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たまねぎ  作者: 鈴本 案
2/3

拉致漂流編

『たまねぎ』三部作の第二弾。ミステリー。





 先ず見えたのは、白だった。

 白に線状の筋がいくつか通っている。

 それは高い天井だった。よく見れば丸みもある。

 これは、ドーム状の天井か?

 ここは、どこだ?

 私は視界を三百六十度動かす。

 周り一面に緑があった。

 これは、畑だろうか?

 なぜ私はここに?

 ……解らない。

 それだけではない。身体がピクリとも動かなかった。

 一体何がどうなっているのか。

 いや、冷静になって考えよう。

 ここは多分、ドーム内の空間だ。結構な広さもある。

 周りの様子を見るに、プラント施設だろうか。屋内で人工的に植物を培養・繁殖させる区域。

 なぜ私がそんな場所にいるのか。

 そして、動けないのか。

 解らない。

 もっと考える必要がある。


 ――そもそも、私は誰だ?


 私は、何者だ?

 考えた結果、やはり解らなかった。頭の中で何かが不自然にすっぽりと抜け落ちている。

 その時、低い駆動音と共に白の天井が動き始めた。

 上下が口のようにスムーズに開かれると、そこには黒い空があった。

 星が瞬く夜空かと思ったが、違う。青く美しい惑星が見える。

 これは多分、宇宙空間だ。

 だとしたらここは、宇宙船か何か――


『気がツいタか』


 突然デジタル音が混じった不思議な声が聞こえてきて、声が頭の中に響く。

 見ると、奇妙な生物が立っていた。

 白い肌の子供みたいな風貌で、腹と頭部が異常に肥大している。口はなく、目が大きい。

 後頭部の半分は機械で、中の空洞が透けて見えていた。


『収穫ノ時だ』


 彼はそう言うと、私を掴んだ。


『地球で育ッた、ソの中ノ一部だケが適応スる』


 彼が私を引っこ抜く。

 遂に私の皮を剥ぎ始めた。

 だが不思議と痛みは感じなかった。


 ――そもそも動けない私が、なぜ周囲を見渡せたのか。目さえ動いた感覚もない。

 大体、私に目など付いているのか?


 機械仕掛けの後頭部がぱっくり開く。

 彼は自分の空洞に、私を押し込んだ。




 私の脳が頭の中に収納されて後頭部が閉じた頃、私は明確な自己を取り戻していた。

 記憶や認識も鮮明となり、全てを把握した。

 自分が根を張っていた仮初めの地を見下ろす。

 そこには状態をチェックするモニターと一体型のアイセンサーが設置されている。接続されていたセンサーが今まで私の目の代わりになっていたのだ。


 ――自分の脳を地球上で育む。選別してプラントに移した後、刈り取る――


 私達は太古の昔から収穫を繰り返してきた。

 私達の脳は地球の環境でしか成長出来なかったからだ。

 その過程で私達の幼精脳は地球人類の食用にもなってしまった。悲しいことだ。




 私は自分の脳を育んだ青き故郷を眺めた。

 遠ざかる美しい母に別れを告げる。

 ふと私の目から、一滴だけ涙が零れた。




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