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男子の葛藤

続きます。



 文化祭実行委員会とは別で、クラスの出し物の準備も本格的に始まった。夏川と佐々木はいつもの作業をこなしつつ、万が一うちのクラスの内容に変更点が生じる場合は対応しなければならなくなる。各クラスの文化祭実行委員会への窓口役も果たすわけだ。こればっかりはなぁ……できるだけやれる事はやるつもりだけど、クラスの主導してんのが大槻(おおつき)先生とクラス委員の飯星(いいほし)さんだから迂闊にしゃしゃり出る事はできない。


「アンタは……来るの?」


 席が前後だからか、周りが各々移動を開始し始めると夏川が訊いてきた。委員会の新体制が動き始めて三日目。花輪(はなわ)先輩率いる社会人チームのおかげですこぶる順調なわけだけど、一年の夏川達には伝わってないのか、気まずさを他所に俺に話しかけるくらいにはまだ不安な気持ちがあるらしい。


「悪い、そっちは一応手伝ってるってだけなんだよ。そもそも実行委員じゃない俺がそっち行っても周りは何で?って感じだろうし。(ごう)先輩──石黒先輩が居るから問題は起こらないと思う。あの人は何か色々理由つけてフットワーク軽くしてるらしいから」


「そう……」


「夏川、心配しなくても大丈夫だって。冷静に考えてみ? 俺達と違って新チームの人達は昼と放課後だけじゃなくて一日中手伝ってくれてんだ。進み具合で言ったら元々の比じゃないから。そんな不安になんなくて良いって」


「え? う、うん……」


 バイトしてた時もそうだったけど、チームで動いてても末端の立場だと今どんな状況かの情報が下りて来ないときがあんだよな。何となく先輩同士が話してんのを聞いて「は? 今そこまで行ってんの?」ってなったりしてたし。俺は別に夏川より立場が上ってわけでもないけど、確かにちゃんと周知しないとわからないのは当たり前か。


「今んとこ心配しなくてもって感じだけど……何か訊きたいことでもあんなら何でも訊くぜ?」


「あっ……と」


 さじょっち窓口はいつでもオープンだよと伝えると、夏川はじゃあそれならと言わんばかりに顔を上げた。ああ質問あるんだと思って待つものの、言葉にしづらいのか詰まらせてるようだった。


「まぁ別に仕事に関係ない事でも──」


「夏川、行こう」


「………」


 ちゃんと言葉になんなくても良いから聴くだけ聴こうとしてると、横から癪な声がかかった。佐々木だ。


「お前ね、タイミングもうちょっとどうにかならなかった?」


「あ、いや、その…………悪い」


「お、おお………や、別に良いけど」


 わざとかテメー、なんて目を向けると意外にも佐々木は素直に謝った。そう来られるとこっちも大人しく引き下がるしかない。ムカつくイケメンには変わりないものの、前よりは自信無さげになったような気がする。くそぅ……むしろ謙虚さと物分かりの良さが増して余計にイケメンになってるような気がする……戦いの中で成長する主人公かよ。シリーズ初の新モード実装しちゃう系キャラかよ……。


「──じゃあ、ね……?」


「あ、はい」


 別にそこまで重要なことでもなかったのか、夏川は何も訊いて来ずに必要最低限のものを持って佐々木の方に付いて行った。季節的に早めの木枯らしが心に吹いたものの、時間を取るわけにもいかないし、戸惑うような視線を向けて来る佐々木にとりあえず「おら行け」って目線を送っといた。それなら、といった感じで佐々木は夏川と一緒に教室を出て行った。


「さじょっち! パンはパンでも食べられないパンはなーんだ!」


「レーズンパン」


「それさじょっちが食べられないだけでしょ………正解はウグイスパン!」


「どの口が言ってんの?」


 さやえんどうスナックとか好きな方だけどな。そーゆー意味じゃ甘いえんどうは俺もそんなに好きじゃないかも。ずんだ餅みたいな枝豆かと思ったらえんどう豆だった時の裏切られた感はスゴい。そもそも何でそっち系の食い物って〝ウグイス〟だったり〝ずんだ〟だったりトリッキーな名前なわけ?


 突然やって来た芦田は「ちぇー」なんて口をとがらせると、気だるげに夏川の居た席に座って(うな)垂れた。


「やー、小さい頃はあれホントに〝ウグイスだったもの〟って思っててさ。苦手なんだよねー」


「きくらげをガチのくらげと思ってた口な」


「え、違うの?」


「いや、そうだよ」


「アタシそれも苦手ー。砂浜に打ち上げられたくらげとかグロいし」


 ……もしや俺は今とんでもない嘘をついたんじゃ………まぁいっか。この程度の勘違いなんて可愛いもんだろ。どっちかっつーとウグイスの方が色合いもあって業が深い気がする。絶対に芦田以外にも勘違いしてる子供がいそう。ホケキョ。


「なーんか出し物でクイズ大会ってつまんないよね。よく聞く喫茶店とかお化け屋敷とかバンドとか三年生が持ってっちゃうし」


「まぁ、一年の文化祭なんてそんなもんじゃね? それこそお隣なんか中学生向けの学校紹介だろ? うちなんかマシな方だろ」


「中学の頃もそんなのあったけど、高校でそれやるとめっちゃガチなの出来そうだよね」


「一周回ってアリよりのアリかもなぁ」


 なんかビデオカメラ持ってうろうろしてたし。アクティブさで言えば単純にみんなでワイワイやる分にはこの準備期間中が一番楽しいのかもしれない。


「ふへへ……愛ちの匂い」


「おい馬鹿やめろ。そこは夏川の神聖な場所だ。芦田なんかがくんかくんかしていい場所じゃないんだよ。わかったら代われ」


「さじょっちと男子はだめー」


 くっ……その手があったか! 何で今まで思い付かなかったんだ! 夏川がずっと使ってる机なんだから夏川の匂いがしてもおかしくないだろ! てか何で俺は男子のカテゴリじゃねぇんだよ!


「はーい、みんな机後ろにやって! それから男子は手分けして買い出しで女子は装飾作って! さ、取りかかる取りかかる」


 大槻先生がパンパンと手を叩いて纏める。距離感の近しい運動部の連中が「う〜い」とか言いながらのろのろと立ち上がった。飯星さんがホッとしてる。ああいう纏め方は生徒じゃできないからな、うちの担任が生徒と一緒に青春したがるタイプなのは良かったのかもしんない。


「じゃ、席戻るね」


「せっかくなら夏川の机後ろに運んでもらって良いんだぞ」


「代わってあげるっ」


 ばいびっ! と去る芦田。そもそも何でこっちに来た。お前さんコミュ力高いんだからあまり動いちゃダメでしょ。ほら、元の席の周りちょっとシーンとしちゃってんじゃん。


 早く運ばないと前の方が詰まるし、さっさと運ぼう。







「あのさ、百合って良いなって」


「もっと野郎のノリで言ってくんね? 真顔で言われても困んだけど」


 昇降口から出たところで、山崎のトークが始まった。内容は困るけど話題に乏しいときには助かる。うん、内容はともかく。


「あれか。席の位置的に一ノ瀬さんと白井さんのが原因か」


「そーなんだよ! あと岡本(おかも)っちゃんもな! 毎度毎度近くでイチャイチャイチャイチャしやがって! 天国かよ」


「山崎もやっとその魅力に気付いたか」


 一ノ瀬さんはちょっと保護者目線で見ちゃうし、どっちかっつーと俺は夏川と芦田の絡みの方が刺さる。しかもこっちは夏川が「やめてよー」なんて言いながら喜んでるから俺も喜んじゃう。最近は夏川の席が近過ぎて見れないんだよな……俺がいるせいで三人になっちゃう。や、良いんだけどさ。


「しかも知ってっか? 最近の一ノ瀬さんちょっとデレ始めてんの」


「マジで」


 そういや言われてみれば最近はあまりメッセージで白井さんとかの愚痴を聞かない気がする。ちょっと前までは「本に集中できない」なんて俺にヘルプしてたけど、最近は白井さんはこんなのが好きとか、岡本っちゃんは意外とこんなタイプだったとか、ちゃんと親交を深めてる感がある。笹木さんともお互いにオススメの本を教え合ったりしてるみたいだし。


「俺もうどうしたら良いんだろって」


「ガチレスすんなら今のままがベストポジションだ。良いか、絶対に関わろうとすんじゃない。あれは眺めるためにある。お前が関わった瞬間、そこに尊いものは失くなっちまうんだよ…………ほら、俺とかバイトで一ノ瀬さんと関わってたけどあんま近付いてないだろ?」


 毎晩メッセージでやり取りはしてるけど。


「佐城っ……!」


「え、俺岡本っちゃんちょっと気になってんだけど」


「岩田ァ! てめぇ!」


「岡本っちゃん、ねぇ……」


 普通に会話に入って来た野球部坊主の岩田。タイプは岡本っちゃんだったか………俺が見るに、岡本っちゃんは女子同士でわちゃわちゃしてる今が幸せで誰かと恋愛したい感じには見えないけどなぁ……。

 白井さんとかは好きな人ができたら直ぐに女子内で言っちゃいそうだけど、岡本っちゃんは胸の内に仕舞ってそう。ワンチャン実は誰かと恋してみたいなんて思ってたりすんのかもしんない。てかたぶん白井さんも岡本っちゃんも佐々木好きだよな……視線的には今の俺が夏川を見る目と同じような感じだけど。


「てかさ、佐城は何でイケメンじゃないのに女子と普通に話せんの?」


「まぁ俺は夏川オンリーをオープンだったから他はどうでも良かったっつーか。女子もそのつもりで俺と話すし。意識する余地が無いっつーか。あとお前もそんなイケメンじゃないかんな」


「……冷静に考えたら佐城って割と恋愛マスターなんだよな……フラれてっけど」


「しかもそれでまだ夏川さんと普通に話してたりすっからな。お前マジで今どーゆー関係なん?」


「さぁ……同じグループ? そもそも二年近くの付き合いだから……」


「同じグループって、芦田もだよな!? マジで何なんだよ佐城お前! 芦田のボディータッチどうにかしろよォ! ドキドキすんだよォ!」


「岡本っちゃんとかとも普通に話しちゃうしよぉッ! 何なんだよお前よッ!」


「マジ何なのお前ら」


 ……こうして比べてみると女子に普通にグイグイ行ける佐々木ってリアルに結構すげぇんだな。そのうちマジで異世界転生とかしそう。妹の有希(ゆき)ちゃんが追いかけるとこまで見えた。



─────いま行くからね。



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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかんだと言いつつも、仲良いよねさじょっちと山崎 山崎の扱いは相変わらず悪いけども こういう中身のない雑談的な話も大好きやで
[一言] あとがきでヒィッ……ってなった(Ⅲ ゜Д゜)
[一言] おそらく結構な人が思い浮かべたフレーズを載せておく 「転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?」 ヒェッ…
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