草食む巨獣
レクトがヘメロカリスから逃げ出し三日は経った。度重なる戦争と資源の略奪で草木は残っておらず、荒々しい岩と大地だけがあり、レクトの身を隠すことを拒んだ。
いまだに背後からはヘメロカリスの兵士が追撃し、何度も体を銃弾が掠めた。いい加減、疲れてきた。レクトは走る速度を徐々に緩め、やがて止まってしまった。
「ハアハア……こんな……何になるんだ……」
ここまで逃げてどうする。これから先、どこに行って生きていこうというのか。食料はいまだ奪い合いが続き、水も貴重だ。もし、これらが手に入る場所があるとすればユートピアしかない。
「でも……いまさら戻るわけにはいかないよな」
レクトは一度、ユートピアに住んでいた時期があった。だが、数年前に起きたユートピア襲撃事件によってヘメロカリスに入ることとなる。
いまが勝機と見込んだヘメロカリスがユートピアに総攻撃を仕掛けた。多くのデンシロイドが破壊され、市民が救出された。レクトもその一人だった。だが、ユートピアが持つ、最新鋭のデンシロイド集団『エト』がヘメロカリスと衝突。ヘメロカリスは撤退を余儀なくされた。
「それにこの腕……入れてもらえるわけがない」
鉄腕甲は重々しくうなだれている。これはヘメロカリスの証といってもいい兵器で、これを付けてる以上、ユートピアに入ることも許されないのは明確だった。
「はあ、かといって外せないし」
鉄腕甲は装着者の利き腕を切断する必要がある。レクトの場合は右腕だった。切断した腕の代わりにこの兵器を接続し、デンシロイドにも打ち勝つ力を手に入れられる。
レクトは背後にビーグルのエンジン音を聞きつけた。どうも女の姿になってから視覚と聴覚が過敏になっている。レクトは気力を振り絞り、足を動かした。
「いたぞ! 撃てー!」
ビーグルから兵士たちが鉄腕甲を大砲に変え、エネルギー弾を撃ち出す。近くに着弾しては爆音をあげ、砂煙をあげる。レクトは何とか狙いが付けられないよう、徐々にスピードをあげた。
「ぐっ!!」
だが不運にもレクトの近くに弾が着弾する。爆風に煽られ疲労した体は倒れてしまう。そして、あっという間にビーグルで囲まれた。
ここまでか。レクトは悔しさと、この苦しさから解放される安心感に僅かに微笑んだ。だが、レクトの耳はこちらに近づく、別のエンジン音を聞きつけた。
「がっ!」
ビーグルに乗っていた兵士の頭が撃ち抜かれる。それに反応したほかの兵士が、弾の飛んできた方向を向くが。
「ぎゃっ!」
「ぐわっ!」
胸を、頭を次々と撃ち抜かれていく。そして、周りを囲むビーグルを飛び越え、一台の武装トラックが着地した。
「乗りな!」
助手席が開き、女性が叫ぶ。何が起きたか分からない。だが、僅かに残った、生きたいという気力でレクトは助手席へと飛び込んだ。扉を閉める前にトラックは動き、ビーグルを押し潰しながら逃走を開始する。
「な、なんだあいつは!? くっ! 本部に連絡しろ!」
突然の援軍に困惑する兵士。負傷者もいるため追跡は中断し、本部からの指令を待った。
──
トラックが揺れながら荒野を走る。そのなかではレクトが力なく座り、体を揺らしていた。運転する女性にいくつか質問をする。
「あんたは誰なんだ……」
女性は前を向きながら、ダッシュボードを開き、名刺を取り出すとレクトに突き出す。
レジスタンス『烏合の衆』リーダー『カラス』
手書きでそう書かれており、写真では彼女が満面の笑みを浮かべている。歳は十八のようだ。
「レジスタンス……まだ他にもいたのか」
殆どのレジスタンスはヘメロカリスに統合されたものと思っていたが、まだヘメロカリスと違う思想を持つ集団がいるようだ。
「そ、わたしたちは烏合の衆。ヘメロカリスにもユートピアにも染まらない第三の勢力よ」
カラスはハンドルを切り、曲がる。変哲も無い岩の裏にトラックを停めると、カラスは降車しレクトを降ろしてくれた。
「ここがわたしたちの巣。さ、どうぞ」
トラックに迷彩になるようにシーツをかけると足元の砂を払う。するとそこにはハッチが現れ、開けると奥へ続いてるようだ。
カラスの後ろを付いていくと、だんだんと騒がしくなるにつれ、光が増していく。やがて光が向こう側から漏れている扉に着くとカラスは開けた。
「おお! カラス帰ったか!」
男性がカラスに声をかけた。手にはトランプが握られており、どうやら対面の男と遊んでいるようだ。
「アヒル。すまないがハクチョウを呼んでくれ」
「ん? ああいいぜ──ってそいつは!?」
アヒルと呼ばれた男性は背後のレクト、もとい鉄腕甲を見て驚く。その声に周りの人間もレクトに注目し、騒ぎは一気に静まり返った。
「おいカラス! てめえなんでヘメロカリスのやつなんか!」
激怒するアヒル。だがカラスはなだめるように肩を叩く。
「大丈夫だ。こいつにもなんか事情がありそうだからな」
アヒルは彼女を納得のいかない様子で見ると、奥へ入っていく。少しして、白衣を着たハクチョウらしい女性がやってきた。
「ほう、カラスは色んなものを拾ってくるけど──これは予想外だ」
ハクチョウは眼鏡を光らせ、興味深そうにレクトを見つめる。
「さあ来てくれ、君は色々調査してみたい」
レクトは手を取られ、周りの人間の視線を浴びながら連れられていく。やがて扉が閉められ、気まずい雰囲気が流れると、カラスは手を叩いた。
「みんなすまないな! 気にせず騒いでくれ!」
その声を皮切りに先ほどのことなどなかったかのように騒ぎ始める人間。カラスはため息をつき、近くの椅子に腰をかけた。
別室に移動したレクトは椅子に座るよう言われ、従う。そして正面にハクチョウが座ると、端末を手に持った。
「それで、君はどうしてヘメロカリスから逃げてきたんだ」
「それは──俺の……その、好きだった人を……」
なんとも言いにくい。が、こうなった経緯を途切れ途切れに話す。ナズナという人物がトロンを手に掛けようとしたことを話す。
「なんだと……設計者であるトロンを……まったく血も涙もない奴らだ」
利用するだけして棄てるヘメロカリスに悪態を吐くハクチョウ。レクトは話を続けた。──それに居合わせ、一度死んだはずなのに生きていること。何も隠さずに話すが、一語一句を聞くたびにハクチョウの眉間にはシワが寄せる。
「うーん……君は一度死んで、生き返った……そして君は男……」
ハクチョウは鉄腕甲に刻まれた製造ナンバーをコンピューターに入力する。するとヘメロカリスのコンピューターにアクセスしてレクトのプロフィールを表示させたではないか。
「レクト……写真では確かに男だ?でも今の君はどうみても女の子だな」
「そう、なんです……俺は起きたらこんな姿に」
自分でも何が起きたかわからない。技術の進んだ今でも、性別を完全に変えることはまだ実現していないはずだ。
「うーむ、君もヘメロカリスの人体実験に何かされたのかい?」
人体実験。なんと恐ろしい言葉か。なぜ突然そんなことを訊いてくるのだろう。レクトは首を横に振る。
「人体実験って……ヘメロカリスはそんなことするわけないですよ」
「残念だが……これを見てくれ、これは──鉄腕甲の量産計画の実験の様子だ」
ハクチョウはコンピューターを操作していくつかの動画を出す。そこには人間が血を流し、苦しむ姿と叫びが絶え間なく聞こえている時刻絵図だった。そして右腕には鉄腕甲が付けられている。
「そんな、まさか、冗談ですよね?」
にわかには信じられなかった。だが、そんなレクトの疑惑を打ち消すものが映り込む。博士だ、レクトに幾度となくデンシデンジを付与させようとした、あの博士が映っているではないか。
「なっ──」
言葉を失う。まぎれもない本人だ。まさか本当にこんなことが? レクトは震える。鉄腕甲も震える。
「えっ?」
ガタガタと鉄腕甲が震えている。まるで意思を持つかのように震え、やがて光り出した。
「うわっ!?」
「なにっ!?」
二人は目を覆い驚く。やがて、光が収まり目を開くと、そこにはあり得ないものがいた。
「トロン……!」
トロンだった。光り輝くトロンが怒りの表情でコンピューターを見ている。
「なんなのこれ……!」
「トロン! どうして……生きてたのか!?」
やっと会えた喜びに触れようとする。しかし、手は輝くトロンをすり抜けてしまった。
「驚いた、まさかトロン本人なのかい?」
ハクチョウはこの様子を記録するように写真を撮る。トロンはハクチョウに向いて礼をした。
「はい、私はトロンです……あのここは?」
「ここは烏合の集……まあレジスタンスのアジトだ。それで、君は殺されたはずじゃ?」
トロンは首を振り、あの時のことを話す。隠しておいたデンシデンジ爆弾で自爆したあと、自分の意識は残り、視界が光に包まれたとのことだった。
「デンシデンジが死者を蘇らせた……? 現に君の体は可視化できるほど強大なデンシデンジだ、そんなことがあり得るのか?」
「そ、それで、私、倒れてるレクトを見つけて、なんとかしなきゃって……それで鉄腕甲に吸い込まれるとこうなって……」
チラリとレクトを見る。すると抱き締めるように覆いかぶさってきた。
「かわいい〜! どうして女の子になったの? もしかして私のせいかな」
「ト、トロン! な、なんか恥ずかしい……から。それになんか元気じゃないか?」
実際に触れられているわけじゃないが恥ずかしい。レクトがトロンを押し返すと、トロンは唸る。
「うーん、確かに、この体になったら病気とか関係ないみたい」
生き生きとしているトロンはどこか新鮮だった、そして嬉しい。ここまで元気になってくれるなんて。
「ふーむ、強大なデンシデンジと化したトロンがレクトの体さえも作り変えたのか?」
ハクチョウはコンピューターに打ち込みながらぶつぶつと言っている。そこに、カラスが入ってくると、光り輝く物体に驚き仰け反った。
「うおっ!? なんだそいつ!」
「ああ彼女はトロンだ、どうもヘメロカリスのやつらに殺されかけたみたいだな」
ハクチョウがぶっきら棒にコンピューターにむかいながら答える。まじまじとトロンを見つめ手を振ると、トロンも手を振った。
「まじか。ってかトロンって鉄腕甲の設計者じゃ……ほんと奴らはえげつないな」
「ああ、恐らく用済みになったのだろう。それでなんだ」
するとカラスはレクトのほうを見て言った。
「レクト、君に頼みたいことがあるんだ」
「な、なんです?」
カラスは端末を見せてくる。そこにはここから、かなり離れた場所の地図が映っており、生産工場の場所のようだ。
「ここはユートピアの食料生産工場の一つだ、ここの占拠を頼みたい」
「え、ええっ!? ここの?」
「いいか、君はいま特別な存在なんだ、わたしたちとは違う、鉄腕甲を持ってる」
カラスは鉄腕甲を叩く。するとトロンが乱暴に扱うなど叱った。
「そしてユートピア精鋭部隊『エト』を知ってるか? 奴らは重要施設の警備に当たるのが任務で、もちろんこれから行く生産工場にもいる。だがここの担当は遠征に行ってて帰るのは明日らしいんだ」
「なるほど、いまは留守……」
覚悟はしていたがユートピアとの戦闘に躊躇ってしまうレクト。これから先、何度も危ない目に遭うのは理解しているつもりだったが、目の前に迫ると戸惑う。
「大丈夫よ。行こうレクト」
トロンが優しく語りかけてくれた。 レクトはトロンを見て笑顔を見せると大きく頷いた。エトのメンバーもいない今が狙い目だろう。
「わかりました、行ってみましょう」
「よし! じゃあポイントまで送っていこう、占拠が終わればまた連絡してくれ」
──
トラックでレクトは輸送され数十分。荒れた道は突然、舗装されたものとなると、目の前に巨大な施設が見えた。丸いドーム型のあの施設が食料生産施設なのだろう。
「止まれー!」
警備をしていたデンシロイドがこちらに銃を向けて発砲。トラックの装甲に当たる。
「よし! 行ってこい!」
「うわっ!!」
カラスは突然トラックをドリフトさせ、方向転換。レクトは助手席から放り出され、トラックは土煙をあげて走り去っていった。
「もう! なんて荒い人なの!」
トロンは頰を膨らませトラックを見て怒る。レクトは飛び交う銃弾に素早く突っ込み、デンシロイドを二体破壊した。そのままの勢いで施設へ潜り込むと、次々とデンシロイドが襲いかかり、それをなぎ倒していく。
広い施設を走り、様々な野菜や家畜が育成されているエリアに着くと、今までの量産型とは違う黒いデンシロイドが現れた。
「貴様ー! 何様だ!」
「くらえー!」
否応無しにレクトは腕の剣を振る。デンシロイドは武器のデンシロッドでそれをガード。火花が散る。
「おのれヘメロカリスめ!」
黒いデンシロイドは押し返すもそれよりも先にレクトが動く!
「そこだ!」
「がっ──!」
剣は一瞬のうちにデンシロイドの体を三つに切り分け爆散。家畜たちはその音に慌てふためく。
「鎮圧ってどこまでやるんだ!」
こんな広い施設を全て周らなくてはならないのか、レクトは焦りと苛立ちを見せた。
『レクト、私だ。その先のフロアから地下に降りてくれ』
通信が入る。ハクチョウだった。レクトは言われた通りに階段を飛び降りる。地下に降りると雰囲気は変わり、どうやら貯蔵庫らしい。
『その先に生産施設の制御装置がある! そこを抑えてくれ!』
「わかった!」
暗い通路を走る。するとだんだんと周りに機械が増え始め、制御装置が近いことを示してくれた。
「レクト! 何かいる!」
制御装置のエリアに踏み入れた途端、トロンは叫ぶ。確かにこのエリアは異様だった。制御装置というのに機械より食料のほうが多く置かれていて、どれも腐っている様子はない。
「ブモー……侵入者め……」
その時だ。突然、食料の山から何かが飛び出し、レクトを撥ねとばす。
「ぐあっ!」
地面を転がり頭上から複数の果物や肉が落下し、頭を守る様にバリアを張る。
「なに……まさかエトの……!」
レクトが起き上がると目の前には大きな手で周りの食料を掴んでは食す巨大なデンシロイドがいた。
「いかにも、俺はエトの一人『カウイット』だ! 明日まで遠征任務中だったが、一日早く戻ってみれば。ふん、貴様のような泥棒がいるとはな」
何という不運。カウイットの気まぐれが起こした遭遇にレクトは立ち上がり戦うことを決意する。
「うおおお!」
剣は電気を迸り、エレクワントに向かう。
「むん!」
エレクワントは避ける素振りも見せず、構え、拳を握った。
「レクト! 避けて!」
トロンが叫ぶ。それに反応し剣を振らずに飛び退いた。
「せい!」
その瞬間、先ほどまでレクトのいた位置にクレーターが出来上がる。なんという威力か。ただ鉄の拳をぶつけただけでここまでの威力になるだろうか?
「あいつ……あの拳に凄いエネルギーを蓄えてた……!」
「エネルギーだって? あんな威力を出すエネルギーを使えばすぐにデンシデンジは消えてしまうぞ」
何かトリックがあるのは明確だろう。エレクワントはその巨体に似つかわしくない跳躍を繰り出す!
「くっ!」
「ブモオオオッ!」
今度は足にエネルギーが蓄積し、着地。凄まじい衝撃に制御装置は緊急停止し、レクトも吹き飛んだ。
「どうすれば!」
迂闊に近づけばあの攻撃が来る。だがこのまま避けているわけにもいかない。レクトは腕を銃に変え、射撃をする。
「ブモモ! 効かんわ!」
カウイットは巨大な手のひらを盾にこちらに近づく。そして拳を叩きつけた。
「ぐあああ!」
速い。避けきれず拳を受ける。トロンが咄嗟にバリアを張ったお陰で威力は軽減されるが、それでも十分すぎるほどだ。
「ブモー……妙な技を使うヘメロカリスだ」
カウイットはすぐそこにあった食料を掴み口に運ぶ。ここでふと気になった。
「トロン、どうしてあのデンシロイドは食べ物を食べるんだ」
デンシロイドは本来、食料を必要としない。デンシデンジがあればそれだけでいいのだ。
「そうか! わかったわ! あのデンシロイドは食べ物をエネルギーにしてるのよ!」
トロンが叫ぶ。なるほど。周りの食料は奴のためにあったのか。
「それなら!」
レクトは挑発するようにカウイットに近づく。剣を闇雲に振るとカウイットはそれに合わせてカウンターを狙った。
「あまいっ!」
カウイットは勝ち誇っていうが、レクトは避ける。床がへこみ天井が揺れた。
「まだだ!」
レクトはもう一度突撃。カウイットは迎撃。しかし避けられ壁がへこんだ。
「ブモー!」
カウイットは食料を掴む。これを待っていた。レクトは素早く駆け寄り、剣を振る。
「くっ! 貴様ぁ!」
カウイットは手に食料を掴んだまま避ける。これをレクトは逃さない。しつこく間合いを詰めては剣を振り、カウイットを追い詰める。
「ブモー!」
カウイットの動きは愚鈍になった。やはりそうだ。あの巨体で素早く動いたり高く跳躍するには食料から得たエネルギーが必要のようだ。
「この──!」
カウイットは食料を握りつぶし、その拳を叩きつけた。
「せいっ!」
その腕を切断! 大木のような腕は宙を舞い食料の山に落ちた。
「ブモー! 貴様! 何のつもりだ! ユートピアに逆らい! 無事でいられると!?」
「悪いが俺はヘメロカリスじゃないんだ」
「なんだと!? じゃあ貴様は……!」
カウイットの首が飛ぶ。自爆装置が働き頭部のチップごと爆散した。
「はあ……勝ったのか」
座り込むレクト。そして通信が入った。
『よくやったぞ、今すぐ私たちが向かい占拠する』
ハクチョウがそれだけを伝えると通信は切れた。
「よかった、レクト」
トロンは安心した様子でレクトを撫でる。
「ああ助かったよトロン、君がいなかったらあの拳をまともに受けてた」
二人は勝利の時間を過ごしていると、先ほどの戦いを生き残ったモニターが点滅し、やがて一人のデンシロイドが映った。
「お前は……!」
『生産施設が潰れたと思えば……テロリストの仕業だったか』
女性型のデンシロイドは忌々しそうにレクトを睨む。
「何者だお前!」
『私は"偉大なる母。ユートピアを統一する者』
偉大なる母。その名は聞いたことがあった。最初に作られたデンシロイドであり他のデンシロイドは彼女の量産型なのだ。
「それで何の用?」
トロンは姿を見せると彼女を睨んだ。
『何でもない。ただ、エトのデンシロイドが二人もやられたのでな、どんなテロリストか見てやろうと思っただけだ』
偉大な母は通信を切りモニターは映らなくなる。レクトたちは緊張が解け、座り込んだ。
「はあ……あいつが……」
ユートピアを統治するもの。ヘメロカリスが倒すべき存在だ。
「おーいレクトさーん!」
向こうから声がすると、烏合の集たちの兵士がやってきてレクトに肩を貸して歩き出す。施設を出るとトラックが待っており、レクトは乗り込んだ。
「よくやった! 助かったよ!」
カラスはトラックを走らせ機嫌良さそうに言った。
「エトのやつはいないんじゃなかったんですか……まったく」
「ははは、ごめん。でもよ、これで食料はどうにかなりそうだ!」
「喜ぶのはいいけど次は乱暴に降ろさないでくださいね!」
ぺしぺしとカラスの頭を叩くトロン。デンシデンジなので触れることはないがカラスは笑いながら謝罪した。
トラックは大きな戦果を乗せて荒野を走った。