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あの時ぶりの来訪

続きます。





 赤裸々に───本当に赤裸々に語られた一ノ瀬さんの事情はもう何というか俺の中の破壊衝動を刺激するようなものだった。リア充この野郎とかいうよりも一ノ瀬さんへの同情心が強い。“兄離れ”のきっかけマジもん過ぎんだろ。NTR系マジやばい……厳密には違うけど。


 あれから一ノ瀬さんはお兄さんと顔を合わせづらくなり、まともに話さなくなったという。それでも寂しい想いは募って行く一方で、このままではいかん、どげんかせんといかんという思いでこの古本屋にアルバイトしに来たとか。


「自立しないと、いけないんです」


「う、うん……そっすね」


 理解したよ。俺の気持ち的には予想の斜め上を飛んでホームランだから。そりゃ兄離れが必要に感じるわな。姉貴の同じような状況を目の当たりにしたら俺なら金貯めて一人暮らし始めると思う。


 あ、ちょっと待って時間経つと興奮して来た。由梨ちゃん先輩って積極的なんだな……その片鱗は学校に居た時からちょっと感じてたけど……うわああああっ、クマさん先輩羨ましすぎるっ……!でも素直に祝福できちゃうこの感じ何なんだろうっ……やっぱイケメンかそうじゃないかはデカいな。


 うおおおっ、ダメだ!仕事仕事!今日───いや昨日からちょっと邪念が多いわ!気を紛らわせないと!











 あれから一ノ瀬さんの仕事ぶりと来たらホントに素晴らしいもんで、機敏にパタパタと動いていた。ゴメンね、見てると微笑ましくなっちゃうんだ。


 一ノ瀬さんの自立───自立はちょっと違うかもしんないけど、“兄離れ”の覚悟がどれだけのもんかは把握した。すっかり引き込まれたというか、一ノ瀬さんに対する嫌な感情は予想外過ぎるエピソードに全部吹っ飛ばされた。あんな話を聞いたからには一ノ瀬さんには是非とも兄離れしてもらいたい。そうじゃないとツラすぎるじゃない……。


 何だか妙な連帯感も生まれた気がする。クマさん先輩の事は祝福してるけど、一方で『兄貴てめぇこの野郎ッ!』って気持ちがあるのも確かだ。たぶんそれが一ノ瀬さんと共通項になったんだと思う。


「やっぱ接客かな」


「せっきゃく……」


 ポロっとこぼした言葉に一ノ瀬さんがビクッと反応した。昨日の変な───もう良いか、キモいおっさんのトラウマがまだ残ってんだろう。あれは特別キモかったから仕方ないけど、それでも嫌な感じの客は居るっちゃ居る。


「間近で接するに限るから……それっぽい客が来たら俺が対応するから、ある程度慣れるまで見てようか」


 この勢いなら上達までの時間はそうかかんないだろ。単に何となくでバイトを始めたんならともかく、あれ程の理由があって続けるっつー覚悟なら『お、おう……まぁそれなら』ってくらい応援できる。ていうか指摘しづらくなったのは否めない。まぁ今日のところは上々のできだと思うから良いんだけども。


「ぁ……お客さ───おきゃくさま」


「え?ああいらっしゃいま───」


 たぶん"お客様"じゃなくて"お客さん"って言いかけたのか、一ノ瀬さんが言い直しつつ俺の後ろを指差した。お客様が来たのなら挨拶せねばと思って後ろを振り向いたけど、顔を見て思わず言葉が詰まる。そういやこの前の学校以来来てなかったなって思い、改めて声をかける。


「いらっしゃい。笹木さん」


「あ、あの………はい」


 一ノ瀬さんかな?


 何だか気まずそう?すっごいもじもじとした感じでゆっくり近づいて来る。前会ったとき何かあったっけな……?普通にさよならしなかったっけ?相変わらず大人っぽい見た目なんだよな、この見た目でまだ中学生なんだぜ信じられ───あっ………。


 中学生って分かっちゃったからかすっごいフランクに話し掛けちゃったよ。前は女子大生と思ってたからバリバリ丁寧に話してたのに。こうやってころっと態度変えちゃうのって笹木さん的にどうなんだろう……自分じゃよくわかんねぇな。


「あー……そっか。その……年下なんでしたっけ?」


「……!?」


「あっあっ……そのっ、どうかそんなに畏まらないでくださいっ、それが普通だと思うので……」


「そ、そうですか……」


「ひぃんっ、やめてくれないっ……」


 笹木さんに年下って言った瞬間に一ノ瀬さんがバッとこっちに振り向いた。解るよその気持ち、どう見たって目の前に居るの美人のお姉さんだもんね。もう年上って事で良くない?年下の女の子がお姉さんぶって俺を年下扱いして来る方がそこはかとなく燃え上がるもんが有んだけど。そう、俺は燃えるゴミ。


「あーっと………これで良い?」


「あっ………はい!」


 中学生中学生……相手は中学生。薄ピンクのブラウスに白いスカートとか大人っぽい格好してるからって年下だから。鎮まれ、年上の女子大生にタメ口使って甘えたくなってる俺の邪念よ。お前ならできるっ……今日から君は富士山だッ………!!


「えとっ、きょ、今日はですねっ!この前の誤解を解きに来たと言いますかッ………」


「え、誤解?」


 誤解とは。何か笹木さんに変な印象持ったっけな………年上かと思ったら中学生だった事くらい?ハッ!?まさかこの前のお友達3人も含めて全員中学生のコスプレした女子大生だったとか!?おいおいマジかよ全然判んなかったんだけど!(歓喜)


「笹木さん………俺、すっかり騙されてたよ」


「エッ!?ち、違うんですアレは!!私は喋り下手じゃないし少女漫画ばかり読んでるわけじゃありませんからね!小説だって大好きです!お、主に恋愛小説ですけど……」


「えっ」


 え、そっち?女子大生違うん?


「こ、これでも最近は『やっと中身が外見に付いて来たか』って先生に言われるんですから!服だってキャラクターのをやめて大人っぽいのを調べててっ……!」


「あっ、うん」


 あ、あれ?何かだんだんタメ口利くのに違和感を感じなくなって来たかもしんないぞ?笹木さんってこんなキャラだったっけ?もっと落ち着いた感じだったような………や、まぁ中学生なら全然おかしくはないんだろうけど。


 いや待て、落ち着くのは俺の方だ。笹木さんが中学生だろうが女子大生だろうがそんな事はどうでも良い事じゃねぇか。大人っぽい女性に残る少女のようなあどけなさ───これが全てだ。キャラクターの服だって?ユー着ちゃいなよ!!!


「───大丈夫ですよ。笹木さんはちゃんと大人っぽいですから」


「っ──!ほ、ほんと───あっ、でもそのっ、だからってそういう風に接して欲しいわけじゃなくて………佐城さんには後輩として扱って欲しいと言いますかっ……!」


「後輩な。そうなんだよな。それはそれで良いよな、うん」


「それはそれで良いですよね!」


 そうそう。ただ後輩に女子大生ばりのスタイルで所々子供っぽい言動の中学生が居るだけだ。もうそれで良いじゃん、あまり考え過ぎるとイケないドツボに嵌りそうだ。気を取り直そう。横を見たら一ノ瀬さんが『どういうこと?』って顔で俺と笹木さんのやり取りを見てた。


「一ノ瀬さん、こちら笹木さん。信じられないかもしんないけどまだ中学生で、来年うちの高校を受験する予定の女子大生です」


「えっ」


「ごめんミスった」


 うん全然女子大生だわ。全然後輩扱いできてねぇじゃん。油断したら俺の方が年下っぽくなりそう。弟根性が染み付いちゃってんだよ。早くこの支配(あねき)からの卒業できねぇかな。


「ま、まだ中学生ですよ!佐城先輩!」


 慌てて訂正を入れて来る笹木さん。てか、え?佐城先輩だって?俺そんな年上扱いとかあんまされた事ないから嬉しくなっちゃうんだけど。もうめっちゃ優しくしちゃう。おいそれ末っ子によくあるやつじゃねぇか……。


「ちゅーがくせい……」


 ちょっと俺より後ろ目のとこから笹木さんを下から上まで見る一ノ瀬さん。こらジロジロ見ちゃいけません、自己紹介しなさいよ。明らかに劣等感覚えてる顔するのやめなさい。そんなの俺も感じてるから。色々と。


「笹木さん、こちらは一ノ瀬さん。新しいバイトの子で俺と同級生」


「さ、佐城さんと同級生ですかっ。宜しくお願いします!一ノ瀬先輩っ」


「ぁ……ぇ、えっと………」


 ちょっとずつ元気な中学生っぽさを見せ始める笹木さん。でも一ノ瀬さんにはちょっと十分過ぎるみたいだ。笹木さんも笹木さんで一ノ瀬さんのサイズ感に安心したのかもしんないな。こう……圧力ゼロだから、一ノ瀬さん。


 うーん……この二人が入れ替わったら上下関係がちょうど良くなりそうというか………や、これはこれで面白そうだな。ちょっと先輩ぶってる一ノ瀬さんとか見てみたい。当の一ノ瀬さんはと言えば先輩と呼ばれて照れくさくなったのか、出会い頭の笹木さんと同じ様にもじもじしながら俯いた。大人っぽいもんな笹木さん………その変な感覚は何となく解るわ。


 それでも嫌じゃなかったのか、一ノ瀬さんは紹介したタイミングでちゃんと笹木さんの前に歩み出た。


「───よ、よろしくおねがいします………後輩」


「えっ」


 お待ちなさいお嬢さん。

ストップ。

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[良い点] 『一ノ瀬さん、こちら笹木さん。信じられないかもしんないけどまだ中学生で、来年うちの高校を受験する予定の女子大生です」』 このセリフこの小説のなかで一番好き
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