3話 暴走姫
私が鳥の巣に入店してから二十分程、白鳥は接客をしつつも私の隣に帰ってきては笑顔で私に話しかけてきたりと忙しそうに動いていた。
最初は接客態度に遺憾を感じていたものの彼女の接客を間近で見てみると客に好かれていてこういうのも意外といいのではないかと思い始めていた。
私自身、苛立ちを感じながらも、そほど悪くない時間を過ごしているし、皆が言うほど白鳥小雪は悪い人間じゃない。
だがそれは終夜が絡んでくると、また別の話、惑わされてはならない。
「白鳥さん、私そろそろ帰るわね」
「え!宮ちゃんもう帰っちゃうの?」
「ええ、良い時間だし」
「うん分かったよ」
学生鞄を手に取り、店のソファーから腰を上げる。
「あー小雪ィ!あの~夜ご飯の具材がないから買ってきてくれない?」
「はーい分かったー」
会計を済ませ店をあとにしようとすると、厨房から白鳥母の声が飛んできた。
白鳥は母親からメモを渡され私の隣に立つ。
「宮ちゃん。途中まで一緒に行こ」
「仕方ないわね」
私と白鳥は店を出て寂れた商店街を巡った。八百屋で野菜を購入し次は肉屋に向かう。
白鳥は八百屋のオバちゃんと仲良く談笑し、おまけまでしてもらっていた。
「宮ちゃん、ダメだよ。お肉屋さん今日休みだ」
赤い屋根の寂れた肉屋にはシャッターが閉められていて、『急病につき休ませていただきます』という張り紙が貼られている。
「困ったわね、どうする?スーパー行く?」
「しょうがないね。近藤さん大丈夫かな」
白鳥は寂しそうに唇を尖らせてポツポツとスーパーへと歩いていった。
彼女の哀愁漂う背中を見ていると何故かこっちまで似たような気持ちにさせられる。不思議な感覚である。
「きっと大丈夫よ」
「うん。ありがと、宮ちゃん」
見ていて可愛そうなので私は家に帰らず白鳥と一緒にスーパーへ向かった。
「私、今日ね。宮ちゃんと仲良くなれてよかったよ。これからも宜しくね」
「ええ、こちらこそ」
私は心にもないことを作り笑顔で口にしながら白鳥と対峙する。が、ほんの一瞬だけ白鳥小雪のペースに狂わされたことは否定できない事実である。この先も気を付けて取り掛からなければならない。
「ねぇ、宮ちゃん、あの子たち宮ちゃんのクラスの子たちじゃない?」
「え?」
スーパーに向かう途中、私は白鳥に軽く肩を叩かれ、白鳥の指す方を振り向いた。
白鳥は車道の方角を指さしていて、車道を越えた向こうの歩道に美幸と曜子が二人足並み揃えて歩いている姿が見えた。
陽子がこちらに気付き満面の笑みで両腕を上にあげ大きく手を振る。美幸も嬉しそうに小さく手を振ってくれた。
知り合いに会っただけでこんなに嬉しそうにする彼女達の気持ちはよくわからないが、ここは私も合わせて手を振っておく。
「華希~私、今日部活早上がりだったんだー、一緒になんか食って帰ろうぜ~」
「ダメッ!陽子ちゃん!」
曜子は、横断歩道ではないにも関わらずガードレールを跨ぎ、こっちに向かって走ってきた。信号は赤、横に車の気配はないが美幸は必死の表情で曜子を止める。
曜子は聞く耳を持とうとせず道路の半分を過ぎようとしたその時、曲がり角を曲がってきた軽自動車が曜子目掛けて走って行く。
「――宮ちゃん⁉」
なぜだろう?なぜ歩道にいたはずの、私の目に、こんなに近く車が映っているのだろう。
どうでもよかったはずの曜子の為に私の体は自然と動いた。
車は止まる気配を見せず、無残にも私の足は曜子のもとまで行くには到底間に合いそうにない。もうダメだ。
「ダメー!」
横目に紅色の閃光、凄まじい衝撃音の後、私は強力な向かい風を受ける。状況が把握できない。
何かが起きたのは確かだが......曜子は⁉
私の目の前から曜子が消えていて車は急ブレーキを掛け、一度止まり運転手は窓から顔を出し後方を確認する。だが何もないことに変わりはなく直ぐに車は走り出した。
「みや......ちゃん......まさか!宮ちゃんも......?」
私は一度深呼吸をし、周りを見渡してみる。すると美幸の隣で泣いている曜子の姿が窺えた。なぜ曜子が美幸の隣にいるのか。
「キャッ!」
完全に思考が混乱し、冷静に物事を考えられなくなっていた私は白鳥の悲鳴で意識を取り戻した。後ろを振り返ると右腕から少量の血液を垂れ流す白鳥が歩道に倒れこんでいた。
「白鳥さん⁉」
「宮ちゃん......逃げて」
私は慌てて白鳥の近くに駆け寄り傷口の応急処置をしようと試みた。
「宮ちゃん私は大丈夫だから......意外と傷は浅いよ」
「何言ってるの!血が流れてるじゃない」
私は背後から何かが迫って来る気配を感じ取り、ゆっくり振り返ってみる。すると露出度の高い西洋の鎧を着た人間の様で人間ではない何かが宙に浮き、静かに近づいてきていた。
赤色が基調のそいつは血の付いた大剣を持っていて、目に瞳が無い、正にバケモノだ。
「何コイツ⁉」
「そいつは多分、宮ちゃんの心移す体だと思う」
「心移す体?」
「うん、全く理解出来ないと思うけどよく聞いてね。心移す体ってのは人間の本心や感情を宿した使用者に忠実な感情ある化身で裏の人間が扱う三つの特殊能力の一つだよ」
この子は何を言っているのだろうか。特殊能力?裏の人間?全く分からない。
私の心移す体?というバケモノは剣を振りかざし白鳥に襲い掛かった。
「やめて!誰か助けて!」
私が思わず、そう叫ぶと今度は身長50㎝程の人型をした黒色の影のような者が何処からともなく現れた。
髪も顔もない棒人間の様でスライムのような、その影は白鳥の身代わりとなり心移す体の剣を受け激しい風圧と共に液体の様に弾け飛ぶ。
「もう!何が起きてるのよ!」
私は心移す体の隙を見て白鳥を抱え、お姫様抱っこの状態で走って逃げだす。
心移す体は私たちを追いかけてきている。
「ねぇどうなってるのよ心移す体は忠実な化身なんじゃないの?」
「多分、宮ちゃんの心移す体が強すぎて暴走してるんだと思う。心移す体は自我が強かったり、使用者の心がより病んでいた方が強いっていうから。宮ちゃんの場合は前者かな」
白鳥が傷の痛みに耐えながら苦難の表情を見せる。
こんなことになるなら来るんじゃなかった。いつも一人で何でもこなしていたから付け上がっていたのだ。
いざという時に私は自分の身を守ることはおろか、なにも対処出来ないではないか。私はあの頃の様に弱いままだ。あの人の言うような強い人間にはまだなれていなかった。情けない。
違う。本当に情けないのは、そんなこととじゃない。本当に情けないのは私のせいで人を命の危機に遭わせているという事。そして、それを偽る自分も情けない。
「......いえ、多分後者よ。私こう見えても、できた人間じゃないから」
そう、私は自分の平和の事と終夜の事しか考えない自分勝手な人間なのだから......。
「そんなことないよ!だって宮ちゃん車にひかれそうになった友達の為に身を挺して助けに行ったじゃん」
「違う!私は......違うの............違うのよ......私は友達を友達とも思わないクズなの......貴方の事も終夜の周りにいるウザい奴としか思ってなかったし......大っ嫌いだし......私は本当............自分勝手でダメダメなのよ!」
「違わないよ!だって宮ちゃんは私の事助けてくれてるもん!必死になって人の事助けようとする人がクズなわけないよ!それに皇くん言ってたよ。華希は色々とヤバいとこあるけど根は優しい奴だって」
「終夜がそんなこと......」
「宮ちゃんはクズじゃないよ」
白鳥から力強い一言が飛んできた。なぜか胸のあたりがグッとくるような、なんだろう久しく感じていなかったこの感情は......
「宮ちゃん、泣いてるの?」
「うるさい!黙りなさい、このバカ」
「フフフ♪」
「なに笑ってるのよ!」
「ううん。本当の宮ちゃんを見れたのかなって思って」
白鳥はこんな私に可愛い笑顔で言ってくれた。あんな酷い私を見て普通に接してくれたのは二人目だ。ダメだ我慢できない......何かが込み上げてくる。
「宮ちゃん?泣かないで宮ちゃん」
「......ありがとう」
久々の感動に浸る暇もなく後ろから迫りくる、心移す体の攻撃が私たちを襲った。剣は空振り、公園の木を切り倒す。
「ちょっと白鳥さん、これどうするの?見たところ心移す体は能力者にしか見えてないようだけど周りの被害も、もちろん私たちへの被害も、危ないものよ。貴方も何か力っての?持ってるんでしょアイツやつけられないの?」
一瞬だけ白鳥を持つ手を片方はずし、ぼやけた視界を擦って気を取り直し持ちかける。
「ゴメン宮ちゃん。私の力、戦闘向きじゃないからムリ。その代わり皇くん呼んだからもう安心だよ」
「え!終夜も力っての持ってるの?」
「うん!すっごく強いんだよ。きっと倒してくれるよ」
「あの、安心してるとこ悪いんだけど......終夜今日の昼倒れて保健室で寝てるのよ。起きたとこ確認してないからもしかしたら、まだ......」
「え?」
一瞬にして白鳥の表情が凍り付いた。そして必死に黒い通信端末で電話を掛ける様子を見せる。
「ちょっと!皇くん。出てお願い!皇くん!お願い!出て~」
白鳥の電話を掛ける手が震えている。私もそろそろ走るのがしんどくなってきた。心移す体は攻撃を外してもなお攻撃を仕掛けてき、私たちはどんどん追い詰められていく。
「宮ちゃん、皇くん出ないよ~」
どうする?どうにかしてアイツを食い止めないと。
そう言えばさっき黒い影みたいなやつが白鳥を守ってくれた。あれさえ出せればまだ可能性が。
「ねぇ白鳥さん。さっき出た小さい黒い方の奴は何なの?もう一回出せる?」
「え?えぇっと、呪能力か求能力だと思うんだけど、助けてって願ったから求能力かな。普通に出そうとしたら出せるはずだよ」
呪能力?求能力?そう言えば心移す体の他にまだ二つ特殊能力とやらがあったわね。なにが違うのかしら。
『あの黒いの、出てきて!』
私は黒く背の低い人型の影をイメージして出てくるように願った。すると、走る私の周りに五体の影が現れた。影は私の周りに張り付くように全く同じ距離を保ったまま走って付いてくる。
「うわ!出た。なにこいつら」
「宮ちゃん、その子たち多分自分の手の様に動かせると思うから頑張って」
走ることに必死な私は後ろを振り向くことが出来ないので取り敢えず五体全員を突撃させた。
私の後ろで液体が弾ける音が五回鳴り、進行経路に黒い液状の物体が叩き付けられた。
「弱!弱すぎるよ宮ちゃん!」
「なんでこうなるのよー!」
「あ!でも見て宮ちゃん。やられた黒子ちゃんたちもう復活して後ろに付いて来てるよ」
「復活する速度が速くったってこの状況は打開できないわよ」
後、変な名前付けられた。
駄目だ、もう走れない......足が。
「大丈夫かお前ら!通報を受けて助けに来たぞ!」
「終夜?」
足の疲労がたまり遂に前を見ることも難しくなっていた私の前方から男性の声が聞こえてきた。
「って誰よ!このおっさん!」
「おっさん⁉」
「ハハハ、隊長言われてますよぉ」
どこの誰かも知らないおっさんと終夜の声を聴き間違えるとは。
「あ!三条さん。助けに来てくれたの」
白鳥はおっさんの事を三条と呼び、親しそうに接する。
この子のこう言う人懐っこいところは才能だろう。取り敢えず能力者だろうし助っ人は有難い。
「まあ俺らに任せとけ」
三条さんはそう言って私の心移す体の前に立ちはだかった。三条さんの隣には部下と思われる男性が四人並んでいる。流石にもう助かっただろう。
「大丈夫?こっちにおいで私が癒してあげるから」
こちらも部下の人だろう。三条さんから少し離れたところで若い女の人が私たちを出迎えてくれる。
「あ!血が流れてる。ずっとしんどかったんじゃないの?」
「うん。でも宮ちゃんも頑張って走ってくれてたから」
「友達思いなのね。直ぐ治してあげるわ」
「えへへ」
つくづくこの子は.....こんな人間が世の中にいるなんて、もっと早くに出会いたかった。
「ねぇ白鳥さん、三条さんって何者なの?」
「三条さん?えっと三条さんは国裏政権協会っていう組織の人だよ。国裏政権協会ってのは、私たちみたいな能力者をバックアップしてくれる裏の組織で、その中でも三条さんは能力者取り締まり部隊の13番隊隊長さんだよ」
「私たちの部隊は強いから、あの暴走した貴方の心移す体も大丈夫よ」
白鳥とお姉さんが優しく教えてくれた。正直まだ状況が理解しきれていない。空想上の力を持った人間が本当にいて裏組織まで存在しているなんて俄かにも信じがたい。が事実だ。取り敢えず礼をしておこう。
「すいません迷惑掛けます」
「アハハ、いいよいいよ気にしないでこっちはお金貰って動いてるから」
「お金?一体どこから出てるんですか」
「えっと国裏政権協会は設立者の一代目会長のおかげで国から支援されてるんだよ。だから結構収入いいんだよね。表で普通に働くより収入いいよ」
まさか国絡みでの話なの?全く知らなかった組織の隠蔽能力が高すぎる。この私の耳に入って来てこないなんて。
「チヒロ逃げろー!」
か細い声でかつ力強く叫ばれたその言葉で事の危険性を改めて理解する。
緩んでいた気持ちを引き締め直し自分の心移す体の方へと目を向けた。そこには四人の男性が地に額を付け、辛うじて三条さんが今にも消えそうな四足歩行の、狼の様な心移す体を扱って食い止めてくれている光景が広がっていた。
「隊長!私も戦います」
「ダメだ!そいつら連れて逃げろ!」
もう皆ボロボロだ。ここのままでは私も白鳥も命は危うい。せめて白鳥だけでも生かしてあげないと......私の事、堂々と友達って言ってくれたのだから。
私が立ち上がろうとした瞬間、白鳥が立ち上がった。
「安心して宮ちゃん。血も止まったしもう動けるよ。絶対に私が守るから」
「バカ。震えてる子に守られる程落ちぶれてないわよ。お互い無力なんだから協力するわよ」
「分かったよ。そう言えばさ。まだ私、宮ちゃんに名前で呼ばれてないんだけど」
「それ今必要なの?」
「必要だよ協力するんだよ」
「も、もう。仕方ないわね......小雪」
「うん。行くよ宮ちゃん」
私は震える小雪の手を握り隣へ立ち上がった。
「不思議だな、宮ちゃんの手握ってたら安心できる」
「バカじゃないの安心できる状況じゃないでしょ」
そんなことを言いつつも実は心のどこかで安心している自分がいる。こんな友達初めてできた。絶対に彼女を守って見せる。
「行くよ!【ツグミ】」
小雪の後ろに人間の二倍程の大きさの白いフクロウが現れた。軽く人、三人分は乗せられる大きさだ。小雪の心移す体なのだろう。私も黒子たちを集めて構えをとる。三条さんもまだ倒れていない。希望はある。
私は黒子で牽制を試みた。黒子はすばしっこく敵の周りを掛け巡っては弾け飛んでを繰り返す。
小雪も空からツグミの羽を矢のように放ち牽制を掛ける。羽の矢は見た目ほど威力はないのか効いているようには見えない。小雪が戦闘向きじゃないと言った理由が分かった気がする。
「フッ、バカな娘たちだ。まだ逝くなよ【雷狼】最大出力構えとけ」
三条さんは決めの一撃の準備をしている。
今この瞬間私たちは謎の一体感に包まれていた。
誰かと、ここまで協力して大きなものに立ち向かうのは生まれて初めてだ。
これも意外と悪くない。
「行くぞ!離れろー!」
雷狼から光線の様に放たれる青色の電撃、私の心移す体は電撃に覆われモロに攻撃を受けた。
「やったか?」
三条さんが砂埃の中を窺い私の心移す体の生存を確認する。
絶対に決まった、これで終わりだ、そう思った。だが現実残酷だ。いくら一体感があっても、いくら作戦がうまくいっても、どうにもならないものがあるのだ。絶対的強者。
私は砂埃の中に物影があることに気付いた。
「三条さん!まだです!」
ボロボロになった甲冑を纏った私の心移す体が土煙のなかから、その顔を覗かせる。
間に合わなかった。三条さんが反応する前に、私の心移す体は剣を振り上げる。
「やめてぇ!」
終わりだ。全てが終わる。私も殺される。せめて小雪だけは飛んで逃げてほしい。私は思わず目を瞑った。
光を閉ざしても、無慈悲に裂かれる音は聞こえてくるのだろう。
腹を括りといっても全てを閉ざしたいと願ってしまった私の耳に莫大な衝撃音が鳴り響く。
足の裏で謎の地響きを感じ取った私はゆっくりと目を開いた。
三条さんは腰を抜かしこけているだけで重症の後は見えない。
三条さんの目の前に一本の白い薙刀が地面に大きな穴を空けて突き刺さって私の心移す体の進行を防いでいる。
「何があったの?」
「大丈夫か?華希。遅れて悪かったな」
今度こそ本物だ。ずっと待ちわびていた終夜が小雪の心移す体、ツグミの上に乗っている。
そして終夜と小雪を乗せたツグミは私の前に着陸した。終夜の傍らに白色の鎧を身に着けたポニーテールの女武将がいるのが見える。あれが終夜の心移す体なのだろう。
「なんで終夜がここにいるの?しかも上から」
「え?ああそれは俺の求能で瞬間移動してきたからだ。俺の方も少し学校でトラブルがあってな、白鳥のおかげでここまで飛べた」
出て来た『求能』さっきからさらっと流してたけど結局私は今どういう状況にあるのか分からない。ダメだ深く考えると混乱してきた。
「そんなことより、まずはお前の心移す体をどうにかしないとだな。頼んだ百合姫」
終夜がそう言うと百合姫と呼ばれる女武将は加速的な動きで私の心移す体との距離を詰め、流れるような動きで薙刀回収からの攻撃を見せた。
私の心移す体と終夜の百合姫の間で金属音が生じ、なんの躊躇もなく動く二体は両刃の大剣と薙刀の攻防を始める。
初めは接戦を繰り広げていたものの段々、百合姫の動きを上回るスピードで私の心移す体は剣を振り、やがてその体に一撃を入れた。
「皇くん、大丈夫だよね?」
小雪が心配そうに、そう尋ねる。
「想定外だな。百合姫も攻撃力にはそこそこの自信があったんだが......」
一瞬、終夜と目があった。終夜になにかを見据えられている。そんな感覚に見舞われる。
「それヤバいんじゃないの⁉」
「安心しろ俺の百合姫は守りの心移す体だ。お前に見せて来たのは偽りで、本当の戦闘スタイルとは違う」
「え!そうなの?私コンビ組んでるのに知らなかったんだけど」
二人が私の分からない会話を和気藹々と見せつけてくるので私は目をそらした。
すると百合姫の薙刀が丁度、大剣の大振りで二つに絶たれる様を見てしまう。
薙刀を一刀両断するほどの一振り、流石に重すぎたか一瞬、私の心移す体の動きに隙が出来た。
「よし、核をついた。強いの叩き込んでやれ百合姫」
百合姫は私の心移す体の腹部、それも丁度、鎧の死角となっている部分、そこに拳を接触させ固定する。そして終夜の合図とともに私の目では終えぬ速さの正拳突きを叩きこんだ。
私の心移す体は見た目ごと薄くなるように姿を消し、小雪は安心のせいか地に腰を落とす。
「あの、助けてもらって、無事に終わってすぐに悪いんだけど、状況説明をしてもらっていいかしら」
「ああ、その前に俺は協会の奴らの手当てに行ってくる」
終夜はそう言ってチヒロと呼ばれた女性の隊員と一緒に倒れた隊員さんのもとに駆け寄った。
こうして私と小雪の命に係わる大事件は幕を下す。
だが本題はまだ終わっていない。仲良くなったからってこれに関しては譲れない。潰すのはやめるにしても、全貌をハッキリさせなければ気が済まない。
でも、この子なら終夜を変えても全然可笑しくは無い。それを遂さっき知らしめられた。