ヒロイン対面、そして帰城
「貴女の存在、目障りなんだけど」
「……」
その可愛い顔が台無しよ、と言いたいくらい恐い顔をしながら言われた。
翌日、陛下方に挨拶をしに行く前にお手洗いに寄ったのが事の始まり。何故此処に居るのかは不明だが、とうとう対面を果たし、私を睨んでくるのは、
ヒロイン、シャーロット。
改めてシャーロットを見ると、ヒロイン好きだったなぁとゲームを思い出す。ヒロインのキャラとかデザインが好みだった。
……なのに、純粋な可愛いヒロインは何処へ?ショック過ぎて言葉も出ない。
「私の計画が台無しだわ!モブでバグのくせに」
そんな事を私に言われても、転生者なんです、と言おうものなら更に怒りを増幅させそう。面倒だから絶対言わないけれど。
分からないふりをして首を傾げると、シャーロットは何やら語りだした。
「知ってる?……昔、ある所に父と母と三人で仲良く暮らす少年がいました。ですが少年の母は王様の城に連れていかれ、父は嘆き悲しみ程なくして亡くなりました。少年は家族を奪った王様を憎みます」
……この話ってまさか、
「王様が死んでもなお、恨みや憎しみは晴れませんでした。母が王様との間に生んだ王子もいなくなれば……と。憎しみの感情で生きてるって可哀想よね」
その顔は可哀想だなんて思ってなさそうだけれども。おそらく、ユリエルの兄アドルの事だろう。二人は繋がりがある?
「くす……昨夜は大丈夫でした?」
「!」
含み笑いをするシャーロットにやはりアドルとシャーロットは繋がっていると、昨夜のアドルの侵入を知っているのだと悟った。
「……ええ、ユリエル様がすぐに駆けつけてくれましたから」
「……っ!」
あ、動揺してます。ユリエルの名前に。
「……彼の復讐なんかに興味はないけど、私をユリエルの前に差し出してほしいもの」
シャーロットの目的はやはりユリエルルートなのだろう。
「私を差し出せばクラウド達が黙ってないでしょ?それに大国のネーヴェに敵対するなんて確実に滅ぶのはレノヴァナ。アドルは母国を何とも思ってないし、ユリエル自身滅べばいいと思っているけど、私は……ユリエルがほしい。」
本性表したわね。というかべらべら話し過ぎじゃない?私がモブでバグだと思ってるから気にしないのかしら。
そもそもクラウド達ってあまりシャーロットに興味がなさそうに感じたけれど、逆ハーではなかったの?最後は私の思うまま、なんて思ってそうだ。
「ユリエルに捕まったら、その孤独を癒やして救ってあげるの。悪魔のようなユリエルも素敵だけど、でもその心の中には寂しさがつまっているのよ、だから……もしネーヴェが攻めてきても私がクラウド達を説得する。きっと分かってくれるわ」
確かにユリエルは心を閉ざし悪になり、とても寂しがりやな人。それは置いといて、まさにゲームの流れを語っている。
「……なのに、なのに、あんたのせいで狂ったじゃない!本当に邪魔なのよっ、ユリエルの隣に居るのは、ふさわしいのは私なのに!」
思い込みほどおそろしいものはない。確かにゲームではシャーロットはユリエルから愛され隣で笑い合っていた。だからといって此処で現実になるわけではない。それに、すでに、
「それは、残念ですね。……私のせいですものね?私のせいでユリエル様は癒やされましたから」
「っ……!」
その顔は嫉妬という色に染まっていた。
「ユリエル様には私が必要ですもの」
そう、私が居なくなるとすぐにだらけてジル任せにしてしまうし、ご褒美あげないとやる気出さないし、すぐに拗ねるし、すぐに甘えてくるし、
――はっ
育て方間違えたかしら……。
「とにかく貴女の出る幕はなくてよ」
何か私、悪役令嬢みたいだわ!というか悪役令嬢二人っていう感じだけれど。
私の居場所を邪魔されると困るのだ。こちとらどっぷりと心地よく浸かってしまっているのだから。
「何様なのよっ」
「エミリア様」
シャーロットの怒りの沸点が最高潮に達している。
「それより貴女クラウド様の婚約者候補ではありませんの?」
「うるっさいわね、クラウドも素敵だけど、私はユリエルがいいの!タイプなの!」
タイプは人それぞれよね。私もタイプだったらクラウドだ。
「エミリア様?」
外から中々戻ってこない私にダスが声をかけてきた。ひとまずこれ以上シャーロットの相手をするのは疲れそうなのでこの場を去ることにする。
「では、シャーロット嬢ごきけんよう」
ニコッて笑う私の去り際も悪役令嬢みたい。うん、決まったわ。後ろから、許さない覚えてなさいよとか、モブはモブで大人しくしてなさいよとか色々と聞こえてくるけど気にしないふり。
……はあ、私の可愛いヒロインが。頭少し弱そうだし猪突猛進系だし。夢砕け散る。
皆の元に戻った私の若干落ち込んだ様子に首を傾げる面々。
「何、エミ、お腹でもこわした?」
「……」
人前で失礼ですわよ。
私達は帰国する前に、陛下やクラウド達に挨拶をしていた。
「では、今後も両国の友好のもとよろしくお願い致します」
「ああ、後日、オーブ山に派遣を遣わす」
オーブ山は例の治癒石の宝庫だ。
陛下とユリエルが話をしていると、クラウドと目が合い微笑まれる。クラウドはヒロインと違ってクラウドのままで良かったと本当思った。性格悪かったらそれこそ夢が砕け散ってしまう。うん、いつも通り素敵。
「昨夜は貴女との時間が楽しかった。できることならもう少し一緒に過ごしてみたいものだ」
「ふふ、ありがとうございます。あ、そういえばクラウド様はシャーロット嬢と仲はよろしいのですか?」
昨日聞けなかったことを聞くと、彼の顔が苦々しいものに変わった。
クラウドと仲を深めてはいないのか……?その表情からはあまり仲はよろしくないと感じられる。
「すまない、彼女は少し何というか、いや……、会われたのか?君にご迷惑でも?」
言葉を濁し言いづらそうにするクラウドに、一体今まで何をやらかしたんだと先程のヒロインを思い出した。
「ええ、先程お会いしました。夢見がちな方でしたわ。少し怒りやすいけれど」
私のはっきりとした物言いに思わずクラウドが苦笑していた。
自分の思い描くシナリオに、自分がヒロインでハッピーエンドだと、当たり前に思っているシャーロット。
それはユリエル自身を見ていない。ユリエルを救う自分が好き、ヒロインだから、なんてこの世界では無意味。
「貴女に失礼な言動をしていたのなら、申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
私もシャーロットに対し怒らせるようなことを言ったのだから。本当の事言ったまでだけど。
「そうか、……何かあれば力になろう。こうしてエミリア嬢と出会えた縁だ」
「……」
帰る前に極上スマイルをありがとうございます。そんなクラウドに見とれていると、冷たい空気を感じた。
――はっ
「人の婚約者口説かないでもらえる?」
クラウドとは対象的に絶対零度の微笑みがそこには居た。
「ちょっと、あ、クラウド様、ユリエル様が失礼しました」
「はあ?失礼なのはそっちでしょ」
「ユリエル様は小さい事でもヤキモチを焼いてしまうのです、可愛いですわよね?ですが申し訳ありません」
「エ、エミ……」
からかうように話すと戸惑い照れる様子のユリエル。
「いえ、仲睦まじくて何より。だが、もしユリエル殿に泣かされたらネーヴェに来るといい。貴女なら大歓迎だ」
「はあ?それはないよ、エミ早く帰るよ。僕たちの城に!」
「……」
何、このやりとり。
そんな私達を陛下は、若いのー、と面白そうに事を見ていたのだった。
「楽しかったですね」
「……」
「ユリエル様?」
馬車の中、あっという間のネーヴェでの滞在を思い出していた。クラウドと会えたし、マリアンナとは仲良くなれたし、ヒロインは……アレだったけど、新たな国の問題もあるけれど、無事に帰路につけて良かった。
「もうネーヴェに行かない。今度からはジル達に行ってもらう」
「拗ねてるのですか」
「拗ねてない」
ふふ、本当拗ねやすいですわ。
「早く帰ってお茶しましょうね。ネーヴェのお菓子たくさんいただきましたし」
私達の国に。私達の城に。私達の家に。
しばらくして、見慣れた景色になってきた。今では大好きなレノヴァナの国。お城はもうすぐそこ。
「?」
何か様子がおかしい?城に近づくにつれて何か聞こえてくる。人の声?
「ユリエル王反対!」
「愚行を許すな!」
?!
城の前にはユリエルを批判する人々がデモのように声を荒げていた。ユリエルの居ぬ間に何がこうさせたのか、ふと昨夜の話を思い出す。第四王子の一派を。
「まったく、本当面倒。ラングフォード卿のやつ」
ラングフォード卿……って誰?
人だかりを見て、しばらくはゆっくり落ち着けそうにないなとため息をつくのだった。