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楓ファミリー

続きます。



「か、楓に頼られる一年坊主だと……お前みたいな奴知らないぞ!」


 此方こそ姉の事を名前で呼ぶような男の存在を初めて知りました。しかも四人ってお前。姉貴はいつから逆ハーレムを築き上げていたのですか。


「おい一年!名前を言え!」


「佐城渉です」


「サジョウワタル!聞いたことない名前───え、〝佐城〟?」


「佐城渉です」


 四人もの楓ファミリー───名付けて『K4』が睨みつつ追及して来たから簡潔に返事をした。ネクタイの色から全員漏れなく二年や三年の先輩だし、この状況を切り抜けられる算段なんか思い浮かばないし、もはやどうにでもなれと思っている。


「さ、〝佐城〟って、お前まさか───」

「退いてください轟先輩」


「あ!おい!」


 三年の活発系イケメンの先輩を退かすように二年の秀才系イケメンの先輩が前に出てきた。別にズレてもいないのに眼鏡の位置をスチャ、ってかけ直す仕草は何か意味があんのかね。おい何かカッコいいだけだからやめろ。


「お初にお目にかかります、佐城渉さん。僕は甲斐拓人(かいたくと)と申します。失礼ですが、貴方と楓さんの関係性を教えていただけないでしょうか」


「一つ屋根の下で暮らしています、妥協し、妥協された関係です」


「何でアンタ意味深な言い方すんの」


 いけない!つい悪ふざけをしてしまった!我が姉のかつてないほど色っぽい話題がやって来て嬉しくなってつい!

 姉貴はペシッと俺の頭を(はた)くと、めっちゃ面倒くさそうに俺の前に出て仁王立ちした。


「弟よ弟……!見な!よく見たらアタシと顔とか似て───そんなに似てないわね……」


「そうだな」


「そうですね」


「………」


「………」


 だな。何度見ても似てないよな点数的に。姉の顔に点数を付けたことは無いが、まぁ整ってる方なんだなと思った事はある。極め付けはこの前の藍沢事件に登場した有村先輩の友人だ。姉貴は一定数の男子票を獲得しているんだという事を知った。超ショック。

 だとするなら、俺にできる事はただ一つ。


「うん、姉貴。邪魔しちゃ悪いから俺あっちの道から行くね?」


「は?ちょっとアンタ何言って───」


「良いから良いから。こんな格好良い先輩方と姉貴が親しくしてるなんて俺も鼻が高いわ。だから遠慮しなくて良いんだよ」


「や、だから別に親しいとかじゃなくて───」


「じゃあまた学校終わったら!」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 ダッシュで逃げ出そうとしたら夏川に捕まった。制服の脇腹の部分を思いっきり掴まれ引き寄せられたからか、右腕と脇の隙間から夏川の頭がひょっこりと現れた。そのまま腕をクッと曲げればチョークスリーパーの完成だ。ぜってぇやんねぇけど。

 変な事を考えてこのゼロ距離の感動を紛らわしていると、直ぐに掴み直されて睨まれた。


「こ、この状況で私一人にするとか何のつもりよッ……!」


「お願いします止めないでくださいッ……!これ以上ここに居たらイケメンにやられて溶けます……!」


「溶けるかッ……!劣等感よりまず気まずさ感じなさい……!」


 珍しく夏川が俺を離すまいと掴んでいる。目が本気(マジ)である。好きな人からこんなにも熱烈歓迎大密着されてるのに離れてほしいと思ってしまうのは何でだろう。多分それはきっと夏川の後ろで姉貴が『テメェ後で覚悟しとけよ』と狂気的な目で俺を見ているからだろう。


「………みんなで行きましょうか」


「……ふん」


 姉貴が鼻を鳴らして目を閉ざす。これは許された……!


 疑問符を浮かべるイケメン達に見られながら道のど真ん中を進む姉貴の後ろを歩く。気が付くと俺は肩に掛かったバッグの持ち手をしっかり姉貴に掴まれていた。よく見ると横を歩く夏川からも。さながら俺はリードで引かれる犬だった。ワン。

 夏川に至ってはもはや何考えてるか分かんねぇな。とりあえず彼女って事にして良いですか?ダメ?知ってた。


「いやぁ、でも知らなかったよ。まさか楓に弟が居たなんてね。何で教えてくれなかったんだい?」


「何でわざわざアンタ達に言わなきゃいけないの」


「冷たいなぁ」


 ハハハッと笑いながら姉の肩に手をかける三年の優男系イケメンの先輩。身長一八〇センチは有るであろう長身が世の中の不平等さを際立たせる。いっそのことさらに伸び続けてしまえば良いのに。えぇこら。コンビニの入り口の垂れ幕が頭にかかって『あひぃん』てなれば良いんだ。


「ところで、その女子は?楓弟の彼女か……?」


「あっ!ちょっ、馬鹿!」


「?」


 ずっと静観を続けていた三年のクール系イケメンの先輩がやっと喋り出す。声までイケメンだ。あんな声になれたら風呂場でキザなセリフの練習しちゃう。四人の中では一番まともそうな印象を受ける………にも関わらずとんでもない爆弾を落としやがったなこの人。思わず姉貴が先輩を止めようとしたけど何の意味もなかった。


「い、いえっ!私達はそんな───」

「別にそんなんじゃないですよ、先輩」


「ああ、そうか。不躾な質問だったな」


 ホントだよこの野郎。残りの3人もそりゃそうだよなと言わんばかりに納得している。すんなり納得しちゃう理由は簡単に察する事ができる。が、やっぱり良い気はしない。

 見たところこの四人は姉貴に調教されたドMのようだ(偏見)。いっその事この中の誰かが夏川の彼氏にでもなれば俺も納得出来るのにな。


 姉貴はめっちゃ面倒そうにしながらも自由奔放な先輩たちにツッコんだりして世話をしている。既に俺の鞄ヒモからは手が離れ、それを引っ張るものは何も無くなっていた。

 ゆっくりと歩幅を落とし、姉貴と彼らの後ろをひっそりと付いて行く。


「………悪いな……夏川」


「………別に良いわよ」


 よく分からんが夏川はずっと横に居る。別にさっさと先を行ってくれても良いんだけど、芦田が言ってたような何らかの()り所的な意識が俺に対してあったりすんのかね……。

 それでも、今だけは夏川も含め、この綺麗どころ達と一緒に歩くのは何だか辛かった。





「あ、あぁー……ここでお別れっすね………」


「………」


 昇降口を過ぎれば行き先は変わる。姉貴はイケメン達に囲まれながら苦虫を噛み潰したような顔で此方(こっち)を睨んでいた。不思議かな、面食いなはずなのにあんな顔をする姉貴の気持ちが超わかる。周囲から向けられた好奇な視線は恐らく姉貴が最も嫌うもんだろう。今日帰った後が怖すぎる。


 イケメン先輩方の話を聞いたけど、どうやら姉貴を含めた五人は生徒会仲間だそうだ。姉貴は実は生徒会副会長だったりする。生徒会に入ったと聞いた当初はまた何でこんな粗暴な奴がと思ったけど、今となっちゃどこか納得できる気がする。ちなみに会長はクール系の先輩だった。やだ、何この人達親しみやすいんだけど。


 オタサーの姫30倍くらいリア充っぽくさせた姉貴はK4を引き連れて俺とは逆方向へと去って行った。既に姉貴の気はイケメン四人の方に向いて俺への怨念のようなものは無くなっていた。凄い、姉貴が他人に〝姉〟を発揮している。さながら他の四人は世話の焼ける飼い主大好きな犬のようなもんなんだろう。


「……そういや、あんなイケメンに囲まれたのに夏川はあまり嬉しそうじゃなかったな」


「ハ、ハァッ!?アンタ私を何だと思ってんのよ!?」


「うわっ!?」


「な・に・驚いてんのよ…ッ……!」


 驚いて振り返るとその先には怒りの形相の夏川。俺の呟きを拾われたらしい。何に驚いたって、夏川がまだ後ろに居たことだ。靴を履き替えてさっさと教室に向かったもんだと思ってた。


「さ、先に行ってなかったの……?」


「逆に何でここで置いてくと思うの……」


「あらそう……」


 だって俺ウザいんだろ?なんて言葉はわざわざ口にできなかった。これ以上悪印象を持たれて嫌われるのは嫌だし……人として普通の情けをかけられただけだけど、夏川に気を遣われたのが嬉しくて鼻の下を伸ばす事しか出来なかった。今さらだけど今日も超可愛い。


 姉貴の繋がりで一騒動有ったからか、朝礼まで中々良い時間だ。人通りの多い時間帯になってしまった気怠さと夏川に対する気まずさで廊下を歩く間は終始無言になってしまった。教室が近付くにつれ思い出す夏川プロデュース大作戦……俺が側に居たら逆に夏川が新しい友人を作る事が出来ないんじゃないかと思ってしまう。ここは一つ、途中でトイレに寄るという小芝居を───


「あーッ!さじょっち発見!!!」


 ………は?


「……圭?」


 勢いに押されて夏川が戸惑う様に声をもらす。

 教室から出てきた芦田が此方を指差して叫んだ。かと思えば俺のプリティーな渾名を叫びながらドドドドと駆けて来る。さてはすてみタックル……!ワタルははねるをつかった!しかしなにもおこらない!


「さじょっち!あの凛様が激おこ!!」


「……は?」


 ちょっとイベントてんこ盛り過ぎやしませんか、まだ朝起きてから2時間も経ってないんですけど。

次回もお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 濃いですね。 たかが登校ですが濃かったですね(笑) [気になる点] まだ起きて2時間未満か、こりゃキツイな。 [一言] 圭は元気だね
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