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 読者の皆様、遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。




「はい、じゃあ顔寄せてー」


「うん───ちょ、ちょっと! 何でしゃがむのよっ」


「や、この方がスタイル良く撮れるってテレビで……」


「もっと距離取って!」


「さじょっちのエッチ」


 中庭の真ん中。クレープ片手に頬を寄せ合う夏川と芦田を撮ろうとしゃがむと慌ててスカートを押さえて顔を真っ赤にした夏川から一言。芦田は(いん)を踏んできた。冷静に今の自分を顧みると、確かに距離感がコスプレイヤーに群がるカメラ小僧に他ならなかった。危ねぇ……俺の本能が無意識にスカートの中を狙いに行っていた。


「け、圭……これ恥ずかしい……」


「え? でもちゃんとエロいよ?」


「だからよ!」


 夏川が芦田にも文句を言った理由はスカートにある。芦田が写真()えのために夏川ごとスカートの丈を上げたからだ。夏川は戸惑うも芦田の言うことだからと了承。俺が思わず「え? いいの?」と尋ねそうになったのは言うまでもない。二人の生脚の魅力が引き立つのもそうだけど、顔を真っ赤にしてもじもじする夏川の破壊力がやばい。目を背けろというのが無理な話だった。


 とはいえ俺にとっては嬉しさ半分、戸惑い半分。夏川が前向きじゃないのもそうだし、こんな二人の姿を周囲から見られ続けるのも近しい異性としては複雑なものがある。だから俺の願望を乗せて夏川をフォローする事にした。


「てか全身要らなくね? 二人の顔とクレープ入れたらそれで良いじゃん」


「えー、そう?」


「夏川と芦田ならそっちのが良いだろ。二人とも可愛いんだし」


「ぅえ!? そ、そっかな……」


「ま、またそういうこと……」


 満更でもない様子の芦田に手応えを感じると、夏川が文句を言いつつ片手を腰にやってスカートの丈を戻した。膝上の防御力が上がって俺もホッとする。芦田も丈を元に戻したところで、俺はさっさと写真を撮ることにした。さっきからデリケートな動きが多すぎてドキドキするんだよ。


「じゃ、寄りで」


「へっ……!?」


 全身を入れる必要も無いから二人に近づいてスマホを構える。今度はスタイルとか気にしなくて良いから俺も画角をそこまで気にする必要はない。強いて言うなら後ろの景色のバランスかな?


「ちょっ、さじょっち、い、いったん休憩しない?」


「クレープ溶けるぞ」


「あっ……そ、そだね」


「ほら、夏川も。頬寄せて」


「う、うん……んっ……」


「んんっ……」


 夏川と芦田が頬を寄せ合いピトッと付ける。その際に至近距離で伝わった艶かしい声はまさに大人向けのASMR。二人が反対の頬にクレープを添えたところでせーの、パシャリ。


「あれ、目線が───おおっ……!」


「……っ……!」


 撮れた写真を見て思わず感嘆する。当初は同じ構図であざと可愛く撮れさえすれば良かったものの、結果的には青春の甘酸っぱさを凝縮したようなものを感じさせる珠玉の一枚となった。二人がこれを見てギョッとした顔をしているのは気のせいか。


 ポーズだけを見ればノリノリなものの、カメラ目線とは言い難い二人の視線。しかしほんのりと桃色に染まった頬と、照れくささを誤魔化すように逸らした目線が別のベクトルで二人の良さを際立たせている。夏川は当然として、陽キャの芦田も切なそうな顔をしているのがまた良い。これぞお互いを意識した〝女の顔〟と言えるだろう。


「これはバズるぞ……!」


「「消して!」」


 ああっ……俺のスマホ……!


 かっ攫われたスマホが戻ってきた時にはさっきの写真は消えていた。良かったのに、と言いながら消した理由を訊いたら二人から「ダメったらダメなの!」と顔を真っ赤にして言われた。冷静に考えたらあんな二人の顔をSNSで大多数の人間に見られるのは何となく嫌だったかもしれない。


「さ、三人で撮ろ! さじょっちも入って!」


「え? おれ邪魔だったんじゃ……」


「良いの! ほら、早く!」


 やや照りを見せ始めた生クリームを見せながら芦田が急かして来る。

 まぁ、写真をアップするかもしれない芦田が良いならいっか。


 身長差や性別的なバランスで俺が二人の後ろに立ってセンターを飾る事に。ええ、良いんですかぁ? なんておどけつつ何とか三人が収まるようにスマホを構えようとすると、サッと芦田のスマホと差し替えられた。使うカメラアプリは違わないのに何でだ。


 芦田プロデュースで俺は口に唐揚げを(くわ)え、二人はさっきとやや距離を開けて似たようなポーズをする。俺がスマホを持つ右手を斜め上に掲げると良い感じに全員が収まった。ちょっと……二人と距離近すぎて俺が緊張するんですが……なんなら二人もちょっと気まずそうだし。

 ───ええい! ままよ!


「はい! ひーふ(ちーず)!」


「ぷっ……」


 気合いを入れて撮る。掲げたスマホの画面には、唐揚げを咥えて必死そうな顔をする俺と、吹き出して笑う二人が写っていた。はいはいはーい、やり直しを要求しまーす。


「だめ!」


「はんれ(なんで)」


「何でも!」


 芦田からは断られ、夏川からは理由なき却下がくだされた。スマホもさっさと回収されたし。夏川さん……? さっきからその断り方は愛莉(あいり)ちゃんの教育に宜しくないのでは……? 二人が楽しそうだから俺は良いけど、愛莉ちゃんは納得しませんよ? おっとと、唐揚げが美味くてヨダレが……。


 もぐもぐと食ってると、俺ら三人のメッセージグループにさっきの写真が貼り付けられた。笑う二人に比べて、必死になって目をかっと見開いてる俺のダサさよ。はぁ。


「…………これ、大丈夫?」


「えー? 大丈夫だよ?」


「……そっか」


 俺のダサさは別として、スマホを持って腕を伸ばす俺がまるで二人を胸に抱き込んでるようにも見える。こんな写真が芦田のSNSで投稿されたら炎上してフォロワー減るんじゃね? なんて思ってしまう。や、投稿しなければ良い話なんだけど。


 ポコン、と通知音が鳴ってスマホに映る写真がスライドした。夏川と芦田のツーショットだった。あ、俺がこうしてる間に撮ったんですね……うん、こっちの方が良いと思うわ。




  ◆




「絵本屋さん?」


「うん、在校生の有志で開いてるって、圭が」


「へぇ、パンフレットに載ってないんだな」


 どうやら部活や委員会ごとの企画リストは各リーダーのみが握っているらしい。肝心の来校者に配られないという不親切さ。これは来年の文化祭への課題となるだろう。たぶんもう俺が関わる事はないと思うけどね!


「部活の企画は一緒くたに書かれてるからねー。せめて文化系とスポーツ系くらいは分けてよって感じ」


「わかった。姉貴に文句言っとくわ」


「ちょっ…… やめてよ!? ぜったいやめてよ!?」


 おや? それはフリかな?

 なんて返すと腕を捕まれガクガクと揺らされた。冗談だと芦田を見ると割とガチで焦っているようだった。女子から見た姉貴ってどうなってんの……?


「えっと……良い、かな?」


「ん? 別に良いよな? 芦田」


「うん? 良いよ?」


「その──興味ないんじゃないかなって……」


「……え? 俺が?」


 恐る恐る見上げるように俺に向かって確認する夏川。どこか怯えるような様子に思わず自分を指差して訊き返してしまう。


 意外というか……気にすること? なんて思ってしまう。興味があるかと言われたら確かにそんなにかもしれないけど、それじゃ楽しめないかって言われると話は別だ。愛莉ちゃんを思って絵本を吟味する夏川を見れるし、俺や芦田も愛莉ちゃんが好きそうなものを探す事に楽しめそうだ。夏川に限らず、こういうのは存分に付き合ってやるべきだと思うし。


 さらに意外なのは夏川が俺に対してそこまで気遣うところか。や、気遣うにしてはどこか大袈裟すぎるような……何だか接待されてるみたいで体がムズムズしてしまう。距離が近くなったようで離れてるような……。


「……」


 チラッと芦田を見ると黙って俺の返事を待っているようだった。普通、か……? いつもの芦田なら直ぐに「気にしなくて良いよー」なんて割って入って来そうなものだけど。


「そんなの気にしなくて良いって。行こうぜ」


「うん……ありがと」


「お、おう」


 安堵したのか、安らぐように微笑む夏川。素直に嬉しさを表現されて動揺してしまう。自分の体の温度が上がったのが分かりやすく感じられた。今度は俺の様子がおかしくなる番だった。


 おで、なつかわ、ついてく。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] SNSのご利用は用法要領をよく守って正しくうpしましょう。
[気になる点] 矛盾点に感じられる点がありました。第58部分「文化祭実行委員」において、文芸部がないことが明示されています。しかし第182部分「確認」において文芸部の展示が存在しています。自視点では一…
[一言] 芦田もギクシャクしてるのは180話の佐城の言葉が芦田にも刺さったからかな。芦田は佐城の事はよく見てなかったし。 まあ、刺さってなくても気を使いたくなる言葉だったけど。
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