Whatever has a beginning also has an end
―Chapter 0―
「タ・ス・・・・ケテ・・・・・・ェ。」
廃墟のような暗闇の中、しかしそこはいつも見ているような背景であった。不幸にも目の前には非日常の光景が広がっている。網膜を通ってくる光を出来る限り遮断したい。
男か女か不確かだけれど、それは俺のことを知っているかのように嗚咽を吐き散らす。耳が痛い。崩れそうな声色で、そして最期の一身を振り絞るような力強さで。しかしながらそれは、自分は助からないということを悟っているかのようにも聴き取ることができた。
「本当に、すまない・・・。」
いつも聞く声。これを話しているのは俺か?
「すまない・・・・・・・・・・・。」
涙ぐんだ声で謝罪を連呼するのは疑う余地も無くこの俺だ。しかし何故だ。全く持って心当たりが無いのに、罪悪感が心に残る。
「イ・・ヤダ・・・beZoト・・オ・・・ダナ・て。」
水の滴りと共に耳元には不吉な声と、そしてその得体の知れない塊からは聞き慣れない音、錆びた鉄のような鼻を刺すような臭いの感覚が脳に染み付いた。
「すまない。約束したのに・・・。俺は、どうして。無力だからか?それとも社会が悪いのか?教えてくれ。一体全体、俺は何をしたというのだっ!。何が理由で▲●◆がb_x;Uesいけないんだ!」
意味が分からないことを誰だかわからない人に対して吐き捨てる。俺はそんなことを言う必要性が無い筈なのに、いや、それ以前に言う義理というものが無いのにも関わらず、悲観した感情をどうしてか“それ”に対してぶつけてしまう。
「モ・ウ・・・イィ・・・ィヤァァ・・・。」
泣いているとも捉えることが出来る音が静まると、数秒間の沈黙が続く。
静寂が苦しい。その感情が自分のやるべきこと全てを無に誘うかのように払拭し人としての禁忌を犯すという結論にしか帰着できなかった。
そしてその音を聞いてから少し経つと心と身体がまるで切り離されたような感覚に陥り、次の瞬間、俺は俺ではなくなった気がした。
いや、そうしなければいけなかったのだ。そうしなければならないと俺の体が反射的に信号を受け取ったのだ。しかし、感情のみがそれの邪魔をしていた。これが本当の裁定だったのである。これこそがベストアンサーだったのだ。
だからこそ、自分を憎み、哀れみ、妬んでいたのだ。だけれど、もっと早くにそう結論付けていたなら▲●◆は・・・。否、それ以上考えるのはもう不要である。
だから俺は最期の言葉をこう述べたのだろう。畏敬の念を込めて。感謝の気持ちを込めて。前を向くと誓って。
「▲●◆■の約束は、必ず守るから。だから、今は。」
◆
ジリリリリリリリリーーーーーーーーーーーーーー!!
研究室内に甲高いスマートフォンのアラームが鳴り響く。
「ぶはっ!!なっ、なんだ今の・・・。」
周りを見ると、床には散らかった研究資料、デスクにはPower Pointを開いたままのノートPCが置かれている。
「寝ちまってたのか?」
いつも見る部屋を確認した俺はたちまち安堵する。そして必死にあの夢を疲れを理由に忘却しようとした。
「すごい現実感があったな。でもナイナイ!まぁ一週間も籠もって作業してるからだな。嗚呼、疲れってホント怖い(笑)…。」
現実を肯定しようと勤め、スマートフォンの文字を見てアラームを消した。そのロック画面には鶴ヶ島 優太からのメッセージが移っていたが、そんな文字列には目もくれずにただあれを忘れることに集中していた。
「うつ伏せで寝るのはやっぱり良くないなぁ。辞めよ。」
小さく独り言を呟くとチェアについたレバーを引き、もうあんな夢は懲り懲りだと思いながら、体を横にして俺は再度眠りについた。
電源が点いていたスマートフォンには
20X0年7月1日 7時09分
と刻時されている。
世界終末日記
One Dairy About World End