地球侵略編
『たまねぎ』三部作の第一弾。SF。
ピキューン。ピキューン。
光線とその音の数だけ、人類が消える――
二○XX年、彼らは世界中に現れた。
突如として現れた恐怖の権化は、世の中に死と混乱を巻き起こした。
大きい球根のような身体に、人間の手足を生やしただけの謎の生物。腕毛が生えたその手には未知の光線銃も握られている。
ピキューン。ピキューン。
光線銃が人にむけられ光を放つと、人間はたまねぎになった。
人間が減って、たまねぎが増えた。
ピキューン。ピキューン。
彼らの問答無用で迅速な攻撃は、一切の反撃の隙を与えない。
すね毛の生えた足がいくつもの街を悠々と練り歩けば、たまねぎの個数はどんどん増していった。
理不尽で不可思議な暴力を前にして、なすすべのない無力な人々。ただただ逃げまどうしかない。
哀れな子羊達は、もう神に祈るしかなかった。
――そんな中、勇気ある子羊がふと雄叫びをあげた。
「こいつら、食えるぞー!」
つられて誰ともなく彼らに抱きつき始めた。
子羊の皮を被っていた狼が追い詰められてその本性を現す。捨て身で獲物を捕らえていく。
それだけでは飽きたらず、餓えた狼達は飽和しているたまねぎも食べだした。
同胞やたまねぎが人間に食われているのを見て、彼らはとても怯んだ。
こうして大阪から広がった一連のたまねぎ食い倒れブーム。
神に祈りが通じたのか、狼達の反抗の狼煙は瞬く間に世界中に広がった。
食べる。食べる。
ある者はカレーに、ある者はスープ或いはシチューに。
ある者はグラタンに、ある者はハンバーグにして食べた。
中には和風として肉ジャガや味噌汁、戦場でわざわざ鍋料理に入れて食すグルメもいた。
またある者はそのまま食らいついた。それはもう大粒の涙を流しながら。
食べる。食べる。
辛い。苦い。
それでも彼らの攻撃は続き、両者共に犠牲者は増え続けた。
人が減りたまねぎが増えて、残る人々はそのたまねぎもまた食べ続ける。
異様な状況に耐えられなくなったのか、彼らはいつの間にかいずこかへと消え去っていった。
こうして世界には真の平和が訪れた。
そして、世界中の食料危機も全て解決した。