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マウス

作者: 和徳

「先生これは正しい事なのでしょうか」

 無機質な一室に沢山のベッドに寝ている患者をみて研修医が言う。

「世に正しいことなど何一つない。それは後の世が判断することだよ」

 先生はそう答えると患者を一人一人巡回していく。

 研修医はその後ろを付いて歩く。

「これではあまりにも、その、人道」

 遮るように薄ら寒い笑い声で、研修医の言葉を先生は遮断した。

「はは、研修医なにを言っているのかね。ここは研究科でも人体実験を専門と扱う部署なんだよ

 ここに配属された君からそんな言葉が出るとは、うちの人事部もまた節穴というか審査が甘いね」

「ですが、彼らはこのような死に様を覚悟していたのでしょうか・・・・・・」

 伏せ目がちに研修医は、タンカーに運ばれる遺体を眺める。普通の人の死に様ではないからである。頭が黒焦げで生ゴミがさらに腐った異臭を漂わせ、その人の面影を見ようにも、顔の皮膚がドロドロに溶けてもうそれはなんなのかもよく分からない。

「君はなにかね。こんな場所で道徳を説くつもりかね」

 先生は運ばれるタンカーの係を呼び止め、一つ教えようと語りだした。

「認識が甘いよ。研修医。彼らはここに来る前に、色々な経歴、過去を持つ人間だったのかもしれない。それでも彼らは危険性も承知で、この現実世界を嫌って仮想電子空間に自らの意思を持ってダイブしたんだよ。覚悟とか経緯とかその人物の内情行った物は、僕たち医者が伺い知ることではない」

 さらにと先生は遺体に指をさして、無機質で事務的な声でこう言い続けた。

「研修医が遺体というのもそもそも間違っているのに気づいているのかね。彼らはもう人間ではないんだよ。契約書にサインをした時点で人であることを辞めた者達であり、物であるんだ。」

「物ですか、先生はどう思ってここの人達を呼んでいるですか・・・」

「私かね。研究マウスと一緒さ 呼び止めて済まなかったね。すぐ運んでくれ」

 先生がマウスと呼んだ者はタンカーの係に再び運ばれ、静かに無機質な一室を出て行った。

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