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折り合い

続きます。




 もう死ぬしかないとき、人は何を思うか。今までの後悔か、それともただひたすらに走馬灯が頭の中を駆け巡るだろうか。ハハッ、んなもん銀行強盗の人質にでもなってみないとわかんないだって? ノンノン。


 俺……最期に何食ったっけ。


「ぷは」


「ちょ、俺のアイスコーヒー」


 膝枕? 違う、(タマ)ァ握られてやがる……さっきから起き上がろうとしても鎖骨の辺りにそっと添えられた手がビクともしねぇ……。何で押さえ付けられてるわけじゃないのにこんなガッチガチなの? 大仏か何かの隙間に挟まってんの俺?


 気分屋でワガママなのは分かりきった事だけどいくら何でもこれは度が過ぎてる。まさかこんな人のテリトリーにズカズカ入ってくると思わないじゃん? さては罪を重ねすぎたか………ん?


「…………何それ」


「耳かき」


 ちょっと待ってマジで怖くなって来た。この(アマ)何しようとしてる? もしかしなくても俺に耳掃除しようとしてる? え、何で? 心当たりは無いことも無いけど何で? 俺が風呂上がりに綿棒グリグリ派なの知ってんじゃん。


「右」


「おんっ!?」


 左肩を跳ね上げられる。ゴロンと転がされた。みぎ……? 右耳じゃなくて右向けってこと? それとももう半転した方が良い感じ? や、そもそもマジでやろうとしてる? おれ今日から耳聴こえなくなんの?


「覚悟しな」


「ちょちょちょちょちょっと待ってマジで!!ホントマジで!!」


 少なくとも耳掃除しようとしてるとは到底思えないセリフ。それを聴いて恐怖が限界に達した。施術。そうこれ施術だわ。ミイラ作りという名の俺の脳みそチュルチュル事件が起ころうとしてるわ。


「なに!? 何なの本当!? 怖いんだけど!怖いんだけど!!」


「うっさい」


「んぐっ」


 起き上がろうとして元の状態に戻される。左側頭部に圧力。これはマズい、俺がどんなに悲鳴を上げて暴れても動かないように固定してやがる……!

 どんな悪魔顔してやがるかと見上げると、至極無表情の顔があって固まってしまった。


「──ウチら、普通の姉弟じゃないんだって」


「……は?」


 突然、意図の読めない話題を振られた。ワケ解んない状況にワケ解んないもん重ねないで欲しいんだけど。俺の脳みそパンクしそう。今から摘出されるかもだけど。


「玉緒のとこはもっと仲良さそうだった」


「たまお」


 誰? 中村玉緒? マロニーの人に何か言われたん? 急に知らない名前出されても困るんだけど。玉緒さんのとこ仲良いの? 老後も姉弟幸せとかマジ卍じゃん。


「アンタもウチら仲良くないみたいなこと言ってたし……アタシも自分が荒れてた事くらい解ってるから。これでも何とか一つ一つ元に戻してってるわけ」


「へ……」


 何それ初耳。まさか姉貴が前の自分がどうだったか自覚してると思わなかったわ。『そんなんじゃなかったし!』なんて全否定してると思ってた。根っこの部分はそう変わってねぇし、夏に入る前の訳わかんないアレはその入口みたいな感じだったんかね……。


「まぁその、なに……謝罪の意味も込めてってやつ」


「や、その割には──」


「うっさい」


「んぐっ……──ひょえ」


 左耳がガサゴソと。耳かきが侵入して来た。いよいよ緊張して来たぞホント何これ。大丈夫? 姉貴勢い余って奥までぶっ刺したりしない? 怖すぎて動けないんだけど。こうなった以上石像と化すしかないっ……!


「ビビりすぎ。んなミスしないって」


「………ほん? 実は俺以外にもやった事が……?」


「手が滑りそう」


「奥はやめろ」


 耳かきの先端が5ミリ深くなった。デリケートゾーンに突入した気がする。おかしい……耳かきってこんなハラハラするもんだっけか。だいぶ昔にお袋にしてもらった時はもっと気持ち良くてウトウトしちゃうレベルだったと思うんだけど。


「アンタさ、前もあったけどホント凛とどういう関係なわけ?」


「え?」


 今度は何だ。姉貴って俺と四ノ宮先輩の関係を気にすんのか? いや別に気にされるほどの関係でもないけどな……確かに出会ったきっかけは姉貴関係無いけど。


「今日、いや日頃から凛がメンドくさいにしても、男を欲しがる系の奴じゃないでしょ。知り合いのツレが自分の弟とか結構イヤなんだけど」


「や、そんなんじゃないから。“男”って見られてる温度感じゃねぇだろアレ」


「………『どうせ可愛がらないなら寄越せ』って言われたんだけど」


「衝撃の事実なんだけど」


 ペットか俺は。“今日”の四ノ宮先輩の話だよね……? なにそんなに食い下がったのあの人。んな寄越せって言われて寄越せるもんなのそれは。まあどのみち異性として見られてる感じじゃないわな。


「玉緒と喋った時も『一人っ子かと思ってた』って言われたし」


「玉緒」


「『お姉ちゃんっぽくないけどワンちゃん手懐けてる飼い主感は有るよね(笑)』って言われたし」


 玉緒さん煽り属性(つよ)ない? それ俺じゃなくて生徒会の面子の事言ってんじゃねぇの……? 今んとこ姉貴が全員の尻ビシバシ叩いてやってる印象だけど。


「悔しかったわけね」


「次、反対」


「おんっ!?」


「逆サイド回って。腹に顔むけんな」


「どうでも良いけどちゃぶ台ひっくり返すみたいに転がすのやめてくんね?」


 あと話聴けよ。てかもう耳掃除いいから。早よじゃなくて。言いたい事は解ったからわざわざ性に合わないことしなくていいから。オラ早よ回れやじゃねぇんだわ。改めて自分から膝に頭置きに行くとかそんなん───


「………」


「アンタ、あのめちゃ可愛(かわ)の子とどうなったわけ?」


「なに美容師トークしてんだよ……」


「姉として訊いてんの」


 今度は右耳。


 何か世間話始まったんだけど……そもそも姉に話すような事じゃねぇだろ。今日も気まずい場面あったし、どうなったかって言われれば疎遠まっしぐらとしか言えない。席替えで前後になって超嬉しいけど、俺が求めてんのはそんな接近じゃなくて程よい距離で女神として君臨し続けてくれる事だ。つまり眺めてるのが一番良い。今じゃそれも出来なくなった。


 前後だとどっちかが話し掛けなけりゃ、顔を合わす事なんて今までとそう変わんない。気まずさがある限り、進んで言葉を交わすことなんてもう……。


「──俺は姉貴の方に興味あるね」


「は……?」


「イケメン好きなのは知ってる。んでもってあの生徒会の面々……そろそろ誰が本命なのか弟に報こォォ奥はヤメロォッ!!!」


 んの(アマ)ッ……! 都合が悪くなると無言で俺の鼓膜を破りにきやがるッ……! どうせならもっと気持ち良くしなさいよ!いつかデキた彼氏にやるかもしんないんだからちょっとはマトモな女子力見せてみろや!


 ……いや待てよ。こんな姉貴の事だ、ほっといてもこのガサツさは(なお)らないだろうし、そろそろ真面目に女子力を養う必要があるかもしれない。実際どうか知らんけど、俺にはどうにも姉貴が生徒会の面々を“男”として見てないように見えるし………あんだけのイケメンフェイスを台無しにする程のもんって何なの……? や、ちょっと心当たりはあるけどさ。


 まあ姉貴の花嫁修業のために協力してやるのなら(やぶさ)かじゃないかもな……や、ホントは何か怖さと恥ずかしさと面映ゆさが入り混じった感じだけど。改めて考えると特別な事情無しにこんなんやんなくね?


「…………玉緒さんのとこがどうか知らねぇけど、普通の姉弟はこんな事しないんじゃねーの?」


「でもやってるってよ」


「弟さんいくつ?」


「いくつ……小5とは言ってた」


「おい」


 小学生じゃねぇかッ!そりゃそんだけ姉と歳の差ありゃ耳掃除もしてやる程度に可愛がってるだろうよ!俺と姉貴の関係とはまたワケが違うだろ!


「姉貴? おれ今度の3月で16。玉緒リトルブラザーとは年季が違うの。見てみ? 姉貴より背ぇ高いし。もう大人なの大人」


 小学生と同じ扱いたぁ舐めてくれるぜ……幾つかバイトも経験してる俺は社会人に足を踏み入れてると言っても過言じゃねぇだろうし。姉に耳掃除されるような甘ちゃんじゃねぇんだよ!!!


「──でもアンタ注射とピーマン嫌いじゃん」


「ハッハッハ」


 こりゃあ一本取られましたな(笑)


【嫌いなもの】

・404 Not found

・注射   ←NEW

・ピーマン ←NEW


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一本っ!
[一言] 404はホント嫌いな数字よな 過去頻繁に見てたようなものだとお前…いつの間に…ってなる
[一言] 404 not found見たときのもう会えないのか、、、、感
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