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もう一つの物語  作者: 佐伯さん
本編
44/52

44 「お望みとあらばしてやりますが?」

「……此処だよ」


 割と不機嫌というか気まずそうになったセシル君に案内されて、約半年後の私のお部屋に到着します。

 案内されたのは、白を基調とした内装の、清潔感ある部屋。ベッドの上にはぬいぐるみが置かれていたりするので、本当に私用にあれこれ改造してくれたのでしょう。


「わあ……」

「本当に泊まるのかよ……」

「あら、駄目なのです? 大丈夫ですよ、セシル君夜這いかけるとか思ってないので」

「誰がするか!」


 冗談のつもりだったのに全力で否定されて、安心して良いやら悲しいやら。まあセシル君の事ですから婚前交渉などしない感じですよね、律儀な人なので。……それに、婚約したばかりで、好きだと言い合ってからそんなに経ってないですし……そういう事するのとか、想像つかないです。


 そんなに怒らなくても、と笑ったら「お前は危機感を持て」と軽く頬をつねられました。そうやって攻撃するのは良くないと思うのです。


「ったく。……取り敢えず風呂の用意は出来てるみたいだからメイドに言って入れてきてもらえ」

「はーい、一緒に入ります?」

「入ると思うか?」

「いえ全く。結婚したら入ってくれますかね?」

「……っ恥じらいを持て馬鹿! 早く寝る準備して部屋にこもっとけ!」


 そう言い残して走り去って行ったセシル君。

 ……私だって、恥ずかしくない訳じゃ、ないですけどね。




 まあそれから、セシル君の言う通りにお風呂に入ってきました。

 他所の屋敷のお風呂というのは中々に緊張したのですが、お風呂自体はきらびやかという訳ではなく、機能性重視の広々としたお風呂だったので良かったです。我が家とそこまで変わらないので一安心でした。メイドさん達が突入してきて色々と磨かれてしまったので気は休まりませんでしたが。


 何でそこまで気合い入れてるのか分かりません。まだこの家の人間という訳でもないのに……。まあ、マッサージとか手入れとかして貰って凄く気持ち良かったので良いのですが。香油を丹念に塗り込まれて、お陰でつるつるぴかぴか良い匂いな体ですよ。


 そんな訳でお部屋に案内されて、ただいまベッドの上です。

 ふかふかのベッドにレース布の天蓋。白を貴重とした柔らかな雰囲気の内装になっています。自室よりも女の子らしい、といったら良いのでしょうか。


 着せられた寝間着もふんわりとしたネグリジェ。丈が膝上な上布が薄いのか少しすーすーするのですが、デザインが可愛らしいのでそこまで気になりません。

 ……イヴァン様が、セシル君の好みに合わせたって言ってたし……こういう、可愛いのが好きなのかな。


 今度は可愛さの強い服を着ていこう、と心の中で決意をしつつ部屋を見回していると、ふと壁にカーテンが掛かっている事に気付きます。窓とは別枠でカーテンが掛けられていて、何かあるのかと立ち上がり近付いてカーテンを開けると、重厚な作りの扉が設置されていました。


 此処だけ後から作られたように雰囲気が違うのは、気のせいでしょうか。そういえば工事とかなんとか言ってたから、イヴァン様が後から改装したのかもしれません。隣は多分部屋なのかな?

 女性の部屋の隣って……うーん、クローゼットルーム? 服も用意してるって言ってたから、きっとそうなのかもしれません。


 どんな服があるのか、セシル君の好みってどんなのかなとリサーチすべく、ゆっくりと扉を開けて……。


「おまっ、何で入ってくるんだよ!」


 そして、何故かセシル君が居て。

 恐らく風呂上がりなのでしょう、銀髪は湿っていてやや頬が上気しています。顔は引き攣っていますが。


「え、セシル君?」


 私はというと、まさかセシル君がそこに居るなんて思ってもみなくて、入り口で固まってしまいます。

 だって、普通居るとか考えませんよ。てっきりクローゼットルームかと思ってたのに、別の部屋に繋がっていただなんて。


 顰めっ面に近いセシル君は、シンプルな部屋に立って此方を見ています。

 必要最小限の家具しか置かれていない部屋。強いて言うなら本棚が壁にずらりと並んでいて本がぎっしり詰まっている、くらいが個性としてある、そんなお部屋です。部屋は広々としているのに余分な家具はないので、少し寂しい雰囲気がありました。


「くそ、客室に泊めれば良かったものを……」

「……此処、セシル君のお部屋なのですか?」

「そうだよ」

「な、何で繋がって……?」

「……お前、それくらいは想像できるだろ」


 何故夫婦(予定)の部屋が隣り合っていて、扉で繋がっているか。

 ……え、ええっと……つまり、夫婦の営みの為ですよね? 多分、部屋が分かれているのは日常生活でそっちの方が使いやすいからというので、繋がってるのはやっぱり、そういう事を考えて?

 ……そ、そういえばイヴァン様がやけににやにやしてると思ったらこれですか……!


 セシル君もこの部屋の仕様に戸惑う、というか若干怒ってるようで不機嫌そうでしたが、嫌がっているというよりは恥ずかしがっているといった表情です。湯上がりというのもあるのでしょうが、頬がうっすらと上気していて。

 私の姿に最初は驚いていたようですが、落ち着いてからは寧ろ視線が少しさまよっていたり。


「……取り敢えず部屋に戻れ。お前、寝間着で男の部屋に入るな。婚約者だからって、はしたないだろ」

「そ、そんな事言われたって……。あ、似合いますか?」


 確かに寝間着を見せるのもどうかと思ったのですが、今回のは意図的ではないです。

 でも見られたのは仕方ないですし、セシル君の好みだと聞いているのでどうなのかと裾を摘まんでみせるとセシル君思い切り目を逸らしました。……そこまで脚が見えてる訳でもないんですけどね。


「あほ、寝間着を見せびらかす奴があるか。リズ、取り敢えず部屋に帰れ」

「……はい」


 思ったよりも強い口調で言われて、つい、眉が下がってしまいます。

 セシル君としては常識を考えて部屋に戻るべきだと言っているのでしょうが、何か素っ気なく聞こえてしまって少し寂しい。


 寝る前に少しお話ししたかったんだけどな、とは思うものの、セシル君が駄目だと言うのなら諦めるしかないでしょう。私としては、セシル君の側に居たいのですけど。

 セシル君なら何もしないでしょうし、……何があっても、責めたりするつもりはないですから。積極的にそういう事をしたいとかでは、ないですけど。


 ちょっとはお話したかったな、なんて呟くと、深く溜め息をつくセシル君。


「……はー、リズ、何があっても良いならおいで」

「え?」

「何が起こっても責任は取らん……いや取るが、取り敢えず何があっても知らないが」


 それでも良いなら来い、と念押しをしたセシル君。そういう事言ったら、私が行っちゃうの、多分分かってるでしょうに。……セシル君も、一緒に居たいって思ってくれたのかな。

 本当はこんな事しちゃ駄目だと分かっていますが……それでも私は、セシル君と居たい。


 理性が良くないと言っているのを無視してセシル君に小走りで駆け寄り抱き付くと、受け止めたセシル君は私を見て微かに息を飲んだもののそのままおずおずと背中に手を回してくれました。何処を触って良いのか分からずに躊躇っているみたいですけど。


「そこで来るお前もお前だ、あほ」

「……つい」

「本当に無防備なんだよお前。……取り敢えず、座るか」


 私を離したセシル君が部屋のソファを見て、少し固まります。……セシル君のお部屋って必要なものしか置いてないし、そもそも殆ど魔導院で過ごしてるからこっちに余分な家具を置いてないので……二人がけのソファが、ないみたい。


 本当に誰も入れる事がなかったのか一人がけのソファしかないので、そこに二人座るとなると私がセシル君の上に乗る事になっちゃうのですよね。私は良いのですけどセシル君が重そう。

 かといって他に座る場所といったら、ベッドくらいな訳で。


 私としては別に気にしない、というか相手がセシル君なのでどきどきこそしますが安心感があるので平気なのですが、肝心のセシル君の気まずそうな顔といったら。

 どうしよう、とセシル君を窺う私ですが、何故か目を逸らされるのです。そんな露出がある訳じゃないんですよ、フリフリ透け透けとかじゃないし。


 何処に座らせようか迷ったらしいセシル君、部屋に視線を走らせて、ふとデスクの方につかつか歩み寄って。椅子にかけていたブランケットをひっ掴み、私の所に戻って肌を隠すように肩にかけてきます。

 露出度が高い訳じゃないのに心配性だなあ、なんて笑うとセシル君が「お前はもう少し警戒しろ」とデコピンしてくるのです。ひどい。


 秋をイメージしたような落ち着いた暖かみのある色合いのそれは、ふんわりて暖かくセシル君の香りがして……きゅっと布地を引き寄せて鼻を近付けて、頬を緩めます。

 やっぱりセシル君の香り、凄く好き。セシル君が好きだからってのが大きいですけど、そうじゃなくてもとてもいい匂いなんですよね。


 ついつい表情が緩んだ私に、セシル君は口をもごもごと動かして、でも視線は逸らさずにそのままベッドに隣り合うように座らせました。

 多分、セシル君かなり緊張しているのか、ぎこちない感じがします。


「で、どうした」


 なるべく意識しないようにしているのか、やや硬い声ながらも視線は合わせて問い掛けてくるセシル君。ただ顔より下を見ない辺り、緊張気味です。


「どうしたって訳じゃないですけど。ただ、……婚約して、半年したら夫婦になるんですよねって、実感しただけです」

「……そうか」

「セシル君、すき」

「知ってるよ」


 柔らかい笑みと共に抱き締められて、私はそのままセシル君の胸元に顔を埋めて鼻をスン、とひくつかせます。

 お風呂上がりの、良い匂い。元々セシル君は良い匂いがしますけど、湯上がりのセシル君は格別です。


「……セシル君、良い匂い」

「お前の方が良い匂いだぞ」

「ひゃ、擽ったい」


 セシル君としてはお風呂上がりで香油を塗り込んで貰った私の方が良い匂いならしく、そのまま肩に顔を埋めています。……湿った銀髪が素肌をつつくから、ちょっともぞもぞしてしまいますけど。


 でも、この体勢を止める気なんてなくて、もぞもぞしながらもセシル君の背中に手を回してしっかりと身を寄せると、少しだけたじろぐセシル君。


「……何処もかしこも良い匂いで、困るな」


 小さく呟きを落としたセシル君は、露になっている首筋に口付けを一つ。

 微かに触れた唇の感触に身じろぎしつつ、拒む事はしません。……セシル君は、そんなにキスとかしてこないから。私がおねだりしたらしてくれますけど、自らはあんまりしてこないのですよね。


 唇が離れた頃を見計らって体を少し離すと、セシル君はやや名残惜しそうと言うか物足りなさそう。……私も同じ気持ちなんだって、知ってますか?


「セシル君、口にして欲しいです」

「……あほ」


 小さな呟きは、言葉の意味に反して優しい響きで。


 私のおねだりに、セシル君は瞳に緩く弧を描かせ、それからゆっくりと顔を此方に近付けて来ます。


 ん、と私も瞳を閉じて少し上向きになると、その体勢を固定されるように後頭部に掌が回って、そのままセシル君の掌で私を挟むように、唇に押し付けられる感触。

 私のものより幾分かしっかりとした感触の唇は、普段より熱がある気がします。はぁ、と偶に漏れるセシル君の吐息も熱くて、不思議と色っぽい。普段は躊躇いが見える口付けも、何だかいつもより積極的です。


 すり、と表面を擦り合わせては感触を堪能しているらしいセシル君は、唇を食んだりしていて……少しずつ、体が火照って来るのを実感して来ます。

 羞恥や幸福感が、頭をゆっくりと溶かしていく。ちゅっとリップ音がする度に何だかとても、いけない気分になってしまうのです。ベッドという場所のせいでしょうか。


 セシル君は、どんな気持ちなのかな。


 そう思ってゆっくりと目を開けると、綺麗な満月が至近距離で怪しく輝いていて。

 しっとりと濡れた双眸の輝きは、蠱惑的で、怪しく揺らいでいる。紛れもない欲と熱を孕んだ眼差しに一瞬固まった私に、セシル君はゆるりと瞳を細めて。

 それから後頭部にあった掌を少し動かして親指で私の耳をなぞられてしまって、途端にぞわりと背筋が震えてしまう。

 み、耳弱いって知ってる癖に……っ!


 ちょっと慣れてきたかななんて、思い上がりでした。

 セシル君の変化球は擽ったいやら焦れったいやらでぷるぷると体を震わせるしかなく、しかも絶妙な手つきで触り出すから余計に擽ったくて上擦った声が上がってしまうのです。


 恥ずかしさやらぞわぞわ感でもう限界で、胸を押して無理矢理少し距離を作るしかありません。

 はぁ、とセシル君よりも熱い吐息を吐き出しながら、セシル君を責めるように若干涙ぐんだ瞳で見上げると、少し呆気に取られたような表情で……それから、口の端を吊り上げていました。


 あっ、何かまずい気がする、なんて悟ったものの、もう遅くて。

 セシル君の指が、耳の輪郭をなぞる。


 ひゃ、と裏返った声が勝手に上がり、僅かに開いた唇からセシル君の熱が潜り込んで来ます。

 今、どういう事をされてるのか分からない程子供でもありませんが……まさか、あのセシル君が、こういうキスするなんて。


 ……正直言って、こういう事した事ないからどうして良いのか分かりません。セシル君だって知らない筈なのに、何処で覚えたのか口付けの角度を変えて内側により熱を潜り込ませています。

 こんな口付けは初めてで、少し、怖い。好きなセシル君だって分かってても、いきなり応えるなんて無理です。は、恥ずかしいし……。


 それでもセシル君はゆっくりと拙い動作ながらに深く口付けようとして……唇を離します。

 流石に色々拍子抜け過ぎて別の意味で固まった私。セシル君は、頬を染めながらも気遣わしげに此方を見てきて。


「……その、嫌だったか?」

「い、嫌とかじゃ、なくて……その、恥ずかしいし、いきなりだったから」

「ごめん。その、可愛くてつい……」


 ……何でこういう時はさらっと可愛いとか言えるんですか、もう。セシル君って妙に大胆な時がありますよね。


「……その、もう一回チャレンジしましょう! 今度は大丈夫、いけます!」

「お前はそこで色気をなくすよな」

「ひどい!?」


 セシル君が名残惜しそうだったし今度は覚悟して挑もうと思ってたのに、何で溜め息をつかれなければならないのでしょうか。


 むうう、と唇を尖らせるとセシル君苦笑して軽くちゅっとキスするから、それで許されると思ってるならずるいと思いつつも、別に怒ってはいないので許しちゃいます。


「冗談だよ。お前、黙ってれば色っぽいよ」

「黙ってなければ色気がないと仰りたいのですよね」

「これもジョークだよ、あほ。……まあ、どちらにせよ今から黙らせるから問題ないだろ」


 反論する前に唇を重ねられて、瞳をぱちくり。

 でも、今度はちゃんと覚悟は出来てたので……自分から少し唇を開くと、嬉しそうに細まる三日月。それから、慎重に舌を滑り込ませて来るセシル君。


 拒むなんて事をするつもりは全くないですが、私も初めてでどうして良いのかは分からず。取り敢えずおずおずと私もセシル君の熱を共有するようにすると、照れ臭そうな、でも喜色を滲ませた視線で射抜かれます。

 確かめるようにゆっくりとした仕草で触れ合う。何だかそれだけで恥ずかしくて、でもどきどきしてもどかしさも感じる。


 お互いに初心者丸出しですが、それでもセシル君の方が一枚上手らしく、躊躇いがちだった口付けが徐々に大胆なものになってきているのです。


 高揚感と浮遊感がない交ぜになった感覚は、嫌いではないけれど、少し怖い。際限なくセシル君と触れ合っていたくなる。でも、このままだと、頭が茹で上がりそう。


 一旦落ち着こうと胸を押して体ごと唇を離すと、セシル君は何というか、困ったような、それでいてやや好戦的な笑みを浮かべるのです。

 その色っぽさといったら女の私より遥かに色気を醸し出していて、ちょっぴりずるい。


「……何でそんなに色気を出せるんですか」

「出した覚えはないが」

「出てます、溢れ出てます」

「……お前もな」


 今度は本当に困ったように笑ったセシル君、私を抱き締めて首筋に口付けます。

 吸われた訳ではありませんが、ちゅ、ちゅとわざとリップ音を立てながら耳元まで来て食まれて、堪らずに「ひゃっ」と漏らせば、逃げる事を見越したセシル君が頭を固定して。

 今度は少し頭を回り込ませて、うなじの辺りに唇を触れさせて来るのです。


「セシル君、それずるい……っ」

「弱い部分を攻めるのは常套手段だろう」

「攻撃はしなくて良いです……っ!」


 駄目、と擽ったさにもがくものの、セシル君は勢い付いて来たのかキスを色々な所に落とします。完全にスイッチ入ってる気がするのですが……!?


「兄さん、今良い?」


 そろそろ辛抱ならないと言おうと思った瞬間、部屋の外から遠慮がちにかけられる声。

 シリル君だ、と思った瞬間には弾き合うように離れる私達。

 セシル君も自分が何をしていたのか漸く実感したらしくて、顔を真っ赤にして掌で赤くなった部分を押さえています。小さな声で「だから部屋に入れるの躊躇したんだよ」と呟いていて。


 ……セシル君は悪くないから気にしなくて良いのに。私が常識無視して、セシル君の部屋にお邪魔したのです。はしたないと罵られるのは私だし、何かあった時に問題なのは私の方ですから。


「……何の用だ」

「ちょっと用事があって。入るよ?」


 意外な事に、返事をしたのはルビィ。シリル君と一緒に来てたみたいです。


 ルビィの声と共に扉が開けられて、弟ズがお部屋の中に。……シリル君は私の姿を見た瞬間に目を剥いちゃったけど。まさか私が居るなんて思ってなかったのでしょう、ほんのり頬を赤らめて視線をさまよわせています。


「……邪魔しちゃった?」


 のほほんとしたルビィの笑顔と共に放たれた言葉に、私達二人は固まるしかありません。何処まで見抜いてるんですか、この子は。


「……兄さん、婚約してるからってそういうのは慎むべきだと思うのですが」

「誤解だ、まだなにもしてない」

「まだね」


 やけに意味深な声で反芻するシリル君。相変わらず視線は合わせてくれません。


「そのまま進めちゃえば良かったのに」

「る、ルビィ……」

「お前ら、俺を何だと」

「兄様って基本欲しいもの我慢するけど、本気で欲しくなったら案外一気に手に入れるタイプだから」


 あ、セシル君黙った。

 いえ、確かにそうなんですけどね? セシル君、基本欲しいものとかしたい事とか言わないから、多分本気で欲しがったのは私くらいなものです。本気で求められてセシル君的には結構ぐいぐい攻められていたのだと気付いたのは、こうして想いを重ねてからですが。


「まあ僕としては良いんだけど、強引なのは良くないよ?」

「セシル君、しっかり。頑張って反論して下さい」

「……いや、俺も自分で今危うかったと思ってるから……」


 セシル君、今回ばかりはルビィに反論出来ないらしくて頭を抱えています。


 それは私も思いますけどね。セシル君、普段は恥ずかしがり屋さんでキスだって躊躇う人なのに、今日ばかりは随分と積極的で大胆な事してくれましたし。

 多分、婚約+寝間着+自室のベッドっていう事がセシル君の中で色々と作用したのでしょう。……お陰で、何か凄く色っぽくて男らしいセシル君の顔を知ってしまったのですが。


「まあ何にせよ二人きりの状態はまずいんじゃない? 姉様、寝間着だし」


 服直した方が良いよ、との一言に自分の服装を見ると、肩にあったブランケットはシーツに落ちていて、服が軽く乱れて肩口と胸元がほんのり露出してしまっていて。……だからシリル君が直視しないんですね、教育に悪そうな光景を見せてしまいました。


 セシル君も今更ながらに私の格好に気付いたらしくて、これでもかと顔を赤くしてブランケットで包むように隠してきます。

 ……セシル君のせいでずれたのに、此処まで過剰反応されるとは。セシル君、初心な時と積極的な時のギャップが凄まじいですね。


「……兄さん、リズさんの事好きなのは分かるけど自重したらどうです? 兄さんらしくない」

「うるせえよ……」

「取り敢えず父様には言わないけど……何となく察してそうな気もするよ? ああそうだ、父様からの伝言だったんだ」

「伝言?」

「うん。『結婚前だから程々にな』だって。兄様ヘタレだからそこまではしないと思ってたんだけどね、僕としては」


 ちょっと予想が外れちゃったかもね、ところころ笑うルビィに、セシル君項垂れてしまいました。セシル君、しっかり。


「まあ姉様も誘惑しちゃ駄目だよ、男の理性なんて風が吹けば消し飛ぶものだよ」

「何処でルビィはそんな言葉を」

「父様が言ってた」


 何を吹き込んでるのですか父様。それは実体験なのですか。


「じゃあ僕達は伝えたよ。……それではごゆっくり?」


 やけににこにこしたルビィと顔を赤らめながらも呆れた顔をするシリル君が部屋を出て行った後、セシル君は深々と溜め息をついてそのまま自分だけベッドに背中からダイブしました。

 ぐったり、といった感じで顔を押さえるセシル君。掌の隙間から覗く肌は真っ赤です。


「……リズ、部屋に戻れ。俺も紳士じゃないの理解しただろ」

「それはまあ……」

「好きな女とベッドの上に居て何も思わない程、俺は男捨ててないからな」


 だから此処で止まらせてくれ、と何処か懇願するような響きで呟くセシル君に、私も色々と実感して頬が自然と熱を持ちます。

 や、セシル君が男性なのは知ってます、けど……セシル君、奥手で恥ずかしがり屋さんだから、あんまり意識とかしなかったのですよね。それを、今回の一件で思い知らされたというか。


「ほら、もう遅いし部屋に戻れ。戻らないなら俺が担いでベッドに放り投げるぞ」

「そこは手荒なのですね。お姫様運ぶみたいに丁寧に運べないのですか」

「お望みとあらばしてやりますが?」


 言うや否や起き上がったセシル君は私の背中と膝裏に手を回し、そのままひょいと持ち上げて立ち上がります。所謂お姫様抱っこですね、別に、された事がない訳では、ありませんけど……。

 驚きに目を瞠ると、セシル君はなるべく羞恥を表に出さないようにしているのか、普通の表情。いえ、固まった私に悪戯っぽく微笑んですらみせました。


 そのまま、隣の私の部屋に入って、私をベッドに下ろします。

 ……何だか気恥ずかしくなってしまったのは、セシル君に抱えられたからでしょうか。


 優しくシーツに下ろされた私がセシル君を見上げると、セシル君はただ穏やかな眼差しで、私を見下ろしています。仄かに瞳には熱が宿り、私を慈しむように、見つめていて。


「……おやすみ、俺のお姫様」


 今日ばかりは頭を撫でる事はありませんが……髪を一房掬って、口付けるのです。

 少し照れ臭そうに、けど悪戯めいた笑みを浮かべて去っていくセシル君に、私はそのままベッドに倒れ込んで、もがくようにじたばたしてしまいました。


 ……普通にキスされるより、恥ずかしい。お姫様云々は私が言い出した事ですけど……!


 何かセシル君の部屋でされた事まで改めて思い出してしまって、またベッドで羞恥に悶えるのでした。

転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょうの四巻の情報を活動報告にアップ致しました!

発売日は4/28です。手にとって頂けたら嬉しいです!



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