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何者

続きます。




 あれから一週間。今日も今日とて当たり障りのない日を過ごしている。夏川とは明らかに距離が開いたように思える。心の距離は前から開いてたかもしんないけど……。お陰様で教師陣の多くが俺の事を夏川愛華大好き芸人である事を忘れたように思える。いや今も大好きなんだけどね。

クラスの生徒は時折『最近どうしたの?』なんて反応を見せるけど当たり障りない返事で誤魔化してる。正直に話しても多分訳わかんないと思うし……。


 分相応かつ穏やかな日常への第一歩を実感してこっそりと噛み締めていたけど、そんな嬉しさは急な来訪者の登場で壊されてしまった。


「ねぇ、佐城くんだよねー?」


 超・展・開。


 席に着いてる俺の前でにこにこしながら話しかけてくる女子。明るい茶髪がゆるふわしてる感じだけどギャルとかじゃないみたいだ。朝のニュース番組でおすすめコスメとか紹介してそうな雰囲気。そう、つまりは可愛い


「人違いじゃない?」


「あはは、違うわけないじゃーん!」


 分かってるんなら一番に本人確認するなよ……明らかに何らかの目的じゃなくて企みで話しかけて来てんじゃねぇか。取り繕った顔を見抜くようなスキルはないけど、この目尻一つピクリとも動かない笑顔にはやはりどこか違和感を感じる。


「よく見破ったな。俺こそがこのクラス唯一の存在、その名も佐城渉」


「えー?訳わかんなーい!」


「おっけ。で、どこのクラスの人?」


 挨拶を終えたところで本題、先ずは正体を明かしてもらおう。誰って尋ねるのは少し棘があるように感じるからあえてクラスを尋ねてみる。ついでに名乗ってくれるという芋づる式戦法だ


「あ、やっぱり知らない?隣のクラスの藍沢レナですっ!スリーサイズも知りたい?」


「あ、いえ」


 っぶねぇ……とんでもない情報まで芋づるに引かれて来るとこだった。そんなに自分に自信がある感じ?にしては胸を張る程でもない大きさ……いや良いですねその景色。そうか俺は差別フリーな紳士だったのか。どんなサイズでもかかって来い。


「自分に自信持ち過ぎじゃね?そんだけぶっちゃけられるほど可愛い藍沢さんが何で俺のとこに?」


「もぉ可愛いだなんてそんなぁ……この前見ちゃったんだよねー!佐城くんが『シムキャット』買ってるとこ!」


「え、マジで?」


 どうやら中学時代に途中まで買ってた漫画シリーズの続きを最新刊まで大人買いしたとこを目撃されたらしい。別に見られて困るもんでもないけど、結構な量だったからこの前の休日何してたか筒抜けじゃねぇか恥ずかしい。そーだよ!誰かと遊んだりなんか無かったよ!


「あのシリーズ私も好きなんだぁ……この前テレビでやってた実写ドラマは認めないけどねっ!」


「わ、(わか)るっ……!」


 超解(わか)る。もしかしなくてもそういった同志はごまんといるはず。人が揃うなら『シムキャット』の主人公の格好をして実写化撲滅運動だってしてやる。いやいや自分で実写化してんじゃねぇか。


「身近にアレ好きな人居るんだと思ってさっ!だから話しかけてみたの!」


「好きな脇役は?」


「ヒロインの咲耶(さくや)が十年間飼ってる仔猫、クーちゃん!」


「ふむ、及第点」


 主人公がヒロインから紹介される仔猫。仔猫なのに当たり前の様に『小さい時から一緒に居るの!』と紹介されて主人公が『は?は?』となってるシーンがツボ。未来から現代に落ちた猫型AI(エーアイ)で、実は喋る上に自分は虎の子だと言い張る。ちっちゃいくせに超濃いキャラなんだ。


「まさか、隣のクラスに同志が居たなんて……」


「私も同じ気持ちだよっ。好き嫌い分かれるらしいからねあれー」


「そうっぽいな」


「あ!授業始まっちゃう!まったねー!」


「お、おー、じゃあまた」


 俺の好みを散々刺激しまくった藍沢は嵐のように突然現れて去って行った。何とも明るい奴……一瞬疑ったけどもしかしたら何も企んでないのかもしんない。相変わらずああいう系の女子ってどっか打算的って考えは変わってないんだけど。


「あ……」


 周囲が此方をガン見していることに気付く。思わずあたふたしてしまって、つい癖で左隣の夏川を見てしまった。


「ふんっ」


「ぁ……」


 おっふ、凄い勢いでそっぽ向かれた。てか夏川にも一部始終見られてたっていう。つい最近まで常に(一方的に)絡んでた女子の前で他の女子と話が盛り上がるっつー男の醜さで身勝手な罪悪感が湧いてしまう。夏川と付き合ってるどころか友達ですらないかもしんないんだけどね……そう、夏川愛華はみんなの女の子です! (※ただし絶対に(さわ)れない。)


 そこまで考えておきながらやっぱり嬉しくなっちゃってる俺が居る。可愛い女子に親しげに話しかけられて冷静さを保てる男など存在せぬ。そう、絶対に……!


 男ってホント馬鹿。







「さじょ〜くんっ」


「………」


 昼休み。最近すごく見覚えのある女子が俺の元にやって来た。後ろに手を組んでピョンっとやって来るあたり、あざといとかいう感想よりもどの少年漫画のヒロインに似てるか考えてしまう。


「おー、さっきぶり。どうしたん?」


「一緒にお昼食べよーよ!『シムキャット』のお(はなし)しよ?」


「え、お、おお……」


 呆気にとられつつ返事をすると藍沢はその辺の空いた椅子を持って来て俺の机の前に座った。あまりの展開の早さに付いて行けてない。

 今日が初対面。会ったのはまだ二回目だ。漫画で共通の趣味があるからっつってこんな距離の詰め方あんのかね。いや()ぇな、俺が夏川に同じ事したら〝キモい〟の言霊(ことだま)でぶっ飛ばされそう。


 ふと視線を感じて辺りを見回す。


「……!」


 何事かと注目して来る周囲。一部の野郎共がシャーペンの先を此方に向けていた。宜しくない。これは宜しくないぞッ……!


「あ、藍沢……どうせ一緒に食べるんなら移動しない?結構目立ってるから」


「えっ……うわっ!ホントだぁ!」


小声で提案すると藍沢は空気を読んで小声で返事した。注目されてる事に気付いたのか、広げかけていた弁当をテキパキと片付け始める。……その割には照れて顔を赤らめるような節がないんだよなぁ……。人によりけりって感じ?それだけじゃ疑う材料にはならなそうだけど。

 廊下に出て手頃な場所を考える。


「食堂……はもう席空いてないよなぁ」


「あ、じゃあ良い場所知ってるよー」


 藍沢が良い場所を知ってると言うので付いてく事にした。普段友達と食べてる特別な場所があるとの事。あんま目立つような場所は勘弁してほしいけど、可愛い女子にご相伴させてもらう幸せ……今は噛み締めとくとするか。


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