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救済とは人の人生に干渉する害である  作者: 早乙女・天座
一章 朽ちてなお這い上がる者
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6話 始まりを運ぶ鳥

 「ごちそうさまでした。美味しかったね百合ちゃん」

 「そうでございますね白鳥様」

 数十分して俺たちの昼食は終わりを迎えようとしていた。白鳥はずっとウザかったが、久しぶりに百合姫の楽しそうな顔を見られたのは良かったと思う。しかし、このまま遊んでいる訳にはいかない。早く協会に行って補助金契約をしなければ俺は生きていけない。あと、桐谷って奴だ。ジイさんには大変世話になった。頼みくらい聞いてやろう。

 「白鳥、お前に頼みがあるんだが」

 「え!いいけど。その前に」

 「ん、その前に?」

 「私、皇くんの笑ったところまだ見てないから、もうちょっとだけお話しようよ」

 「頑張ってください白鳥様。私も主様の笑った顔が見たいです」

 「任せといて」

 百合姫のヤツ、すっかり白鳥と仲良くなって。白鳥から離れる時、難しくなるだろう。 

 「そう言えば白鳥、お前は何で俺の名前を知ってたんだ?」

 「あ~それはね、皇くんってうちのクラスでは結構有名なんだよ」

 「は?俺が有名?」

 「うん。特に女子に人気があるね。鋭い目つきがカッコいいって言ってるよ」

 馬鹿な、そんなはずはない。俺はできるだけ目立たないようにしてきたのだ。俺の知らないところで有名になってしまっていたとは。気を付けなければ。

 「あれ?おかしいな。男の子はこういうこと言うとニヤけると思ったんだけどな」

 俺は一瞬、白鳥によって思考を止められた。

 白鳥、能天気なヤツだと思っていたが意外と頭がキレやがる。

 「お前なぁ」

 「チョッ、そんなに怒らないでよ皇くん」

 「どうしてそこまでして俺を笑わせたいんだよ」

 俺と白鳥を微笑ましそうに見つめていた百合姫が、昼食の容器ゴミを公園のゴミ箱に捨てに行った。生物以外の物は心移す体(しんいたい)が触れると同種の者にしか見えなくなるから特に問題はないのだが百合姫は少し世話焼きすぎる。俺のことを何でもやろうとするから問題だ。

 「主様、私は少し戻って休んどきますね」

 「あ、ゴミ捨ててくれてありがとね百合ちゃん」

 百合姫は笑顔で白鳥に一礼して消えていった。

 「で、何で笑わせたいかだっけ。そうだな~やっぱり暗い顔は寂しいし幸せじゃないじゃん。皇くんいつも一人でいるし、そういうの私ほっとけないの」

 「有難迷惑だ。幾ら暗い顔をして一人でいるからって幸せじゃないなんて決めつけられないだろ」

 「そんなことないよ皇くん。皇くんは知らないだけなんだよ。友達と一緒にお喋りしたり、協力するのは楽しいことだよ」 

 「知りたくもない、そんなもの」

 「もぉ、曲者だね。でも絶対に笑顔にしてみせるからね」

 白鳥が平ら胸元でガッツポーズを決める。

 俺の怒りのボルテージがまた一段階上がったその時、ランチ広場の噴水の前で一人の小さな女の子が大きな声で泣きだした。「お母さーん、お父さーん」と泣き叫ぶ姿から見て差し詰め迷子だろう。

 小さな女の子が泣いて困っているのに誰一人として動く気配を見せない。女の子の一番近くにいる若いカップルなんて気づかないふりして笑ってやがる。

 本当に腐っている。人を目の前で見殺しにする()()()と同じだ。

 俺は白鳥をおいてベンチから立ち上がった。そしてゆっくりと女の子のもとへ歩いて行くと、後ろから白鳥が追い越し女の子のもとまで走って行った。

 「大丈夫?家族とはぐれちゃったのかな?う~、泣かないでぇ。お姉ちゃんたちが、お母さんとお父さんのところまで連れてってあげるから。ね?」

 白鳥が目線を女の子に合わせ、優しく声をかける。

 「うん」

 白鳥に抱きしめられ、ようやく女の子は泣き止んだ。

 「私、嬉しかったよ皇くん」

 「何がだ?」

 「この子を助けようと立ち上がったこと。優しいとこあるんだね」

 白鳥が俺の方を見ず、女の子をあやしながら言ってきた。

 「俺のは、お前と違って善意のもとじゃないがな」

 「良いことには変わりないよ」

 後ろから、嬉しそうに笑う白鳥の横顔が見える。

 「お姉ちゃんたちにお名前教えてくれるかな?」

 白鳥が女の子の目を見て笑顔で問いかける。

 「桑田美音(くわたみおん)

 泣いていることもあって声が濁っているがしっかりと答える、小さいわりにはできた子と分かる。きっといい親を持ったのだろう。

 「そっか美音ちゃんか~。可愛い名前だね!いくつかな?」

 「5歳......」

 五歳か。

 正直、五歳児の扱いなんて俺には全く分からない。白鳥がいなければ危うく不審者と間違えられて余計怖がらせていたのだろう。

 「白鳥、どうやってコイツの家族を探すつもりなんだ?」

 「それは私に任せといて。後、コイツじゃなくて美音ちゃんね」

 真の通ったで強い目で白鳥に訂正された。

 「お母さんとお父さんはどんな人?」

 「お母さんは可愛くてお父さんは優しいよ」

 「あ~っと、う~ん。そっかぁ。じゃあどんな服装かな?」

 「お母さんは水色のお洋服に黄緑色のスカートで長い髪の毛だよ。お父さんは黒のシャツにジーパンはいてる。後、眼鏡かけてる」

 「お~。しっかり言えて偉いねぇ。もう大丈夫だよ。お姉ちゃんが探してあげるからね」

 そう言うと白鳥の隣に馬鹿デカい白色のフクロウが現れた。

 「この子の親を探せば良いんだな」

 ふわふわで可愛い見た目に反してダンディな声で白鳥の心移す体(しんいたい)と思われるフクロウが言う。白鳥は無言で頷いた。白鳥の表情は自信に満ちていて、自分の心移す体への信頼が感じられた。

 それから間を空けることなくフクロウは公園の上空へと飛び立った。

 「さッ、私たちも探しに行くよ!皇くん。美音ちゃん」

 白鳥は立ち上がり美音に手を差し伸べた。

 「うん」

 美音は目を擦り、涙を堪え、白鳥の手を取る。

 「お姉ちゃんたち名前は?」

 「あ!そっか忘れてた。私が白鳥小雪で、こっちのお兄ちゃんが皇終夜くんだよ」

 「小雪に終夜?」

 「うん!そうだよ。ね、皇くん」

 「え?ああ」

 俺たちは美音を間に挟み両隣に位置付いて歩く。美音は俺と白鳥の手を握りしめ、俺たちの顔を交互に伺いながら歩く。まだ疑っているのか、それとも緊張しているのか。どちらにせよ怖いことには違いないだろう。

 「ねぇ美音ちゃん。美音ちゃんは一人っ子?姉妹とかはいるの?」

 白鳥が優しい口調で美音に問いかける。美音が緊張しているのを見越してのことだろう。

 「お姉ちゃんが一人いるよ。小雪は?」

 「私はいなよ。一人っ子。皇くんは?」

 普段なら絶対に答えない質問だが、怖そうに俺を見る美音の顔に免じて答えてやることにする。

 「俺か?俺は上に一人、下に二人いるぞ。もう長いこと会ってないがな」

 「へ~皇くん兄弟いたんだ」

 「ああ。姉、以外とは、そほど仲が良くなかったがな。いつも明るくて能天気で優しい姉だった」

 白鳥が唖然とした表情を見せる。

 「皇くん意外と壮絶な人生歩んでたりする?」

 「ほっとけ」

 憐みの目で俺を見る白鳥から顔をそむける。

 「ねぇ、小雪と終夜は付き合ってるの?」

 五歳児の口から飛び出したとは思えない一言に俺は心中、驚きを隠せない。今時の子供の進み具合には感服させられる。

 「え⁉私たちはそういう関係じゃないよ」

 「そうなの?じゃあ小雪は終夜のこと好き?」

 「えぇ!いや、まだ分からないかなぁ。私たち今日初めて喋ったからね」

 白鳥も五歳児に分かりやすく動揺させられている。

 「そうなんだ。じゃあ終夜は小雪のこと好き?」

 小さな子供は凄いものだ。もう見知らぬ年上に心を打ち明けてる。こう見ると似たような白鳥もガキだな。

 「嫌いだ」

 「え!ちょッ皇くん。え!冗談が過ぎるよ。ねぇ美音ちゃん」

 「そうだよ終夜そんな酷いこと言っちゃだめだよ」

 美音が分かりやすく怒りを表現した顔を俺に向ける。せっかく生まれかけた信頼が崩れてはならない。緊張も薄れ、恐怖も忘れるてくれている。そんな少女の機嫌を崩してしまうのは酷な話である。

 「冗談だ」

 「だ、だよね~もぉ皇くんは~」

 「本当に?」

 何かを訴えたそうなジト目で美音が俺を見つめる。

 「本当だぞ」

 「じゃあ小雪のこと、ぎゅう~って抱っこして」

 五歳児、特有の言葉並べの覚束なさが目立つが大体言いたいことは分かる。それを踏まえてギョッとする発言だ。

 「す、皇くん。私ちょっとお手洗いにいっ、行ってくるよ」

 『俺を一人にしないでくれ』ただそれだけを思い俺は無言で走り去る白鳥の背中を見つめていた。

 「な、なあ美音、喉乾いてないか?何か買ってやろうか?」

 餌付け作戦だ。これで場はしのげるだろう。

 「いい。お母さんとお父さんに家族以外からものを貰っちゃダメって言われているから」

 返す言葉もない。これではまるで不審者ではないか。

 「そうか。美音は偉いなぁ。親の言いつけをしっかり守ってるんだな」

 「うん。終夜のお母さんとお父さんはどんな人?」

出来ればその話には触れてほしくなかった。俺の両親......。

 「お、俺の親はな......」

 ヤバい。久しぶりに込み上げてきた。

 胃の奥底から沸き上がるこの感覚は長らく感じていなかったが今でもハッキリとわかるあの感覚。

 最悪だ。

 「終夜?」

 「俺の親はな、もう親と呼べるものじゃ――」

 「ご、ごめんねぇー。待ったよね」

 トイレの方から白鳥が慌てて走って来た。ナイスタイミングだ。

 「悪い白鳥、俺もトイレに行ってくる」

 俺は返事を待たずに自動販売機へ駆けた。水を買い急いでトイレへ駆け込む。

 心臓の動きが早くなり皮膚からは汗が滲み出てくる。熱い。

 俺はトイレの個室に篭り、苦しさのあまり体のバランスを崩す。腹の奥から憎悪が込み上げてくる。

 ――ぬ、主様!大丈夫ですか⁉

 和式便器に激しく嘔吐する俺の姿を見て百合姫が声をかけてきた。俺は自動販売機で買った水で口を濯ぎ必死に苦しみと激闘する。

 『助けてくれ、百合姫』

 「もう大丈夫です主様。私がついていますよ」

 倒れこみそうな俺を百合姫が全身で受け止めてくれた。百合姫は俺の胸に手を当て優しく抱きかかえる。

 「何年ぶりだよ、こんなこと」

 「私が最後に呼ばれた時が最後でしたので四年ぶりです。もしかして!私のせいですか?私の顔を見て思い出されたのでは。それでしたら私......」

 百合姫が申し訳なさそうに目を潤わせて言う。

 「それは違うぞ百合姫。俺はずっとお前に救われてたんだ。これはお前のせいじゃない。やっぱり他人(ひと)と関わるもんじゃねぇな」

 「主様......」

 百合姫に胸を摩ってもらう内に俺は徐々に体調を取り戻し一人で立ち上がれるようになった。

 「有難う百合姫。もう大丈夫だ」

 「辛くなったら、いつでも呼んでくださいね。私はいつでも主様の味方ですから」

 そう言い残し百合姫は帰っていく。

 ペットボトルに残る水で口を濯ぎ直しトイレから出た。

 ペットボトルをゴミ箱に捨て新たに缶コーヒを購入する。ほんの数秒でそれを飲み干し、気を取り直した俺は白鳥たちと別れたベンチへと向かった。

 すると遠目にガラの悪い男数人に囲まれる白鳥と美音の姿が見えてくる。

 「このトラブルメーカが」

 近づくに連れ、男たちの大声が鮮明に聞こえるようになる。

 「ねぇねぇお姉ちゃん、俺らと遊ばない?丁度、誰も来ない、いい場所知ってんだけどさ」

 「君ら姉妹かな?」

 「俺、幼女ちゃんも~らい」

 「俺らで姉妹丼にして喰ってやるからよ~」

 普通に気持ち悪い。よくもまぁ、あそこまで自分たちの欲望剥き出しで生きていけるのか、俺には全く理解できない。

 「お母さ~ん、お父さ~ん」

 美音がまた泣きだした。俺が間に割って入ろうと少し速足で美音のもとへ向かい始めた、その時。

 「お前ら人の娘に何してんだ!」

 気弱そうな、眼鏡を掛けた男性が鬼の形相で男たちに向かって行った。

 「チッ、親か面倒だな。行くぞお前ら!」

 男たちは不服そうな表情で帰って行く。

 「美音!」 

 今にも泣きそうな顔をした女性が美音のもとまで走り、勢いよく美音を抱きかかえた。

 「お母さ~ん」

 どうやら親の方が先に美音を見つけたようだ。美音も幸せそうな涙を流している。

 美音は親のもとへ帰り、美音の親は白鳥に頭を下げている。俺のいる場所からは声が小さくて何を言っているかは分からない。だが最後に美音が大きな声で言った、「小雪、有難う。終夜にも有難うって言っといて。二人共大好き!」だけは、はっきりと聞こえた。

 白鳥が満足そうに美音たちを見送ったところで、俺は白鳥のところへ帰る。

 「一段落だな」

 「うわ!びっくりした。いつからいたの?」

 「美音の父親が飛び込んで来た時から」

 「美音ちゃんが有難う、大好きって言ってたよ」

 「聞こえてたよ」

 「凄いね美音ちゃんのお父さん」

 白鳥が寂し気に語り出した。

 喜怒哀楽の激しい奴だ。

 「私のお父さん、バカな私に嫌気が差してお母さんと私おいてどっか行っちゃったからさ、羨ましいな」 

 能天気な白鳥にも呪能を使う者としての特有の悩みがあるのか。父親絡みの悩み。

 「あ、ごめんね。せっかく事件解決したのに辛気臭くしちゃって。ツグミ回収したら今度は皇くんのお願い聞いてあげるね」

 「ツグミってあのフクロウか?」

 「そうそう。私の心移す体。皇くんのお願いって協会に行くことでしょ?」

 「バレてたのか」

 余計なことだけは頭がキレるらしい。

 「お前に協会の扉を開いてほしい」

 「分かった任せといて」

 これでようやく俺の目的が遂行される。長かった。正直、普通に市役所まで歩いて行けばもっと早く着けたかもしれない。だがもうどうでもいい。俺は早く用事を済ませて白鳥から解放されたい。

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