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鋼鉄の雷電  作者: 兎鬼
3/4

急速に過ぎる休息

 任務を終えたレクトはカラスの運転するトラックによって烏合の衆へ帰還する。大きな岩の陰に駐車し、迷彩をトラックに被せると隠された扉を開けて中に入った。

 蛍光灯が照らす通路の先にもう一枚、扉があり、そこを開けるとワッと騒がしくなった。そこには烏合の集のメンバーたちが騒いでいたからた。だがその騒ぎもカラスの帰還で静まり返る。


「姐さん! どうだったんです!」


  メンバーの一人が問いかける。するとカラスは無表情から口元を歪めた。


「やったぞ! 英雄様のお陰で食料施設を奪取した!」


 おおっとメンバーたちが歓声をあげる。


「じゃ、じゃあこれで食いもんはどうにかなるんだな!?」


「ああ! 今までよりもいいものが食えるぞ!」


 メンバーたちは騒ぎ、酒を飲みはじめる。カラスはその様子に満足して頷き、奥へ入っていく。レクトも付いていくとハクチョウのいる部屋に着いた。


「ご苦労さん、英雄どの」


 ハクチョウはニヤニヤとこちらを見て言う。


「やめてくださいよ、恥ずかしい」


「いや、たしかに君は大きな偉業を成し遂げた。あのユートピアのエトを破壊したんだから」


 エト。ユートピアの精鋭デンシロイドのことだ。特別なボディで作られた彼らは量産型のデンシロイドとは戦闘力が違う。まさかそんな彼らを二人も倒せるとはレクト自身も驚いていた。


「あの……烏合の集ってヘメロカリスと対立してるんですよね?」


 レクトはあることが気になった。ここはヘメロカリスを嫌っているがユートピアに対してはどう考えているのだろうか。こうしてユートピアに攻撃した以上、両者を相手にするつもりなのだろうか。


「ああ。そうだが?」


「どうしてユートピアの施設を奪ったんですか? ヘメロカリスを相手にするならユートピアと組めば……」


 そこまで言うとハクチョウはカラスと顔を見合わせた。するとカラスは頷き、ハクチョウはレクトに見合わせる。


「そうだな、君にはここの設立者に会ってもらおう」


 そう言うとガチャガチャと鉄が擦れる音がして、暗闇から人影がだんだんと近づいてきて、部屋の照明によって姿が見えた。


「えっ──」


 レクトは驚愕する。現れたのは人間ではない。三つの脚を持つデンシロイドだった。思わず身構えるが、現れたデンシロイドは手を出して制した。


「そう、身構えるな」


 デンシロイドはどかっと座り込むとカラスは彼を紹介した。


「彼はわたしのひい、ひい、ひい──あれ? ひいひいひいひい──」


 ひい。と言いながら指を何度か折るカラス。何を言いたいのだろうかと首を傾げるとデンシロイドが呆れた様子で言った。


「ワシは彼女の遠い祖先だよ。ワシは"ヤタガラス"。ユートピアを支配するビッグマザーの設計者と言おうか」


「ええっ。 あなたが!」


 レクトは驚きと同時に疑問を問いかける。


「ど、どうしてあなたがユートピアではなくここに?」


 ビッグマザーの設計者であろう人物がレジスタンスになっているとは考えられない状況だった。本当にこの組織は大丈夫なのだろうか。


「ワシはな、かつてヒトが夢見たロボットとの生活を実現させた。だがな、奴は、ビッグマザーは行き過ぎた考えを持つようになった」


 そういい、機械の手を見つめる。


「ワシはその時にはもう爺だった。そこで自分を機械にして、ビッグマザーとユートピアを治めていたんだがな、奴は国を支配しようとした。もちろん反対した。殺されるかと思ったが子は親を殺せんと言うものだろう、ワシを追放したんだ」


 そしてヤタガラスはその手でレクトの肩を掴んだ。


「ワシは恐怖したよ。このままではまずい。ユートピアに残る家族と共に国を出た、そして烏合の集を作り上げたんだ」


 ヤタガラスの声は震え、大きくなりはじめる。まるで助けを求めるように目が震えて見えた。


「レクトといったか……頼む、奴を、ビッグマザーを止めてくれ……奴の破壊が……ワシの贖罪なんだ……」


「爺ちゃん!」


 そこまで言うとヤタガラスはガクンと崩れ落ちる。カラスがなんとか支えると奥へ連れていった。


「彼に残ったエネルギーはもう切れかけていてね、普段は省電力モードにしてあるんだ」


 ハクチョウは奥へ消えた二人を見ていう。


「そんな、彼がビッグマザーの設計者だったなんて」


「ああ。別に私たちはユートピアをどうかしようなんて思わない、だけど彼がユートピアを止めてほしいと言った以上そうしているだけだ」


 レクトは頷く。彼の頼みのためにもユートピアと敵対しなければならないという決心を決めた。


「さて、疲れたろう。君はここの部屋を使ってくれ」


 ハクチョウが立ち上がると奥へ奥へ進む。モグラの巣のように広がった地下はだんだんと静かになり、鉄の扉が並ぶ廊下に着くとその一つを開けた。


「ここを使ってくれ。他じゃあいつらがうるさいだろうからな」


「ありがとうございます……」


 部屋を覗いてみる。簡素だが悪くない部屋だった。ベッドとシャワーがあり、机の上には何も置かれていない。


「じゃ、これで」


 ハクチョウは戻っていく。レクトはベッドに腰掛けると、束の間の休息を得られた。


「はぁ〜色々あった」


『ねえ、なんだが地味じゃない?』


 トロンは部屋の内装に文句を言う。


「そんなこと言っても仕方ないだろ」


『私のいた病室のほうがまだカーテンが綺麗だったよ!』


  というかこの状況、トロンと二人きりではないか。


「ええと、このままここで暮らすんだよな?」


 文字通り一心同体のトロンとここで。ちらりとシャワーを見ると、トロンが騒ぎ出した。


『わ、わー! レクトは男の子でしょ! シャワー浴びるときは目を瞑って!』


「そ、そんなこと言ってもどうするんだよ、洗えないだろ!」


 この数日、まったくシャワーを浴びておらず汗を流したかった。服を脱ぐと、ぷるんと揺れるものに気がついた。


「きゃっ!」


 思わず隠す。そうだった。いまの自分は女の子だったのだ。


『わー! レクトのエッチ!』


「う、うるさい! そうだ……いまの俺は……」


 無心だ。とにかく白い壁を見つめよう。そうして服を脱ぎシャワー室へ入る。


「なんでいるんだ」


 トロンもどういうわけか付いてきていた。


『えへへーレクトの体きれいだね』


 なんて呑気なことを言う。摘み出してやりたいがエネルギー体の彼女を掴むことはできない。ムッとした様子でトロンを睨みつけてやると。


『わかったよ! 出て行く!』


 睨みに負けてシャワー室を出るトロン。これで安心してシャワーを浴びることができる。水を出して汗と汚れを洗い流して行く。


(うう、すべすべしてる)


 男とは違い女の肌はすべすべしており、触ったときの感触が違い、戸惑う。


(こんな細いし)


 左腕はとても細く柔らかかった。こんなもの簡単に折れそうだ。


『ぐえっ』


 そんなとき、外からトロンの呻きが聞こえる。何かあったのかとタオルで体を拭いて外に出て見た。


「トロン!?」


 そこには首に何かを付けたトロンがいた。その先を辿ると鉄腕甲に行き着く。


「なんだこれ、鎖?」


 鉄腕甲から鎖のようなものが出てトロンの首を絞めている。まるで──。


「犬みたいだな」


『それってかつて存在していたって動物!?』


 ぐったりとしていたトロンが起き上がり目を輝かせて問いかける。というか。


「きゃー!」


 服を着ていなかったレクトはそのまま裸を見られる。甲高い声が部屋に響き、レクトはすぐに服を着た。


『んもう、私も女の子なんだからいいじゃん』


「そ、そうだけど、なんか恥ずかしいだろ」


 自分でも甲高い悲鳴をあげたことに恥ずかしくなりベッドの上で体育座りをして拗ねるレクト。トロンは病室にいた頃とは大違いで元気よくあちこちを動き回り忙しない。


『んもー、レクトのスタイルすごくいいんだから恥ずかしがらなくていいのに』


「うう、俺は男なんだからそんなこと言われても……」


 恥ずかしさに黙り込む。ふと、鉄腕甲から伸びていた鎖が見えなくなったのに気づいた。あれはなんなのだろうか、一つ試すことにした。


「そうだ、トロン。お腹が空いたからハクチョウさんかカラスさんに言ってきて」


『ええー? どうして私が』


「そんなこと言うとシャワーのときに締め出すからな」


 するとトロンはピシッと姿勢を正し、部屋のドアをすり抜けて行った。少しして、鉄腕甲から鎖が見えた。それはやがて、ピンっと張り詰めたと思うと、遠くからトロンの呻き声が聞こえた。


「やはりそうか」


 この鎖はトロンと繋がっていて、ある程度の距離までしか離れられないようだ。鎖は弛むと、部屋にトロンが戻ってきた。


「やっぱりそうか、トロン。どうやら俺たちは離れられないみたいだ」


『そうみたいねッ!』


 トロンはポカポカとこちらを殴ってくる。しかし触れることはできないので通り抜けるばかりだ。


「ごめんって、ほらシャワーのときに見ていいから」


 すると機嫌をよくしたトロンはフラフラと泳いで消える。ため息をつき、シャワーも済ませたので少しこの基地を見回ろうと思った。

 部屋を出ると白い通路がずっと奥に続いて、しんと静まり返っている。少しの不気味さを感じつつ、あの騒がしい場所へと向かっていった。


「おや、見回りか?」


 その途中、どうしてもハクチョウの部屋を通過することとなる。パソコンに向かって何かをしていた彼女に軽く挨拶をして、もう一つのドアに入ろうとする。ここは、ヤタガラスが入っていった部屋だ。


「ヤタガラスに用があるのか? ただ、あの方は言ったとうり省電力モード。話しかけても無駄だぞ」


「そうですか……」


 まあそれでもいい。ドアを開けると明るい部屋だった。明るいとは言っても倉庫のようで、見慣れない武器や何かの機材が詰め込まれ、その奥にヤタガラスは座り込んでいた。


「ヤタガラス……さん」


 語りかける。が返事はない。頭部の透明になった部分から脳が見えており、彼がもともと人間であることを実感させる。レクトはガラクタを見て回り、使われてなさそうな武器を触る。


「そいつは……ここを守る自動機銃だ」


 突然、声がして体が跳ねる。声のしたほうを見ると、ヤタガラスが顔をあげて、虚ろな目でこちらを見ていた。


「これは設置しないんですか?」


「そいつを使えるほどもう、デンシデンジは残ってないのだよ……」


 ギラッと照明に照らされた銃口を見て、まだ動くのに動けない武器を少し気の毒に思った。


「ヤタガラスさん、あまり無理はされないでください」


 話し声が聞こえたのだろう。ハクチョウが心配して言った。


「いいんだ、ワシももう長くはない」


「そんなことはないですよ、彼が、レクトがなんとかしてくれます」


 そういいレクトの肩を叩いた。


「お、俺ですか!?」


「ああ、ヤタガラスさんはデンシデンジが不足しているんだ。これは彼だけの問題じゃない、この基地自体、少ないデンシデンジでやりくりしてる状態にある」


「じゃ、じゃあ……」


 やることは大方予想できたが取り敢えず聞いてみる。


「ああ、デンシデンジの確保──と言うと思ったか?」


 ハクチョウはいたずらっぽく笑い、紙を見せる。そこにはある座標が載っていて、ここから近い位置にある。


「私たちの拠点はここ、ユートピアはここ、 ヘメロカリスはここだな。ちょうど三角形の形になってる。そしてここから近い位置に森があるんだ」


「森ですか!?」


「ああ、この星の資源は根こそぎ取られたけど地球ってのは頑丈で、また緑を増やしつつあるんだ」


「ええと、じゃあこの森を奪うんですか?」


 ハクチョウは頷いた。どうやら戦闘は避けられないようだ。


「ああ。デンシデンジってのは木や水、いわゆる自然がある場所に多く見つけられるんだ」


「わかりました……エトの存在は?」


 するとハクチョウは顔をしかめる。どうやらいるようだ。エトの一人が。


「いる。名前は"ブラックタイガー"ユートピアが森を支配するために派遣したようだが……」


 ハクチョウは黙る。何か他にありそうなのを察知したレクトは次を促した。


「三つ巴の戦いってやつだ、この森にはヘメロカリスの兵士も来ている」


「なっ──」


「ナナクサの一人、ハハコグサ。知らないか?」


 レクトは首を振った。だが、あのナズナの一員なら戦うしかないだろう。レクトは拳を握りしめた。


「ま、ここまで言ったが別に今じゃなくていい。レクトも疲れているはずだ」


「そんな……俺はまだ……!」


 そのときだ。いつも騒がしいホールがいつもより騒がしくなる。


「ハクチョウ! 大変だ!」


 カラスが慌てた様子で部屋に入り、入れ替わるようにレクトがホールに向かう。

 そこには三人の男がいた。その男から対面するようにして烏合の集のメンバーが立っている。


「あー、どうも皆さん」


 三人のうち、大きな腹をした、明らかに格上な男性が口を開く。


「なんだてめえ!」

「ヘメロカリスのやつが何しに来た!」


 と次々とヤジが飛ぶ。たしかに彼の右腕には鉄腕甲が装着されておりヘメロカリスなのは確かだ。だがなぜ堂々と現れたのだろうか。


「ここに強大なデンシデンジの反応と──レクトという一員の生体反応がありましてね、訪れたのです」


 周りの人が一斉にこちらを見る。レクトは視線を受けながら前へ進み、男と対面した。


「おや、本当に女性になられたのですね」


「何しに来た……!」


 興味深そうにこちらを見つめる彼を突き飛ばすように睨みつける。


「これは失礼、私はナナクサの一員、ハハコグサ。レクト、あなたを連れ戻しにきました」


「なっ──」


 レクトは予想しなかった言葉に驚く。連れ戻すだと? 非人道的な実験をしていたような組織に。


「ハハコグサ……さん。ヘメロカリスは酷い人体実験をしてると聞きました……俺はそんなところには……」


 するとハハコグサは酷くショックを受けたように顔を抑える。


「あー……私は嘘をつけません。確かにそのような実験はしてきました。しかし、彼らの犠牲があるからこそ今の我々があるのです」


 なんとも落ち着いた様子だ。だが、例えヘメロカリスが人体実験をしてなくとも、レクトには決して戻れない理由があった。


「それに──! 邪魔だからといってトロンを殺そうとした場所には戻れません──!」


「そうですか……なら強引に連れ戻しましょう!」


 空気が変わる。カラスたちが隊員を避難させ、辺りは静まり返った。ハハコグサの鉄腕甲は肥大化し、威圧感を出す。


「痛い目を見る前に降参すれば許しましょう!」


 一瞬。レクトの姿が消えた。


「ガハッ!?」


 次の瞬間。ハハコグサの腹を巨大な拳が殴り飛ばしていた。


「貴様!」


 二人の兵士が銃を向ける。だが、一瞬にして首を刎ね、倒れたハハコグサに追撃を狙った。


「甘いっ!」


 土埃から鉄腕甲が伸び、レクトの鉄腕甲を受け止める。そのまま投げ飛ばされ、レクトは上手く着地。


「全く! 聞き分けのないやつだ! いいだろう! 素直に帰りたくなるようにしてやる!」


 先程とは違って荒々しい言動をするハハコグサ。その鉄腕甲は徐々に広がり、体を侵食していくではないか。


「我々の鉄腕甲がただの鉄腕甲だと思うな……!」


 黒い鉄腕甲に体が包まれ、巨大化する。まるで鎧のような姿へと変貌した。


「グゴゴゴ……!」


 レクトはゾッとした。ハハコグサの姿は黒い機械ような、それでいてこちらを見つめる眼球は生物的な見た目をみた異形に変わり果てていたのだ。


「化け物……!」


 まだデンシロイドのほうが人間味があると感じ、軽蔑すると。ハハコグサが飛びかかる。


「グオオオ!」


 早い。咄嗟に盾を展開するも巨大な質量を受けきれず吹き飛ぶ。


「うおーっ!」


 空中で体制を整えると、鉄腕甲を剣に変え、振り下ろす。だがすんで避けられ僅かにハハコグサの体を切っただけで終わる。


「この、新たな人類の姿にひれ伏せ……!」


 ハハコグサの右腕が変形して大砲のようになる。そして銃口には眩い光が集まっていくと、レクト目掛けて放たれた。


「ぐあっ!」


 盾すらも貫く勢いでレクトはハクチョウの部屋に飛ばされる。パソコンのディスプレイの縁を蹴り、ハハコグサに突撃!


「くっ! しぶとい!」


 大砲を向けるハハコグサ。だが、更に加速したレクトは砲身を切断。断面からどす黒い血液が吹き出た。


「グオオオオッ! 貴様ぁ!」


「しまっ──」


 だが今のハハコグサは全身が鉄腕甲。左腕がメキメキと変形して更に巨大な腕になると、レクトを吹き飛ばした。

 ホールの壁を突き破り、ハクチョウの部屋を通過してヤタガラスのいた倉庫まで突き飛ばされる。


「ガハッ……ハッ……」


 今は使われていない機械に埋もれレクトは息を吐く。体が痛くて動けない。トロンが張ったバリアでも防ぎきれないダメージだった。


『大丈夫……!?』


 トロンが実体化して声をかける。少し気力が湧いた。なんとか瓦礫から這い出て立ち上がる。そこにハハコグサが現れた。


「ほう、トロン。巨大なデンシデンジの反応はお前だったか」


『レクトに手を出さないで!』


 両手を広げて守ろうとするトロン。だがあまりにも無力だった。ハハコグサはトロンをすり抜けレクトを抱き抱えると、地面に倒す。


「ぐっ……なにを……」


「まさか女になっているとはな、連れ戻す前に楽しませてもらおうってことよ!」


 レクトは背筋が凍りつく。下衆な目は自分の下半身に注がれていた。自分は女として見られている。男が女に何をするのか、すぐに理解できた。


「や、やめろ……!」


 ジタバタと暴れるがこの異形の力にビクともせず、ズボンを脱がされる。


「ひっ……」


 もうダメだ。レクトは死よりも恐ろしい何かを感じ、涙を流す。


「いい涙だ! グッグッグッ!」


 その時だ。無残に置かれた自動機銃がゆっくりと、ハハコグサのほうを向く。


「や、やめて──!」


 ハハコグサの手が下着にかけられ、叫んだ時。銃声が鳴り響いた。


「グガアアアア!」


 その瞬間、倉庫にあった自動機銃たちがハハコグサを撃ち抜き始めたのだ。


「なにが起きて……! くそっ!」


 ハハコグサは身体中から血を噴き出させながら逃げていく。自動機銃はすぐに止まり、レクトは取り敢えず助かったと安心した。


『よかった……! レクト!』


「トロン……そうか……お前が……」


 ここにあった自動機銃はデンシデンジによって起動する。これにトロンが入り込み起動させたのだ。


「大丈夫か!」


 メンバーを避難させたカラスが銃を持って駆けつける。下着だけのレクトを見てドキッとしたが"痕跡"は見られず、未遂に終わったことを察して安心する。


「よかった……! 怖かっただろ……!」


「うう……カラスさん……」


 抱き着かれて心が一層、安らぐのを感じた。レクトはボロボロと泣き崩れ、カラスの胸の中で泣いた。トロンは、こんなとき抱き締めてやれないのかと、グッと拳を握ると、姿を消す。


 ────


 騒動から数時間後、めちゃくちゃになったホールを片付け、レクトはハクチョウに傷の手当てを受けた。


「これでよし──と。今回は私の失念も招いた事件だったな」


 ハクチョウはレクトの鉄腕甲を見て言った。


「だが大丈夫だ、君の生体反応のコードを書き換えて奴らに認知されなくした。とは言ってもここにいることがバレたから意味は薄いか」


「ああ、近々ひっこす必要がありそうだな」


 カラスがめんどくさそうにいった。


「すみません……俺のせいで……」


 するとカラスはレクトの肩を抱き、咄嗟に胸も触る。


「気にすんなって! こういう生活は慣れてんだ!」


「ちょ、カラスさん……!」


『ちょっと! なにおっぱい触ってんの!』


 カラスの行動にトロンは思わず姿を見せて怒る。ハクチョウはやれやれと肩をすくめると、パソコンに向かい次の拠点に相応しい場所を探し始めたのだった。


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