋というのもあってか、一週間で仕事の内容をあらかた覚えることができた。中学の頃にこっそりやってたバイトの経験が活きてんだろうな。そういう意味じゃ確かに事務系は得意かもだけど「じゃあ生徒会に──」ってのはまた話が違ぇんだよな。ちょっと長所かなって思ってたけど今は余計にしか感じられねぇわ……雑務、そう雑務を伸ばそう。責任ある仕事とか少なそうだし。頭使わず体動かしてる方が好きかもしんない。


 気持ちを切り替えて古本屋に到着。店主の爺さんに挨拶してると、耳に入ってくる音がいつもと違うことに気付いた。俺が貼り付けたポップに便乗して店内に音楽を流す事に決めたという。一気にレンタルCDショップ感が増したけどこれで良いのかね……しかも何気に流行りの曲だし。


 違和感を覚えながら買取本の整理をしてると、意外とノリノリで手が進むことに気付いた。すげぇなJ-POP、帰りは久し振りにイヤホン嵌めて帰るかね。


「あ。あの店員さん。CDってどこに置いてますかね?」


「……」


 流した音楽が早くも裏目に出た。勘違いするお客さんが続出。こいつぁ……新しいポップ作りますか。まさかポップでJ-POPを牽制する日が来るとは思わなかったよ、古本屋っていったい何なわけ? 古本屋か。

 客が居ない間にレジ内の机でカラーの厚紙をチョキチョキしてると、不意にレジ越しに肩を叩かれた。お客さんかな? 本好きの人って全く喋んない人とか居るから困んだよな……普通に話しかけてくりゃ良いのに。


「はいただいま───あれ?」


「こんにちは、佐城さん」


「えっと……」


 お淑やかな微笑みと溢れ出る大人のお姉さんオーラ。大学のキャンパスへの行きがけ感の半端なさ。何度見返しても変わらないプライスレスなスマイル。


 ───女子大生の笹木さんが飛び出して来た!


 や、飛び出してねぇか。飛び出して来て欲しくはあるけどな。むしろ俺が飛び出して良いですか、笹木さんすっごいふかふかしてそ───ぐっは、何か考えるだけで罪悪感が。


今日の服装は前回のヒラヒラした感じとは違って涼しげな七分丈のパンツルック。パリッとした生地のクリーム色のジャケットでお堅い格好かと思いきやノースリーブで肩を出してたりしちゃって視線がまぁー白い腕に引き寄せられる引き寄せられる。


 実際に目の前にすると凄い色気が……出てる肩の艶が光線吹いてんじゃねぇのかってくらい眩しいんですけど。こんな古本屋簡単に吹き飛んじゃうよ……すまんな爺さん。


「お久しぶりです笹木(ささき)さん。一週間ぶりですね、古本屋に立ち寄るって事は、よく本を読まれるんですか?」


「お久しぶりです───はい、私は読書が趣味なので……必ず何か本を持ち歩くんです」


「まさかまた会うとは……この近くに住んでるんですか?」


 ん、いや、ちょっと待て俺。女性に向かってなにいきなり住所探るようなこと言ってんだよ。こんなに綺麗な人が男に対して警戒心抱かずに生きて来てるわけねぇだろ。一発アウトだよこの野郎、もう嫌われたわ。


「はいっ、そうなんです」


 ……あ、あっれ? スゴく良い返事……え、ちょっと待って何この笑顔、純粋過ぎない? こんな綺麗な人が中学高校と野郎どもから好奇の目に晒されてこんな純白に育つもんなの? おいおい捨てたもんじゃねぇな今の日本! 新時代の幕開けだぜ!


「この前はアルバイトをなさっていると聞いていましたが、本屋さんでされてたんですね! お会いできて嬉しいですっ」


「嬉しいのは俺の方ですよ、笹木さん。前より大人っぽさに磨きがかかってますね。今日はキャンパスへの行きがけですか?」


「そ、そんな大人っぽいだなんて……照れちゃいます。あ、でも私の学校はキャンパスなんて感じじゃないんですよ?」


 恥じらう様子の笹木さん……ご飯、何杯行けっかな。今までこの人に告白して儚く散って行ったイケメンどものことを考えると余計に箸が進むぜ。ぐぇっへへへ。


「……え、そうなんですか?」


「はい、女の子しか居ないので……そんなに開放的な感じじゃないんです」


 なん……だって? 笹木さんは〝綺麗な女子大生〟だけじゃなく〝女子大の綺麗な女子大生〟だったってのか!? 何なんだよそのブランド感ッ……もう肩に触れるだけでお金取られそうなんですけど! ……いくらですか。


「成る程……笹木さんが大人っぽさと純白さを兼ね備えてるのはそのためですか。納得しました」


「ふふふ、もう慣れました。佐城さんは直ぐに褒めるんですから」


「ふぐぅ」


 堪らず(うめ)き声出ちまった。なに、俺はそんなに汚れてたの……? あまりの眩しさに体全体がチリチリと浄化される感じがすんだけど。消し飛ぶのは俺の方だったわけか……爺さん、バイトが今日から居なくなります。ごめんなさい。


 ……はぁ、しっかし余裕そうだな笹木さん。わかってはいたけど、俺の事なんて全く男として意識してなんかいさそうだ。せいぜい〝年下の男子高校生〟が関の山か。それはそれで何か甘えられそうでお得感あるけど……いや何考えてんだよ。今は店員だろ、最低限の礼儀を忘れるな俺っ。


 邪念を振り払って笹木さんに向き合うと、彼女は急に真面目な顔になって俺に頭を下げた。


「改めて、先日はコウくん───弟を助けていただきありがとうございました。佐城さんのお陰で大事(だいじ)に至らなくて済みました。言われた通り、ランドセルも確認しましたが特に傷は無く……凄く安心しました」


 お、おぉ……え? 弟って……あ、光太(こうた)君のことか。笹木さんの大人の色気にやられてであった時の記憶吹き飛んでたわ。そういや何気に善い事したんだよな、俺。


「ああ、それは良かったです。……その後、光太君はどうですか? 外が怖くなって出られなくなったとか……」


 早いうちに引きこもりとかなるとこの先の中学生活で差し(つか)えるからな。学校で気まずくなってひそひそと陰口言われるようになったら大変だ。来たる中学校生活が小学生の時点から憂鬱になるなんて流石にきつい。


「佐城さんの存在がとても大きかったんだと思います。今日も外に出て遊んでますよ。人気(ひとけ)の無い場所には近付かないって言ってました」


「まぁ、身をもってその怖さを知ったでしょうから……それは良かったです。それに、そのお陰と言っちゃアレですけど、今回の事をきっかけに悪い方向には進まないんじゃないですかね」


「はい、そうなってくれたらと私も思います。恥ずかしながら……私もあまり男の人と話したことが無かったのでとても勉強になりました」


「えっ」


 男と喋った事が無い……だって? 結構な箱入り娘さんだな……いやいや、そりゃそうだろうよ。俺が父親だったら男から絶対遠ざけるもん。『大人になったらパパと結婚する!』を絶対鵜呑みにするタイプだから。何なら婚姻届を書かせてずっと持っとく(狂)


「何というか……とてもご両親に大切にされてるんですね」


「そ、そうなんですけど……過保護というか」


 その割に内気な感じはしないけどな。やっぱり女子大生だから? やっぱそのくらいになるとただの学生とは一線を画すんだな。陰キャラも陽キャラも歳さえ取れば大人になるわけだ。大学生も学生っちゃ学生だろうけど、高校生と違って色んなもん自分でやんなきゃいけないらしいし……高校生のガキ相手に物怖じしてる場合じゃないんだろうな。


「それで───」


 普段は閑古鳥(かんこどり)の鳴く古本屋。そのお陰かレジを挟んでいながらも笹木さんと談笑することができた。本の話題にはほとんど付いて行けなかったけど、気を遣ってくれたのか当たり障りない会話で話を広げてくれた。何なのこの抱擁感……目の前に立ってるだけで甘い匂いに包まれる感じが……。


 いや、やっべぇんだよ……目の前に立たれるとこう、結構大きめなアレがすっごい視界に入ってですね? これはあれかな? 〝いつでも来て〟っていうメッセージを秘めてるのかな……? ガチで頼んだら困り顔で抱き締めてくれそうなのがまた背徳感を呼びますな……。


 や、マジでこのお姉さんヤバいわ。何かこのままで居ると呑み込まれそうっつーか。名残惜しさ半端ないけど、ここはちょっと近いって言って───


「あ、佐城さん。髪にホコリが……」


「……っ…………」


 ちょっと僕のお母さんになってくれませんか。

あっ。

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[一言] 実の母に謝んなさい
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