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もう一つの物語  作者: 佐伯さん
本編
40/52

40 「……お前ら何やってるんだよ」

 和解したところで三人でティータイムです。呼び鈴を鳴らしてジルを呼ぶと直ぐ様現れて、それからジルはセシル君とシリル君にやや驚きの表情を示したものの、私が紅茶とお茶請けの菓子を頼むと頭を下げて下がっていきました。


 セシル君はその態度に何とも言えない顔。……多分思うところは色々とあるのでしょうが、私がいつもと変わらぬよう心掛けているからセシル君も何も言わないのでしょう。

 シリル君もジルには思うところがあるのでしょうが、素早く用意して戻って来たジルに言葉をかける事もありません。よく考えれば縁があるのですよね、サヴァンとシュタインベルトには。


 ジルもおくびにも出さずにお茶を新たにセットして、腰を折ってまた下がるので、私も変わらない笑みで見送ります。胸はちょっと痛むけれど、選んだのはセシル君なのだから。


 用意された紅茶を口に含んで、苦いものも全部飲み込んで、一息。


「イヴァン様とはお話ししたのですか?」


 何だか少し気まずい雰囲気だったので話題を変える為にもと、此処には居ないもう一人のシュタインベルト家の方の話題を出すと、些か渋い顔をするシリル君。


「いえ、まだ。そろそろ話に行かないと、とは思うのですが……」

「怖いですか?」

「……少し」

「なら、セシル君と一緒に行ったら良いですよ。三人でお話しした方が良いです。セシル君もそろそろイヴァン様への誤解を解いた方が良いですよ、イヴァン様結構子供達との関係改善に苦心してましたから」

「あれがか」

「失礼ですよね」

「つーかなんでお前は親父の肩持ってるんだ」

「ふふ、何ででしょうね」


 実はイヴァン様からセシル君とシリル君を宜しく頼むと言われているのです。それに、イヴァン様はセシル君が思うよりもずっと優しくて子供想いですよ。不器用なのだとは、思いますけど。


 くすくすと笑ってみせればセシル君は微妙に不機嫌そうになってしまったので、宥める為にもよしよしと隣のセシル君を撫でたら恥ずかしそうに「止めろばか」と呟かれます。……弾かれないので、嫌ではない筈。


 ただ、シリル君がとても驚いたように目を丸くしてセシル君を凝視しているので、セシル君も微妙に恥ずかしそうにして咳払い。頑張って表情を普段のものにしようとしてますが、微妙に頬がひくひくしてるの、言わない方が良いのですかね。


「……リズベットさん、父は、その……本当に、俺を見限っていないのですか」

「見捨てるなら私に身の上話とかしたりしませんよ。……何だかんだ、イヴァン様も不器用なんですね。セシル君そっくり」

「あれに似てるとか……」

「性格は反対ですよ? セシル君、女の人口説けないですもんね」


 セシル君はイヴァン様と似ているのが嫌そうですけど、セシル君は外見だけならかなり似ています。そして、肝心な所でぶきっちょさんで言葉が足りない所も。

 でも性格は正反対なのでこれは環境のせいでしょうか。

 ……あまり幼少期のセシル君が置かれていた環境を考えると胸が締め付けられますね。セシル君自身女性と触れ合う事がなかったのも一因なのでしょう。その分私がべたべたしていましたが。


 セシル君初心ですもんね、と喉を鳴らして笑った私に、セシル君は反撃はしません。

 てっきり拗ねるか反論が来ると思ったのですが、セシル君はただ私に視線を滑らせて。


「他人を口説く必要があるか。俺はお前が居れば充分だ」


 息を吐くようにしれっと、そんな事を言うものだから今度は私が照れる番でした。

 シリル君が居なければ、抱き付いて頬にキスでもしたのですが。それはまた今度にしておきましょう。多分、今したら顔を真っ赤にしそうですから。


 ふふふ、とついつい笑みが漏れる私にセシル君は徐々に羞恥が湧いてきたらしくて頬を赤らめ、けど取り乱したりはせずに寧ろ「悪いか」と開き直ったようにふんぞり返るので、それが面白くてまた笑ってしまいます。

 

 ……ほんと、セシル君ってば。大好きです、そういう所も。


「……兄さんがでれっでれなのも初めて見ましたよ。気味が悪いですね」


 シリル君は身内なので兄のセシル君の姿が意外すぎたのか若干冷めた目を送っています。……セシル君がこういう表情をするのは私だけだと思うので、大丈夫ですよシリル君。


「お前な」

「事実でしょう。偶に見掛ければ無愛想にしてる兄がこれでもかと将来の奥さんにでれでれして」

「あら、これでもセシル君でれでれは顔に出てませんよ? 出る時は本当に甘い笑顔ですので。スイッチ入らないとそんな顔は中々にしてくれないのが残念ですが」

「見たくないですね兄のそんな顔、寒気がしますね」

「さっきから俺は貶されている気がするんだが」

「まあまあ。シリル君的にはそうかもしれませんけど、私としては感慨深いのですよ? こうなるまでにどれだけ苦労したと思います? 最初は手負いの獣みたいに警戒心バリバリだったんですよ。あの時は大変でしたねえ」


 シリル君は漸くセシル君とちゃんとお話出来るようになって今のセシル君をセシル君だと捉えていますけど、こうも柔らかくなるにはかなりの紆余曲折があったのですよ。

 初めて会った時はツンデレじゃなくてツンドラ若しくはツンギレでしたし。


 凄く警戒心が高いし人嫌いだしで色々大変でしたねえ。仲良くなった切っ掛けが魔力暴走でしたよね。あの時は、本当に危なかったですけど。


「……あれはその、悪いと思ってる。傷が残らなくて本当に良かった」

「いやいや、良いですよ別に。気にしてませんから」


 どうやらあの時の事を思い出したらしくて、セシル君一気に顔を曇らせてしまったので私は元気付けも含めて笑い飛ばしておきます。

 別に気にしなくても良いですよ、貸しの利息きっちり返してもらいましたから。寧ろ、利息取りすぎて返さなきゃいけないくらいに、セシル君には助けて貰いましたからね。


「でも、傷がもし残ったら悪いだろ」

「その時は責任取って貰ってくれるでしょう?」

「な、なくても貰うが……」

「……兄さんがリズベットさんに弱いのは、そのせいですか?」

「そういう訳じゃないと思いますよ? 元からセシル君が甘いのです」

「おい」

「だって、ルビィと会った時なんて最初から可愛がってたじゃないですか」

「あ、あれはだな……」


 もごもごと言い訳をしようとして上手く言葉に出来ていないセシル君は、やっぱり子供好きだと思うし、真っ直ぐに好意を向けてくる人間には弱いのですよ。私も、好意で体当たりしたら何だかんだ相手にしてくれましたからね。


「……ルビィ」

「あ、私の弟ですよ」

「知っています。……見た事はありましたし」


 シリル君がルビィの事を気にしているのは歳が近いからかもしれません。シリル君の方が歳上で一歳違いくらいなので。


「そうですか? なら話が早かった。どうせならルビィともお話ししてみませんか?」

「……俺が、ですか」

「ええ。同年代の友達があんまり居ないみたいなので、良かったらお話し相手になってくれたら」


 ルビィもパーティーなんかにはきっちり参加してますし着々と交遊関係を築きつつあるのですが、本心になって打ち解けられる友達は居ないみたいです。父様曰く「取り巻きや信者は出来上がりつつあるが、友という間柄の人間は居ないようだ」ですって。

 ……それもどうかと思うのですが、ルビィのしている事は貴族としては真っ当なので私から口出しは出来ません。私やセシル君が例外なのでしょう。


 だから、これから親戚関係になるシリル君とルビィが仲良くなってくれたら嬉しいなあ、と思ってしまいます。

 それに、シリル君みたいなタイプはルビィと合いそうな気がするのです。シリル君はおべっか使わないでしょうし、気楽なのではないかと。


 けど、シリル君は何だか気乗りしないみたいです。嫌ではなくて、戸惑っているみたいで。


「……俺なんかが、次代当主と仲良くして良いんですか」

「何言ってるんですか、もう」


 何で変な所で卑屈になっているのでしょうか。シュタインベルトの跡継ぎであろうとなかろうと、関係ないのに。


「セシル君、ルビィ呼んできて」

「俺かよ、ったく」


 文句を言いながらも何だかんだ呼んできてくれるセシル君は優しいですよね、と遠ざかる背中を見詰めながらひっそりと微笑みます。

 シリル君はセシル君の取った行動におろおろとしていましたが、今更取り返しがつかないと分かっているので困惑の眼差しを私に送るだけです。……ちょっと批難がましい眼差しなのは私が勝手にルビィと体面の機会を作ったからですね。


「シリル君。別に無理に仲良くしろとかは言いませんけど、仲良くなっちゃ駄目って事はないんですよ。どうせ親戚になるんですし、折角だから交流だけでもしておきましょう?」

「……親戚」

「私は義姉になりますよ。何ならお姉ちゃんって呼んでも良いですよ?」


 セシル君と結婚すれば、シリル君は私の義弟となりますし、同じ屋敷で生活するようになるのです。なら今からでも慣れていて損はないと思うのですよね。


 どうです? とからかうように笑うと、シリル君は分かりやすく困った顔を浮かべるので、からかいすぎたかなあ、なんて。シリル君はセシル君同様人見知りっぽいですし、まだ私の事を姉として認めた訳でもないかもしれないので、いきなりはきつかったかもしれません。


「……義姉、さん」


 そんな私の予想を裏切って、シリル君は、吐息に紛れさせるように小さく呟いて。


 パッと顔を見ればかなり恥ずかしかったらしくて、顔を朱に染めて私の視線から逃れるように俯いて体を縮めているシリル君。照れている逃れる顔を見ればよく分かって、口許をもごもごとさせています。


 ……セシル君には悪いですけど、不覚にもきゅんとしてしまいました。セシル君とは違うときめきを感じたのです。こう、面映ゆいようで、じわじわ照れが内側に広がっていくというか。


 可愛い。シリル君、これは可愛い。


 堪らず席を立ち居心地悪そうにしているシリル君に抱擁を仕掛けると、目が飛び出そうなくらいに瞳を見開き、それからあわあわと素で焦りだすシリル君。


「ちょ、リズベットさん! 兄さんに怒られます!」

「大丈夫大丈夫、セシル君そんな心狭くないです。良い子ですねシリル君」

「り、リズベットさん! い、色々駄目です!」

「あら、シリル君も案外照れ屋さんです? セシル君も抱き付くと恥ずかしそうにしますし……」

「俺は他人ですから気軽にこういう事するのは良くないです!」

「その内義弟になりますから。シリル君のお義姉さんになるのですよ?」


 これくらい許容範囲です、とシリル君を愛でているとシリル君は顔を真っ赤にしてぷるぷる。それがまた昔のセシル君を彷彿とさせて可愛いのですが、多分言ったら怒られそうなので内緒にしておきます。


 可愛いですね、と嫌がられない程度に(これは嫌がっているのではなくて恥ずかしがっているのです)スキンシップを図る私に、シリル君は顔を完熟林檎のようにしてぷるぷる。

 昔のセシル君そっくり……いえ、セシル君は言葉で「離れろ馬鹿」と言ってくるからシリル君の方が優しいですね。


 ふふ、と笑いながらむぎゅむぎゅしていると、セシル君がルビィを連れて帰って来ては私達を見て唖然。


「……お前ら何やってるんだよ」

「あ、セシル君。聞いて下さい、シリル君がはにかみながら義姉さんって呼んでくれたんです!」


 可愛いでしょう、とぎゅうっとくっつくとセシル君は呆れた表情。


「……お前って打ち解けるの早いよな」

「セシル君のお陰です! 鍛えられました!」

「い、良いから話して下さい……兄さんが後で文句言ってくるんですから……っ」

「寧ろ同情してる。こいつはスキンシップ激しいから」

「あら、セシル君は私とのスキンシップ嫌です?」

「……人前では嫌だな。あと、リズ。俺は妬かない訳じゃないからな」

「姉様、明らかに彼が困ってるから離してあげて。兄様も拗ねちゃうよ?」


 ルビィの一声に、まあ暫く抱き付いて満足したしやりすぎると良くないのは分かっていたので大人しく離れます。

 その事にほっとしたのはシリル君の方で、すっかり茹だった頬を押さえてなんとか普段通りの表情を作ろうとしています。そんなシリル君にセシル君は何とも言えなさそうな表情。


 妬くとか言っていましたが、多分今は憐れんでいる気がします。……一応恋人なんですからそこはちゃんと宣言通り妬いてくれても良いのですよ? 勿論、当たるのは私にして貰わないとシリル君が可哀想ですけど。


 漸く気を取り直したらしいシリル君は、椅子から立ち上がってルビィに向かい合います。きっちりと背筋を伸ばして、やや緊張の面持ちでルビィを見ているのは、ルビィの立場を考えての事でしょう。


「その、初めまして。俺はシリルです」

「初めまして、で良いのかな。僕はルビィ。姉がお世話になってます」

「いえ、俺は……その、迷惑をかけるばかりですし。ずっと、付きまとっていたようなものですから」

「いえ、姉も喜んでいたので。謝るのは此方の放かと。先程もそうですが、姉が突拍子もない事をするのはいつもの事なので、シリルさんに迷惑がかかっている気がします」


 待ってルビィ、大人びたのは良いけどどういうイメージなの私。セシル君目を逸らさないで。


「……その、別に俺に気遣わなくても良いですよ。普段通りに、喋って頂ければ」

「じゃあシリル君もいつも通りで良いよ。僕、堅苦しいの好きじゃないし」

「俺は元々こういう喋り方なので」

「そう? なら良いけど」


 シリル君の提案にあっさり砕けたルビィ。そこは父様譲りなのですよね。シリル君に警戒心を抱かせない気安さを浮かべています。

 相手の心の隙間に入っていくのは本当に上手いのですよ。見掛けも手伝って女性に人気だとか。末恐ろしい。


「……ルビィ、あっさり順応してるな」

「何だかんだで社交性高いですからねルビィ」


 確実に私より社交性が高いし愛想も良いですし人心掌握得意なので。いやほんとに、ルビィは老若男女に好かれるんですよね……人徳というか狙ってやってるというか。


 ルビィのフレンドリーさにシリル君もやや安堵しているらしく、表情が柔らかい。まだ硬さはありますが、打ち解ければ年頃の男の子らしい表情も見せてくれるのではないでしょうか。


 ほっこりしている私に、シリル君はちらりと此方を見て。


「……ルビィ、さん? 一つ聞いて良いですか」

「呼び捨てで良いよ。何?」

「……リズベットさんは、いつもこんなのなんですか」


 こんなのって。


「うん。姉様は内側に入れた人へのスキンシップ激しいよ、あと年下は割と無条件に甘い」


 それは否定しませんけど、ルビィも言い方があると思うのですよね。


「でもシリル君は年下だから優しくしてるんじゃないですよ?」

「知ってる。……お前はそういうやつだ」

「ふふ。セシル君もシリル君とくっつきます?」

「男同士でくっついてどうするんだ」

「ルビィとはくっつく癖に」

「それはルビィがだな。というか、もうくっつくつもりはないんだが」

「嫌なの?」

「そういう訳じゃないが……もうルビィも大きくなったんだから」

「えー」


 もう良い歳なんだから、というセシル君の言葉に不満そうなルビィ。大きくなってもセシル君好きなのは変わらないんですよね。

 ぶーぶー、とわざとらしく唇を尖らせて抗議するルビィに、セシル君も苦笑してルビィの頭をくしゃくしゃ。やや手荒な撫で方ですが、ルビィは満足したように頬を緩めています。


 そんなルビィとセシル君に、シリル君は複雑そう。


「……年月の差なんですかね、やっぱり俺よりルビィの方が仲が良いように見えます」

「そりゃあ、擦れ違って大分経ってるでしょうし。……私達も負けてられませんね?」

「え?」

「セシル君とルビィが仲良しなら私達も仲良しアピールを」


 何だか焦がれるような眼差しだったのは、兄弟というものに忌避感を抱いていたシリル君の雪解けであり、喜ばしいのです。ただ、ちょっぴりやきもちを焼いちゃってるみたいなのですね。実の弟より将来の義弟の方が仲良しなのが複雑なのかもしれません。


 なので、ほんのり寂しそうなシリル君には代わりに私が抱きついておきます。

 当然狼狽えられますが、離してあげません。


「あ、あの、これはちょっと」

「嫌です?」

「い、嫌というか……姉弟揃って色々凄いですね、兄さん」

「まあ……こいつらだから……」

「何ですかセシル君。羨ましいのですか」


 何でそんな遠い目してるんですか。私、セシル君にも思い合う前からくっついて来ましたしセシル君も最終的には許してくれたのに。


 見せ付けるようにシリル君にくっついて焼きもちが発動されるか見てみると、セシル君は期待を裏切って平然としたお顔です。


「別に良い。幾らでも後からくっつけるだろ、お前は俺のなんだから」


 へ、と言葉が漏れて思わずセシル君を凝視すると、セシル君は照れ隠しにそっぽ向きつつ「何だよ、違うのかよ」と不貞腐れたように零すので慌てて肯定します。

 いや、だって、セシル君がそんな大胆な事言うとか、思ってなかったですし。そっか、私セシル君のものですもんね。セシル君だけの、私ですもん。


 そう考えればついつい顔がふやけてしまってえへへと口許を緩めると、セシル君は頬を染めながらも満足そうな表情。


「兄様大胆ー」

「うるせえ」


 ルビィは全力でからかいに走ったので、セシル君は黙らせようと背中をべしべし叩いてます。これは確実に照れ隠しですね。


 シリル君は私に戸惑いを隠せないようですが、それでもやや暖かい眼差し。……お義姉ちゃんになるって、認めてくれてます、よね?

 それが嬉しくてぎゅーっと抱き付いて良い子良い子すると、シリル君も照れだすので本当に可愛いです。


 此方も此方できょうだい仲を深めているのですが、それに気付いたルビィはじーっとちょっぴり羨望の眼差し。


「姉様、僕も僕もー」

「あら。いらっしゃい?」

「へへー」


 僕も、の意味は直ぐに分かります。

 私達が仲良くしていた所にルビィも参戦しては、私とは逆側のシリル君の腕にくっついて仲良しアピール。

 これにはシリル君も驚いていましたが、ルビィの笑顔と私の笑顔を交互に見ては諦めたように溜め息。けど、眼差しが和んでいるのは、よく分かります。


 逆に取り残されたセシル君はちょっと驚いたように私達を見ていましたが、やがて穏やかな笑顔に変わります。

 セシル君、今あなたは、欲しかったものの一つを手に入れられたでしょうか? 


「セシル君ぼっちー」

「やかましい」


 わざとからかうように微笑むと、セシル君はわざとらしく拗ねたように顔を背けました。その頬が緩んでいるのは、指摘してあげません。……セシル君には、暖かい家族の始まりに、見えたでしょうか。


 ふふ、と笑う私にシリル君も困ったようで、それでいて楽しそうに笑うのでした。

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