だがシスコン
続きます。
改めて整理すると、俺には罰があるわけだ。というのも前に山崎から深夜にスマホの鬼通知で起こされ、その復讐でアカウントのアイコンと名前をホラー系のもんに変えたら戻し忘れて夏川を怯えさせてしまったから。夏川より芦田大明神様の方が怖かったのを憶えている。
罰の内容は、バイト先で土下座させてしまった子の事情を聞き出す事。聞き出すっつーか、要は一ノ瀬さんの事情に理解を示して帰って来いって感じなんだろ多分。自分に何の得も無いのに、夏川は俺の都合を優先してくれたわけだ。何なの女神なの?そんな事されたら惚れてまうやん?そういや惚れてたわ……。
【ごめん、姉貴が】
【あ、渉のお姉さん?】
【不本意ながら】
【そんな事言わないのっ】
のっ。可愛い。
俺の部屋。落ち着いてからメッセージを返すと、夏川は待ってくれていたのか直ぐに返事をしてくれた。それに比べて俺は頭の中が真っ白になって言葉が思い浮かばない。何故なら夏川と二人でやり取りしているという現実に気が動転しているからだ。嬉しいよぉ……!嬉しいよぉ……!
【アンタが余計なこと言うからじゃないの……?】
【や、何も言ってないって】
そして今日、どうしてこのように愛しのJKと───何か性癖っぽいな今の。夏川じゃなくてJK自体が好きみたいな?いや間違ってないけど?まぁ、うん……き、嫌いじゃないですけど?ははっ、俺ってばツンデレ────うしっ、冷静さ取り戻した。
【それで、どうだったの?】
【バイトの事な。えっと……どうやら自立したいとか何とかで………】
【…………そんなに大変なの?その子】
大変っつーか……それを夏川とか芦田みたいな女子相手にサクッと言えるかってなるとどう説明しようかって感じ。一ノ瀬さんも大変っぽいけど今の俺も大変。だってあんな重いと思わないじゃない……兄離れを頑張ってしようとする子とか初めて会ったよ……。
【や、別に複雑な家庭事情とかじゃなくて……自立っていうのはその、あの子の向上心的な?】
【それ本当なの……?よっぽどの事情じゃないと自立したいなんて思わないと思うけど。私達と同い年で大人しい子なのよね?】
【あー、まぁ、うん……そうなんだけど………】
【何かあるの……?】
とにもかくにも何とかはぐらかしつつ伝えたい。そうじゃないと100パー気まずい空気になるじゃんか。だって相手は前に告った事ある夏川だぜ?正直に話したとしてキモい話振ってきたと思われても仕方ない。次がもう最後の切り札だし、これで切り抜けるしかない。
【その、お兄さんが居るらしくてさ。兄離れのために自立したいって事らしいんだよ】
【兄、離れ……?へぇ、え?どういうこと?】
ん……んん?何か動揺してる?夏川は愛莉ちゃんが大切だから、妹が居る身としちゃあまり聴きたくない言葉なのかもしれない。
でも嘘だとしてもこれが無難な説明なんだよな。ここは想像しやすいように、有りがちな兄弟姉妹を例にしよう。
【いやほら、兄弟だろうか姉妹だろうが思春期になったら大体お互いにウザいとか思うじゃんか】
【そうは思わないわ】
【あ、そう……】
え?思わないの?
俺とか今こそ別にって感じだけどちょっと前まで割と酷い方だったっていうか……。え?俺だけ?世間の中学生くらいの兄弟姉妹はお互い大好きなの?そんなに世の中LOVE&PEACEだったっけ?割と俺デッドオアアライブだったんだけど。サバイバーなんだけど。
【えっと、例えばの話だぞ?夏川が愛莉ちゃんに構いすぎてウザがられました】
【ちょっと何言ってるかわかんないわ】
【あ、そう?】
あ、あれ……?説明の仕方悪かったかな……そんな人にもの教えるの下手くそじゃないってくらいは自負してたんだけど。え、もしかして俺説明すんの下手くそなの?もしかして一ノ瀬さんも俺の教え方が下手くそ過ぎて辟易してたとか?え………ち、違うよね?ただちょっと夏川が愛莉ちゃんの事を大切に思い過ぎてるだけだよね?
【愛莉にそんな日は一生来ないと思うの】
【お、おう!そうだよな!いくつになろうと愛莉ちゃんはお姉ちゃん大好きだもんな!】
……………………。
……………………ん?えっと、既読は付いたけど────
【お姉ちゃんはやめて】
【あ、わり】
そうだった……え?そんなキモい?今のは結構会話の流れでだったと思うんだけど………。
………いや、まぁキモいもんはキモいんだろ。冷静に考えよう、俺に"お姉ちゃん♪"ってあざとく言われたとして………成る程。これはあざとさじゃねぇな、テロだテロ。感動する映画見終わって館内から出て余韻に浸ってる人達に向かって仕掛けてみたい。一発でいつもの日常以下に引きずり下ろしてやれそうだ。
【オッケーわかった、別の例えにするわ。愛莉ちゃんが十年後くらいに彼氏を連れて来たとして】
【は?】
ひぃんっ。
め、女神さま……?何がとは言わんけどひゅってなったよ?ちょっと怖いかなってゆーか………え?シスコンってもしかしてそういうレベル?あれってほとんど芦田の冗談じゃなかったの?
いや、だって普通に俺に愛莉ちゃん抱っことかさせてくれたじゃんか……ガチのシスコンなら普通許さなくない?俺が愛莉ちゃんの兄貴だったら小学校から大学まで女子しか居ないとこに通わせるくらいシスコンだったと思う。ましてや俺に触られてたらなんてお前っ……!その部分薬用石鹸でゴシゴシさせてたわ多分。
【愛莉が……何て?】
【あ、えっとっすね】
【うん何?】
いや怖いな。怖い、怖いなーうん。何だろうなこの切り返しの早さ。言外の圧感じるわ。押し潰されそうな───いや待てよ?夏川からの圧……それはつまり夏川を超感じてるという事では!?
馬鹿落ち着け。勢いに身を任せるのはやめよう。それで良い方に転んだ事なんてほとんど無いし。また夏川に不快な思いをさせるかもしれないだろ。それだけは避けたい。ここは冷静に、夏川の機嫌をなんとか取りながら………。
【な、夏川さん……?怒ってます?】
【怒ってないわよ別に。それで?なに?続けて?】
それ続けて欲しい感じじゃなくね……?
いや、もう俺が悪かったからやめよう。心苦しいけど──マジ断腸の思いだけどいったんここで会話をぶった切ろう。一回昼寝とか挟んじゃって、何なら芦田が部活を終えたくらいの時に続きを話そうぜ。アイツの事だから良い感じにフォローを───
【ねえ。続けて良いわよ?】
【うす】
夏川が寝かしてくれない。良い、この響き。感動した。
【えっと………あいや、だから、将来的に愛莉ちゃんが彼氏を連れて来たとして】
【年収は?】
【年しゅ……え?】
ね、年収っすか?十年後って事は愛莉ちゃんが15歳だから、彼氏を連れて来たとしても多分まだ学生なんじゃねぇの?"年収"って言葉はちょっと………。
いや待て、夏川だぞ?もちろんその辺も加味した上で訊いたに決まってんだろ馬鹿か佐城テメー。きっと夏川なりに愛莉ちゃんの幸せを願ってるんだ、そんな当たり前の事に気付かねぇでどうするんだっ……!
えーっと……?彼氏連れてくんならたぶん歳はプラマイ2つくらいだろ?バイトなんてやらない奴の方が多いだろうし、とりあえず無しとして………えっと…………お年玉がまぁ低くて親から1万以上として小遣いは月5千円としてー………そしたら───や、お年玉辺りはもうちょっと盛っとくか。そうじゃないと話が進まねぇや。いや進めたくねぇのが本音なんだけど。
【えと、じゃあ10万くらい……?】
【10万ドルね。まぁそれなら別に】
えっ、ちょっ、あの。
¥ ☓
$ ○