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今日も貴方を振り回す  作者: chise
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私と貴方

 生前、私の大好きな乙女ゲームの世界があった。一番好きな攻略対象キャラは、ネーヴェ王国の王子クラウド。容姿端麗、男らしく紳士的、少し強引な彼はひと目で私は落ちた。プレイすること数回、ハッピーエンドもバッドエンドもやりつくしたが全然飽きなかった。

 不慮の事故で亡くなった私にかかった声は神だろうか。お主の魂を転移する。どんな世界が良いかと。だから折角なら私にとっては天国なあのゲームの世界、そう願ったのだ。

 生クラウド様を拝める世界へと。


 

 ―――それなのに、



 転生したのだからヒロインもしくはクラウドの婚約者である悪役令嬢ではないのか。そんな期待は裏切られ私はただのモブ。一応男爵令嬢で美人ではあるが。

 あろうことか事件に巻き込まれて転生先の家族は亡くなり、気付けばネーヴェ王国と敵対するレノヴァナ王国に連れてこられ。気付けば悪しき王、ユリエルの前。

 

 レノヴァナ王国。別名闇の国。国の反乱なども含め突然の王の死去で若くして王位を継いだユリエルは、病弱気味で周りからも疎まれていて認められていなかった。次第にひねくれ、闇の力に飲み込まれ、力で周りをねじ伏せる悪しき王となったのだ。

 ユリエルもまたゲームの攻略キャラだが、ヒロインとの出逢いで変わっていくというストーリーだ。


 『俺の駒になれ』


 ……私の楽しい転生生活を迎えられると思っていたのに……。私も闇へと堕ちるのか、クラウド様の敵になるのか、



 ……なんて思うわけがなく、

 


 そして、私は――キレた。



 

 お前の国と、お前を叩き直してやると。そもそも、ユリエルはまったくのタイプではない。病弱な身体は逞しくはなく、性格も暗いというか病みだ。腹黒もプラス。紳士とはかけ離れ強引の上を行き過ぎて、支配。顔は攻略対象ながらイケメンではあるが。

 顔だけは柔らげな優男なイケメン。クラウドのような男らしくキリッとした顔がタイプなので、なのでユリエルはタイプでは、ない。


 あれよあれよと叩き直し、私はチート転生なのか?と思うほどみるみるとユリエルは更生されていき、――わずか2年。


 ユリエルは心身共に立派になり、まともな王になり、皆からも信頼される王へと変貌したのであった。もちろん王がまともになれば国も変わる。もはや闇の国ではない。少しずつ民達の状況もより良いものへと変わっていっているのである。


 そんな私は何故か、皆から、


 「聖女様ー!何処におられるのですかー!」


 王の寵愛する聖女、エミリアと呼ばれていた。






 しばし、過去を振り返っているとどこからともなく私を呼ぶ、ユリエルの従者だろう声が聞こえてきた。


 「こんな所に居たのですね。ユリエル様がお呼びですよ」

 「……」

 「聖女様?」

 「エミリアです。貴方がこちらに来なさいとお伝えできますか?」


 我ながら我儘姫か!と思うくらいの態度である。そんな私に従者もタジタジだ。


 「え……あ、はい」

 「よろしくお願いしますね、アレック様」

 「えっ私の名前を、知っておられるのですね、……光栄です。ですが私など敬称は不要です。アレックとお呼びください」

 「では、貴方もエミリアで」

 「そ、それは、流石に無理です」


 焦るアレックにふふと笑ってしまった。弟みたいで可愛い。私より歳上だけど。


 「エミ、僕の従者で遊んだら駄目だよ」


 「ユリエル様!」


 突如聞こえた知っている声にアレックは姿勢を正して、私から距離をとる。ユリエルはもうよいとアレックを下がらせて、ご苦労と労る声をかけていた。

 下の者を労るだなんて、本当に180度変わったなあと、ユリエルの柔らかな雰囲気を身にしみていた。ただ変わりすぎて面倒くさい所があるけれど。


 「お早いご到着で。アレックに呼びにこさせなくても良かったのでは?」

 「えー、たまにはエミに来てもらいたいもん」


 ……もん、と言うんじゃありません。子どもか。


 「リール国から人気のお菓子を手に入れたから、お茶にしよう?」

 「……お菓子」

 「エミ甘い物、好きでしょ?」

 「……好き」

 「僕のことは?」

 「ジル、案内して」


 甘い物に目がない私はユリエルを無視して、側近であるジルの方へと向かった。


 「くす、相変わらずつれなーい」


 国がまともになり、他国との国交も結ばれていき以前より他国の物が入るようになってきた。うん、喜ばしいことである。リール国は食材が豊富だ。食の都と言われるほどリール料理は有名。そんな国のスイーツもまた女性達の間で流行りだ。


 「……美味しいですわ」

 「ふふ、良かった」


 スイーツを頬張ると幸せな気分。とても美味しい。ジルの入れた紅茶にも合うし、優雅なお茶の時間を過ごしている私。


 「あ、そうだエミ、今度ネーヴェ王国に行くんだけど、行く?あそこは大国だし国交しておいて損はないしね」


 ……なんですと?


 「もう一度おっしゃってくれますか?」

 「だから、ネーヴェ王国に」

 「行きます!!」

 「……」


 というか元は祖国だし。久しぶりの祖国、家族はいないけど……。けれど、ネーヴェの陛下に会うということは、王子であるクラウドにも会う可能性がある。ユリエルとクラウドは同い歳、次期王のクラウドとは繋がりを持っておくのがベストだ。


 「素直」

 「はい?」

 「いつもは面倒くさいって言うじゃん」


 ……こいつ、意外と鋭いんだから。


 「やっぱエミはお留守番。まだまだ国は不安定な所もあるし、エミが残っていれば安心だし……」

 「ねえユリエル様、」


 席を立ち、ユリエルの前まで来て、


 「私と楽しいお出かけはしたくないのですね?……では、私はユリエル様が居ない間、アレックや他の者達と楽しく過ごしてますわ」


 ――ガタッ


 「それは駄目!エミと楽しくしていいのは僕だけ」


 立ち上がるユリエルは私を抱き締めて、私の言ったことに否定した。よし!……あ、ユリエルの匂いがする。ユリエルの腕の中でそんな事を思いつつ、


 「70点」

 「?」


 ユリエルに抱き締められながら、映像で見たクラウドと比較してみる。


 「二の腕、まあまあ筋肉あり。胸板……もっと厚い方がいいわ。肩幅、少し狭いわね。身長は申し分ないわ」


 私とちょうど良い身長差。顔を上げてユリエルを見上げた。


 「っ……//エミ、そんな可愛い顔で見上げないで」


 そう言われたので下を向く。


 「ああっ、下向いたら駄目」


 どっちですか。


 「それで?私を連れていきますの?」

 「連れてく。一緒に行こう?」

 「ありがとうございます」


 いざ、生クラウドを堪能しなくては。ふふ。


 「ネーヴェのお城で舞踏会も行われるみたいだから、エミにドレスを作らないと、楽しみにしていてね」

 「……舞踏会、踊るのですか?」

 「うん、僕と」


 ニコニコして言うユリエル。踊りか、社交界デビューする前にこちらに来たし、まだ国作りのためレノヴァナ王国では現時点では社交の場は設けていないためそういった踊りはした事がない。練習しましょう。


 「では、ユリエル様、逞しくなるよう励むのですよ。そこにお手本もいることですし」

 「「え?」」


 身体つきでも立派にさせましょう。横にいるジルを見て言うと二人してポカンとしている。


 「ジル?」

 「ええ、ジルの身体つきは立派ですもの」


 その鍛えられた身体はクラウド様なみの理想の上半身。ガッチリとしていて、逞しい。かといって筋肉モリモリマッチョなどではなくて、程よい加減で、まさに理想的。


 「ジ、ジルの身体好きなの?」

 「ええ」


 見れば見るほどバランスの良い身体だわ。服を着ていても分かるもの。脱いだら、凄そう……あ、自重します。想像したら照れてしまった。


 「……ジル、」

 「なんでしょう」

 「身体でエミを誑かすなんて駄目だよ」

 「……」


 実をいうと、顔もタイプの部類だけど言わないでおこう。そしてユリエルはほどなくして、肉体改造に励むのであった。


 


 ―――ガタゴト、ガタゴト



 とうとう、あの夢と魔法の国!馬車に揺られながら目的地に間もなくさしかかろうとしていた。外を見るとネーヴェ王国特有の綺麗な花々達が道に咲きほこっている。


 「綺麗ですわ……」

 「そうだね、でもエミリアもとても綺麗だよ」


 目の前の男は、景色を見ている私をよそに私のことを見つめながら微笑んで言ってきた。……このシチュエーションでその台詞、


 「85点」

 「……ジル!聞いた?高得点だよ!」


 老若男女関係なく暴言ばかり吐いていた男とは考えられないくらい紳士的に対応するようになったと思う。


 「あら、ユリエル様は点数を気にして喋っておられるのですか?」

 「ち、違う!本心だよ。それもエミリアだけにしかそんな事言わないよ。可愛い僕のエミリア」

 「……知っておりますわ」


  自分も居るのだが……と傍から見ればイチャラブな二人にジルは苦笑していたのだった。


 「まあ、素敵ですわ!」


 王都に入ると、夢にまで見たゲームの世界が蘇ってきた。確か、王都の街にはヒロインとお忍びでデートした美味しいスイーツ屋さんが、ああ、後、出逢いの場である神殿とか、


 ――ガチで聖地巡りしたいわ。


 「楽しそうだね」

 「ええ、それはもちろんです。かの有名なスイーツ店もありますし、ネーヴェの神話の神様が祀られる神殿は縁結びがあると言われていますし、他にも見所が多いのですよ。レノヴァナ王国は観光地はあまりないですし、何かご参考になるといいですわね」

 

 ネーヴェ王国は繁栄長く、世界の中心であり人々もそれは多く集まってくる。歴史的な遺産の他、商業、観光どれをとっても素晴らしいものだ。


 「エミ……」


 そんな私の言葉に感動しているのか、僕はもっと頑張るよと奮起しているのをよそに、私はゲームの思い出にまだ浸っている最中。


 「それと、この国の者はパワーストーンという石を持つのが主流だそうです。綺麗な石で有名なお店がありますの!好きな方の色の石を持つのですって」


 クラウド様は赤い瞳をしてるから、赤の石をヒロインは貰うのです。俺の色だ、と言われて。

 ……貴方の色に染まりたいわ。


 「へえ、じゃあエミリアは何色がいいの?」

 「もちろん赤ですわ!」

 「……何で」

 「だって、クラウド様の色ですわよ!」

 「……クラウドってこの国の王子の?」

 「ええ、クラウド様のキリッとした赤い瞳の目、あの逞しい身体と男らしさ、素晴らし、」


  ――はっ


  目の前からの黒いオーラと何だか冷えた空気になる馬車の中。思わず本心を口にしていたことに途中で慌てて話を止めた。


 「……っていう、この国の女性達では評判の王子ですわよ」


 私個人の意見ではなく皆の意見ということを付け足してみる。


 「やっぱり帰る」


 しかし、ユリエルは不貞腐れながらも黒い笑顔でそう言い出した。これはマズイ。今更帰られても困るのだ。念願のゲームの聖地を目の前に私の心はウキウキ状態なのだから。


 「エミリアを誰にも見られないように閉じ込めたいな」


 軽くヤンデレな台詞言わないでいただきたい。不貞腐れると意外と厄介なのだ。自信は取り戻し変わってきたものの長年のひねくれた性格から時たまに発動するのだ。


 アメジストのような綺麗な紫色をした瞳が見つめてくる。


 「ユリエル様、ネーヴェ王国は他国とも国交が長く深い信頼もありますし、何より貿易ルートとしては素晴らしい国です。そして、次期王になるクラウド様の手腕も見事だと聞いております。きっとレノヴァナ王国にとっても利益があります。だからこそ、レノヴァナ王国はネーヴェ王国と友好関係を結ばなくては!……クラウド様に負けてよろしいのですか?」


 向かい合って座っていた馬車の中を、私はユリエルの隣へと移動し、力説し始めた。 


 「だってー、エミがー」


 いじけ出したユリエルはまさに、子どもの様。


 「そもそも、ネーヴェ王国から話あったのも、エミも連れてきてほしいって言われたんだよね」


 え?そうなの?別に王妃でも何でもないただの小娘に?そんな疑問を浮かべていると、ジルが話に入ってきた。


 「エミリア様は、悪しき王ユリエル様を変え国を救った聖女様でございます。それは他国にも有名となっておりますよ」


 主を悪しき王と言いましたよ。そんな事よりそんなに知れ渡っているとは驚きだ。なんせ、叩き直すことに夢中過ぎて。外の事なんてほとんど知らないから。


 「だから、見せびらかそうと思ったのに、僕のエミはとても可愛くて、強くて、なのに、やっぱやーめた」


 ……そろそろ、キレちゃいますよ私。

 生クラウド様を拝める寸前だというのに、今更遅いのだ。


 「では、私はもうレノヴァナ王国に戻りませんわ。ユリエル様とはもう一生会わないです。それに、噂の聖女だし私は美人ですし、この国で良い殿方と結婚いたします」

 「え……」

 「そう、私は可愛くて強いのですものね?きっとそんな私の事を好いてくれる方がいますわ」


 自分で言うのもなんだけど。ユリエルを見ると少し効いているらしく、目の色に焦りが見えている。よし、このまま降参するのです。貴方は私の思いのまま。

 ……と思ったのも束の間。


 ―――グイッ


 「きゃっ、え、……んっ、ふぁ……」


 ユリエルが私の頭に手を添えたと思ったら、そのままユリエルの顔の方に近付けられて、


 その瞬間唇が重なった。

 

 ……え?き、キス?!

 「ふ、……んっ……や」


 尚もエスカレートする口づけは、私の唇をつまみ、緩んだ隙間に舌を差し込まれる。……激し、い。


 「っ、ユリ、エル……様、やっ、ジルが、」


 しかもこの空間にはジルも居るのだ。羞恥すぎるではないか。


 「ジルは見てないよ」


 ……見てない、のではなく見てないフリですけどね。慣れない激しいキスに息があがる私にユリエルは微笑んで今度は私の首元に唇を落とす。チクリとした感覚。


 「……駄目だよ?他の男と結婚なんて。……ねえ、僕もう無理」

 「え?」


 そしてあろうことか、私の胸へと手を伸ばしてきた。ちょ、流石に、ここは馬車の中で、紳士のかけらもなく盛った男がいた。


 「……ユリエル様っ」


 制止の声をかけるが、聞いてはいなく。その時、バチッとジルと目が合う。……見ないふりではなかったのかおい。使えるものは使いましょう。


 「…ジルっ」


 助けを求め声を上げたその時、ユリエルがピクリと止まった。その瞬間を見逃さずに、私はジルの方へと逃げ出した。広めの馬車で良かったわ。

 ジルに寄り添うように座ると、


 「……ねえ、離れなよ」

 「貴方がね」

 

 黒いオーラを放ちながらこちらを睨んでくる。

 

 「そんな、色気のある声で他の男を呼ぶなんて、……ねえ、ジル」


 ユリエルは狙いを変えたのか、目線を私からジルへと向けた。

 今までのように主に屈しては駄目よ、主を正しく導くのも貴方の役目、ユリエルを変えたのよ、国を変えたのよ。私に恩ありまくりなのよ、と目で訴えながら私はジルを見た。

 

 

 ユリエルとエミリアを交互に見やり、威嚇してくる主と、柔らかく気持ち良さそうな膨らみが当たる腕。ジルは心の中で溜息をついた。


 「痴話喧嘩の中失礼いたしますが、既にお城に到着しておりますお二方。……さっさと出てはくれませんか?」


 ……やだ、腹黒発動しましたわ。どいつもこいつも。


 「お手をどうぞ、エミリア様」


 ジルの手をとり、ついに私はネーヴェ王国のお城の前に降り立った。

 レノヴァナ王国で明け暮れていたせいですっかりゲームの時期は終わってしまっているけれど、ヒロインとハッピーエンドになっているのか、イベントスチルを見れなかったのも悔やまれるが、そんなことはもうどうでも良い。

 生クラウド様をこの目で焼き付けられれば。


 「ねえ、ユリエル様、今から半径1m以内近寄るの禁止ですからね」


 いまだ機嫌の悪そうなユリエルに振り返って言い放つ。私の乙女が奪われるわ。無理矢理だなんて紳士な殿方にはほど遠い。


 「くすくす」

 「……何か?」


 お仕置きなんですからと言う私をよそにいきなり笑い出すユリエル。


 「……何言ってるの?今夜は舞踏会だよ?身体と身体の密着だよ?」

 「……ちっ」

 「甘い。そんな怒るエミも可愛いけど、……ウブで純粋なエミはもっと可愛い」


 ――ゾクリとした。私の貞操の危機。


 「お二人共、お早く」


 


 振り回して振り回されて、一体今日はどうなることでしょう。

エミリア

18歳

ユリエル

20歳

ジル

23歳

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