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もう一つの物語  作者: 佐伯さん
本編
4/52

4 「……立場が逆転したな、昔と」

 宣言通り、セシル君はそれから小まめにお見舞いに来てくれるようになりました。

 セシル君もお仕事があるから頻繁には来れないですけど、私が思うよりも結構な回数来てくれます。ただ熱を出しているだけの状況なのでそんな心配しなくても平気なのですが、セシル君は仕事の合間にこうして訪れて来るものだから申し訳ないというか。


 今日も変わらず、セシル君は私の元を訪れます。因みに毎回何かしら果物やおやつをお見舞い品として持ってくるので、私太らないかちょっと心配になってきました。ご飯も食べておやつも食べるなんて食っちゃ寝生活は体型に危険な気がします。


 そして今日も途中で何かを買ってきてくれたらしく、私のお気に入りのお店の箱を持ってお見舞いに来てくれました。

 多分両手できっちり持っているのでカップ系のおやつな気がします、病人にケーキはないでしょうからゼリーとかプリンの辺りな気が。

 予想通り「ゼリー持ってきた」と告げたので、気持ちは嬉しいですが……いや美味しいでしょうけど……!


「体調はどうだ」


 魔術で冷やしてるらしくサイドテーブルに乗せては此方に向かって来るセシル君。後でジルに頼んで厨房に保管して貰いましょう……デザートとして食べます。大丈夫、直ぐには体型に影響ありません。


「熱で死にかけてはいますが元気ですよ」

「それは元気と言わないからな」

「こればっかりは反動みたいなので仕方ないです。あ、でも起き上がれるくらいには元気になったのですよ?」


 寝転んだまま会話するのも嫌なのでそろそろ体を起こそうとすれば「起きようとしなくて良いから」と止められてしまいます。

 私としては横になったままなのも宜しくないかと思うのですよ。


「大人しく寝ておけ」

「でも暇なんです、熱があるだけで倦怠感は薄れましたし、何か皆凄く病人扱いしてくるから……」


 皆、小まめに様子見に来たりはしないものの、来た時の態度が凄く甲斐甲斐しいというか物凄く心配されます。

 特にジルなんか今忙しいので、此処に来れた時は介護レベルで世話を焼こうとしますし。そこまでされなくても自力で起き上がれるくらいにはなりましたし、熱が出ているだけですからね私。ちょっと何かしようとすれば直ぐに寝かされて頭を撫でられるのです。気持ちいいですがかなり子供扱いされてる気が。


 そんなに心配しなくても、と苦笑しながらセシル君なら無理に寝かされたりはしないだろうと体をゆっくり起こせば、瞳を細められます。けれど怒られたりそのままベッドに逆戻りにされたりはしません。

 どうせ私が抵抗するだろうと見越しているのか、仕方なさそうに私を安定しやすいようヘッドボードに凭れ掛からせてくれます。痛くないように間にクッションを置いてくれる辺り、結構気遣ってくれているようでありがたい限りですね。


「病人なの自覚しろ」

「病人と言えば病人ですけど、ちょっと不調のあるってだけですし」

「お前な……」


 セシル君はかなり呆れていらっしゃいますが、私は苦笑いをせざるを得ません。

 少し不調があるだけ。熱と和らいだ倦怠感があるだけ。不調は、それだけ。


「治ってきてるのは分かりますけど……でも、怖いの」

「怖い?」

「……自分が、自分じゃなくなる感覚が、ちょっとするから。内側から作り替えられている感覚がして、怖い」


 そう、体が治るのを実感していくにつれ、少しずつ自分が前の自分でなくなるような感覚がしている気がするのです。私の勘違いや気のせいかもしれないのですが、どうしても……前の私の感覚と、違う気がして。

 良い変化なのか、分かりません。

 少しずつ変わっていく感覚が、怖い。


「……それにね、これ以上魔力が増えたら、私はきっと、化け物って周りに言われちゃいます。ただでさえ規格外だったのに」


 私のは類い稀なる魔力持ちだそうで、此処数百年は私程の魔力を保持している人間は居ないらしいです。アデルシャンの血を遡っても、一人居たか居ないかくらいのレベルで。

 私の力は強大で、何ならセシル君の言う通りに小さな国一つ滅ぼせるかもしれません。


 その上で、私は更に自身の力を増幅してしまった。意図的でないにせよ、想像出来なかった程に、力を得てしまった。

 魔術と言うのは恐ろしいものであり、人々に利便さを与える反面害を及ぼせる諸刃の剣でもあります。私は抜き身の剣のようなもの。御しきれない力は、災いを引き起こしかねない。


 そのような存在が枷もないまま出歩く。魔力を持たぬ人からすれば当然、そして魔術の恐ろしさを一番よく知る魔導師からしても、私程恐ろしいものはないでしょう。『化け物』、そう罵られてもおかしくないくらいに、私は普通から外れてしまった。


「セシル君は、私の事を化け物だと思いますか?」


 ……私は、見知らぬ魔導師に罵られるよりも、近しい者に嫌われるのが、何よりも怖い。

 けれど、私の力を一番近くで目の当たりにしてしまったセシル君に拒まれても、仕方ないのです。それほどまでに私は、力を持ってしまった。

 否定して欲しいけれど、それを願うには私が並外れてしまったのです。


 訪れる宣告に眉を下げて耐えつつセシル君を見上げれば、セシル君は……私が想像していた顔など、一切してなくて。


「……あほ」


 非常に呆れたような、うんざりと言っても良い程に下らなさそうな眼差しと共に額にでこぴんが降ってきました。

 いた、と完全に予想してなかった衝撃に唸る私。そしてあほの子を見るようなセシル君。金の瞳は私を怯えるでも嫌悪するでもなく、ただいつものちょっとしたおふざけのやり取りの時のような、そんな呆れた色をしていて。


「お前みたいな能天気で無邪気で世間知らずな頭お花畑な人間の何処が化け物だ。化け物に失礼だろ」

「セシル君は私に失礼です!」


 まさかこのタイミングで貶されるとか思ってませんでした。覚悟していたのに拍子抜けというか、逆にむかっとするというか。

 一大決心で、私の気持ちを吐露したというのに。セシル君には結構どうでも良さそうというか、あまり関心がないっぽいというか。何か拒まれなくても良かったですけど、それより私の扱いに物申したくなりました。


 酷い、と側に居るセシル君の胸をぽかりとしてやろうともたもたとベッドの縁に腰掛ける私。セシル君は、そんな私に変わらぬ視線を投げて。


「……お前は、ただの女の子だよ。ちょっと力を持ってしまった、ただの女の子だ」


 動きが、止まってしまう。

 柔らかい声にセシル君の顔を見れば、変わらぬ表情。けれど、眼差しは優しくなっています。


「お前は、幼い頃の俺を化け物だと言うか?」

「……いいえ」

「じゃあお前も化け物じゃねえな」


 つーか言わせねえ、と私の頬を撫で覗き込んでくるセシル君の瞳は、ひたすらに優しくて。私を案ずるように温かい掌が触れ、壊れ物を扱うようにそっと頬に添う。

 大丈夫だ、と言葉はなくてもそう言われてる気がして、温もりが染み込んで来て……じわり、と瞼が熱くなります。


「それとも、今まで共に過ごしてきた俺の目を疑うのか?」


 首を振ると、セシル君は「だったら」と呆れたような、それでいて柔らかな笑み。


「何を今更。お前がちょっと人より優れてるなんて昔から知ってる。たとえお前が馬鹿みたいに魔力を持ってようが、俺には関係ないしお前はただの人間だ。……少なくとも、泣きそうな顔してるお前は、普通の女の子だよ 」


 ……ああ、もう。セシル君の、ばか。

 そんなに優しい事言われたら、我慢なんて出来る訳ないじゃないですか。


 誰にも言えなかった不安を拭われて、瞼の熱は雫へと変化して勝手に目尻から零れていきます。痺れるような目の奥の熱は、不快ではありません。

 我慢していたのに、セシル君のせいで涙腺が緩んで、一つ、また一つと涙が生まれ落ちていく。けれど悲しさや苦しさから来るものではなく、安心感や喜びから来るもので、私には止められませんでした。


 視界が歪む中、セシル君は私の顔を見て苦笑いを浮かべてました。まさに仕方ないなといった、優しさを伴った笑み。それがまた胸に染みて、涙が落ちる。


「俺が泣かしたみたいだから、泣くな」


 子供のように泣く私に、セシル君は良い子だから泣き止めと私の隣に腰掛けて涙を指の腹で拭います。労るような触れ方にまた涙が出てきてセシル君を戸惑わせてしまっていますが、どうしようもありません。


 くしゃりと顔を歪めセシル君の腕に縋り付くと、セシル君少し驚いたのか体を揺らし。けど拒む事はなく、ううん、私を宥めるように、体勢を変えて腕を軽く広げてくれて。

 それが何を意味するのか理解して、私はごめんなさいと謝って、でも耐えられずセシル君の胸元に体を預けます。


 安心する、セシル君の匂い。すっかり大きくなった体は、私のちっぽけな体などすっぽり収まります。

 私を受け止めて、抱き締めはしないものの腕の辺りを掴んで凭れ掛からせてくれるセシル君に、私は涙に濡れた瞳のままセシル君を見上げました。少しだけセシル君がたじろぐものの、逃げたり拒んだりせずただ受け止めてくれて。


「……泣くな、あほ」

「……セシル君が泣かせたんです」

「責任転嫁すんな。ほら泣くな、不細工だぞ」

「……失礼なのですよ、もうっ」

「そうだ笑え、笑ってないとお前らしくない。早く元気になってあほみたいな笑顔見せろ」


 ……セシル君の私に対する印象を小一時間問い詰めたい所なのですが、止めておきましょう。言葉とは裏腹に、セシル君はとても、優しい眼差しをしていたから。


 もう、と口だけ文句を言って、私は頬を緩めセシル君の胸元にぴとりとくっつきます。ちょっと意地悪言うけど本当は優しくて気遣いの出来る人だって、昔からずっとそうでしたもんね。

 素っ気なさの中にも優しさが見え隠れするセシル君は、本当に、素敵な男の子だと思います。友人として誇らしい限りですよ。


「……立場が逆転したな、昔と」


 今だけは許して欲しいと寄り掛かる私にセシル君はほんのり苦笑い、けれど頭をゆっくりと撫でてくれます。

 こんなに頼ってしまっても、良いのでしょうか。セシル君の優しさに甘えてしまっている気がするのです。でも、今この温もりから離れる事なんて、出来ない。


「セシル君の優しい所、すき」

「……お前な、言葉を選べ」

 

 少し体を揺らしたセシル君に注意されて、それから疲れたような溜め息を落とされます。


「つーかお前、弱り過ぎ。いつもそうだよな、体が弱ると心まで弱るの」

「……仕方ないです」

「うじうじすんな、どうしても自分が化け物とか思うなら、同じ化け物とやらの俺が側に居てやるから。そしたら寂しくないだろ」

「ふふ……セシル君は本当に格好良くなりましたよねえ」


 そうやって、私を支えてくれるんですから。何でもない顔をして、隣に立って、私の事を支えて見守ってくれる。

 ジルとはまた違う、何とも言えない信頼関係は、とても心地好い。常に凭れ掛からせて真綿に大切に包むのがジルで、セシル君はふらついた時だけ支えてくれて隣で見守ってくれるのです。だからこそ、弱った時は凄く優しくて。

 セシル君に大切にされてるって自惚れても良いかなあ、なんて。


 へにゃっと顔をだらしなく緩める私も、セシル君は受け止めては丁寧な手付きで撫でてくれる。まだ熱があるからか頭がふわふわして、セシル君の掌がとても気持ちいい。

 触れた温もりが安堵となって胸に降りてきて、そのまま心の強張りや不安も溶かしてくれる。それが心地好くて、そして人肌が気持ちよくて。

 私の意識は、少しずつぼんやりとしてきていました。


「セシル君……今日は、よく寝れそう……もう、怖くないよ……」

「あほ、側に居てやるから寝ろ。ちゃんと体休めろ」

「はぁい」

「……弱ってる所に付け込みたくねえし」


 小さく付け足された言葉は聞き取りにくく、首を傾げてもセシル君は答えてくれません。ただ、私を労るように撫で、そしてベッドに寝かせてくれます。

 ガラス細工でも扱うような丁重な動作でベッドに横たえ掛布を掛けてくれるセシル君は、いつになく優しい顔で。


「おやすみ、リズ」

「……おやすみ、なさい」


 溶けるような穏やかな声に私も微笑んで、安堵をそのままにゆっくりと瞳を閉じては意識を眠りの海に沈めていきました。

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