7月後半
涼しい風を期待する季節。
今日は夏休み前日、いつものような学生生活もしばらくお休みになる。
教室内は明日からの夏休みの話題で盛り上がっている。
夏祭り、勉強会、花火大会、その他色々の話で皆は学生を満喫している。
その中に不満気な顔で教室を後にする者がいた。
『 皆はいいよなぁ。夏休みがあって。』
そんな不満を零しながら彼は学校を去る。
向かう足は自宅ではなく公園。
その公園のベンチにいつも通りに
スマートフォンを弄りながら待つ女がいた。
髪は肩ほどまでしかないが黒く綺麗な髪の女だ。
歳は幼くは見えるが公園に着いた者よりは少し上に見える。
『遅い、15秒遅刻。』
『学校終わったのが少し遅れたんだよ許せよ。』
不満気な2人の間。
『あっ、今日から夏休みだよね。だから呼んだの。』
『そうだよ!青春の夏休みだよ。浴衣デートしたかった青春の夏休みだよ!』
『モテない男はツライね。仕方ないよ。それが君なんだもん。頭はあんまりで、運動もまあまあ、仲良い人はあんまり。 そんな感じでしょ。』
全部当ってる為か男は黙る。
『まぁいいじゃん。モテ期は人生三回来るって言うし温存しときなよ。』
『全力で早く来て欲しいね。今すぐ超特急で浴衣着て駆けつけて欲しいね。』
『そんな簡単に浴衣娘が駆けつけてくれたら誰も彼も苦労してないし、モテない人も努力しないのよね。
そんな簡単にサクサク上手く行くほどこのゲームは上手く作られてない。あなたはハードモードを歩んでいくの。わかった?』
『ハードモード攻略サイトとかないわけ?めちゃくちゃ人生ハードモードだけど浴衣娘が見たいし。』
『努力しろよ。人生を生き抜いてやるってくらいの。君には覇気がないのよ。』
『少し先の未来くらいは見える。』
『はいはい。くだらないこと言ってないで、今日もサクサクといくわよ。』
『今日は何処へ?何時でも付き合うけど。』
『忘れた記憶の何処かしら。』
少し俯いて答える。
『あぁ、行こう。今日は見つかるといいな。』
そう、彼女には記憶がない。
物や場所などの記憶はあるが人との関わりの記憶がほとんど欠落しているのだ。
ある事故による原因での記憶喪失。